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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
四章 聖都ウィンデル編 神の歌姫
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75話 復元された力

「アリア……」


「お二人とも、大丈夫ですかー?」


 緊迫する空気の中、気の抜けた声で話すアリア。

 周りの騎士は銀の拳銃を向けたまま、ダリアを睨んでいる。


「女神ともあろう者が、犯罪者のゼロを助けにくるなんてねぇ。聖都も落ちたもんねぇ」


 振り返ったまま片目で睨むようにアリアに話しかけるダリア。

 その問いにアリアは笑顔のまま喋る。


「非道な実験を行っている、あなたの国に比べたらー。零さんは正しいことをしている人だと思いますよー?」


「化け物の分際で言ってくれるじゃない」


 お互い一歩も引かない睨み合い。

 この状況で圧倒的に不利なのはダリア。一人で複数の相手は無理だろう。


「ダリアさんー? このまま大人しく帰る気はないですかー?」


「ハッ、女神は馬鹿なの? この状況でそんな選択肢存在しないわよ。それに――あなたが大人しく返すとは思えないわねぇ」


「ええー。ちょーと、ペナルティはありますよー。でも殺しはしません」


 その返しに、ダリアは「信用できないわね」と言って吐き捨てる。


「あーもういいわぁ。これ以上話しても無駄だし――情報もらうわ」


 止まっていた手が動き出し、俺の身体へと近づいてくる。

 腕が動き出したのを見て、アリアは一言指示を出す。


「撃ってください」


 アリアの口からは予想も出来ないほどに、冷酷な一言だった。その言葉を聞いた瞬間、騎士達の持つ銃から次々と白い銃弾が飛んでいく。

 室内に鳴り響く複数の銃声だけが木霊していた。


「いきなり撃つなんて……物騒ねぇ」


「……おい、なんでこいつ――」


 騎士の一人が銃を下げて、驚愕の表情を浮かべながらその様子を見ていた。

 何故ダリアは――傷一つ、ついていない? 俺の力はまだ奪われていないはずなのに、何故?

 俺の瞳には、無傷のダリアがニタァと笑みを浮かべながらアリア達を見ていた。


「さっすが――ゼロの力は凄いわねぇ」


「なっ!」


 目の前の光景を疑った。何故ならダリアの周りには――白い霧が漂っていたから。


「なんで……? まだあいつの力は復元されていないはずじゃ!」


「頭が足りない小娘ね。こいつが戦ったのは、何もここだけじゃないでしょ?」


 まさかガルム帝国で戦った時、何かしたのか?


「大変だったのよぉ? あなたの血液を採取するの。一ヶ月かけて、少しの情報を集めたんだから」


 ガルム帝国で戦闘をしたとき、何度か血を流したが、まさかあれを採取したのか。そこまでして、俺の力を求める理由はなんだ?


「さてぇ、それじゃあ続きといこうか?」


 ダリアは素早く俺を引き寄せると、片手に何かを持つ。

 手に握るのは、試験管の先端に針を付けたような物だ。


「――くっ!」


 俺も霧を出して対応する。だが消滅どころか、消滅する気配すら見えない。

 無駄な抵抗をする俺を見て、笑うダリア。


「無駄無駄ぁ。考えてみなさいよ、私は微弱ながらお前の力を使える、同じ力を持つ私を消せるわけないでしょ?」


 睨みつける俺を見て、ニタァと笑うと持っていた針を勢いよく俺の腹部に叩きつける。


「ぐぁ!」


 声を出しながら苦痛で顔を歪める。

 腹部を刺さした物には徐々に容器を満たすように、赤い血液が溜まっていく。


「採取完了ぉ」


 躊躇なく引き抜くと、俺を引き離す。試験管を揺らしながら揺れる血をうっとりとした表情で見つめる。


「フフフ、これがゼロの血……綺麗ねぇ。宝石が詰まっているわ」


「……ダリアさん、彼の力は人のみに余る物ですよ。決してあなたのような方が使える代物ではありません」


 アリアの口調が変わり、真剣な目つきでダリアを見据える。

 人のみに余る力。なら何故俺はそれを使っている? アリアの発した言葉から自然とそう感じる。


「馬鹿ねえ歌姫。私はすでにこいつの力を使えるのよ? なのに使えない? 所詮は餓鬼、おつむが弱いわね」


「貴様、アリア様を愚弄するなぁ!」


 侮辱した言葉に切れた一人の騎士が、剣を引き抜くと走り出す。

 風を斬るような勢いで、剣を振るう。切っ先がダリアの首を跳ねようと近づく。


「どいつもこいつも――馬鹿ばっかり」


 首から数センチ離れた箇所にさしかかった時、切っ先が塵になって消え始める。まるで氷が溶けるように、刀身が消えていく。

 剣を投げ捨てて、足を止める騎士。その目には恐怖が宿っているのがわかる。


「ダリアさん、最終警告です。その力を使うのは止めなさい」


「心配どうも、でもね残念だけど目の前に強力な力があって、それを使わない馬鹿はいないわよ?」


 ダリアは手に持った、試験管の蓋を開ける。それを口元に持って行き飲み干した。

 ゴクリという喉を鳴らす音がなると同時に、持ってた試験管を放り投げる。


「ふぅ……。情報復元トレース


 初めて姿を変えたときのように、身体がマグマのように沸騰を始める。皮膚がボコボコと凹凸が生じ気持ち悪く肉体を変化させていく。

 数秒も立たないうちに現れたのは紛れもなく自分自身。鏡でも見ている錯覚に陥るぐらいに、瓜二つだった。


「すごい……! これがゼロの力!」


 身体から放出される霧を見て歓喜の声を上げるダリア。その量は俺と全く一緒。完全に『消滅の霧』の力を復元されてしまった。


「さてと……!」


「――!?」


 ダリアは視線をアリア達に向ける。すると先程切りかかった騎士が悲鳴を上げる。


「――がぁぁぁぁ! あ、足がぁ!」


 足が一瞬のうちに消滅し、その場に崩れる。


「あはははは! すっげぇ! マジで一瞬で消えるんだ!」


 狂喜の叫びを上げながら、笑顔で倒れる騎士をなぶり殺すように、その肉体を消し去っていく。

 俺は……こんな力を使っていたのか? こうやって人を――殺してきたのか?


「みなさん下がってください!」


 アリアが咄嗟に叫び、周りの騎士達を下がらせようとする。


「させると思うの?」


 ダリアから放出された霧が、部屋全体を包み密室を作り出す。


「楽しい殺戮ショーをみたいでしょ? だから――強制参加」


 口元が裂けるのではないかと思うほど、つり上げて不気味に笑う。


「……みなさんは消させないですよ」


 アリアの背中から四枚の羽が生えると、四方向に展開される。


「あらぁ? 女神様も本気モード?」


「こうなっては仕方ありません、女神の名において――あなたを排除します」


「怖いわねぇ、でも――勘違いしてんじゃねえぞ小娘」


 霧が倒れている騎士の首もとに伸びる。それを見て苦しんでもがいていた騎士も動きをピタリと止めて、震えた目で霧を見る。


「お前達の力は把握してるんだよ餓鬼が」


 荒い口調に変化するダリア。


「てめえらの力の属性、範囲、能力、発動時間も把握済みだボケ。お前は14番目の歌・守護騎士は11番目の守り・聖騎士は1番目の光。そうでしょ?」


 聖都にいる女神三人の司る力を淡々と言っていく。


「そしてお前の力、歌は。発動までに時間がかかり、もっとも広範囲に及ぶ。故に、この場では真価は発揮できないんだよねぇ?」


「……その通りです。よくご存じですね」


 ダリアは見下したようにアリアを見ると、背後にいるリン達に目を向ける。

 騎士と同様、首元に霧を這わせると人質のように扱う。


「お前が力を発動させようとしてみやがれ、こいつらの命を――消すからねぇ」


 アリアの力なら、霧の力を受けていても多少は攻撃可能だ。だがいまのアリアは力を封じられたも同然。絶体絶命の危機だ。


「どうやら、あなたを甘く見ていたようですね。ですが――あなたは私を甘く見すぎですよ?」


 ハァっと深いため息をつくアリア。周りの霧によりその吐息が白く見える。


「あ? お前パニックで、頭のネジでもぶっ飛んだの?」


「いえいえ、あなたの情報が。昔の物でよかったなっと思いまして」


「――チッ」


 その言葉から何かを感じ取り、首元に這わせておいた霧を使って首を切断するように操作する。


「くっ! 消滅しない!? 歌姫、何したのかしら?」


「ちょっと吐息に、力を混ぜましたー。それに乗って彼等達を私の力で保護していますー」


 元の口調に戻り、ニコニコと答える。アリアが作ったこのチャンスを、逃すわけにはいかない

 足に力を入れて、飛ぶように立ち上がる。撃たれた箇所が熱く痛みが走るが気にしてられない。


「――くっ!」


 迫り来る刃を感じ取り、身体を仰け反らすように回避する。


「この死に損ないの餓鬼が!」


「俺の力……復元してるんだったよな?」


 こいつのスキル、情報復元は力の復元するといった。ならば……俺が魔力がなくて、一般人ほどの力しかないことも復元されているよな?

 動きに俊敏さが感じられない。動きは遅く、さっきとはまるで別人だ。


「自分を撃つっていう時が――来るなんてな」


 片手に持った拳銃を肩に突きつける。

 いくら霧の力でも――ゼロ距離なら消滅は出来ない。

 低音と共に、ダリアの肩から弾ける鮮血。そのまま床に倒れていき、背中を強打する。


「――ぐぅぅ! こっの、糞餓鬼がぁ! 私を撃ちやがってぇ!」


 フラフラと立ち上がると、鬼の形相で俺を睨みつける。


「くっそ! こんな奴らに……こんな奴らに! 中佐である私が!」


 肩を押さえて、前屈みの体勢で息を切らしながら叫ぶ。

 その血眼でゼクスを睨みつけると叫ぶ。


「ゼクス! 命令よ、こいつらを始末しろ!」


「主……?」


「愛して上げる、認めてあげる。可愛いゼクス……だからこいつらを始末しろ!」


「本……当……なんですか?」


 フラフラの身体でダリアの元へ一歩一歩と歩む。


「聞くなゼクス! あいつはお前を利用しようとしてるだけだ!」


 だが俺の叫びは今の少女には聞こえていないようだった。

 裏切られたとはいえ、偽りの愛情を向けられたいたとはいえ。ダリアはこの子にとっての親のような存在。この子はまだ、心のどこかでこいつに依存している。


「そう、ゼクス。あなたは出来る子、選ばれた子。いくらでも誉めて上げるわ」


 クスクスと笑うと、次々と誉めるような言葉を口にする。それが偽りの言葉だと、すぐにわかるほど薄っぺらい気持ちだった。


「主……」


「さあ、あいつらを殺しなさい。あなたなら出来るわよね?」


「……はい主」


 少女は、ダリアを見上げる。少女の頭にダリアが手を乗せて、認めるような素振りを見せる。

 そしてゼクスはゆっくりと口を開く。


「――――――死んでください」


 瞳に映ったその光景は、背中から飛び出す小さな手。真っ赤に染まった、少女の手がダリアの身体を貫いていた。

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