59話 聖都の女神
四章始まります。
この章から物語の謎が少しずつ見えてきます。
平和な時間というのは、流れるのが早くあっという間だった。エルヴィーナの予想通り一週間で手続きは終わり、聖都へ向かうことになった。
聖都に向かうのに別に特に何かあったわけじゃない。ただ……
「どうしてこうなった……」
目を閉じた状態で現状、起きている状況に悩まされていた。
「ねえねえ! 聖都ってどんなところかな!」
「あれ見てお兄ちゃん!」
あっちで呼ばれ、こっちでも呼ばれて。体は一つしかないからとても対応できない。
状況を説明するとだ。俺達は子供達を聖都に連れて行くために、一緒に向かっている最中だ。そして今は列車の中。まあ予想できると思うが、子供達の面倒を見るのが大変なんだ。
よく50人以上乗れたと思うだろ。実は聖都側が列車の一車両を貸し切りにしてくれたんだ。なんでもエルヴィーナ曰く、女神のご厚意らしい。地下鉄を貸し切ったみたいだなこれ。
「……誰か手伝ってくれ」
まさか一週間という短い間でここまで懐かれるとは想定外だった。
少し面倒くさそうにボソッと口にする。
「お前は恩人でもあるし、それに子供に懐かれやすい性格してるしな」
呟きに反応するように返したのはファルガだ。正面の席に座ってなま暖かい目で見ている。
「流石お姉ちゃんを籠絡しただけのことはありますね、変態ロリコンの獣」
「ちょっとテラ!? っていうか零さんに何てこと言うの!」
ジト目で睨みつけるテラ。それを止めさせるように注意をするアルマ。
テラはあの後からずっとこの調子だ。俺をロリコン呼ばわりしている。出会う度にロリコンか獣と呼ばれる。あの嫉妬が含まれた目つきも変わらない。
「でもテラちゃんがロリコン呼ばわりするのも納得いくわー。だって、短期間でここまで口説くなんて……まさに世界一のロリコンね」
リンが子供達に懐かれる様子を見て、面倒くさそうな顔でそう呟く。その表情はお決まりであり、もう慣れているというような顔だった。
「おいお前ら! 人をそんな不名誉な敬称で呼ぶんじゃねえ!」
「まあなんだ神城。ある意味お前の長所だと思うぞ。でもな、何か言っとかないと嬢ちゃん達が怖いぞ」
「は?」
視線をある子達に向ける。周りは明るい色をしているオーラを出しているのに、ある空間だけ黒っぽいような暗いオーラを発している。
リリナ、シェリアがつらなさそうな顔でこちらをジッと見ている。その様子を宥めるようにシュエがフォローしている。
「なんであいつら怒ってんだよ」
いい加減、あいつらの態度で怒っているかどうかが判断できるようになった。未だになぜ怒っているのかは理解不可能だが。
「どうしようリリナ。ライバルが50人以上増えた……」
「大丈夫、零はきっと眼中に無いはずだから」
「でもそれって私達も言えてますよね」
「零君、妹としてしか見てないもんね……」
「あれはハイパー鈍感男だからね。やっぱり夜這いとかするべきかな……」
「駄目よリリナ! 既成事実を作ろうとしたってそうはいかないからね!?」
「でもそれぐらいしないと、気づかなそうですよね」
遠いから聞き取り辛いが、ろくでもない会話をしていることは確かだな。
暗いオーラを発している空間を眺めながらそう判断する。
すると服が引っ張られる。
「ねえあれ見て!」
近くにいた子供達の一人に引っ張られ、言葉に誘導されるように窓の外を見る。
瞳に映ったのは、白くそびえ立つ建物。あれは城……というよりは聖堂のような感じか。
ガルム帝国のような高層ビル、ストリアにあった工場などは無く、基本的に白い壁の建物が多く、聖なる都市といった雰囲気を漂わせる。
「あれが聖都ウィンデルか」
流れる景色の中、少しずつ近づくその都市を見て名前を呟いた。
今までに見たことのない街。一体どんなところなのか。
そして聖都が見え始めて、降りるまでには数分ぐらいだった。その間まで、車内はずっと騒がしかった。
大きな天蓋に覆われた駅のホームに降り立った。もはや駅のホームというよりは、空港のステーションみたいな感じだった。
降りてすぐに、聖都の係員からのボディチェック? らしき物が始まる。特に異常もなくそのまま通過し、殺風景な通路を進んでいく。
そしてフロントらしき広間に到着した時だ、まるで俺達を待っていたかのように、二人の人が立っていた。俺から見て左が女性、右が男性だ。
「神城零さんご一行ですね?」
右の男が確認するように訪ねてきた。名前を知っているということは、おそらく関係者だろう。
その問いに、代わりにファルガが答える。
「そうだ。あんたは誰だ?」
「私はアレイスレフ大聖堂の職員です、彼女は孤児院の職員です」
男と女は丁寧にあいさつすると、頭を下げる。
俺達も流れに乗るように自分達の自己紹介を行う。
「クレイス院までご案内するように言われてますので、いいですか?」
「ああ、だが俺達は宿を探さないといけないからな。代表者で構わないか?」
「はい。構いませんよ」
ファルガが話を進めていく。慣れてるなオッサン……
気づかないうちに、話はまとまり。リンが代表者として同行することになった。
この決定にどうやら子供達は不満らしく、意義のような声をあげる。
「お兄ちゃんは一緒に来ないのー?」
「私達と一緒に行こうよ!」
どうやら俺が行かないことに不満らしい。ここまで懐かれるとなんだか恥ずかしいな。でも嬉しいかな。
そんな様子を見て、クスクスと微笑をする二人の職員。
「あなたは相当気に入られているんですね」
「羨ましいですね、孤児院に勤めてる私ですらこんなに懐かれませんよ」
本当になんでなんだろうな? 誰にも好かれたことのない俺にここまで懐いてくれるなんて……
一瞬そんな暗いことを感じていた。
「俺は用事があるんだ。また後で行くから、な?」
「絶対だよ?」
「絶対に来てね!」
「絶対だ。絶対に顔出すよ」
一番先頭にいた子の頭に手を乗せてそう喋る。
そんな暖かい様子を見ていたリンは、女性職員の横へ歩いていくと振り返る。
「さて、じゃあ行ってくるわ。あんた達荷物頼んだわよ?」
「ああ、任せとけ」
「では、ご案内しますね」
そう言われて、女性職員に誘導されながら着いていった。さながらその様子は修学旅行中の団体にも見える。
あれ? この人は行かないのか?
一人残った男を見る。てっきり一緒に行くのかと思ったんだが……
「あんたは行かないのか?」
「私はあなた方を、宿へ案内する役目がありますので」
「宿へ? そんなこと聞いてないんだが……?」
「女神様の指示なんです。子供達を救ってくださったお礼だそうです」
まさか宿まで提供してもらえるとは……
エルヴィーナが言っていた聖母のような優しい性格というのも納得がいく。
そして男性はニッコリと笑みを作る。
「こちらですよ。ご案内します」
俺達は職員に誘導され、フロントから外へ出た。
聖都の街はガルム帝国やストリアのような感じとは全くの別物だった。外観通り、高層ビルは無いし工場も勿論無い。道行く人達も国民性が高いというか……民度が高いというか。常識人が多そうなイメージ。
建物の感じはシュトラスの街のような、外国の家屋みたいだ。
「そういえば紹介していなかったですね、ルイフ・フォールと言います。気軽にルイフと呼んでください」
ロン毛の金髪を揺らしながらそう答えるルイフ。本当に今更だな……さっき名乗ればよかったのでは?
まあ細かいことは気にしないでおこう。
「なあ、疑問なんだけど。どうしてここまでするんだ?」
「ここまでとは?」
「俺達は子供達の保護を頼んだだけだぞ? それなのに俺達の宿まで提供、さらに列車まで……」
「あなた方は女神様と同じ、神の使いである方を助けているとお聞きしました」
女神と同じとはおそらく神の子。そしてリリナ達を指すんだろう。
「それに、絶望の淵にいた子供達を救ってくださった……そんな素晴らしい方々を歓迎するのは当然ではないですか?」
歓迎するのが当然だと、そんな感じに言っているように聞こえた。誰かに命じられたからではなく、純粋にルイフの心がそう言っているのだと感じるほどに。
これがこの国の考え方。神の子が治める国だからこその思考なのだろう。
「この世界の人が、この国の人みたいな考えだったらよかったのにな……」
思わずそう呟いた。だってそうなら、リリナ達も子供達も辛い運命を歩かずにすんだはずだから。
その小さな呟きは自身に聞こえるほどの音量で言った。
「どうかされましたか?」
「いやなんでもない」
暗い顔をしていたのが見えたのかな。俺はすぐに顔を元に戻しそう答えた。
すると、騒がしい声が聞こえ始める。
「おい兄ちゃん。ありゃあなんだ?」
ファルガは背伸びをするように、人だかりを見る。その人だかりはちょうど広場の場所で、中央には噴水がある。その噴水の近くで結構な人だかりが出来ている。
その人だかりを見て、何かわかったようでルイフはニコッと笑みを作る。
「あれは女神様ですね」
「そんなに簡単に国のトップが顔を出すのか?」
「女神様は優しい方ですし、階級や差別を嫌います。みんな平等だと言って、よく街に出られるんです」
その説明を聞きながら人だかりを眺める。だからあれだけの人気があるのか……
すると隙間から、その女神と呼ばれる神の子の姿が見える。
銀色の髪で、肩に広がるように広がっている。
服装はウェディングドレスのような純白のワンピース。スカート部分にはフリルが段差のようになっており、胸元も同様にフリルがある、足には白と黄色のリボンがクロスするように巻かれている。上には赤と白の毛布のような綺麗な布を羽織っていた。
まるで天使、いや本当に天使なのではないかと思うほどに、神々しい雰囲気だった。
「あれが聖都の女神の一人――『歌姫』か」
「――!!」
ファルガが口にした単語を聞いて、思わず目が見開いた。
「ご存じなのですね。そうです、あれが聖都の女神、『歌姫』アリア様です」
歌姫アリア、俺が今もっとも会いたい人物であり、聖都に来た目的でもある人物。
俺はこの子から聞かなくてはならない。始祖……鍵……そして――――神の子についてを……




