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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
四章 聖都ウィンデル編 神の歌姫
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73話 襲撃者との戦闘

「はぁ! はぁ!」


 建物に囲まれた道を駆ける。足音だけが聞こえる。

 息が荒くなる、胸が苦しい。だが止まれない、止めれない。


「シャルル……!」


 自身の親友の名を口にする。

 あの襲撃者の顔はリンの親友シャルルと瓜二つだった。もういないはずの親友が何故、ここにいるのかが不思議だった。

 心の中にきっと、まだ生きているのだと微かな希望が彼女の中にあるのあだろう。


「はぁ……」


 徐々に歩みを止めて足を止める。

 見つめる先には何の変哲もない物置のような木造建築の建物。


「勝算はない……でも――私は知る必要がある!」


 建物の扉へと向かうと扉を蹴り破る勢いで開ける。

 バタンと大きな音を立てて扉は開かれる。黒の銃を構えるとそこにいる少女に向ける。


「見つけたわよ――シャルル」


「……追っ手……迂闊でした」


 銃の先にいるのは緑の髪に全身迷彩服の少女。つい先ほど、聖都の女神であるアリア達を襲った張本人だ。

 少女の脇腹辺りは布が無く、肌が露出してる。少し痣のように変色しており痛々しく見える。少女も片手で負傷箇所を押さえている。


「……あなた一人ですか?」


「そうよ」


「……勝てる気でいるんですか? あなたの戦闘能力では私に触れることすら出来ませんよ?」


「そんなの関係ないわ。私はあんただから来たのよ、シャルル」


「シャルル? なんですか……その名前は?」


「……教えて、あなたは何者?」


 銃を構えた状態で問いただす。

 リンの瞳には、この少女が別人であってもシャルル本人にしか見えていない。頭でわかっていても、そう見えてしまうのだろう。


「……話す必要性は皆無です」


 表情を変えずに話す少女。


「そう……なら、もう勝手に喋るわ。何であなたは、シャルルと同じ顔をしてるの? あの子はもう――この世にいないはずなのに!」


「あなたの言う、シャルルという方は存じません。ですが私はシャルルではありません。ゼクス(6)という名(番号)があります」


 リンはその言葉を聞いた瞬間、銃が少し震える。

 シャルル本人でないとわかったこと。そして何より、この少女は自分の名を番号だと宣言したのだ。まるで物のように。


「お喋りが過ぎました――死んでください」


 風だけを残して視界から消え去る少女。

 ダンと音を上げて、何かが床に激しく叩きつけられる音がする。


「か……!」


 倒れたのはリン。その上に少女が乗っており、首を片手で締めている。

 周りには構えていた銃や短剣は散らばってしまい、手元にはない状態だ。


「こ……の!」


 太股辺りから小さな果物ナイフの様な物を取り出すと、それを横から突き刺すように振るう。

 迫るナイフに反応し、リンの上から離れる。


「ケホッ! ケホッ!」


 喉から手が離れて、苦しそうに咳をする。

 だが安心も束の間、立ち上がり片目を開けたときには――緑の髪が胸元に迫っていた。


「かはっ!」


 腹部にめり込んでいく小さな拳。その小さな手から想像も出来ないほどな威力。メキメキと嫌な音を立てながら食い込んでいく。

 勢いよく壁に飛ばされると、辺りにあった家具を散乱させながら壁にぶつかる。天井からは衝撃で埃が落ちてきていた。


「……ここまでの実力があるなんて」


 神力が使えないリンがこの少女に勝てないのは自明の理。鼠がライオンに勝とうとするようなものだ。

 でも諦めきれない。過去のように何もせずに終わるのは嫌だから。だからこそ無理だとわかっても戦う。


「終わりです」


 カチャと音を立てながら銃が向けられる。少女が持っている銃はリンが落とした黒い拳銃。

 だが何時まで経っても放たれることのない銃弾。


「怖いの?」


「……!」


 少女の持つ拳銃は小刻みに震えていた。


「人……殺したことないんでしょ?」


「私は……怖くない」


「嘘ね。怖くないなら――一瞬で私や零を殺せたはずよ。でもあなたはそれをしなかった」


 辛そうに呼吸しながら、少女の瞳を見て話すリン。


「あなたは、人を殺したくないからしなかったんじゃないの?」


「違う! 私は、私は――!」


 叫びながらトリガーにかけた指の圧力を上げる。

 撃たれると思い、腕で顔を覆い隠す。

 だが銃声ではなく、鳴ったのは床に落ちた金属音だけ。


「銃身の先?」


 落ちたのは黒い銃身部分が床に転がっている光景。銃身のみでそれ以外は見あたらない。

 まるで綺麗に削りとられたような光景。

 このような芸当は、リンの知っている中では一人しかいない。


「……全く! 一人で行くなよ!」


「その台詞……あなたに言われたくないわね」


 リンの瞳には灰色のコートを身に纏った少年が立っていた。




 リンが向かった辺りを隈無く探していたところ、建物の中から物音が聞こえた。結構激しい音で、直感でリンだと感じた。

 そしてその物音がした建物に向かったところ、そこで見えた光景は、緑髪の少女が銃をリンに向けている姿。

 とっさに霧を伸ばして、少女の持つ銃を消し去ったのだ。


「……任務対象、神城零」


 俺を睨むように振り返る少女。

 任務対象? 俺がターゲットだっていうのか? アリアじゃなくて?


「アリアじゃないのか?」


「歌姫も対象です。ですが――あなたは優先対象です」


「……教えてくれって言っても無理そうだな」


「これ以上答える気はありません」


「なら――力ずくで聞くまで!」


 黒い腕輪がボゥッと光と同時に、駆け出す。魔力による強化を全て足下に集中させることにより、その速度は弾丸の如く素早い。

 この子の早さは異常な程だ、こちらは出来る限り速力を上げて対応するしかない!


「速いですね」


「なっ!」


 少女の背後に回ったと思った瞬間。そこには少女の姿はなく、すでに背後に回られていた。

 身体を何とか回転させて振り返るが、そこに見えるのは迫り来る拳。


「ですが、無駄ですよ」


 拳が胸に突き刺さる。苦痛で顔を歪め、口からは息が吐き出される。

 速度で勝てるなんて思っていない。だから俺は、この子を確実に捕らえる方法をとると決めた。

 俺は突き刺さる腕を、両手で捕まえる。


「――っ!」


「ハァ……。捕まえたぞ」


 予想外の行動に驚きの顔をする少女。

 だがすぐに表情を戻すと、もう一撃。別の拳で殴りかかる。


「ぐっ!」


 防ぎようがないほどの速度で繰り出される打撃。それを数秒の間で何十発も受ける。

 口からは血が漏れ出し、それが次第に床に落ちていく。


「悪いな、ちょっとだけ我慢してくれ!」


 苦しい中、そう言うと。俺の身体からブワッと白い霧が放出される。

 この子が神の子というなら、霧の力で消えなかったのも納得がいく。だが完全に消滅出来ないわけじゃない。あの時、神の子であるトレーセも自身の消滅を感じていた。


「くっ!」


 出来る限り霧を凝縮させて密度を濃くする。すると少女の身体に少しずつだが、異変が起きているのが見える。

 皮膚が焼かれるように少しずつ消滅し始めている。速度はゆっくりだが、確実に傷を負わせている。


「このっ!」


 苦しむ少女の姿に、心を痛めながらもそれを続ける。

 そして心を鬼にして最後の行動にでる。


「神の子だからな……遠慮はなしでいくぞ!」


 片方の腕を振り上げる。そして腕輪の残る全魔力を注ぎ込み、本当の全力の一撃を振り下ろす。

 ドンッという低音が鳴り響き、建物を揺らす。少女は床にめり込むように叩きつけられ、その場に横たわる。


「ハァ……やったか……」


「あなたも無理するわね……」


「無理でもしないと勝てないからな」


 俺は倒れている少女に目を向ける。気は失っていない、だがしばらくは立てないはずだ。

 あとはこの子を、連れて行けば終わりか……

 フゥッ息をつき安心した瞬間。銃声が聞こえる、そして脹ら脛の辺りが熱くなるのを感じる。


「――ぐぁ!」


 片目を瞑りながら熱くなった右足を見る。脹ら脛辺りからは赤い血が滲んでおり、何かに撃たれた事を示している。

 この子が? いや、今のこの子にそんな力はない。だとすれば誰が?


「あーあ。また失敗してぇ、そんなにあなたは破棄されたいの?」


 俺がやってきた扉から現れたのは一人の女性。


「まーでも。神城零をここに連れてきたのは、評価してあげるわ」


 なんでだよ、なんでこの人がここにいるんだ。

 その姿は紅のスーツに身を包んだ女性、黒のポニーテールをしていて、何よりこの人はクレイス院で孤児院の職員をしている人――カーラだった。


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