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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
四章 聖都ウィンデル編 神の歌姫
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64話 襲撃者再び


「え……?」


 ポカーンとしていると、ニット帽の少女が歩み寄ってくる。その手にはなにやら包みがある。


「これみんなで書いたの」


 そう言って手渡されたのは手紙の束。可愛らしい封筒に入れられており、右下に名前も書かれている。


「なんで……なんで俺にこれを?」


 手紙を受け取りながら、呟いてしまう。

 俺はこの子達を完璧に救えていない。感謝されるような立場じゃないのに。


「だってお兄さんは私達を助けてくれたから!」


 ニコッと笑顔を作って、その呟きに答える少女。

 そして後ろにいた他の子達も、俺の周りに集まってくる。


「お兄ちゃん、ずっと暗い顔してたの。出会ってからずーと、辛そうな顔してた」


「それでね、お兄さんに元気になってもらおうって、みんなで決めたの!」


 笑顔の子供達、その眩しい曇りのない笑顔には、あの絶望を思わせるような闇はない。


「どうしてだ? どうしてお前達は笑顔なんだ?」


 言葉にしてはいけないと思っても口からその思いが出てくる。


「お前達はもう……! 普通の暮らしは出来ないってわかってるんだろ? なのにどうして笑顔なんだ!? 俺を憎まないのかよ!?」


 もう普通の暮らしが出来ない子がいる。もっと早く助けにくれば被害に遭うことも無かった子もいる。辛い思いをしてきたのにどうして笑顔なんだよ? その曇りのない顔を俺に向けられる?


「どうして……お兄さんを憎むの?」


「だって、もっと早く助ければ……そんな耳が生えることもなかったんだぞ? お前の友達も死なずに済んだんだぞ? 俺は見殺しにしたようなもんだろ!?」


「それでも……お兄さんを憎む必要なんてないよ?」


 握っていた拳に少女の小さな手が添えられる。


「お兄さんは絶望の淵にいた私達に光を与えてくれた、人とは違う私達を認めてくれた」


「お兄ちゃんは私達に本当に生きる意味を教えてくれたよ。絶望に捕らわれていた心を救ってくれた!」


 この子達が放つ言葉が一つ一つ身体に浸透するように吸収された。嘘ではない、心の言葉だとわかる。

 すると横から別の声が聞こえる。


「それが私達の本音ですよ零さん」


 視界に映る茜色の髪、アルマだ。横には妹のテラもいる。


「ここにいるみんな、零さんに感謝してます。助けただけじゃない、私達を認めてくれて、心も救ってくれた」


「まああんたはけだものだけど、私達を助けたの事実だし。あんたが周りの奴等とは違うってわかったわ」


 少し目をそらし照れ隠しをしながら喋るテラ。

 そしてテラは一歩前に出ると、威勢のある声で言い放つ。


「それと、いい加減に辛気くさい暗ーい顔するの止めなさいよね! 見てるこっちが不安になるわ!」


 身を反らし図星だといわんばかりの反応をとる。事実なだけにぐぅの音も出ない。


「あなたが思ってる程私達は弱くないわよ! 全部あんたが抱え込む必要なんてない。あんたは救ってくれた、希望を与えてくれた。あんたは十分過ぎるぐらい助けてくれたのよ」


 両手を腰に当てて言う。その11歳とは思えない気迫に押されそうになる。


「なのにあんたは、まだ助けようとするし。あんたは私達の親? 過保護なの? 親ばかなの?」


「テラ、もういいわよ。零さんもわかってるから」


 アルマに制止されてテラは喋るのを止める。


「零さん、これからの事は私達でなんとかしていきます。だからもう大丈夫ですよ」


 俺は周りの子の顔を見る。みんな笑顔で、目が合うと大丈夫だと言うようにうなずいた。


「それに、私達の事で暗い顔をしているあなたを見るのはもう辛いんです。ファルガさんが言ってました、零さんは一人で解決しようとする癖があるって」


 しつこいほどにファルガに言われてきた言葉。一人で解決する癖、思えば今までの出来事の大半は一人だった。


「零さん、心配しないでください。私達は強いですから!」


「そうだよ! 私達強いから!」


「そこら辺の奴なら一捻りだよ!」


 みんなの目は強く、光に満ちあふれていた。

 すると腹の辺りにポフッと音を立てるように、獣耳の少女が抱きつく。


「だから今度はお兄さんを助ける番だよ! 泣きそうになったら私達が慰めるからね!」


 その少女の行動に便乗するように他の子もわらわらと集まってくる。

 暖かい気持ちに、目頭が熱くなる。そして自然と頬を伝り涙が流れる。


「……ありがとう。俺なんかを支えてくれて……ありがとう!」


「お兄さん泣いてる? 結構泣き虫?」


「違うぞ、これは汗だよ。男は簡単には泣かねえよ」


 目に溜まる涙をふき取りながら答える。周りからは「嘘だー」「泣いてたよ」などの言葉が飛び交う。

 まさか子供に泣かされるとはな。言葉ってのは不思議な力を持ってるな。

 そしてそんな様子を眺める少女と女性。


「不思議な方ですねー」


「アリア様も思われます?」


「はいー。彼が『鍵』となるのも納得ですねー」


「鍵? どういう意味ですか?」


「いえいえー。ほんの独り言ですよ、気にしないで下さい」


「はぁ……」


 優しく微笑むアリア。その笑顔に隠された思いはまだわからない。



 夕暮れに染まる空。空のオレンジ色を映すように建物の白い壁もオレンジ色に染まっている。歩みを進める舗装された通路も同様に染まっている。


「零さんは子供さんが好きなんですねー」


「子供の笑顔って見てると幸せに感じるからな、確かに好きだな」


「あらあらー。零さんって不名誉なあだ名で呼ばれませんか?」


「……まあよく言われるな。でも勘違いするなよ、そんな気持ちはないからな、純粋に癒されるだけだ」


「わかってますよー。あなたがそんな目で見ていないことは」


 アリアはニコニコとしたまま答える。本当にわかっているのか不安だ。

 でもロリコン呼ばわりしないのは、嬉しいな。


「それで、どこまで送ればいいんだ?」


 夕焼けで茜色に染まる髪をしたアリアを見ながら訊く。

 流石にこれ以上一緒にいるわけにはいかない。夜になればさらに危険度が増すだろう。


「そうですねー……。今朝会った場所でお願いします」


 そんな曖昧な場所でいいのか? まあ本人がいいと言ってるんだからいいんだろうけど。

 特に詮索することなく、その場所へ向かう。

 歩き出して数分後、両端が建物で挟まれた人通りの少ない道に差し掛かった時だ。


「……なあアリア。あんたに訊きたいことがある」


「私が知ってることでしたらどうぞー」


「……何でもいいのか?」


「はいー。私のスリーサイズでもいいですよー」


「いやそれは遠慮しとく」


「あらぁ……傷つくわー」


 気になるっちゃ気になるけど、今はそんなふざけた事を訊く気はない。それよりも遙かに重要。俺がこの国に訪れた真の目的。


「教えてくれ。神の子って――――何なんだ?」


 その言葉を言った瞬間。アリアの顔が曇る。笑顔が崩れたわけじゃない、ただその笑顔が笑っていない。

 答えを返そうとアリアが口を開けようとした時だ、風を感じる。不自然な風を、あの時アリアが襲撃された時と全くの同質の。


「――!!」


 その風を感じて何かに気づいたように上空を見上げる。瞳に映るのは黒い塊。

 とっさに霧を出して頭上を覆い白い天井を形成する。降ってきたのは大量のナイフ。そのナイフは地面に当たる事無く、霧に当たると全て綺麗さっぱりに塵に変わる。


「すごいですねー。零さんー」


 攻撃を防いだその霧を見てゆっくりと驚きの声をあげる。相変わらず緊張感の欠片もない。

 その雰囲気を破るように風が流れる。その風は足下を撫でるような不気味な風。


「っ!」


 鎌鼬のように足に切り傷が入る。一体どこから攻撃をした?

 こんな時にシュエがいてくれたらと思うが、いないのが現実。自身の力のみで対処する他無い。現状姿がわからないため、アリアと自身を覆うように霧を纏う。

 これで鎌鼬のような攻撃は通らないはずだが。だがこのままでは身動きがとれない……


「零さん、耳を塞いでいて下さい」


 そう言うと、アリアは軽く息を吸う。

 アリアの言うとおり聴いてはマズいと直感で感じて、耳をとっさに塞ぐ。

 次の瞬間アリアが口を開けると、超音波のような音が発せられる。周りに響く音、耳を塞いでいても頭に響くほどだ。


「もう大丈夫ですよー」


 目を開けながら耳から手を離す。すると建物一部の景色が歪んでいる事に気づく。

 するとバチバチといいながら、その歪んだ景色が元に戻っていき、そこに黒いフードを被った人が現れる。

 黒のフードに黒のマント。全身黒ずくめ。口元も暗殺者のように黒のマスクをしている。


「迷彩機能故障、任務の支障は無し。任務を継続します」


 ロボットのような口調で喋ると、マントをなびかせながら接近する。その動作に地面を蹴ったなどの行動は見られない。身体を傾かせただけだった。


「まさか霧に突っ込んでくるつもりか!?」


 霧に触れれば塵に変わる、例外を除けば。出来る限り人殺しをしたくない、だがここで霧を消してしまえばアリアに被害が及ぶことになる……!

 どうするか考えていると、フードはすぐそこまで近づいていた。そして霧に触れると、『消滅することなく』すり抜けてきた。


「――!?」


 その展開に驚愕の表情をする。

 フードは両手の袖からダガーのような刃を飛び出させると。クロスするように切り裂こうとする。

 反射的に腰から刀を引き抜き、そのダガーの攻撃を受け止める。


「お前……! なんで消えない!?」


 ガチガチと刃と刃が音を鳴らす。顔が見えないその相手に向かって俺は問うように叫ぶ。だが相手は無言のまま答えない。


「主以外と話す気はありません」


 冷たく言い放つと、俺から離れて距離を取る。

 消えないとなると、こいつは神力を使っていることになる。ということは神の子か、アルマのような神力を使える人、もしくは……スクードのように『神の心臓』とかいう神力を行使可能な物を付けている。

 フードの相手を見る、身長は低く、アリアよりも低い。とうことは子供か女性? いや子供にしては動きが速いし、力も相当ある。俺とほぼ互角の力だ。

 見た目から分析をするが明確な答えには至らない。そして考えていると、相手は次の行動に移行する。

 袖を振るうと、そこから並列で綺麗に並んだ鉄の針が飛んでくる。狙いはやはりアリア。そしておまけに俺まで射程に入れてる。


「これぐらいなら、霧でも対応可能だ!」


 その言葉通り霧に触れると先から塵に変わっていく。だが無意味にこんな事をするわけがない。


「霧に触れると消滅する、でも私は消滅しない」


 横から現れる黒フード。そのまま身体を切り裂こうとダガーを突き出す。

 その鋭利な刃を刀で弾くように反らす。だが相手は二つの刃を持っている、もう片方で腹部めがけて突き出す。


「このっ!」


 左手で腕を掴み勢いを殺す。腕輪によって身体強化したおかげで対応出来た。そのため高速で迫る攻撃を止める事が出来る。

 だが魔法で強化しているのにも関わらず、相手の筋力も相当なものだ。押さえている腕が震える。片足で腹部に蹴りを入れて距離を取る。


「全力で蹴ったのに効いてなさそうだな……」


 身体強化をした状態での蹴りを受けて全然効いてない様子。低姿勢でいつでも襲いかかれるような感じだ。

 アリアを守りながら戦うのは辛いな。もう一人いれば結構戦況も変わるんだが……

 するとその願いが通じたのか、銃声が聞こえる。


「――!」


 飛んできた赤い魔力の銃弾、その複数の弾丸をダガーで切り裂き軽々と防ぐ。


「すごい音が聞こえたから何事かと思ったら……やっぱりあなただったのね……」


 赤い銃弾を打ち込んだのはリンだった。


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