プロローグ
「いや~我ながら上手くいったね」
思わず自分の作った世界を見てにやけてしまう。
「ここまで作るのにずいぶんと苦労したしね、何せ魔法のある世界なんて初めて作ったし」
幾つも世界を作ってみたが、魔法のある世界は初めてだったし試行錯誤の繰り返しだったしね。
まず、魔法を使うにはそれなりの物が必要なので、マナという魔力の元を作り上げた、そして調整・・・
もうひたすら面倒臭かった、マナの量、濃度、生物への吸収率、数え上げたらきりが無い、魔法の種類や属性など、あれやこれやと詰め込んでいたら膨大な数になっちゃって、手間隙が尋常じゃないくらいすごかったんだよね。
「だが苦労の甲斐があったというもんだよ 君もそうおもうでしょ?」
僕は隣にひかえている使徒に話しかける。
「そうですね、あれだけの失敗を苦労の一言で片づけてしまうのは、ちょっと納得できかねる所はありますが、まあ神様の言うとおりに、甲斐はあったと思いますね」
すました顔で、返答にさらっと嫌味を含ませながら、使徒がこっちを向いて話す。
まあ、たしかに失敗した数は多かった気はしてたけど、そこは感慨に浸っている僕を察して流してくれてもいいんじゃないかな?言うほどそんなに変な感じにはなってないと思うんだけどね?
「まあ多少失敗は多かったけど、順調に進んでここまで来れたわけだし」
「順調ですか・・・あれだけの失敗、まあ数の多さはこの際除外するとしても、天変地異レベルの物もかなり見受けられました、高度に発達した魔法文明の滅亡も1回や2回じゃありません、気候の激変により数多くの種も途絶えましたし、世界が崩壊する一歩手前なのが幾つもあったはずです」
使徒が眉をひそめて淡々とした口調で言ってくる。
ああ、そう言われればそんな事があったな、あまり思い出したくなかったんだけど、確かにやっちゃったんだよね、思考錯誤って意味もあったんだけど、そんな苦い思い出はずっと封印しておきたかったな~。
「もしかして、お忘れになっていたんですか?」
「そんな事あるわけないでしょ~」
・・・けっこう鋭いね、もっとも他の使徒とは違い、僕の機微を理解するように作った特別性だからなんだけどね。
だが、言われっぱなしなのも癪にさわるし、僕の威厳が損なわれるおそれがあるので、きっちりと必要なものだったと言い聞かせなきゃならないか、さて何て言ったらいいかね・・・。
「あれもね、被害だけ見ればそうかもしれないけど、必要な事だったんだよ?」
「そうですか、失敗と判断していましたが、私の思い至らない所に神様の望んでいた成果があったという事ですか?」
「まあ、そういう事だね、結果のみならずそこに至るまでの過程や、気になる事例の検証の繰り返しといくのも大事なんだよ」
ふふっ、その場しのぎだけど仕方が無い、何とか上手く丸め込めたかな? 威厳を保つというのも面倒くさいし疲れちゃうね。
「では後学までに、どのようなお考えで、あのような大惨事としか思えないような事をしたのか、お聞かせしてもらってもよろしいでしょうか?」
「あれれ? 僕の言ってる事を疑ってるのかな~?」
やっぱり此の位じゃ誤魔化しきれなかったかな、ここは素直に納得して引いてくれると助かったんだけどね。
「そうではありません、私は他の使徒とは違い、神様の思考や機微を理解するように特化して作られましたので、神様のお考を察することが出来ていないという事になれば、私の存在意義が失われてしまいます、是非にもご説明をお願いいたします」
畏まって真剣な表情で話しでくる。
何やら面倒臭いことになってきたね、何でそんなに真面目なのかね、もうちょっと砕けた感じでいいとおもうんだけど、まあそう作ったのは僕なんだけどね。
さて、何から説明したらいいものか改めて思い出してみると、とんでもないほど思い当たる事がある、どれから言っていいもんだか・・・迷っちゃうね。
「君はどの事が聞きたいのかな?面倒臭いんで質問は三つくらいで勘弁してほしいんだけど」
聞きたい事があるのなら、こっちであれこれ言うよりも、本人に聞くのが一番ってとり早いし、数を絞ればボロが出ずに済む・・・かもしれない?
「では、最初はドラゴンの性能についてなのですが、」
「えっ?ドラゴンなの?あんなもんで丁度いいんじゃないかな」
やばいのを予想してたのに、違うんで思わず話を途中で切っちゃったよ、ドラゴンとは以外な質問がきたもんだね。
「いえ、今のドラゴンは私も問題無いと思いますが、魔法世界を作り始めた初期の頃に作ったドラゴンなのですが、私から見て必要以上に強力な個体達でしたので、何故あのようになったのかをお聞きしたいのですが」
あ~ そっちか~ そっちは聞いてほしく無かったな~ 此処は誤魔化し切れそうもないんで、正直にぶっちゃけるしかないか。
「あれはね 僕もちょっとやり過ぎたなって思ってるんだよ、 魔法の世界って言えば、ドラゴンは外せないよね? 何でっては聞かないでね、ねっ!」
「・・・まあ、分からない事ではありません」
「でしょ?それでドラゴンは強くないと意味がないんで強くして、ついでに凶暴さを付加したんだよ」
「で、あのようになったと?」
「なっちゃたんだよね、一応は混沌を作るっていう役割をやらせるはずだったんだ」
あの惑星を創造したときの一助として作ったんだけど、役目が終わった後もあいつらときたら、もうひたすら戦闘と破壊を繰り返すばっかりで、・・・まあ、そうするように僕が作ったんだけどね、作るとき加減しなかったから、やりたい放題で暴れ回ちゃって、こっちが色々作っても直ぐに壊すし、目立たない所に作っても、結局見つけて壊しにくるし、まいちゃったね正直あれには。
「最終的には面倒臭くなってきて、消そうと思ったんだけど消すのも、何かもったいない気がしたんで、幾つか作成中の別の世界に移動させたんだよ」
うん、うん、作ったものは消さずに有効に活用しないとね、魔法もまだ調整中だった頃の事だししょうがないよね。あれ?調整中・・・そうだ!魔法の調整で必要だったと言う事にしちゃおう、僕もやりたくは無かったけど、魔法の調整に必要だったんで、仕方なくやった事なんだ、って言うのはいい感じかな?、よし、これでいってみようかね。
「あれは魔法の調節でしかたなかったんだよ、止むに止まれずってやつだね」
「魔法の調整中であるならば、弱いもので試すべきです、それが成功したら少しづづ規模を大きくしていくべきで、いきなりあのような大物で行う必要性はありません、あれは被害が大きすぎたと共に、永い時間、本当に永い時間を無駄にしました、まさにあれは失敗したと言っていいのではないでしょうか」
む、おかしいな?誤魔化しきれてない。
「さらに言わせていただければ、ドラゴンを別の世界へ移したことは問題の先送りにしかなりません」
「・・・そうですね」
ああ、駄目出しまでされちゃったよ、僕の威厳がどんどん無くなっていく、こんなはずじゃ無かったんだけどな。
「では二つ目の質問ですが、気候の急変についてお聞かせ願いたいのですが」
まったくもう、僕が傷ついてるっていうのに、淡々と進めてくるね、ぜんぜん機微を理解してないんじゃない?、まあ、だからこうして質問なんかをしてるんだろうけどさ。
「それはね、気候を調整しながらマナの濃度の調整もいっしょにやってたからだね、まあこれはワザとやったんだよ」
「そうですか、地軸をずらしたのは故意にやった事なのですね?」
「うん、多少やりすぎた感はあるけど後悔はしてない」
よし、言い切ったよ、ここはどうでてくるかな?
「わかりました、では三つ目の質問ですが」
むう、何も言ってこない・・・まあいいけどね。
「幾つもの魔法文明が滅んだ件ですが、あれはどうしてあのような事になったのでしょうか?」
「あれは色々と事情がからんでるんだよ、魔法ってマナを体内に吸収して魔力に変えて使うようにしたでしょ、溜め込む魔力をちょっと多く設定したら、実際に体を動かすよりも魔法を使うほうが効率がよくなっちゃって、歩くのも魔法、物を取るのも魔法、何をするのも魔法って具合で、まあ魔法世界なんだからいいかと思ってたけど、そのうち威力の高い魔法を組み上げて戦争はじめちゃってね、他の所にも影響が出そうだったし、魔力が高いのもよくないなと思ってね」
「で、滅ぼしたと?」
「嫌な言い方をするね~ 滅ぼしたんじゃなくて滅んじゃったんだよ」
「神様が何かをした結果そうなったんですよね? それは滅ぼしたと同じでは?」
「まあ、そう言う捕らえ方もあるのは否定しないよ、うん、そんなに否定しない、そう、しないと思う、たぶん、しないんじゃないかな、おそらく・・・」
「他の文明も同じような感じだったんですか?」
「・・・・・色々と魔力を変えて調整した結果なんだけど、魔力が多いままの所は、多少の差はあっても似たような事態になっちゃって、納得出来る物になるまでずいぶんと掛かっちゃったんだよね」
「だいたい分かりしました」
「分かったのはいいんだかど、何か文句とかないのかな?」
「私は、神様を理解しようとしているだけですので、別に文句を言いたいわけではありません」
ほんとうかな? じっと顔をみるも、しれっとした表情を崩さない。まあいいか、これで一段落ついたかね。
「じゃあ、この世界も安定してきたんで次の事でも考えようかな」
「神様、すぐに思いつきで何かをやろうとすのではなくて、よく考えてから行動してください」
「分かってるよ、ちゃんと考えてから作ればいいんでしょ、まったくもう・・・あっ、そうだ! いいこと思いついたよ、これは面白いかもしれないね、さっそく作ってみようかな」
「神様・・・・・思いつくまま行動すると失敗しますよ」
使徒がじっとりとした視線でこっちをみている、まあ日常の光景だね。
「心配しなくても大丈夫、今思いついたのは面白くなりそうな予感がするんだよ」
「失敗しそうでとても心配なのですが」
「大丈夫だって、そうそう失敗したりしないさ」
僕は安心するように、ニッコリと使徒に微笑みかけるように話すも不審そうな視線は変わらない、大丈夫だよ・・・たぶん。