61話 クレイス院
「しかしあなたも毎度毎度、厄介事に巻き込まれるわよねー」
呆れた様子で話すのはリン。
二人である場所を目指して歩いている。周りは灰色の壁で、ところどころに木のプレートなどがあり掲示などが貼ってある。学校の廊下みたいだな。
「俺も好きで巻き込まれてるわけじゃないぞ……」
「それはわかってるけど、いくら何でも巻き込まれすぎじゃない?」
まあそれは薄々感じてた。まるで疫病神でも取り憑いているのではないかと思えるほどに。
「何か憑いてるのかなぁ……俺」
「冗談に聞こえないから止めなさい……」
顔を引きつらせながら、苦笑いを混ぜながら返すリン。
うん、本当に冗談に聞こえないな。
そんなことを話していると、子供の声が複数聞こえてくる。
「お兄ちゃん! 来たんだ!」
前方からやってきたのは数人の子供達。
そう、ここはクレイス孤児院。あの後荷物を置いて、リンが先に行っているここへ足を運んだのだ。
リリナ達? 何故だか、この子達と一緒にいると顔が怖いので逃げてきた。オッサンに全て任せておいたけど大丈夫だよな?
「来るって約束したからな」
そう言いながら先頭の少女の頭を撫でてやる。
少女は「えへへ」といいながら照れている様子だ。
「あなたって本当に懐かれるわよね」
その様子を見て、もはやお決まりのように呟く。今日はロリコンって呼ばないんだな。
「この子達、あなたが来ないかソワソワしてたのよ? 「お兄ちゃんまだ来ないの?」って」
「ハハハ、楽しみにしてくれて嬉しいよ」
すると腕が小さな力で引っ張られる。
少女の小さな手が手を掴んでおり、引っ張られるように引きずられる。
どうやら着いてこいということなんだろう。
「みんな待ってるよー!」
「わかったから、引っ張るなって」
笑顔のまま引っ張られる。俺も子供達のそんな笑顔を見ていて自然に笑顔に変わっていく。
そんな様子を優しい瞳で見ているリン。
「本当に好かれているわね。でも当然か……私もあの子達の立場なら同じだもん。世界に捨てられて、認められない自分を、認めてくれるから」
リンはそう呟くと、俺が子供達に拉致された場所へ向けて歩みを進めた。
そして数時間後。ここは拉致された教室。
学校のようにいくつか机があり、勉強をする部屋だとわかる。教室の隅に椅子を置きそこに座っている。
「子供って体力ありすぎだろ……」
「あなたもまだ子供じゃない」
「いやそうだけど、それにしてもあの年代ってここまで元気とは予想外だ」
あの子達は11歳~14歳ぐらいの子達だ。とてつもないほどの元気で相手が大変だ。一人では対応しきれない、まさに猫の手も借りたいほどってやつだ。
まあ大半が11~12歳ぐらいの子がじゃれついて来て、中学生ぐらいの子は恥じらいがあるのか、さん付けで呼び、少し距離を置いていた。流石思春期だな。
「この子達は、本当にこれから安心して暮らせるのかな……」
「……わからないわね。この世界が変わらないかぎり、絶対とは言えない」
「世界が変わらないと……か」
このときシルファスとの会話が再生される。
『君がどれだけ子供達を、世界を変えようとしても――無駄なのだよ』
『無駄じゃない! 現実に救われた子だっているんだ!』
『フフフ、それは『一時の救いだ』少年。所詮――『偽り』でしかないのだよ』
一時の救い、偽りの平和。世界が変わらなければ、あいつの言っていたとおりなんだろうか。
世界を変えようとしても無駄……いや無駄じゃない、諦めたらお終いだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「……最近あなた、暗い顔する時が多いわね」
「そうか?」
「子供達を助けてからずっとよ。あそこで何を見たのかは聞かないけど……そんな顔はしないほうがいいわ、あなたが暗いとみんなが不安になるわよ」
「気をつけるよ」
ストリアでの一件、シルファスとの会話。あれからというものどうもくらい内容を考えがちだ。でもどうしても気になるし、不安になる。
そんな気持ちに沈んでいると、一人の女性が歩いてくるのが見える。
「どうですか? クレイス院は?」
この人はリンを案内した職員の女性だ。紅のスーツを着て、黒髪でリンと同じポニーテールをしている。
名はリンから聞いたが、カーラというらしい。
「いいところだな。ここなら……あの子達も安心できるだろ」
「気に入ってもらえてよかったです」
そう言ってカーラは本を読んでいたり、遊んでいる子供達を眺める。
「神城さん、ある子達の事でお伝えすることがあります」
「……」
ある子達、おそらく神獣化計画の被害者の子供達の事だ。
被害者の子は通常の子とは違い、身体に影響がでている。人には無い部位が生えたり、組織があったりと。
実際に今見ている子供達の中にも、腕を包帯で巻いて毛や鱗を隠しいる子や、ニット帽などを被って耳などを隠している子が見られる。
「やっぱり普通には暮らせないんだな……」
「はい。最低限の事はしますが……ありのままの姿を受け入れてもらうには……」
どうしてもあの魔物と同じ部位は、一般の人にとっては異質にしか見えない。事情を知っていてもおそらく、子供達は区別という色眼鏡を通して見られるだろう。自分たちとは違う――
――別の生き物として。
「覚悟はしてた、でもやっぱり辛いよな……」
悲しみに溢れた瞳で無邪気な姿の子供達を見つめる。
「申し訳ありません」
「謝る必要なんてないだろ。あんた達は精一杯サポートしてくれようとしてる、それだけでも救われたよ」
するとそんな暗い雰囲気に気づいたのか、子供達が数人やってくる。
「お兄さん悲しそうな顔してるけど大丈夫?」
首を傾げながら聞いてきた少女。フードを被っていて、頭の両側には膨らみがある。陰で見えにくいが獣の耳が除いている。
「そんな顔……してたか?」
「うん、泣きそうだったよ」
「そっか……」
泣きそうか、心は大雨みたいに泣いてたな。
すると少女はニッコリ笑顔を作ると、手で俺の頬を引っ張り無理矢理笑顔を作るようにする。
「笑って! 笑えば楽しいよ!」
邪のない純粋な笑顔。この子も自分が普通の暮らしが出来ないのを知っているはずなのに。どうして笑顔でいられる?
どうして数日であの絶望の顔から、ここまで無邪気で幸せそうな顔に変わる?
「そうだな、笑顔だな!」
その子の言うとおり、笑顔を作る。
子供達が笑顔なのに俺が悲しい顔してたら駄目だな。リンに言われた事をもう忘れていたよ。
そうしていると突然叫び声が聞こえる。
「やっと零君見つけた!」
その叫び声が聞こえた方を振り向くと、指を向けて口を開ける金髪ツインテールの少女シェリア。そしてその後ろからリリナ、シュエとやってくる。
「あれ? オッサンに足止め頼んだのに……?」
ガシッと柱が鉄の義手に握られる。そしてフラフラとファルガが顔を出す。
「悪いな神城……嬢ちゃん達の相手は……無理だ」
失敗したのか……
「零は目を離すと、女の子に次から次ぎへと口説くから」
「本人無意識ですけどね」
「零君獣耳が好みなの? そうなの? 好きなら着けるよ?」
シェリアは両手を頭に着けて、耳のようにすると手をピコピコと動かす。
「おい、暴走するなシェリア。この子と話してただけだ」
「お兄さんそうなの? 私の耳触る?」
少女がフードを外して、柔らかそうな茶色の毛に覆われた獣耳を露出させる。ふむ、とてもモフモフしてそうだな。
っとそうじゃない、そうじゃない。
「おい、勘違いするなよ?」
「胸の次は、耳……零の好みがわからないんけど」
「毎回違うって言ってるよな。いい加減胸好き設定止めてくれ」
「あなたも特殊な好みしてるわよね」
少し引き気味でリンがジト目で見てくる。
「話を聞けお前ら!」
俺の周りの女性はまるで話を聞かない奴ばかりだ。
ロリコンで巨乳好きの次は獣耳ときたか。勝手に好みをねつ造されてる気がする。俺は普通だ、特に好みは無い。
「フフフ、その顔ですよ神城さん」
「え?」
そのやりとりを見て、微笑を浮かべるカーラ。
「あなたの今の顔は笑顔です。楽しそうですよ」
「そう……か?」
「はい、きっとこんな日常を望んでるから……笑顔なんじゃないんですか?」
「こんな日常ね……」
願い下げと言いたいが、でもこんな騒がしい日常はきっと悪くない。今の暗い日常に比べたら数倍、数十倍も違う。
「確かに……悪くない」




