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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
四章 聖都ウィンデル編 神の歌姫
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69話 自称、守護騎士の女神

 目が合った状態で硬直すること数秒。相手も同様、こちらをジーと見つめている。


「……にゃ?」


 とりあえず、コミュニケーションを取ろうと考えた俺はこの桃色髪の少女の語尾であるにゃという言葉を言ってみる。


「にゃ」


 普通に返ってきた。そしてまた沈黙が流れる。


「なんですにゃ」


「いや、あの……なんかすいません」


「わけがわからないにゃ」


 パサっと毛布を元に戻して顔を隠す。こっちがわけわからないよ。

 なんで芋虫みたいに床を這ってるんだよ……


「うん、俺は毛布芋虫なんて見てないぞ」


 目を閉じてクルッと180度回転すると、その場を去ろうとする。

 だが去ろうと、数歩歩いた瞬間。背後の橙色の塊が拘束で床を這いながら足下にまとわりつく。


「うおぉ!?」


 人とは思えないその気味の悪い動きに身を仰け反らせて怯える。動きが速すぎて気持ち悪い。

 なんだ? また毛布めくればいいのか?

 再び決意を改めてしゃがむと、恐る恐るその布をめくる。


「にゃぁぁぁ」


 これは威嚇のつもりだろうか。

 だが俺の瞳に映るのは、口を中途半端に開けた少女が猫の真似事をしているようにしか見えない。

 毛布の中から甘い少女の香りがほんのりと香る。


「……」


 また毛布を戻す。


「待つですにゃ、反応してほしいにゃ」


「なら問うが、俺はあれに一体どう対応したらいいんだ?」


「可愛い猫だと思って、撫でてくれればいいにゃ」


「見ず知らずの男に撫でられて嬉しいか?」


「そこは叫び声を上げるのでノープログレムにゃ」


「こっちは問題大ありだ」


 ジト目で答える、というかこの子何者だよ……まさか、女神じゃないだろうな? いやまさか、ありえない。こんな子が女神なわけないよな。


「全く女神の一人である私をここまで軽くあしらうとは、中々出来る奴にゃ」


 女神でした。


「お前女神なの?」


「まさか私を知らないのですにゃ?」


「こんなふざけた奴が女神とは思えなかったからな」


「人を見かけで判断するなと、マザーに言われませんでしたかにゃ? 全くこれだから愚民は」


「毛布芋虫のお前にだけには言われたくないな」


「最高にキュートな私を芋虫呼ばわりとは……。まあいいにゃ」


 すると目の前が急に橙色の物体で埋め尽くされる。落ちてきた毛布は俺の腕に干されるように乗っかる。

 視界に入ったのは。黄色の布地にオレンジの水玉模様が着いたパジャマを着た少女。髪は腰まであるピンクの長髪で寝癖でぼさぼさだ。あと猫耳みたいに頭部の左右が盛り上がってる……


「女神が一人、フィア・スクシェですにゃ! 通称、守護騎士!」


「自慢げに自分で通称って言わない方がいいぞ。小物臭がするから」


 二つ名とか自慢げに言う奴って、大したことない奴多いからさ。ガルム帝国でいた二人組とかを筆頭に。


「言ってくれますですにゃ……。しかし私が女神である事は真実ですにゃ」


 この子が未だに女神というのが信じられないなぁ。しかしあの右手の甲に見える痕を見る限り本当なんだろう。信じたくないけど。

 すると突然、フィアがブルブルっと震え始める。


「うー、冷えてきたにゃ。それを返すにゃ」


 もう身体冷えたのかよ、というかそこまで寒くないだろ。


「ほれ」


 本当に寒そうなので、とりあえず毛布を投げるように渡す。

 毛布に包まれると、顔だけ出すフィア。


「温もりが去ってしまったにゃ。全くこんな下郎に出会ったばかりに……」


 さっきから愚民だの下郎だの酷い言われようだな。初対面の相手にここまで言うか普通?


「貴様、名前はなんと言うにゃ?」


「神城零だけど」


「神城、今から私を部屋まで輸送するにゃ」


「はぁ? 断――」


 フィアはさっきのように芋虫形態にシフトすると、高速で床を這うと背後に回り背中を這うように上ってくる。本当に猫みたいだ……


「拒否は認めんにゃ。さあGO」


「GOじゃねえよ、1人で行け」


「凍え死にそうな少女を置いてきぼりにする気ですにゃ? 今ここで変質者に襲われたって叫んでもいいですにゃ?」


「この野郎……あーわかったよ、行くよ。行けばいいんだろう? 自称女神のフィアさん」


 馬鹿にしたように了承する。すると首筋に痛みが走る。


「痛っ!」


「ひひょうにゃにゃいにゃ! ふぇがみふぇすにゃ!」

訳(自称じゃないにゃ! 女神ですにゃ!)


「痛い痛い! わかったから首を噛むな!」


 そう叫ぶと歯を立てるのを止める。

 やべぇ、かなり痛かった。噛まれるのってここまで激痛走るんだな。

 フウと息を整えながら、噛まれた箇所を撫でる。……ちょっと湿ってるな、噛まれたから当然か。


「全く無礼者が、これがリュミエールだったら反逆罪で死刑物ですにゃ」


「あいつは、お前より物わかり良さそうだけどな」


「あれ? 知ってるんですにゃ?」


「ついさっき知り合った。ついでに言うとアリアも知ってる」


「お姉さまを呼び捨て……! 一体何者ですにゃ」


 顔を乗り出して右肩から顔をのぞき込むように見る。近いから引っ込んでくれ。


「あー、それよりお前の部屋ってどこだ?」


「お、やっと行く気になったですにゃ? では案内するにゃ、光栄に思うにゃ」


「お前が強制的に連行してるんだろうが……」


 はぁっとため息をついて、誘導されるように広い通路を進んでいった。

 なんで散歩に出ただけでこんな目に遭うんだよ。

 案内されながら歩くこと数分経過。似たような景色で飽き始めていると、背後から声が聞こえる。


「神城……ふむ、どこかで聞いたと思ったら。お姉さま宛に来た書類にそんな下劣そうな名前があったですにゃ」


「下劣にはあえてツッコミは入れないぞ。そうだよ、子供達をクレイス院に送り届けるために来たんだよ」


「なるほど、子供好きそうな犯罪者の顔をしてますにゃ」


「どこがだ。俺はお前みたいなお子さまは対象外だ」


 お子さまと言われてムッとした顔をするフィア。一瞬だけ首にまたズキッと痛みが走る。


「痛っ! お前また噛んだだろ!」


「天罰ですにゃ」


「全く、本当に猫みたいだな……未だに女神だと思えん」


「何か言いましたにゃ?」


「いえ別に、何も言ってませんよ? 女神様」


「なんかムカつくにゃ」


 よかった呟きは聞こえていなかったみたいだった。聞かれていたら噛まれていたに違いない。


「しかし、貴様のような小物が大聖堂に来るとは一体何用ですにゃ」


「必ず一言馬鹿にした単語混ぜるよなお前、まあいいけど。俺達はアリアに護衛を頼まれたんだよ」


「お姉さまに? お姉さま……次は何を企んで……」


 後ろでブツブツと呟く、その内容は聞き取りにくくわからなかった。


「あ、そこですにゃ」


 その言葉に反応して足を止める。アリアの部屋と変わらない木製の扉。どうやらここがこいつの部屋らしい、扉にもプレートにフィアと書かれているから間違いない。


「ご苦労ですにゃ、小僧」


「口の聞き方に気をつけろよ? お前は女神だろうけど、一応客人扱いだからな?」


「そんなの知ったことではないですにゃ」


 あーやっと解放される。そう思った。だがいつまで経っても背中から降りようとしない。


「降りないのか。部屋だぞ」


「愚妹は布団まで輸送するという発想が出来ないんですにゃ?」


「いつからお前の妹になった、それに俺は男だ」


 しょうがないと思いつつも、取っ手に握ると扉を

開ける。

 中は薄暗くて、視界が悪い。カーテンぐらい開けろよ……

 そして部屋の中へと入って行く、やはり室内はアリア同様、独特な良い香りがする。


「女の子の部屋に入るなんて、とんだ変態野郎ですにゃ」


「このまま壁に向かって投げてやってもいいんだぞ」


「冗談ですにゃ。冗談だからマジでやめるにゃ」


 こいつ、さっきから俺の神経逆撫でしすぎだろ。マジで腕を掴んで投げそうになったぞ。

 それにしても……ベットが一つ。後は本棚が沢山あるな……床に散乱してるのはマンガか?


「だらしない生活してるなぁ……」


「ふん、この聖地をわからないとは、やはり貴様は低脳ですにゃ」


「まるで女神ニートだな」


「……ニート? それはなんですにゃ?」


「そうだな、俺の国で。――働かない奴を指す通称だ」


「うにゃ!? 失礼な、私は24時間この聖都を守護している騎士ですにゃ!」


「その割には侵入されてるぞ」


「う……! 人一人までは正確に弾けないんですにゃ!」


「それ意味ないんじゃ……」


「うー! 私は他国からの守護が役目ですにゃ! 内部は聖騎士の担当ですにゃぁぁ!」


 徐々に声がなみだぐんできてる。やばい、虐めすぎた。

 少し焦るように謝罪をする。


「悪かったよ、お前の担当じゃないんだろ? ちょっとからかっただけだ」


「グスッ……」


「あー泣くなよ。なんかもう一つお願い聞くからさ」


 やけくそになりながら、慰めるように喋る。だがこれが罠だとは気づかない。


「しっかりこの耳で聞きましたにゃ」


「は?」


「お願いを聞くと聞きましたにゃ。いやぁこうもあっさり騙されるとは」


「おい……ちょっと待て。泣いてたんじゃ……」


 首を限界まで回して、そのピンクの髪を揺らすフィアを見る。

 その顔は笑顔で、俺を見下した顔をしている。ニヤニヤ顔がすごくムカつく。


「嘘泣きに決まってるにゃ。こいつ馬鹿にゃ、アホにゃ」


「てめえぇぇぇ……」


 怒りが一瞬にして沸点まで沸き上がった。俺が少女に対して怒ることは珍しい。リリナ達がどんな悪ふざけをしても大抵は耐えていた。

 だが――もう限界だ。


「にゃ?」


 両肩を掴んでいる手をガシッと掴む。そしてそのまま背負い投げのように、ベットにめがけて投げ込む。


「みにゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫び声を上げながら布団めがけて飛んでいく。腕輪の効果で筋力上げてるから相当な速度なはずだ。

 弾丸の如く飛んでいったフィアは「ふにゃ!」と言いながら布団にめり込む。

 怪我とかしても、仮にも自称女神だし大丈夫だろ。人をからかい過ぎたし罰だ。


「何するにゃぁ……」


「人をからかった罰だ!」


「酷いにゃ……私はただ、遊びたかっただけなのに……」


 急にしおらしくなったぞこいつ……


「女神って外に出れないから、こうやって対等に見てくれる人と遊びたかっただけにゃ……。なのに酷いにゃぁ」


「う……。どうせ嘘泣きだろ……」


「嘘じゃないにゃ」


「はぁ……なら最初っからちゃんと言えよな」


 やれやれと言った感じで、投げ飛ばしたベットに向かうとその頭に手を乗せる。


「投げ飛ばして悪かったな」


「嘘にゃ」


「……」


 頭の中でブチッと何かが切れた。そしてそのピンクの頭部へ思いっきり拳を振り下ろす。


「みぎゃ!」


 その声と同時に、室内に鳴り響いたゴンという低音。

 フィアは涙目で頭部を押さえている。渾身の力を込めた拳骨だ、痛いに決まってる。


「乙女の頭を殴るなんてー鬼畜にゃ!」


「人の神経逆撫でしすぎだバカ野郎」


「だって、神城の反応面白いにゃ」


 頭を押さえた状態でニカッと笑う。どうやらこれは本心らしいな。


「悪かったにゃ。これはお詫びにゃぁぁ」


 近寄ってきて、顔を近くまで持ってくると。首筋に舌を這わせ、ペロッと舐める。ちょうど二回ほど噛まれた患部だ。

 その行動に顔を真っ赤にして飛び退く。


「お、お前! 何してんだよ!?」


「お詫びにゃ。なんですにゃー? 対象外とか言っときながら意識してますにゃー?」


 ニヤニヤ顔で見てくる、やべえムカつくな。


「もー可愛いとこあるですにゃ。もっとして欲しいなら好きなだけ舐めてあげますにゃー?」


「お断りだ。全く、人をからかいやがって」


 ため息をつくと、部屋を出るため扉へと向かう。

 俺の後ろ姿を見て、少し名残惜しそうな顔をするフィア。


「もう行くですにゃ? もっといればいいですにゃ」


「あいにく、今はそんな余裕が無いんだよ。また暇ができたら来てやるよ」


「えー今がいいですにゃ」


「むちゃ言うな……アリアとか待たせてるんだから」


「うーんそれならしょうがないですにゃ」


 アリア絡みだと納得するのか。それだけアリアの存在が大きいのだとわかる。

 そして取っ手に手をかけ扉を開けたときだ、フィアに呼び止められる。


「神城。私と対等に接してくれて嬉しかったにゃ。これは本心ですにゃ」


 後ろを見るとフィアがベットの上で満面の笑顔をしていた。その笑顔を見たら、さっきまで怒っていたことなど、綺麗さっぱりに忘れてしまうほどだ。


「絶対にまた来いですにゃ」


「わかったよ」


 背を向けて、手を軽く振りながら部屋の扉を閉めた。

 ……なんでこんなに疲れたんだろうか。なんか一日分の体力を使い切った気がする。

 そろそろ一時間ぐらい経ったな。そろそろ戻るか……


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