7話 初めてのお買い物
「あーやっぱりここのケーキが一番ねー」
フォークを口に入れた状態で目を閉じ、美味しそうにしているリン。
前の皿に置いてあるのは黒いチョコのような丸いケーキだ。
「本当だ、甘くておいしい」
リリナも同じくそのチョコのケーキを食べている
今俺達はリンの案内でとあるカフェに来ている。内装はなんというのか、木で出来た建物で中もオシャレな雰囲気が漂っている。
俺は周りの女性客ばかりの中で、一人似合わない男性客として肩身が狭い感じがしていた。店内に流れる音楽がさらに俺には似合わないと言ってるようにも聞こえる。
「…………」
無言で俺は置かれている紅茶を飲む。こうでもしないと気分が落ち着かない。
「なぁ……お前の用事って、これも含まれてるのか?」
「当然じゃない。こうやって心をリラックスさせるのが大切なのよ」
「そうですか……」
「心配しなくても、この子のことは調べるから安心しなさい」
まあそこは心配してないんだが。
俺は紅茶を再び飲みカップを置く。
「そうだ、次ギルドの資料室に行くのよ、リリナちゃんちょっと借りるわね?」
「俺も行くぞ?」
「連れてきたいんだけど……あなたには権限がないから入れないのよ」
「なんでリリナも行くんだ?」
「この子に色々と聞きながら調べるからよ」
紅茶にスプーンを入れて回しながら喋るリン。
権限がない? あれか、ギルドのランクみたいなもんかな?
「安心しなさい。この子は私が守るから」
「待てよ、リリナは何で入れるんだ?」
「だってこの子まだ子供だし。私が保護者的立場になれば可能なの」
あーお子様は保護者の方と一緒なら問題ありませんみたいなやつね。俺は大人扱いだから無理なわけか。
するとリンが俺になにやら銀のリングのような物を渡してきた。
「なにこれ?」
「発信機みたいな物よ。登録した魔力を探知してくれるの」
「これでリリナの居場所がわかるってわけか」
「そういうこと。万が一って場合に備えてね」
リンは俺に渡した物と一緒のリングをリリナに渡す。
リリナは慣れない手つきで、なんとか右手首にはめるとそれを眺めるように見ていた。
「ねえリンさん。これどうやって使うの?」
「これはね……これをこうしてこうやって……こうするの」
リリナの右手を持ちながら説明している。俺から見ていると何をしているのか全くわからん。
その説明でリリナは理解したのか、納得したようにその説明どうりに実践していた。
「…………分からん」
「あなたも? 本当にあなたって何も知らないわね……」
俺は苦笑いしながらそのリングをリンに渡し、その説明を受ける。
異世界から来たから右も左もわからないんだよなーでも、異世界から来たと言ったところで信じるかどうか……
「で、こうする。わかった?」
「なんとか」
リンからリングを受け取ると、言われたとおり実践してみる。
このリングの突起部分を押すんだっけ? そうすると対象の場所がわかるんだっけ?
「おお!」
実践するとリングから白い光が伸び、リリナのリングに向かって伸び始めた。
なるほど……こうやって居場所がわかるわけか。予想してたのはGPSみたいな感じだったんだがな。
「一応私も着けてるから多分大丈夫よ。それにあそこは軍の人間は入れないしね」
確かにそれなら国から狙われることはないな。右手さえ見られなければ大丈夫だろうし。
「色々と悪いな……」
「いいのよ気にしなくて」
「ありがとう、リンさん」
リンは隣に座るリリナを撫でると、「あなたは私が守ってあげるから大丈夫」と言っていた。
ニコッと笑うリリナ。その光景は仲のいい姉妹に見えるほどだった。
「あーそれにしても、この子本当に可愛いわね。妹にしたいわー」
リリナをギュッと抱きしめるとリンは癒されたような表情をする。
少し困惑した表情をしていたリリナだったが、すぐにさっきのような笑顔に戻る。
「まあ可愛いのは確かだしな……」
「なんかあなたが言うと、危ない香りがするのよね……」
「お前の中で俺はどう映ってるんだよ?」
「過保護で親馬鹿……感じかしら? あとはロ――」
「その先は言ったら消すぞお前?」
「はいはい、わかったわよ」
リンがさっき何を言おうとしたのかは考えないでおこうか。
俺はリリナを見て、自分が確かに過保護なのかなぁと思う。でも守ると約束したから過保護だろうと関係ない。
「とりあえず、集合はこの店の前にある公園ね。夕方には戻ってくるから」
「了解だ。俺はこの辺をブラブラと探索してるよ」
そしてまた店内の男には気まずい雰囲気の中、こいつらが食べ終わるまで待っていた。
さて、夕方までどうしようかな。ひとまずこの町のことにでもついて知っておくか。
空を見上げれば雲ひとつ無い青空。太陽らしき物と大きな惑星が二つ浮かんでいる。
二人と別れた後、何もやることが無い俺は適当に公園内を歩く。
「見れば見るほど……俺の世界とあんまり変わらないよなぁ」
町を見ても日本の東京のような感じの都会だ。ただ違うのは文字や、人々の服装とかか。あと車のような低空浮遊している乗り物がある。
なんかまるで道行く人たちがコスプレしてるようにしか見えないんだよなあ、まるでゲームのキャラの服みたいな感じだ。そりゃ中には普通に見える服装もいるけど……
「でも、車があるのは驚いたな……」
公園の外の道路? らしきところを走っている車のような物、いや見た目は車だ。
名前は確かミクスだっけ? そんなことをリリナが言ってた。
「お、あれは……」
俺の目の前に見えたのは、移動販売のような感じの店だった。
売っているものは、アイスのような物と。ホットドックのような物だ。他にもあるが見たことがない物ばかり。
「……さっき紅茶しか飲んでなかったしな」
腹からグゥと腹の虫が鳴る。時間的には昼だから腹が減っているのだろう。
よし、ここは一つ買ってみるか! 異世界に来て初めてのお買い物ってやつか。なんだか『初めてのおつかい』みたいな感じで新鮮だ。
胸の鼓動が早くなる。緊張しているんだろうな、今までは全てリリナやリンに任せてたし。
「いらっしゃいませー」
「ええと……あの、これを」
商品の名前が書いてあるが文字が読めないから分からない。
緊張したようにオドオドしながら、俺はそのホットドックのような物を指す。
「ティルクですね? 大きさはどうしますか?」
大きさだと? そんなの分からないよ……とりあえずここは
「えっと……大きく、とにかく一番でかいので」
「わかりましたー」
育ち盛りの男だからな俺も。でかくても食えるだろ、多分。
そして待つこと数秒、出てきたのは俺の予想を遥かに超える大きさのホットドックもどきだった。
「マジで……?」
出てきたのはフランスパンみたいに長い物体。
しまったここは普通サイズを頼むべきだった……
「では値段は1000ベルもらいますね」
1000ベルという単位に俺はとりあえず財布を取り出す。
中を覗くが、一体どれを出せばいいのかわからない。とりあえず一番大きい紙幣を出しとく。
「ではこちらが残りになりますー」
どうやら足りていたようで、釣り銭を受け取る。
ホッと一息ついて安心する、目の前のカウンターに置かれた大きなパンを見てため息が出てしまう。
ティルクを受け取り俺は店を離れる。後ろから「ありがとうございましたー」と聞こえる。
「食えるよな……これ」
俺はとりあえず近くにあったベンチに座る。
あらためてそのティルクと呼ばれる食べ物を見る。見た目はホットドックのような感じだったが、中身が全然違う。
なんというのだろうか……細長いからあげ? それがいくつかパンに挟まれている。
「香りは美味そうだし……食べてみるか」
端っこを千切って口に放り込む。
味は結構美味かった。俺の世界の食べ物にたとえると、ソーセージにチーズをかけているようなそんな感じだ。
「ふむ……これなら全部食べれるな」
味が結構好みだったため俺は食べるペースをあげる。
不味かったらどうしようかと思ったが、当たりだったみたいだな。俺は上機嫌で食べる。
するとなにやら視線を感じることに気づいた。
「…………」
その視線を感じる方を向くと、そこにいたのはオレンジ色のロングヘアの少女。
服装は白いワンピースというのだろうか。それだけを着ていた。あと俺の持ってるティルクにすごい視線を感じる。
「…………」
「…………」
しばしの無言がこの場を包み込む。気まずいな。
この子これ食べたいのか? さっきから視線がものすごいし……
「なあ……食べるか?」
俺は笑顔を作ってその少女に尋ねてみる。
すると少女は無言でうなづき、トコトコと俺の横に座る。
「ほら、やるよ」
俺はティルクを半分に千切るとその半分を少女に渡す。
まあこれぐらいの量なら食べれるだろ。
「……ありがとうございます」
そして少女はゆっくりと食べ始める。
その光景はまるで小動物のようで、見ていて癒される。
「ミーシャ……」
「ん?」
「ミーシャ・ルーフェルトって言います……」
ミーシャ・ルーフェルト、この子の名前だろうか?
「お兄さんは……?」
「ああ俺か……俺は神城零だ」
名前を言うとミーシャは髪を揺らしながら首を傾げて不思議そうにしてる。
そういえば俺の名前ってこの世界だと特殊だからな。
「零だ。零でいいぞ」
「零さんですか……」
そしてまた再び食べ始める少女。漂う無言。
横目で俺はミーシャを見る。見た目からしてリリナと同じぐらいだろうか? いや少しだけ背が高い気がする。
それと俺は直感でこの子がリリナと同じ雰囲気をしてると感じた。まさか……神の子?
「ミーシャは何してたんだ?」
「……お散歩?」
何故疑問系なんだ。質問を質問で返さないでくれるか?
この子天然さんか? なんだかこの子、立ってたら風に飛ばされてそうな感じだな……フラーとしてそう。
「お兄さんは何してたの? お散歩?」
「散歩になるのかな……? まあブラブラっとしてただけだ」
「……働いてないの? 無職?」
ボーとした感じでサラリと酷いことを言うミーシャ。
俺はその言葉にガクッとこけそうになる。無職って……一応ギルドで働いてるよ。
「無職じゃない、働いてるぞ」
「……公園出勤?」
「お前の中で俺はどう映ってるのか知りたいよ……」
どうあってもこの子は俺を無職したいのか……
俺はガックリと項垂れる。
「……気持ちいいですね」
「は?」
「……お日様がポカポカです。お兄さんも日向ぼっこしてました?」
「おい、話題変わってるぞ」
「私も日向ぼっこしてました……」
「お前さっき散歩とか言ってたよな?」
この子天然だ。間違いない。
気持ち良さそうにぼけーとしているミーシャ。すごい不思議な雰囲気だよこの子……
誰か……ツッコミ変わってくれ。