66話 彼女の過去、瓜二つの顔
襲撃後は特に何事もなく宿に戻ることが出来た。宿に戻ったらリリナやシェリア達に質問責めにあったが、リンのフォローもあって事なきをえた。
そして時間帯は夜、窓から見える真夜中の聖都の風景は家々の灯りがぽつぽつと星のように光っている。
俺はというとある場所に向けて歩みを進めていた。
「あいつ……なにを見たんだ」
ぶつぶつと呟きながら、宿の通路を歩く。
頭に浮かんでいるのは、今日の戦闘での出来事。あの襲撃者のフードが脱げた瞬間、リンが尋常じゃないほど驚いていたからだ。
あの一件後、リンは平静を保ってはいるがずっと上の空で、何かを考えている。
「……」
ある扉の前に立ち止まる、目的の場所、リンの部屋に着いたからだ。
そしてゆっくりと腕を上げて、二回ノックする。
コンコンという木の板を叩く音が、通路に静かに鳴り響く。待つこと数秒、扉越しに「いいわよ」という了承の声が聞こえる。
「失礼するぞ」
一言いいながら部屋に入る。内装は俺の部屋と大差ない、少しベットの配置が違うくらいで特に変化がない。
「なんだ、あなただったのね」
「俺じゃ悪いか?」
「ううん、あなたが訪ねてくるのは珍しいと思って」
ふむ、確かにリンの言うように他人の部屋を訪ねるのって珍しいよな。基本的に俺は自分の部屋に籠もってるからな。
「で? 何か用?」
「まあちょっとな」
「歌姫の子とデートしてたことは黙っとくから安心しなさいー」
「デートじゃねえよ、あれは強制連行だ。それに俺だってアリアに用事があったしな」
「もう名前呼びまでしてる仲なの?」
「あいつが呼べって言ったんだ。歌姫とか女神とか通称で呼ばれるのは嫌なんだってさ」
「ふーん。でも何だかんだ仲良くはなったみたいね」
「もう、お前の想像に任せるよ……」
もう返すのが面倒になり、諦めたように頭を振るう。
おっとここに来たのはこんな話をするためじゃないな。
「それよりも、お前に聞きたいことがあってな」
「……なに?」
「あの襲撃者の女の子と……知り合いなのか?」
「――!」
リンの表情が一瞬で変わるのがわかった。やっぱり知り合いなのか……
どうやらリンもこの話題が来ることを想定していたようで、それ以上驚く素振りは見せなかった。
「知り合いよ。……他人の空似だと思いたいけどね……」
「……お前があの時、あの子の顔を見た瞬間に今まで見せたことのない顔をしてたからな、まさかとは思ったんだ」
「鋭いわね。もっとその鋭さをリリナちゃん達に向けてあげたらいいんだけど」
そしてリンは自身が座るベットの横を叩く。
「横に来て、あなたに話すわ。私の事」
リンの横に座る、座ったのを確認すると一呼吸入れてしゃべり出す。
「私が昔、神の器としてガルム帝国にいたのは知ってるわね?」
「帝国から出るときに聞いたよ、それであの禿の親父さんに保護されたんだろ」
「そうよ。あの時は詳しく話さなかったけどね。私は神の子を助ける理由があるの」
リンは扉を見つめたまま、続きを話す。
「私にはシャルルっていう親友がいたの。その子は私と同じで施設の子で同い年そして――神の子だった」
当時の事を思い出したのか悲しそうな顔をする。だがすぐに元の表情に戻すと続ける。
「彼女は当然、ガルム帝国に利用されたわ。まだ幼かった私には何をされているかなんてわからなかった……唯一の連絡手段はシャルルとの手紙だけ。帝国もよく手紙なんて許したわね……きっとあの子が頼み込んだんだろうけど」
「……」
「手紙は一年ほど続いたわ、私も彼女から送られてくる手紙が楽しみだった。でもある日突然、送られてこなくなった」
そのときの出来事がリンの脳内で再生されているように喋る。突然来なくなる手紙、それが意味しているのは……おそらく。
予想が出来てしまうその答えを口には出さず、話を聞く。
「帝国の奴に何度も聞いたわ、でも子供である私の相手なんてしてもらえない。門前払いだったわね」
「……その子はやっぱり」
「ええ、もうこの世にはいない。私がこの真実に気づいたのは二年前だったわ」
「ギルドに入って活動してたのも、その子について知るために?」
「知りたかったのよ。どうして突然手紙が途切れたのかが……」
するとリンはベットから降りて鞄を漁る。そして一つのケースを取り出す。
中を開けて、紙が擦れるような音を出しながら一枚の封筒を差し出す。封筒の書かれているのはシャルルという名前。
「彼女が最後に送った手紙よ」
「……読んでもいいのか?」
無言でうなずくリン。
封筒を開いて中から便せんを取り出す。内容は子供がやりとりをするような至って普通の内容。だが最後に書かれている内容は少し違う。
『私の親友でいてくれてありがとう。私もこれからずーと、リンの親友だよ! リンがいたから頑張れた、リンの手紙があったか生きてこられた。本当にありがとう、さようなら あなたの親友 シャルルより』
そのさようならという文字のところ。その部分だけ水滴が落ちたようにボヤケている。これはこの子の涙なんだろう。他の部分も小刻みに震えたように文字が歪んでいたりしていた。
自分の死期を悟り、泣くのを堪えて書いていたことが文字から伝わってくる。
「私は彼女がもういない事を知って、すごく泣いたわ。もの凄く辛かったし、何より帝国を憎んだ。だから、世界に逆らうって決めた、シャルルのような子を助け出そうって決めたの」
「だから俺と一緒に来てくれたわけか」
「もうあんな思いをするのは嫌なの。悲しい思いをするのは私一人で十分よ……」
リンの過去にそんな出来事があったのか、こいつ自身が神の子と繋がっていたとはな……
親友を助けられなかった。だから自分のように親友を失った悲しみに浸ってほしくない一心で、世界に反抗をしていた。
「……それで、今日出会った子の話に戻すわよ」
今の話と、今日の出来事に繋がりがあるのか。
「あの女の子の顔見たときにね、そっくりだったのよ……」
「……そっくりって、まさか」
その言葉に思わず息を呑む、そして次に発せられた言葉が衝撃の内容だった。
「そっくりなんてもんじゃなかった、生き写しよ。あの子はどう見ても――――シャルルだった」
するとリンは俺から手紙を回収すると、持っているケースから再び違う何かを取り出す。
見せられたのは幼いころのリンと映るもう一人の少女。その子の顔は紛れもなく今日襲撃した女の子だ。どこをどう見てもそっくり、本人としか思えない程だ。
「待てよ、仮に生きていたとしてシャルルって子はリンと同じ18だろ? それであの体型は……」
生きていたとしても流石に無理がある、そして神の子で18歳となるとアリア以上の長寿となる。
双子がいたのか? それとも妹? 明確な答えは導き出されない。
「私も一日中それで悩んでたの、あの子はもういないはずなのに……」
「確かにこれは不思議だな、いくらなんでも似すぎてる」
どうやら相当厄介そうな感じだ。何か裏で行われている証だな……
手っ取り早く調べるには、その子を捕まえて直接話を聞くか。あの子が言っていた主とかいう奴に聞き出すか。
「調べる必要性あるな……」
それにそのためだけではない、あの子は何しかしらの理由でアリアを狙っている。アリアの命を狙われるは俺にとっては不都合だ、まだ神の子について聞き出せていないんだから。
「ねえ、今回は私もついてくわよ」
「やっぱ、気になるよな」
「当然よ。こんな偶然ありえない、絶対なにかあるわ。それに、親友である私が知らなきゃいけない、終わらせなきゃいけない。そんな気がするの」
彼女の親友だったからこそ、放置しておけない問題。リンの瞳から炎のような強い意思を感じ取れた。
襲撃者の少女が何者なのか、一体なぜシャルルと同じ顔をしているのか。謎は尽きることなく夜が更けていった。
昨晩リンの部屋で話をした後、自室に戻り特に何かすることもなく眠りに落ちた。
幸い睡眠中に乱入されることはなく、熟睡することが出来た。そして現在進行形で俺は眠りについている最中だ。
「……起き……さい」
薄れる意識の中で声が聞こえる。途切れ途切れで何を言っているのか頭に入ってこない。
「起きてくださいー」
今度ははっきりと聞こえた。声が高く女性の声、そしてのんびりとした口調。
瞼を開け光を視界に入れる、朝の光で眩しく一瞬目を細める。そしてベットの横にいる誰かに視線を移す。
「おはようございますー。よく寝れましたかー?」
「なんだアリアか……おはよう」
欠伸をしながら起きあがる。自分で起きる前に誰かに起こされるとは、よっぽど熟睡してたのか。
「あらあらー。大きな欠伸ねー、ほらー涎の後ついてますよー?」
クスクスと笑いながら、湿ったタオルを手渡してくれる。
ありがたいと思いながら受け取ったタオルで寝起きで、不抜けた顔を拭く。
「……って、アリアぁ!?」
朝っぱらから大声を出してしまう。眠気でボケッとしてて今まで気づかなかった。
「そんなに驚かなくてもー」
「いや驚くわ、普通ここにいたらおかしいからな?」
何でここに女神であるアリアがいるんだ。それも早朝、しかも俺のベットの横に。
「ほら、寝起きなんだから着替えなさいー?」
俺の疑問などお構いなしにマイペースに自分の波に乗せていく。腕に持たれているのは俺の服。
というかお前は俺の母親か。
「ほらー早く脱いでー」
ニコニコした状態で、着替えさせようと服を掴む。
「ちょっと待て! それぐらい自分で出来るわ!」
持ち上げられる服を戻すように掴む。こいつ女の子なのになんつう力だ……!
服が千切れるのではないかと思うぐらいの怪力だ。
「あらー頼ってくれないの? お母さん悲しいわねぇ……」
「誰がお母さんだよ!? お前俺より年下だからな!?」
「冗談ですよー」
クスクスと笑いながら手をパッと離す。
しかしこの母性溢れる雰囲気というか、優しさに溢れた感じは母親って感じでもある。
「……で? 何しに来たんだよ」
「そうですねー。零さんにお願いがあって来たんです」
「俺に?」
「はい。きっとあなた方にとって悪いお願いではないと思いますよー?」
アリアは笑顔のまま、そう答えた。
常に笑顔なだけに何を考えてるのかわからない。思考が読めない子だと感じる。
アリアは依然としてニコニコと、笑みを崩さない。




