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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
四章 聖都ウィンデル編 神の歌姫
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71話 囮作戦

 クローゼットやベットぐらいしか置かれていない殺風景な部屋。そこで俺はベットに腰掛けながら窓から見える景色を眺めていた。


「囮作戦か……」


 アリアの護衛を任されてから一週間が経過した。その間、相手に目立った動きはなく比較的平和だった。

 だがあの襲撃者の子が捕まっていない。そのためアリアを含め、女神三人は大聖堂からの外出が禁じられていた。

 しかしこれでは進展もないため。聖都側はとある作戦を実行することにしたのだ。


「まさか、女神直々に囮になるって言うのは、予想外だったな」


 あまりにも外に出れず(一週間程度だが)不満が爆発したアリアによって提案されたトンデモ作戦。それは自身を餌に相手をおびき寄せるという内容。名づけて『歌姫囮作戦』

 当然周りの人は反対したし、俺達だって反対した。だがアリアは「女神命令ですー」と、にこやかに答えやがった。権力に物言わせたなあの歌姫……


「リュミエールが黙らされるのは予想外だったな……」


 あの時のアリア、笑顔だったけど怖かったからなぁ。お菓子を自分で買いに行けないのが不満だったらしい。あとは基本的に部屋でおとなしくするのが嫌だとか。

 まあその怖い顔のせいか、リュミエールは終始アリアと目を合わせてなかったし。

 するとガチャッとドアノブを回す音が聞こえ、同時に扉が開く。


「不安?」


 扉を開けながら聞いてくるのはリンだった。

 冷静そうな表情をしているが、その目からは焦りが見え隠れしている。


「相手は神力を使う、一筋縄ではいかないからな」


「そうね。でも失敗は出来ないわ……」


「お前にとってあの子は……知らなきゃならない事を秘めてるからな」


 リンにとって襲撃者の子は、亡き親友シャルルと瓜二つの顔をしていた。真相を確かめるためにも、今回の作戦は失敗するわけにはいかない。

 俺も、何故あの子が神力を使っているのか……知る必要がある。また誰かが被害に遭っているかもしれないから。


「行きましょう。そろそろ時間になるわ」


 リンは背を向けると扉に向けて歩き出す。

 俺もベットに立て掛けておいた刀を持つと、リンの後を追うように部屋を後にする。



 大まかの作戦内容は、名前通りアリアを餌にしておびき寄せ、出てきた奴を捕まえるというもの。言葉にすれば簡単そうに聞こえるが、これがまた難儀な内容だ。

 少し細かく説明すると、シュエは高台から索敵を行い敵を見つける役目、ファルガはシュエの護衛だ。

 俺は霧を使ったアリアの防御担当。リンは敵の捕縛担当。捕縛要因は他の騎士も担当している。

 リリナ達は同じ神の子というのもあって、大聖堂内のフィアの結界内でお留守番。フィア曰く『隕石落ちても余裕ですにゃ』だそうだ。


「ではー行きましょうかー?」


 緊張感の欠ける声によって、作戦は始まった。

 アリアが街に繰り出すと同時に、散らばるように各担当の場所へ向かった。



「……来る気配ないな」


 やっぱり作戦ばれたか? 明らかに警備を手薄にしてるから怪しむのは当たり前だよなぁ……

 建物の陰から身を潜めるようにアリアを見ながらそう思う。


「こういうパターンって罠だと気づきやすいからね。でも、あの子なら多分来るわよ」


 俺の前にある建物の陰からリンが、声を絞るように喋る。


「女の勘か?」


「まあそれもあるわね。でも何より、あの子は実力者だからよ、あれだけの力があれば罠があろうと意味無いようなものだもの」


 あの子の力は確かにすごいものだった。リンや俺を圧倒する速力。神力を用いた強力な風魔法。

 そしてこの前戦ったときのそれは全て――――全力ではないということ。

 ゴクリと唾を飲み込み、勝てるのか不安になる。


「大丈夫よ、最悪の場合、リュミエール様が来るらしいわ。といっても……アリア様だけでも余裕な気がするけど」


「アリアなら余裕で勝てそうだな……」


 あの余裕からして余程自分の力に自信があるんだな……

 あのときも、あの子を圧倒していたしな。

 脳裏に、アリアが一瞬だけ無双していたシーンを思い出す。歌姫のアリアでこれなら、騎士であるリュミエールはどれだけ強いんだろう……


「アリア様、あんな護衛なんて不必要です! 私達だけでも問題ありません!」


 するとアリアの周りから騒がしい声が聞こえる、この声は……セロースか。

 見れば、アリアの前に立ち意義をしているように見える。


「でもー数は多い方が有利じゃないかしら? それにー零さん達って結構強いわよー?」


「零さんって……またあいつですか……! アリア様、何故そこまであんな下郎に固執するんですか!? あなたのような方が何故?」


 必死に意義を叫ぶセロース。その様子からは私情を感じさせてならない。

 そこまでこいつは、俺を憎むのか。


「……あなた、あいつと喧嘩したの?」


「わかるのか?」


「まあ名指ししてあんな顔してればねぇ……」


 面倒くさそうな顔をしてセロースを眺めるリン。


「それにしても……作戦中に私情を叫ぶなんて……。あいつ馬鹿ね、馬鹿騎士ね」


 全くだな、今何をしているのか見えていない証拠だ。そういえば、今日まで(俺が)護衛をすることに反対していたなあいつ……


「おいセロース、気に入らないのはわかるが、今は作戦中だぞ」


「わかってる! だからこそだ! アリア様、今からでも間に合います! もう一度考え直して、今一度作戦をやり直しましょう!」


「でもーそうすると、街に出るの遅れるちゃうわねー。ケーキがぁ……」


 最後の一言にリンと共にずっこけそうになる。

 やっぱりケーキ目当てか! 提案したときは「国民の安全が第一」とか素晴らしいこと言ってたのに……。今の一言で台無しになった……


「あの子は、やっぱりブレないわね……」


 壁を持ちながらゆっくりと立ち上がり体勢を立て直す。


「ほらーセロースさん。怒らないで? そうだ、今からケーキ屋さん行きましょうかー」


「ちょっ!? アリア様、今何してるかわかってますよね!?」


「だってーあの緑の子来ないじゃない? なら折角外に出たんだし、美味しいもの食べて帰りましょうー」


「いやいや、ダメでしょ!? 何考えてるんですか!?」


 本当に緊張感のない子だ……。いやこの状況であの発想が出来るのはある意味すごい。


「アリア様なりに、みんなの緊張を解してるんじゃないの?」


「そういう考え方も出来るな」


 でもアリアは本当にケーキ屋に行きそうなんだよなぁ……

 苦笑いしながらその様子を眺める、確かに緊張は解れたかな……

 するとザァと風が流れ、自身の黒髪をなびかせる。風に反応して身体の筋肉に力が入る。


「……零」


「この風……リンの予想通り――来るぞ」


 耳元からザザとノイズのような音が鳴る。


『零さん! 空です、アリア様の真上にいます!』


 耳元から聞こえるシュエの音声。分かれる前に耳に掛ける小さなフックのような物をもらった。

 短距離なら無線機のように音声でのやりとりが可能な物らしい。

 アリアの上空を見上げるとそこには太陽を背に黒い物体が浮いているのが見える。


「くっ!」


 太陽のまぶしい光で目を細めた状態で見る。

 アリアを守るために霧をアリアを覆うように伸ばそうとする。

 だが相手は――アリア以外を狙ってきた。


「――っ!」


 上空から手裏剣のような形の大型の旋風をいくつも放つ。放たれた風は騎士達に高速で向かっていく。


「この程度の風でどうにか出来ると思うな!」


 避けるわけにいかない騎士達は手前にシールドのような半透明の障壁を作り出す。おそらく魔法の盾を作ったのだろう。


「くぅぅぅ!!」


 風が障壁に当たった瞬間、辺りに衝撃の余波が流れ、木々を台風のように激しく揺らす。地面からは砂埃が舞い上がるほどだ。

 そして障壁を砕くように、徐々に押している。


「何だこの風は……! 魔法の威力を軽く超えている!?」


 バキンと嫌な音を立て始める。障壁にはひび割れたガラスのように亀裂が入っている。

 セロースも額に汗を流しながら必死に耐えている。

 だが騎士達が破れられると思った時、突然風の勢いが消える。その結果に戸惑いながら周りを見る。障壁の周りには薄く白い霧が漂っている。


「ハァ……間に合ったか」


「……この霧、確かあなたの」


 騎士の一人が漂う霧を見てつぶやく。


「俺のスキルだ。あいつは神力を使う、生半可な防御じゃ突破されるぞ」


「神力を!?」


 驚きの声を上げながら上空に浮かんでいる黒いフードの少女を見る。

 少女は地面に華麗に着地すると、両腕からダガーを突き出し臨戦態勢をとる。

 一方セロースはチッと舌打ちしながら睨みつけている。大人げなくその光景に苛ついた俺は、セロースの横に行き一言告げる。


「俺が魔法攻撃を全て防ぐ、お前は捕縛担当だろ?」


 小馬鹿にしように言ってやると、ギリッと悔しそうに歯を食いしばる。


「フンッ! 貴様はそこで僕の活躍を見ていろ!」


 そう言い捨てると、剣を抜きその場を離れる。


「ハァ……こんなときまで喧嘩しないでよ……」


 ため息をつきながら俺の横を走っていくリン。

 悪いな、どうしてもあいつにだけは言っておきたかったんだ。


「敵の数は……1、3――5人。戦闘能力において、全て私以下……」


 敵を分析するように呟く。そしてバサッとフードを脱ぐ。

 あの美しい緑の髪が現れ、フードを脱ぐと同時に辺りの風が吹き荒れる。


「高速具二番――解放します」


 ガシャンと音を立てて黒い袖から落ちるのは太いプロテクターのような物。


「任務内容確認――」


 身体を前のめりにすると、地面を蹴り出す。たったそれだけの動作で少女の姿は視界から消えた。


「――――『神城零』の殺害」


 その声を聞いた瞬間。俺の真横に少女の持つ凶器が近づいていた。



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