54話 深まる謎
室内に響いたさっき同じ銃声。その死刑のような光景を、網膜に焼きつくように見ていた。
アルマはとっさに目を閉じて、後ろの二人の少女にその残酷な光景を見せないように視界を身体で隠す。
そして撃たれたカイダールはわずかに身体を反らせるように、身体をビクンと震えさせる。
「おや? わずかに避けて、急所から外れましたか……」
「……ハァ……ハァ……! くっ! スクードぉ……貴様ぁ……!」
苦しそうな声でスクードを血眼になって睨みつける。
息をするのさえ苦しそうで、その身体に空けられた二つの風穴からは血が滲み出て、床に血の池を作り出している。
「全く、避けるから苦しいんですよ? せっかく私が一思いに一瞬で殺してさしあげようと、最後の仕事をしているのに……」
そしてもう一度、そのリボルバーをカイダールに向ける。カチャというトリガに手を掛ける音が静かに鳴る。
「くそ……! スクード……! まさか貴様、ワシが戦えないただの社長だとでも思っていたか!」
苦しみながら、左腕をスクードに対して向ける。
すると、カイダールの手の平に丸い赤い円が展開される。そしてある言葉を叫ぶ。
「『王の命令!』」
その一言とほぼ同時に、その赤い円は収束するようにスクードへと向かっていき、スクードの胸へ吸収されるように吸い込まれた。
「王の命令だスクード……! こいつらを殺し、貴様も自害しろ!!」
俺の推測だが、あれはおそらくスキルの類だろうか? それに以前、スクードがこの『王の命令』という単語を言っていた覚えがある。
対象に命令を出来る、精神支配系のスキルなのだろう。
だが次に起きた現象は不可解なものだった。スクードは微動だにせず、その構えたリボルバーを――撃った。
「――ガハッ!?」
「王の命令……あなたが持つスキルですね。対象に呪印を刻みこむ事により、まるで王の命令の如く意のままに対象者に命令を下せる。あなたに相応しい力ですね」
「……何故だ!? 何故貴様にワシの力が通用しない!? 王の命令だぞ、従え!!」
苦しみながらも、目の前で起きている現実が理解できないと叫び散らす。
俺自身も何故スクードがスキルに逆らっているのかわからない。まさか何か無効化する力を持っているのか?
「……ハッ」
スクードは錯乱しているカイダールを見て、鼻で笑い嘲笑う。馬鹿にしたように、格下を見るように見下す。
「理解が遅い人だ。確かにあなたの力は強力だ、あなたのスキルが無ければ神獣化計画も成り立たなかった。そこは感謝してますよ? ですが――」
スクードは上着を脱ぐと、白いカッターシャツだけの姿になる。
「――それは所詮人の力。王如きが――神に命令出来るとでも?」
胸元のカッターシャツのボタンを取り、先程呪印を刻まれた左胸部分を見せる。その異質な光景に目を疑った。
「なんだよ……それ? 緋色の機械?」
スクードの左胸、そしてちょうど心臓部分には――人の肌がなかった。その代わりに緋色の金属で覆われた、人口の心臓のような物が埋め込まれている。
その金属の上に付けられた赤い呪印。その呪印は次第に薄くなり、自然消滅していった。
「緋色の心臓……! いやありえん! あれは我社ですら作れなかった代物だ!!」
「それはあなた達が無能の集まりだからでしょう? 私達はすでに完成させていますよ?」
「私達……? まさか……貴様リラ――!」
その先を喋ろうとした瞬間。カイダールの身体を四方から貫くように透明な槍が貫く。
口からゴホッと血を噴出すと、その場に大の字に倒れるように息絶えた。
「ちと喋りすぎじゃぞ?」
声が聞こえ振り向くと、そこにいたのは着物姿の少女。手に水の球体を浮かばせながら歩いてくる。
そうか、今の攻撃はこの子がやったわけか。
「おやトレーセ。来たんですか?」
「お主が遅いからじゃろう。妾は待ちくたびれたわ」
そう喋りながらスクードの元へ歩いていくトレーセ。
おい……なんでこの子。傷一つ、いや――着物に汚れ一つない? 俺はこいつを殴ったり投げ飛ばしたぞ!?
「おや? 妾が無傷なのが解せぬか? そうじゃのーお主が倒した妾は……これか?」
微笑を浮かべながら、人差し指を前に出す。すると指先から出てきた水が、どんどん人の形に形成されていく。
その姿はトレーセ本人。瓜二つの影武者のようだった。
「妾の分身じゃ。あの炎の娘っ子を倒すくらいならこの分身でも余裕なんじゃがーお主には役不足だったみたいじゃな。すまんのう、相手にしてやれなくて。まあ妾と舞ったら――お主は死の舞を踊る事になるがの」
クスクスと小馬鹿にしたように笑う。その不気味な笑みにゾクリと背筋が凍りつく。一瞬、ほんの一瞬だけ殺気を向けられた。
たったそれだけなのに、どうして俺は足が震える? 目が蝋燭の火のように揺れる? これが恐怖……なのか?
「トレーセ、戯れもそこまでにしなさい」
「わかっておる。ちょっとこの青臭い餓鬼をからかっただけじゃ」
すると息絶えたはずのカイダールが揺れる瞳で二人の死神を見る。
「貴様がまさか――『神の心臓』を作ってるとは……な。どうりで……ワシの……力が通用せんわけだ……」
「……トレーセ。このゴミを黙らせなさい」
「了解じゃ」
その瞬間、身体に刺さる四本の水の槍がカイダールの中へと吸収されていく。そして内部からまるでハリセンボンの如く――串刺しにした。
惨い光景に反射的に目を閉じる。ゆっくりと視界を開けると目に映るのは見るも無残なカイダールの光景。もはや人としての原型がなく、ただの肉塊だった。
「すまないね神城零君。彼女達の仇である彼を殺してしまって」
懐にリボルバーをしまいながらにこやかに喋る。
次は俺達を殺すんじゃないのか? どうして銃をしまった? それよも何故――こいつはカイダールを裏切るような真似をした?
「どうして私が彼を殺したのか解せないと言いたげだね」
俺の疑問を見透かしたように、表情を崩さず喋る。
「理由は簡単だ。彼の役目が終わった、そして彼は知りすぎた」
「終わった? 知りすぎた?」
「それに、君と彼女を殺されるのは面倒だったんですよ」
こいつは俺を危険だと言って殺そうとした。なのに今度は殺されるのがまずかった?
「いやあ君がまさか候補だとは思いもしなかったからね、あの時は」
スクードが一体何を言っているのか全く理解出来なかった。専門用語を知らないのに、話を聞いているみたいだ。
「特別に君には教えてあげますよ。候補として知る権利がありますから」
次に発せられる言葉は俺にとって信じがたいものだった。
「元々この計画自体、私が発案したんですよ」
奴の口から語られた衝撃の真実。こいつが発案者だと?
ということはこいつがあの子達をあんな目に遭わせた張本人だというのか!? 次第に高まる怒りの感情、煮えたぎるマグマのように徐々に身体に溜まる。
「計画の真の目的は適合者、いえ――始祖を探し出すため、そして鍵を見つけるためです」
次々と語られる真実。そして謎の言葉。始祖に鍵? こいつは何を言っている?
怒りの中、謎の単語を喋るスクードを睨みつける。
「お前は一体……何を言ってる?」
「わからないのも無理は無いですよ。これを知っているのは我々と――シルファス博士ぐらいですから」
「……!!」
「シルファス博士が君に目を付けるのも納得がいきますね。君は特別だ……」
「お前……シルファスを知ってるのか? 仲間なのか!?」
「いえ、彼とはそうですね……一応、敵対関係に位置しますね。それに彼は世界的に有名ですよ?」
ますます訳がわからない。一体どういうことだ? 俺の知らないところで何が起きてるっていうんだよ!
「君には感謝してるんですよ?」
「感謝だと……?」
「ええ。始祖を連れてきてくれたんですから」
「始祖……まさか!!」
こいつが始祖と言っているのはまさかリリナか!?
どうしてリリナが!? あいつは癒しを司る16番目の神の子っていうだけのはず、特別な力はそれ以上持っていないはずだ!
「神城零君。これは私からのほんのお礼ですよ」
スクードから投げ渡される一枚の包み。それを受け取り広げてみる。
そこに描かれているのは地図のような見取り図。
「地図?」
「この施設の地図です。印には神の子の場所と被験者の子供達の場所を書いておきました、あとそれは牢の鍵です」
「なんで俺にこれを渡す?」
「おかしなことを聞きますね君は。君が助けるために決まってるじゃないですか」
こいつは本当に何を言っている? 謎めいた行動ばかりのスクードに怒りを通り越し、戸惑いの感情しかなかった。
「どうやら彼女はまだ時じゃない。それには鍵が必要です、その鍵となる存在が――君だと思ったんですよ」
「どういう意味だ? 鍵ってなんだ!? 始祖ってなんだよ!?」
「後は自分で調べて下さい、ではこれで失礼しますよ」
フフっと笑みを浮かべると、俺達の横を通り過ぎるように歩いていく。
俺はこいつを逃がすわけにはいかない。こいつが実験の発案者だから、だからこそ逃がさない。
すると殺気を感じたのか、スクードは振り返ることなく喋る。
「私と戦いますか?」
その一言に込められた殺意。
「止めておきなさい。君では勝てないですよ?」
胸を貫く緋色の腕。そして引きちぎられる両腕。溢れ出る血、肉、骨。――今のはなんだ……幻覚?
恐怖で自分が死ぬ光景が脳裏にフラッシュバックのように浮かんだ。先程のトレーセとは段違いの殺気、額から汗が流れ、呼吸が荒くなる。
「ですけど……よく私の腕を切り落としたものです。賞賛に値しますよ、あれを切り落とした人を見たのは初めてです」
そしてまるで俺にだけ聞こえるように、最後に一言呟いた。
「君が自身の力を――本当に理解した時が楽しみですよ」
意味ありげな謎の言葉を言い残すと、カツカツと足音を鳴らしながら去っていった。




