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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
一章 ガルム帝国編 一部 神と呼ばれる少女
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6話 武器が必要、そして異世界なのに刀?

 生まれて間もないときに両親を殺された。

 今まで出来た友達には裏切られた。学校では虐められていた。

 親戚の家に引き取られても、邪魔としか思われなかった。

 一人で生きようと家を出て一人で暮らした、でも何も変わらなかった。

 必死に生きた。でも……世界は俺を嫌っていた。全てこの世界に――奪われた。









「零、朝だよ起きて」


 誰かに揺さぶられて、俺は夢から覚める。

 視界には青い髪。リリナが俺の布団の横に座っていた。窓を見れば朝日が差し込んでいる。

 俺は無言でゆっくりと起き上がる。そうか……夢か……


「涙……泣いてたの?」


 リリナに言われ俺は手で目元を拭う。指には生暖かい感触がした、リリナの言うとおり涙だ。


「あくびしただけだよ。気にするな」


「そう?」


 そうやってごまかしておく。昔の夢を見て泣いたなんて言えない。

 そうだあれは夢だ。俺は今あの世界にはいない。もうあの時の何の力も無い俺とは違う……はずなんだ。


「そうだ、リンが呼んでるよ?」


「すぐに行くって伝えておいてくれ」


 リリナは「わかった」と言うと立ち上がり部屋から出て行く。

 ここはあのビジネスホテルの宿屋じゃない。リンのアパートだ。というのも、リン曰く「仕事仲間は一緒にいた方が何かと便利だし」だそうだ。

 正直、女の子の家に泊まるのって初めてで緊張していたが……リリナもいたしそこまでじゃなかった。


「異世界に来て……一週間は過ぎたのか」


 この世界、レイスブルーに来てから早一週間の月日が経過した。短いようで長い一週間だったな。

 俺は立ち上がると部屋を見渡す。ハンガーに掛けてあるコートと俺の私物が少し床に置いてあるぐらいで、なんにもないフローリングの部屋。広さは四畳くらいかな?

 窓から見える町の景色をボーと眺めていると、声が聞こえてくる。


「ちょっと、早く起きなさいよー」


「すまん、すまん。すぐに行くって」


 俺を催促する声が扉越しに聞こえてくる。やれやれ、お前は母親か? まあ……俺には親なんていなかったからわからないけど。

 ささっと着替えるとハンガーに掛けてあるコートを掴むと部屋を出た。扉の先には白いテーブルが置いてありその上にクロワッサンのようなパンがいくつか用意されている。


「やっと来たわね……寝坊男」


 ため息をつきながら横から現れたのは、ポニーテールがトレードマークのリン。

 なんというかエプロン姿が、朝起こしに来た幼馴染みたいな雰囲気だな。


「リリナちゃんは自分で起きたのに、なんであなたが起きれないのよ……」


「俺は低血圧なんだ、だから朝は弱い」


「はいはい」


 呆れたようすで答えられた。酷いな、本当に朝は弱いんだぜ?


「それじゃ、バカは無視して食べましょうか」


 リンは座ると、テーブルにあるパンを取り食べ始める。リリナもリンの隣に座るとパンを食べる。

 俺もバカと言われたことに少しだけ凹みながらテーブルに向かう。


「今日は何の依頼なんだ?」


「今日は依頼は受けないわよ。ちょっと用事があるし」


「何かあるのか?」


「まあ色々、この子についてね」


 自分の横に座っているリリナの頭をポンポンと優しく叩くように手を置くリン。

 リリナについて? 一体なんの用事だろうと内容が気になる。


「この子が安心して暮らせる場所を調べようと思ってるのよ」


 こいつがまさかリリナのことを考えてそんなことをしようとしているとは思っていなかった。


「……神の子だからって国にいい様に使われるのは私も納得出来ないし……だから、それぐらい……ね」


 こいつなりにリリナのために色々やってくれているのだとわかった。それだけでも俺は嬉しかった。

 嬉しくて、少しだけ口元が緩んで微笑んでしまう。


「ありがとう……リンさん」


 微笑んだ顔でお礼を言うリリナ。俺以外にも自分を助けてくれる人がいてやっぱり嬉しいんだろうな。


「そうだ、あなたにも用があるのよ」


「俺に? 特にこれと言ったことが思いつかないんだけど」


「あなたねぇ……武器無しでいつまで戦うつもりよ」


 やれやれと言ったように俺を細めで見るリン。

 そういえばまだ武器とか持ってなかったな俺……だって基本的にあの霧でどうにか出来るしなぁ。


「あの霧、狭い場所とかだと私達にも被害が出るかもしれないでしょ? だからスキル無しでも戦えるように、武器を買うのよ」


 確かにリンの言うとおりだった。あの霧は俺個人だけなら気にすることなく使える。だが仲間が近くにいるとなるとそうはいかない。

 しかし武器か……なんだかカッコいいな。日本じゃ武器なんて持ったら捕まるからなぁ。


「そういことだから、食べたらさっそくギルドへ行くわよ」


「なんでギルド? 武器屋とかじゃないのか?」


「それもあるけど……ギルドの方が品揃えがいいのよ。私達みたいな奴等が多いしね」


 まああれだけ武器を持ってる集団がいれば儲かりそうだもんな。

 俺はこの前ギルドにいた武装した人達を思い出す。


「何を使うかは決めておいてね」


「了解ー」


 そして俺はパンを再び食べる。

 武器かー一体何を使おうか。やっぱり主人公らしく剣? いやここは銃とかか?

 少し気分を高揚させながら、武器を使っている姿を想像してパンを食べていた。




「おおお……」


 この世界に来てから一体何回、このように感嘆の声を出したことだろうか?

 俺はギルドが運営している武器屋へと足を運んだのだが。入り口を開けて見えたのは壁や棚にびっしりと並んだ武器の山だ。剣、槍、斧、銃……男心を掻き立てる物が沢山あった。


「この中から選んでね。値段はよく見なさいよ?」


 そう言うとリンは店内の奥へと歩いていった。何か用事があるのかな?

 さて……じゃあ俺も選びますか! ワクワクした気持ちで武器に囲まれた空間へと進む。


「いっぱいあるんだね」


 リリナも興味深そうに棚に置いてある武器を眺めている。そして引っ掛けてある槍を重そうに持ってみたりしている。


「お前も何か欲しいのか?」


 一応訊いてみる。この先戦いがあるのは間違いない。リリナも自衛出来たほうがいいのではないかと思ったからだ。


「私じゃ使えそうにないかな。どれも重いし」


 両手で持っていた槍をゆっくりと元の場所に戻しながらそう答える。

 まあそれで動けなかったら本末転倒だしな。それぐらいなら魔法使っていたほうがよっぽどいい。


「それもそうか……」


 俺も棚から短剣や弓など取ったりしてみてみる。

 うーんどれもいまひとつって感じだ。これだ! ってやつが見つからないな。


「ん? これは……」


 なんか見たことのあるような武器を発見して取り出す。剣や槍の間から出てきたのは白い鞘に収められた刀。


「日本刀かこれ?」


 鞘から刀身を少し出してみるとその刀身に俺の顔が映るほど綺麗に刃だった。

 異世界なのに日本刀って……どういうことだ? いや、ただ作りが似てるだけか……?


「綺麗な剣だね。零、知ってるの?」


「いや、ちょっと俺の世界の剣に似てるなと思って」


 まじまじとその白い刀を見ていると、用事が済んだのかリンが俺の元へやってきた。


「決まった?」


「え? いやまだだけど……」


「それにするんじゃないの?」


 手元に握られている白い刀を指す。

 まあ確かにこれが今のところしっくりきたような気がするが……


「また珍しい形の剣を選んだわね……それに白って。能力も白い、剣も白いって……なんかのこだわり?」


「偶然だ。それに俺はまだ決めてないし」


「でもこれあんたに似合ってるわよ? なんか……雰囲気が?」


 日本人だから日本刀が似合うのか? それとも本当にそんな雰囲気なのか?

 まあこれでいいか……異世界に来て日本刀もどきに出会ったんだ、これも何かの縁だろ。


「じゃあ……これでいいか」


「決まりね。で値段は?」


 俺は値札らしきものを探すが見当たらない。

 まさかこれ売り物じゃないのか?


「無いな……非売品?」


「そんなわけないはずだけど……一応カウンターに持っていきましょ」


 とりあえずレジらしきカウンターへ持っていく。

 カウンターには頑固親父らしき白髪の親父が椅子に座っていた。


「なんだ? お前他に武器いるのか?」


「私じゃないわよ。それに私はこれで十分だし」


 リンは左側の腰についてる黒いホルダーを軽く叩く。

 あれがリンの武器か。形状からすると黒い銃みたいだな……俺の世界のハンドガンみたいな感じ。


「今日はこいつの武器を探しに来たの」


 リンは俺から刀を取ると、カウンターに置く。


「これがいいらしいけど、値札ないのよこれ。いくらなの?」


「ほぉーまた面倒な物を持ってきたな……」


 顎を触りながら刀を見る親父。

 俺を見ると興味深そうに見ている。


「お前さん。この剣抜けたのか?」


「普通に抜けたけど?」


 俺は刀を持つとその場で鞘から抜いてみせる。別に特に何かしたわけではない。

 不思議そうな顔をしながら俺は鞘に納めてカウンターに戻す。


「そうか……抜けたか」


 ウンウンとうなずくように一人で納得する親父。

 こっちは何もわからないので勝手に納得しないでもらえますか?


「抜けたか……じゃなくて、抜けると何かいいことあるのか?」


 俺はそこが知りたい。この親父の口ぶりからおそらくだが抜けないのだろう。


「この剣は魔力を吸い尽くす魔剣と言われていてな、剣を抜くに際に膨大な魔力を吸収されるらしい」


 なにその危険な剣。そんなのがなんで店の中に転がってるんだよ、危ないだろ。

 しかしなんで俺が抜けたのか理由も分かった。俺、魔力無いからだ。


「零は魔力が無いから抜けたの?」


「多分な……」


 俺はこの世界の人間じゃないから、魔力なんてもの一ミリも持ってない。名前と同じで〇だ。


「魔力がない? 冗談を言うな、赤子でも少しはあるぞ」


「それが無いんだよな……俺には魔力が」


 流石に異世界から来ましたとは言えないから詳しいことは言わない。

 しかしこの世界では魔力を持っているのが普通らしいな。生命力みたいなものかな?


「まあ事情があるのだろうな……よし、この剣はサービス価格でやろう」


 サービス価格か、漫画とかだと「この剣はお前にやろう!」みたいな流れだと思ったけどそうはいかないのね。

 親父は紙に値段を書き始めるとそれを俺達に見せる。俺には単位がわからないからリンに任せる。


「これでいいの? 短剣ぐらいの値段じゃない」


「構わん。厄介払いみたいなもんだしな」


「そう? じゃあそれで買うわ」


 財布からその提示された額を払うと、リンは刀を受け取って俺に渡す。

 魔剣ねぇ……どっちかというと妖刀と言ったほうが正解かな? 俺に魔力はないし関係ないけどな。

 侍のように腰に挿す。なんだかカッコいいな俺。

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