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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
三章 商業国ストリア編 神を作ろうとする者達
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55話 子供達の救出

 数十秒の間、額から流れる汗、そして足が震えていた。この数十秒が体感時間としては長く、まるで何十分と感じた。

 ようやく呼吸を落ち着かせると、ゆっくりと瞼を閉じて恐怖を吐き出すようにハァとため息をする。


「大丈夫ですか?」


「ああ、なんとかな」


 そんな様子を見て、心配したアルマが顔を覗き込むように見てきた。

 心配はさせまいと、笑顔を繕って対応する。


「…………」


 一歩も動けなかった。まるで喉元に見えない刃を突きつけられたような感覚だった。

 殺気を当てられただけで、あそこまで竦むとは思っていなかった。実力の違い、場数が違うんだろう。

 今まではこの力でどんな奴でも消してきた。しかし、あいつには今の俺では――勝てない。はっきりと、自身の中で思い知らされた。


「自分の力を……過信し過ぎてたのか……」


 どんなピンチでもこの力があれば乗り越えられた。強敵だろうと、神の力を使う敵だろうと倒してきた。

 でもこの力でも乗り越えられない、壁が存在した。今のままではリリナを、神の子を守るなんて出来やしない。

 強くなりたい。闘争心に駆られるように、心の中で強く感じた。


「零さん?」


 黙り込んでいる俺を見て、不思議そうに眺める。


「いや、なんでもない。お前の妹を助けに行くぞ」


「そうですね。ここにいたら……私達が犯人だと思われてしまいますし」


 アルマはカイダールの死体を横目でチラッと見る。そしてすぐに目線をずらし、その無残な光景を忘れるように目を閉じる。

 この光景を見たら、誰もが俺達を疑うだろう。そうなるとかなり面倒な状況だ。それに今のところこの施設内で人は消していない。だからこそ、このまま穏便に済ませたいところだ。


「そうだな、一先ずここから離れよう」


 俺はカイダールの死体を見て、複雑な気分でその場を去った。

 人を消さなくてよかった、殺さずにすんだはずなのに。釈然としなかった、仇を討てなかった、自身の力で消せなかったからだろう。このとき俺は自身のある感情に気づいた。

 殺す事に慣れ始めている……消す事に戸惑いや恐怖といった感情を抱かなくなりはじめているのだ。

 これではいけないと、頭を振る。歩きながら頭の中で死への『慣れ』が……とても怖かった。



 恐怖を拭うかのように、いつもより早歩きで施設内を歩く。

 そして地図を頼りに、施設内を歩き回る。深夜は本当に人が少ないのか、全くと言っていいほど人の気配がしない。


「ここか……」


 地図と目の前の場所を照らし合わせるように、交互に見る。

 青白い壁に囲まれた中、そこだけ何重もの扉に守れた場所だった。それはまるでガルム帝国のシェリアがいた場所の扉を思わせるかのように。

 スクードに渡された鍵をポケットから取り出す。それは鍵というよりは、カードキーのような物。

 それを扉の横のカードリーダに通すと、認証したようにピーと音が鳴る。こういった何気ないところが自身の世界と似ていると感じる。

 ガシャンと静かに音を立てながら、一つ二つと順番に扉が開いていく。


「…………零?」


 最後の扉が開き、聴こえる聞きなれた声。俺の傍にいてくれて、いつも心を支えてくれるあいつの声だ。

 そしてもう一つ、違う少女の声も聴こえる。


「お姉ちゃん?」


 そこにいたもう一人の少女。この子がアルマの妹であり、7番目の神の子でもある子か。

 赤銅色の髪で、姉とは違い左側でみつあみにしている。左腕に黒いリボンの飾りを着けて、姉妹なのか服装はアルマとほとんど変わらない。少しところどころ色が違ったりしているぐらいだ。あとは黒のタイツを履いているくらい。

 アルマはその妹の姿を見ると、堪え切れなくなったのか走り出した。そして走りだしたらその手で思いっきり抱きしめる。


「本当に……お姉ちゃん……?」


「うん……! よかった! 無事で本当によかった!」


「お姉ちゃん……お姉ちゃん! 会いたかったよ、お姉ちゃん!!」


 少女もアルマに抱きついて泣きじゃくる。アルマはその頭を撫でながら自身の豊満な胸の中で抱きしめていた。

 その感動の再開を、温かい目で眺めていると。俺の元へトコトコと歩いてくるリリナ。


「絶対に来てくれるって信じてた」


「当然だろ。俺はお前を守るって言ったんだから」


 リリナの顔をじっと見る。スクードが言っていた言葉が再生される。

 始祖……それが何を意味しているのかわからない。だがこれだけは理解できた、リリナは今以上に狙われる。

 俺は屈むとリリナを抱きしめた。突然の行動に、戸惑うリリナ。顔を赤く高揚させて困惑している。


「絶対に……お前を守るからな。もう離さないからな!」


「れ、零? 急にどうしたの? 嬉しいけど、その……急にされると、恥ずかしいよぉ……」


 絶対に離さない。これが最後だ。始祖なんて関係ない。こいつに降りかかる火の粉は俺が払う。

 あいつが、スクードがリリナを狙うというのなら……命を懸けてこいつを守りきる。絶対にこいつを悪用なんてさせない!

 リリナを抱きしめながら、そう強く心に誓った。そして、どんな敵を倒せるように強くなろうと決めた。


「うーとにかく恥ずかしいから離れて……!」


 リリナは顔を高揚させた状態で腕を俺を離すようにする。俺も柄にもなく抱き締めてしまった。

 少し恥ずかしくなり、頬を掻くように「悪い悪い」と謝罪する。

 その一部始終を眺めているアルマ。


「リリナちゃんも無事だったんですね。よかったです」


「ああ、お前の妹も無事で何よりだ」


 リリナの無事な姿を見て、安心したように優しい瞳をするアルマ。

 するとアルマと俺の間に入ってくるように、テラがやってくる。


「ねえお姉ちゃん。こいつ誰?」


「ちょっとテラ、こいつ呼ばわりしちゃ駄目でしょ? この人は私達を助けてくれた人なんだから」


「へーこいつが」


 なんかこの子に睨まれてるな。初対面のはずなんだけど……何かしたか?

 とりあえずこの子への印象を変えるためにも、まずは自己紹介したほうがよさそうだ。


「俺は神城零って言うんだ。よろしくなテラ」


「……別によろしくするつもりなんてないけど……まあ助けてくれた奴だからお礼は言うわ」


 トゲトゲするように喋るテラ。するとあることを言い出す。


「でも助けたからって勘違いしないでよ? お姉ちゃんに手を出すのは許さないんだからね!」


 ビシッと人差し指を向けられて、釘を刺すように言われた。

 手を出すって、そんなつもりは毛ほどもないんだけど。どうやらこの子は、お姉ちゃん大好きっ子なのかな?


「心配しなくても出さないよ……」


「でも零って無意識にフラグ立てるから……」


 ボソっと呟くリリナ。今までのことを思い出したかのように、ため息をつきながら。

 それを見て、何か理解できたのかテラがジト目で睨む。


「無意識に手を出したのね……油断もすきもない……きっとお姉ちゃんにもいやらしい事をしてるに違いないわ!」


「いや出さないからな? はぁ、アルマもなんか言ってくれ。お前の妹だろこいつ」


 この子をどうにか出来るのは姉であるアルマしかいない。

 アルマを視線を送って助け舟を求める。だがアルマは頬を少し赤くしている。

 おい、何ボーとしてるんですか? いやらしいと聞いてなにか思い出しのか?


「おいアルマ?」


「え!?」


 呼ばれて我に返り状況を理解する。


「そ、そうよ? 零さんはそんなことしてないわよ?」


 とっさに何かを忘れるように、挙動不審になりながらも答える。

 多分あのときの事思い出してるなあいつ。全裸で俺に抱きついてきたときのこと。あの後アルマが気づいたときは、すごく顔を真っ赤にしてたな……


「やっぱりお姉ちゃんに何かしたのね! この(けだもの)! ロリコン!」


 すごく不名誉な名で叫ばれる。というかどいつもこいつも俺をロリコン扱いしやがる、どこがロリコンだよどこが。

 深いため息をついて、やれやれといった感じに呆れる。


「ロリコンじゃねえよ、それに獣でもない」


 まったくこいつここが施設内だと知ってるよな? 緊張感の欠片も感じられないぞ。まあ感動の再開で心が緩んでいるというのがあるのかもしれない。

 先程までの暗く、死という物から遠くかけ離れた、一時の明るい雰囲気。そんな雰囲気の中、ある声が耳に入る。


「――目的は達成できたかね? 少年」


「――!!」


 背後から聞こえる、とある男の声。この特徴的な喋り方、そして独特の呼び方。

 バッと後ろを振り返ると、瞳に映ったのは。赤い白衣を着た、銀の長髪の男。


「シルファスか……なんでお前いるんだよ」


「なんでとは酷いな少年。言っただろう、潜入と脱出を協力すると」


「まさか、本当に最後まで手伝うとはな」


「おや、信頼されていないのかな?」


「当然だ」


 明るい雰囲気を一変させる、ピリピリした肌を突くような緊張感。たった一人現れただけで、空気とはこうも変わるのか。


「悲しいなぁ少年。私をもっと信頼してほしいものだ、私は約束は守る男だぞ?」


 悲しむ素振りを見せるように、残念そうに眉をひそめる。

 シルファスを知らないリリナとテラは、警戒するように見ている。


「……この人誰?」


「それよりもこのオッサン。急に現れたんだけど……」


 警戒、というよりも未知の存在に怯えるようすの二人を眺めてフフっと笑みを作るシルファス。


「君達が16番と7番ね。フム、確かに雰囲気からして『癒し』と『大地』といった感じだね」


 リリナとテラは見られただけで、自身が神の子であり、そして宿る力を見破られたことに驚きの顔をする。

 テラの力は『大地』。だからテラの神力を埋め込まれたアルマは、体をオリハルコンに変化させる事が出来たわけか。


「おっと警戒しないでほしいね。私は君達に危害を加えるつもりはないよ」


 不適な笑みを浮かべながら二人を眺める。俺は警戒をしながら、シルファスに尋ねる。


「それよりなんの用だ?」


「フム。君は目的を果たした。ここから脱出する頃だろうと思って来ただけだ」


 リリナを助けることは確かに出来たし、カイダールを倒すことにより実験が続くこともなくなった。

 でもまだ一つやることが残っている。


「シルファス……恥を承知で、あんたに頼みがある」


「……ここにいる少女達を助けてほしい、かな?」


 俺の言いたいことを見透かしたように、答えるシルファス。


「正解だ。あんたなら出来るんだろ?」


「メリルの空間移動(ゲート)を使えば可能だ少年。その頼みは断る……と言いたいところだが、君には予想以上に面白い物を見せてもらえた。それの礼として特別だ、彼女達も脱出させようじゃないか」


「意外だな、てっきり断ると思ったぜ?」


「あれだけ面白い光景を観測出来たんだ。これでもお釣りが出るくらいだと思うがね」


 面白い光景とはおそらく、俺の記憶のない部分、アルマ達の消滅しなくなった事を言っているのだろう。

 するとパチンと指を鳴らす。乾いた音と共に、シルファスの横に一瞬にしてゴスロリ服の少女が現れる。


「メリル」


「はいお父様――ゲート」


 目の前に現れる歪曲する空間。いつ見ても気持ち悪く不気味だ。


「潜りたまえ、その先は少女達のいる部屋だ」


「……すぐに転送しないんだな」


「いやぁ、君に彼女達の顔を、目を見てほしくてね、そう――絶望色に染まった目をね」


「お前は本当に狂ってるよ」


「ああ、私は狂ってるとも」


 自覚ありか……自分が狂人だと理解しているからこそ。こうやって冷静にいられるのだろうか? とても理解できそうにない感情だ。

 そう思いながらリリナを連れて、ゲートへと向かう。リリナは初めて見る歪曲する空間に、ブルッと震えて恐怖していた。あれは不気味だよな。

 空間内は来た時とは違い、一瞬で目的地へとたどり着いた。

 目の前に移るのは大勢の子供達。みんな体操座りや、壁にもたれている。そしてその目はシルファスが言うように――絶望に染まっていた。

 世界に見放され、後は死を待つだけ。光など差すことはない、生きるのを諦めた。そんな感じだった。


「人?」


 俺達の存在に気づいた少女が、光の消えた目で俺を見る。

 その子に続いて、次々と周りの子供達の視線が集まる。その視線からは恐怖、憎しみ、殺意といった負の感情が感じられる。


「次は誰?」「やだよ……変わりたくないよ」


 様々な悲痛の声が飛び交う。俺はそんな空間の中で一言、告げた。


「もう……お前達は自由だ」


 その暗い空間を飛ばすように、一言告げた。たったその一言で、少女達の表情が変わり始める。

 だがそれは困惑といった感じ。まだ信じられないのだろう。すると少し遅れて後ろからアルマ達がやってくる。

 子供達がアルマを見た瞬間、驚きの顔をする。そしてアルマはそんな子供達を見て叫ぶ。


「この人の言う通り、もう私達は自由の身だよ! もう――実験台にされない、体を変えられない!」


「……本当なの?」「私達助かるの?」「でもまた……」


 不安の声が飛び交う。カイダールに逆らって殺された子もいると聞いた。それを知っているからこそだろう。恐怖による支配、それを痛感した。


「大丈夫だ! カイダールはいない、それにな……俺はお前達を助けに来た。絶対に助けてやるから!」


「私も零さんに助けられた。私だけじゃない、テラもリリナちゃんも、この子達も!」


 すると近くにいた少女が立ち上がり俺の元へ歩いてくる。


「私達、本当に出れるの?」


「ああ、出れる」


「本当?」


「本当だ」


 そういうと少しだけ、この子の瞳に光が戻った気がした。まだ希望を信じようと思ったのだろう。それが一筋の小さな光であっても


「どうかな少年?」


 突然背後から話しかけられ肩を上げるように驚く。


「フム、その顔を見る限り何かを感じたようだな少年。結構なことだ……感想はまた聞こう」


 シルファスは横にいるメリルに合図を送る。その合図を見て、メリルは目を閉じる。

 フワッとメリルの髪が揺れる。そして足元から部屋の床を侵食するように黒い影が伸びていく。部屋の隅まで影が広がるとメリルは詠唱のように呟いた。


「リセス・ゲート」


 その瞬間、視界が一瞬で真っ黒に支配された。

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