74話 殺すための人形
「なんで……お前が」
呆然とその姿を見て呟く。その反応に対してクスッと微笑を浮かべるカーラ。
「不思議? 私がここにいることが、あなたを撃ったことが。ねえ『ゼロ』不思議よねぇ?」
「知ってるのか……!」
「フフフ、知ってるわよ? あなたの事は有名よ? 帝国でテロ、カイダール社での社長殺害。色々と黒い噂が絶えないわよ?」
クスクスと笑うカーラ。その表情からはとてもあの優しそうな人とは思えない。
すると後ろにいたリンが、あることを口にする。
「……あなた……誰?」
「誰って、私はクレイス院に勤める職員、カーラよ?」
「高度な変装ね……どうやって化けたの?」
「……ッチ。予想以上に鼻が利く小娘みたいね」
「おいリン。変装って……」
「零、あいつはカーラじゃないわ。カーラの姿をした――偽物よ」
カーラは面倒くさそうにため息をつく。
「やっぱり、髪だけじゃ……情報不足かぁ」
そう呟くと、突然女性の皮膚にパキパキッとひびが入る。白く変色した皮膚がポロポロと床に落ちていく。皮膚だけじゃない、髪の毛も白く変色し崩れていく。
「……お前……一体誰だ?」
「今から死ぬ奴に名乗るつもりなんてないけどねぇ」
女性の顔は、カーラのように優しそうな顔ではなく、鋭い目つきをした、足首まで伸びた赤い長髪の女性。
その姿を見たリンが、静かに呟く。
「あいつはダリア・エルガー……ガルム帝国――中佐よ」
「あっらぁ、私のこと知ってるのぉ? 光栄ねー今から死ぬのに、丁寧に自己紹介までしてくれてー」
「ガルム帝国、中佐……。ついに俺を追ってきたわけか……」
テロ行為をして、さらに神の子を二人連れ出している。いつか追っ手が来るだろうとは思っていたが……。まさかこんな形で来るとは……
「さてぇ、まだ生きてるでしょ? ゼクス」
倒れている少女を見ながらそう言うと、再起不能にしたはずの少女が立ち上がる。
やっぱり神の子、再生能力は速いか!
もう一度倒そうと、今度は刀を使って先程と同様、刃のない方で攻撃をする。
だが振り上げた瞬間、俺はゼクスから遠のいていた。自分が吹き飛ばされると理解するのには少し時間がかかった。
「ぐぁ!」
吹き飛ばされて、壁に激突する。背中を強打し、肺の中の酸素が全て吐き出される。
腕輪の魔力を全て使い果たした……今の俺は魔力がない一般人と変わらない――雑魚だ。
「ゼクス。命令よ、こいつらを殺しなさい」
ダリアは持っていた銃を放り投げて、ゼクスと呼ばれる少女の足下に転がせる。
「……はい、主」
それを拾い上げると、震える手つきで俺に向ける
そのとき、少女の目が潤んでいることに気づく。
「お前さ……本当は――――こんなことしたくなんだろ?」
「……」
「リンにも言われたんじゃないのか? だから余計に……撃てないんだろ?」
無言で銃口を向けるゼクス。
その顔からは人殺しなんかしたくない。そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。
「どうしたの? 早く撃ち殺しなさい?」
「でき……ません」
「なに?」
「私には……撃て……ません」
「……耳が悪くなったかしら? 撃ちなさい」
「無理です!」
震えた手で銃口を向けた状態で叫んだ。
目からは一筋の涙が流れて、床に落ちていた。
「主。私には……この人が悪い人とは思えません。この人と過ごしている子供達はみんな笑顔でした! 私には……無理です」
「……ハァ。あなたには失望したわゼクス」
するとカーラはもうひとつ銃を取り出し、それを撃った。その銃弾は俺でもない、リンでもない。向かっていくのは――あの少女。
撃たれた少女は、腹部が赤く染まりだす。そして赤い体液を床に流しながらその場に倒れる。
「てめえ! 何でこの子を撃った!」
「なんで? だっていらないじゃない。感情を持った人形なんて」
ハァとため息をついて倒れている少女をみるダリア。
ゼクスはハァハァと苦しそうに息をしている。神の子の為すぐには死なないのだろう。
「人形だと……! お前この子をなんだと思ってる!」
「あ、そうかぁ。あなた達知らないのよねぇー」
「主……?」
クスクスと笑いながら、銃口で倒れているゼクスに向ける。
「そいつはねぇ。人を殺すために作られたお人形――クローンよ」
その言葉でどうしてこの子の顔が、シャルルと似ているのか理解できた。この子は、この子の遺伝子はシャルルの物が使われているからだ。
リンも気づいたようで……震えた目でダリアを見ている。
「まさか……この子に使われた遺伝子って……! シャルルの!」
「あれぇ? よくわかったわね? そうよ、こいつに使われたのはそいつの遺伝子情報。神の子のクローンなら神力を扱えると思って作ったのよー。まあでも、期待できるような結果は出なかったけどねー」
その説明に、倒れているゼクスは涙で潤んだ瞳でダリアを見ていた。
そしてゆっくりと立ち上がると、潤んだ瞳でダリアをみる。
「主……私は……」
「ゼクス。この際だからハッキリ言って上げる。あなたはねぇ、ただ殺すために作られた哀れなお人形。人じゃないのよ!」
「人じゃない……。主……嘘だったんですか? 私の母親だと言ってくれたのも、褒めてくれたのも……全部――嘘だったんですか!?」
涙ながらに訴えかける少女。
認めたくない、だからこそ叫ぶ。残酷な運命を受け入れたくないから。
「ああ? 嘘に決まってるじゃない。お前みたいな人形が子供? 気持ち悪い、反吐が出る」
まだ幼い少女には辛い言葉。
そしてこの子は何よりまだ心が未熟。そんな子にとってこの言葉は、何より残酷で非道な言葉だった。
「あれは全て演技。あんたを優秀な兵器に仕立て上げるためのね。ようは犬みたいに適度に餌を上げてたものね」
全ては殺戮兵器にするために、この子に偽りの優しさを向けていた
「でも、感情なんて余計な物まで覚えちゃったわ……全く人形の分際で」
「うう……グス」
現実に耐えられず、ついに泣き出してしまった少女。いくら感情を抑えていても、耐えきれなかったようだ。
それも当然だ、いままで心の支えだった人に裏切られたのだから。
「気持ち悪いわね。人形の癖に泣いたりして、人形は人形らしく言われたことに従え――」
「黙れよ」
ダリアの言葉を遮り、叫びを上げる。
フラフラの身体で立ち上がり、鋭い眼光で睨みつける。
「人形? 感情がない? 聞いてれば言いたい放題いいやがって……」
身体に霧を纏いながら、拳を握りしめる。
「こいつのどこが人形だ? 殺せなくて泣いてる。あんたに裏切られて悲しんでる。これだけ感情を出しているのに……どこが人形だよ。この子は立派な人だ」
この子は自分を認めるために、あんな事をしていたのだろう。自分の居場所を失わないために、こいつの期待に答えるために。
必死に自分を認めてもらうために、もがいていたんだ。
「ゼクス。もうお前はあんなことしなくてもいい」
撃たれた腹部を押さえて立っている、ゼクスの肩に手を乗せる。
「あんな奴に認めてもらおうとするな。認めて欲しいなら、俺がお前を認めてやる」
「……でも私は」
「いいから。俺達がお前の――居場所になってやる。だからこんなことするな」
リンも少女を見て頷く。
俺でいいならいくらでも居場所を作ってやる。いくらでも認めてやる。だからもうこんなことはしてほしくなかった。
幼い彼女に、これ以上辛い運命を背負ってほしくなかった。
「プッ! ハハハハ! よかったわねぇ、ゼクスぅ! 認めてくれる人がいてぇ、世の中も棄てたもんじゃないわね?」
その様子を見て大声で笑うダリア。
こいつの笑い声と顔を見ていると苛立ちを感じるのがわかる。
「でもぉ、残念だけど。お前等全員――ここで死ぬから」
ニヤァと笑みを浮かべる。そして口を開く。
「情報復元」
そう言った瞬間。驚くべき光景が視界に飛んできた。
ボコボコとマグマのように身体が沸騰するダリア。身体の骨格が徐々に変わっていき、姿を変化させていく。
「……なんだよ、その姿!」
「ふぅ……どう懐かしいでしょ?」
その姿に見覚えがある。屈強な肉体に、立派な白い髭。俺が神の部屋で戦った男――レオ。
肉体の変化についてこれなかった服は破け、下に着ていたであろう、ゼクスと同じ迷彩服が現れている。
「どうして奴の……身体が!」
「フフフ。これが私の持つスキル『情報復元』の力」
スキル所持者! となるとこいつのスキルは肉体変化系のスキルか? いやもしくは幻術でも見せる類?
だがどれもしっくりとこない。ジッと見て情報を集めるが答えには至らない。
「対象の遺伝子情報さえあれば、姿を変えれるの。そしてその情報が濃ければ濃いほど――力も復元可能!」
ニヤァと笑みを作ると、地面を蹴るダリア。
一瞬にして接近するその巨体。俺はそれに対して霧を出すことで応戦する。
この子は神の子で消滅はしなかった。だがこいつはなら利くはずだ。神の子でもないなら塵に変わる!
「私なら消滅するって思ったの?」
「なっ!」
俺の眼前に現れたのは――消滅していないレオの姿を借りたダリア。
振りかぶられた拳が、鳩尾に深々と突き刺さる。
「ガルムの鬼神、レオ・ルニルド。ゼロを苦しめた一人って聞いてるわぁ」
屈強な肉体に反して似合わない音声で喋るダリア。
「もう一度苦しめられる気分はどう?」
片膝をつき、肩で息をする。
どうして、どうしてこいつは消滅しなかった?
「何で私が消えなかったか不思議そうな顔してるわね? それはねぇ……私が天人の一人だからよ」
天人、ガルム帝国で神力を取り込み、制御可能な力を手にした者を指す言葉だ。俺と対峙したバートもこいつ同じ天人だった。
「ま、私はこれからそれ以上強くなるけどね。――ゼロの力によって」
こいつまさか……! 本来の目的は、俺の力を復元するために!
「気づいた? 元々あなたの情報さえ手に入れば用はないの。ゼロの力があれば神の子なんていらない、そんな人形なんて用済みなの」
だから重要な神の子である、この子をあんな酷く扱っても問題なかったのか……
確かに俺の力は神力も消滅させる、自分でも恐ろしい力だと思ってる。だがこいつはその力さえも復元するのか!?
「それじゃあ、ゼロの情報。いただくわねぇ」
手が伸ばされた瞬間だ。
「動くな!!」
「……はぁ、面倒なのに見つかったかぁ」
そのままの体勢で後ろを振り返るダリア。
「まあ来るとは思ってたけどねぇ。歌姫――アリア」
そこにいたのはアリアと。複数の騎士の姿だった。




