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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
一章 ガルム帝国編 一部 神と呼ばれる少女
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8話 天然少女との出会い

「どこから来たんだお前?」


「……?」


 首を傾げるミーシャ。いや傾げないで下さい。

 どこから来たのって言われてなんでわからないんだよ……


「……あっちかな?」


 さっき歩いてきた方向を指すミーシャ。

 いや俺が聞きたいのはそれじゃなくて家とかそっちのことなんだけど。


「それじゃなくて、家とかは?」


「……こっち?」


「変わってねえよ!」


 ハァとため息をつく。駄目だ疲れる。


「家に帰れるのかお前?」


「……時間になったら迎えが来るから」


 そう言って太陽を見ながら呟いた。

 どっかのお嬢様かな? 俺はその様子を見てそう思った。しかしミーシャの顔は何故かとても寂しそうな、そんな表情をしていた。


「そうだ、ミーシャがよかったら、俺に町を案内してくれるか?」


 そんな寂しそうな表情をしているのを見て、俺は耐えられずそう言った。


「……いいよ?」


 俺の提案にミーシャは疑問系ではあったが引き受けてくれた。


「私も知らないけど……」


「知らないのかよ!」


 じゃあ何で引き受けたんだお前……

 しょうがないな、ならここはこうするか。


「じゃあ俺と一緒に町を探索するか?」


「お兄さんと一緒にですか?」


「お前も俺も知らないしな、どうだ?」


「……お兄さんって、ロリコンさん?」


 その言葉に俺は心にグサッと刃が突き刺さる。

 いや確かにこの光景みたら……そう思われても仕方ないとは思うけども……もっと言い方ってのがあるだろ?


「お前は俺が嫌いなのか……?」


「……好きですよ? 食べ物くれましたし」


「じゃあ何であんなこと言うんだよお前は……」


 この子天然だけど、平気で俺の心を傷つけるようなこと言ってくるなぁ。可愛い顔して恐ろしいわ。


「……じゃあ案内お願いしますね?」


「まあ俺もこの町知らないけどな」


 俺はベンチから立ち上がる。ミーシャもゆっくりと立ち上がる。

 さてどこから行こうかな? とりあえず公園から出るか……



 街中を歩く二人組。その様子は兄妹のようにも見えるはず。

 周りも結構人通りが多く、賑わっている。やっぱり帝国というだけあって都会なんだな。


「ミーシャは何か行きたい場所とかあるのか?」


 知らないとは言ってはいたが一応訊いてみた。

 この子も女の子だし服屋とかそういうところに行きたいだろ?


「そうですね……美味しい物、食べたいです」


「お前、奢ってもらうつもりか……」


「駄目……ですか?」


「いや、別に構わないけど」


 この子ボケーとしている割には、大した子だよ……

 まあ、それで喜んでくれるならいいか。


「じゃあ美味いもん探して行くか!」


「はい、楽しみです……!」


 ミーシャの表情が微笑むのがわかった。やっぱり子供は笑顔が一番だよな。

 あんな寂しそうな顔はしてほしくない。今だけでも楽しんでももらおう。


「流石帝国ってだけあるなぁ……よく見れば店もいっぱいある」


 看板が読めないので何の店かわからないのが大半だが、パッと見て飲食店だとわかるところもある。


「お兄さん、お兄さん」


 コートの裾が引っ張られて俺はミーシャの方を振向く。

 ミーシャはある店を指差している。道路を挟んで向こう側のようだ。


「……あそこに行きませんか?」


「カフェか……?」


 ガラス越しの店内に、ケーキが並べられているショーケースが見える。

 ケーキ屋さんかな? さっきは俺も食べてなかったし、ちょうどいいな。


「よし、行くか」


 そして歩き出そうとした時、左手に何か暖かい物が触れる。

 左手を見ればミーシャが手を握っていた。握ったら壊れてしまいそうなほど小さな手だと感じた。


「お兄さんが迷子にならないように……?」


「それはお前だと思うけど……」


「……嫌でしたか?」


「嫌じゃないよ、まあ恥ずかしいってのはあるけど……」


 俺は少し照れるように答える。

 ミーシャはフフッと笑うと微笑んでいた。頬も少し赤いような気がする。

 本当に仲のいい兄妹みたいだよな俺達。そう見えてるよな?


「ん? お前右手怪我してるのか?」


 手をつないで気づいたが、ミーシャの右手には包帯が巻いてある。

 リリナのように天のファートを隠すように。いや、まさか……何かの偶然だろ。


「……これは火傷……です」


 少し間をおいてそう答えたミーシャ。

 これ以上はあまり追求しないほうがいいと判断した俺はその火傷については何も聞かなかった。



 木造の扉を開けるとカランカランと鐘の鳴る音が聞こえる。

 店内に入ると「いらっしゃいませー」と店員の声が店内中に聞こえる。


「日本の店と大して変わらないな……」


 店内の雰囲気は、日本でもありそうなケーキ屋のような感じだ。さっきあいつ等と行った男が入りにくい場所とはまた違う。

 ガラスのショーケースには色とりどりのケーキが並んでいる。どれも美味しそうだな。


「……日本? お兄さんの故郷ですか?」


「まあ、そうなるかな。俺の国だ……この世界には、ないけどな……」


 最後の部分だけボソボソと喋る。

 少しだけ、前の世界が……日本が懐かしく思えた。あれだけ世界に嫌われていたのにな……


「どうしたんですか?」


「いやなんでもない。ほら、食べたいの選べよ?」


 そう言うとミーシャはガラスのショーケースと睨めっこをするかのようにジッと見つめる。

 どうやら、顔に出てたみたいだな。この子にまで心配されてちゃ駄目だ、俺はあの世界に嫌われ――捨てられたんだ。もう……未練はない。


「……これ、いいと思いませんか?」


「フルーツのタルトか? 何のフルーツだこれ……」


 ミーシャが指すのはフルーツが乗っているタルト。乗っているのは……多分苺と、丸いブドウのような物と、リンゴとかオレンジとか俺の世界の似たような果物だ。

 そういえば、苺って実は果実じゃなくて野菜に分類されるのだと、何かで言っていた気がする。まあ無駄な豆知識だな。


「じゃあこれにするか。俺は無難にショートケーキらしき物だな」


 店員のお姉さんを呼び、タルトとケーキを頼む。

 ミーシャに必要な通貨を教えてもらいながら、払い終える。俺達はケーキを持って店内にある飲食のブースへと移動する。

 そしてお互いテーブルを挟んで席に座る。


「……お兄さんってお買い物できないんですか?」


「通貨がよくわかってないんだよ……文字も読めないからな」


「……この国の人じゃないんですか?」


「お前は、俺がもしも……異世界から来たって言ったら……信じるか?」


 俺は出会って間もない少女に一体何を言っているのだろう。

 でもなんだか――こいつなら信じてくれる。そう感じたんだ。


「……それはどんな世界なんですか? 日本はどんなところですか?」


「信じるのかお前? 異世界なんて存在」


「……お兄さんが嘘をついてるようには見えないから……信じますよ?」


「なんていうか……お前って本当に不思議な奴だな」


 フフッと笑いがこみ上げてしまう。

 上等だ、なら俺の世界を、日本について語ってやろうじゃないか。

 ケーキを食べながら色々語った。日本について、アニメとかゲームとか歴史とか街の様子とか世界とかどんな人がいるとか……


「……楽しそうですね。アニメ、見てみたいです」


「楽しく聞いてもらえてよかったよ」


「お兄さんは、日本に帰りたくないんですか?」


 ミーシャのその一言に俺は一瞬自分の中の時間が止まったように感じた。

 帰りたくない。いや、帰れないといったほうが正しいか。でも少なくとも今は――帰りたくない。あの世界にいるくらいなら……俺は……


「帰りたく……ないかな」


「そうですか……」


「俺はあの世界が嫌いだから……さ。ミーシャはこの世界好きか?」


「……好きですよ。でも……私は、お兄さんのいう日本に生まれたかったです」


「…………?」


「日本なら……私は運命の鎖で繋がれることもなかったから」


「運命の……鎖?」


 ミーシャが何を言っているのかわからなかった。運命の鎖?

 時折見せるその悲しそうで、寂しそうな顔に何かが隠されているのだろうか? 俺にはわからない。


「……お兄さん? 難しい顔してどうしました? 腹痛ですか?」


 おっと、また考え事してた。しかしなんで腹痛なんだ?

 そして残りのケーキを食べようかと思ってフォークを伸ばすが――ない。


「あれ?」


 チラッと前に座るミーシャを見ると、モゴモゴと口が動いている、口の横には白いクリーム。

 こいつ……いつの間に俺のケーキ食いやがった?


「おい、そのクリームはなんだ?」


「……ごちそうさまでした」


「認めるのかよ!」


「美味しかったです」


「いや、なんで勝手に食べてるの?」


「あの、濃厚なクリームが最高でした」


「俺の話聞いてますか、ミーシャさん?」


「お兄さんもそう思いませんか?」


「はぁ……もういいよ。お前が満足ならそれで」


 駄目だ、この子にはかなわない。そう感じた俺だった。

 店内から出ると、少し日が傾きだしているのがわかった。空が少しだけオレンジ色になり始めている。


「…………」


 そのオレンジ色の空を寂しそうに見つめるミーシャ。


「どうした?」


「……いえ……そろそろ時間ですから寂しいと思っただけです」


 そういえば迎えがどうとか言ってたな。そろそろ来る時間ってわけか。

 なんだか名残惜しそうな顔してるな。そうだな、とりあえずここは。


「なあ、また来ようぜ! この店にさ」


 また会える。だって同じ世界にいるんだから会えるさ。

 だからそんな寂しそうな顔はしてほしくない。笑ってほしいんだ。


「今度は俺の知り合いも一緒にな、お前と一緒ぐらいの奴もいるし友達になれるぞ?」


「……またいつか……必ず来たいですね。またお兄さんと一緒――」


 一緒、その先を言おうとした時。後ろから声が聞こえた。


「ここにいたか。そろそろ時間だ、戻るぞ」


 やってきたのは青白い白衣のような服を羽織った数人の男。

 ミーシャの手を取るとすぐに去ってしまう。そしてミーシャが去り際に俺のほうを振向き、こう言っていた「ありがとう――」そして「――さようなら」と。


「さようなら? また会うんじゃないのか? 「また今度」じゃないのかよ?」


 俺の中で「さようなら」という言葉が妙に引っかかっていた。

 なんであの時あいつは「さようなら」なんて言ったんだ、まるでもう――『二度』と会えないかのように。


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