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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
三章 商業国ストリア編 神を作ろうとする者達
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45話 怒りに身を任せて

「全く……大人しく逃げておればいいものを」


「そん……な……? 私の炎が……負け……た?」


 剣が引き抜かれるとシェリアの背中からはまるで、消えかけの命のように炎が徐々に消え去っていく。そしてそのまま地上へと落下していく。


「――くそっ!」


「駄目! まだ治ってない!」


 俺はリリナの静止を聞かず、完全に直っていない身体に鞭を打つように起き上がり、シェリアの元へ走る。

 シェリアが傷ついた。シェリアが刺された。そして血を流した。

 上空から落ちるシェリアを辛うじて受け止める。身体に衝撃が走り、治りかけの腹部からは血が流れる。


「おい! シェリア! しっかりしろ!」


 真っ赤に染まるその身体を見て涙ながらに叫ぶ。シェリアはゆっくりと目を開けて悲しそうに呟く。


「ごめんね……私負けちゃった。零君いじめた奴、倒せなかった……」


 そう言うとシェリアは気を失うように目を閉じた。

 シェリアが気絶したのを確認すると、トレーセは俺より少し離れた場所に着地する。そして瀕死のシェリアを見て、冷静に喋る。


「大丈夫じゃぞ。そやつは妾と同じ神の子、その程度では死にはせん。二日もすれば治る」


「まあ神の子は心臓を貫かれても生きてるらしいですから。よかったですね死ななくて」


 その一言に俺の中の何かが切れた。我を忘れて刀を握るとスクードの元へと駆け出す。

 こいつが! こいつのせいで、あの子は魔物へと変わり! シェリアは傷ついた! こいつだけは――許さない!

 俺の手で――消してやる。


「ウォォォォ!!」


 刀を握り。怒りの叫び声を上げながらスクードの元へと走る。

 傷はまだ治りきってないのにもかかわらず走った。そんなことどうでもいい、今はこいつを斬りたい、消してやりたい。


「力の差がわからないかな?」


 スクードの手前で何かにぶち当たるように刀が止まる。

 ガチガチと刀が音を鳴らしながら揺れる。まるで剣同士の競り合いのような反動が腕にかかる。


「君の力じゃ私の領域には入れないよ」


「この……! てめえを――――消してやる!」


 怒りで我を忘れ、身体から溢れるように白い霧が出現する。それを見てスクードの表情が変わる。

 絶対に消す、塵一つ残さず消す、こいつを消す。存在を消してやる!


「なるほど……! これが君の力……! 神の力ですら消滅させますか!」


 徐々に徐々に刀はスクードの身体を切り裂こうと侵食する。このままなら突破できる、そう思ったときだ。

 スクードは片手を突き出すと、俺の胸に向ける。そして一言「クラッシュ」と呟く。すると胸が押しつぶされるような感覚がし、俺は放物線を描くように飛ばされる。


「大丈夫かスクード?」


「ああ、だが……彼の力は危険だ」


 スクードは俺の周りに漂う霧を見て、見せたことのない真剣な目つきをしていた。。


「始末するか?」


「……そうだね、計画の邪魔になると厄介だ」


 トレーセは水の刃を作り出し、俺の元へ歩いてくる。

 だがそうはさせないとファルガが動き出す。


「やらせるかよ!」


 剣を構えて俺の元へ走ってくる。だが急にファルガの動きがとまる。そしてその場に押しつぶされるように倒れる。

 周りを見渡せばファルガだけじゃない。リリナも同じように状態だ。そして俺も何か重いものが乗っているかのように潰される。


「なんだ……こりゃ!?」


「残念ですけど、処刑の邪魔はされるのは嫌なので」


「身体が動かねぇ……!」


「零……!」


 狙撃が来ない事から、おそらくシュエも同じように動けないのだろう。そしてトレーセの足が俺の首元まで近づく。

 手に持つ水の刃が形状を変えていき、斧のような形状へと変化する。


「すまんのう。せめて楽に死なせてやるから勘弁してくれ」


 霧の空間で何事も無いような顔をしている。だが何か異質なのか眉を時折ひそめる。


「ふむ……お主の力、神の子である妾を消そうとしておるのか?」


 トレーセの言葉は俺にとって不可解だった。いままでリリナ、シェリア、ミーシャと出会ってきた神の子は全員俺の霧の中では何の異常もなかった。

 神の子だからだと思っていたが、同じ存在のこの子は異変を感じ取っている。一体どういう事だ……俺の力は一体なんだ?

 だが膨大な神力を持っているトレーセはすぐには消えない。


「だが、この程度なら問題ないのう。さて……終いじゃ」


 その一言の後、その水の斧は俺の首をギロチンの如く切り落とすように振り下ろされる。

 動けよ! 逃げなきゃいけない、避けなきゃ殺される。まだ俺は子供達を助けていない、こんなところで終わるわけにはいかない。


「――なんじゃと……!」


 驚愕の顔をするトレーセ。何故なら動けないはずの俺の腕が動き、水の斧を刀で防いでいるからだ。


「だが、そんな刀ごときで妾の刃を防げたと思ってもらっては困るの」


 腕に伝わる衝撃が増していく。刀ごと粉砕しようとするほどだ。

 だがこんなところで寝てるわけにはいかない! だって――――



 ――――まだ奴を消してない。


「こっのぉぉぉ!」


 力を振絞り、その刃を切り裂くように振り上げる。

 すると先ほどまで圧倒していた水の刃は、まるで紙を斬ったかのように切断され、俺の持つ刀に負けた。


「ば――馬鹿な! 妾の……剣が、ただの刀に!」


 それだけじゃない、さっきまで重かった身体もいつの間にか動けるようになっている。まるで空間を切り裂いたかのように。

 再度スクードの元へ駆けるとその刀を振り下ろす。だがさっきのように見えない壁に阻まれる。


「彼女の剣を逆に切り裂くとはね……! 君は一体何者なんですか?」


 さっきは霧を使っても消滅しきれなかった。だが今回はそう甘くない!

 俺が叫び声を上げると同時にその見えない硬い壁は紙を切り裂くように突破される。こうもあっさり突破され目を丸くするスクード。

 刀を構えなおすと、スクード腰から肩にかけてスクードの身体を真っ二つにする勢いで斬り上げる。


「――ぐっ!」


「スクード!!」


 スクードの身体には赤い線が入り、ベストやシャツを赤く染め出す。その様子を見ていたトレーセは心配するように叫ぶ。

 確かに手ごたえはあった、だがどうしてか奴の傷は浅い。するとスクードはニヤッと不敵に笑い、クスクスと笑い出す。


「まさか……領域を突破するとは予想外ですよ」


 そして危険視するように殺意の込められた視線で俺を見る。決して睨んではいない、冷静な目つきだった。だがその目は必ず殺す、そんな目をしていた。


「君は厄介なんてもんじゃない。改めますよ……君は――危険すぎる。神の子である彼女達よりも遥かにね」


 懐から黒と銀が特徴なリボルバーのような拳銃を取り出す。


「君のような危険な存在は……生かせておけない」


 カチャと静かに音が鳴る。そのまま撃たれると思ったときだ。静止する女の子の声が聞こえる。


「もう止めて!!」


 夜の街に響く声。全員の動きが時が止まったかのようにピタッと止まる。後ろに視線を向けると、その声の主は……リリナだった。


「もう……みんなを傷つけるのを止めて……! お願いだから……零を殺さないで」


 涙ながらに、身体を震わせて喋る。俺が傷つき、シェリアは瀕死になった。その光景を見ていて耐えられなくなったのだろう。

 リリナの涙を見て、眉を一つ動かさないスクード。そして少女の必死の静止を、無情な言葉で返そうとする。


「……残念ながら、彼を生かしておくわけにはいき――」


「――私がアルマの代わりになるから! だから……お願い!」


 叫んだ一言に俺は戦慄した。代わりになる……? 嘘だろ……冗談言うなよ。

 頭の中が真っ白だった。こいつは俺達を助けるために言ってるのはわかる。でも俺は、そんなの認めない。お前が身代わりになる必要なんてどこにもない。


「……何言ってんだ! 馬鹿なこと言うな!」


 リリナに向かって叫ぶ、だがリリナは俺を見ずにスクードの目を見ていた。

 スクードは俺に向けていたリボルバーを降ろす。そしてため息を一息つく。


「いいでしょう。我々としても神の子が一人増えるのは好都合ですから」


 そう言うと、スクードは目でトレーセに合図を送る。その合図を受けるとトレーセは静かにうなずき、リリナの元へと歩く。


「待てよ!! そんなの俺が認めね――」


 先を言おうとした瞬間、視界が赤くなるようにぼやける。

 腹部からは傷が開き、血が流れるように出る。出血が酷すぎて、血が足りてないからだ。くそ……こんなときに!

 限界の状態を見て、嘲笑うかのように俺を見下すスクード。


「彼女のおかげで助かりましたね。この子は利口ですよ、勝てないとわかって最善の選択をしたんだから」


「……くっそ……!」


「それに……今の君は私に勝てない。確かに君の力は未知数で危険だ。ですが私は――まだ全力じゃありません」


 こいつ今よりさらに強いってのか? シェリアの炎を意図も簡単に防ぎ、俺の一太刀を受けて軽傷程度。全力を出されていたら……勝てていたのか?

 悔しさで身体に力が入る。ぼやける視界の中でスクードを睨むように見る。

 そしてスクードの横に、トレーセに連れられてリリナが歩いていく。


「では失礼しますよ。また近いうちに会いましょうか」


 そう言い放つと後ろを振り向き歩き去っていく。リリナが振り返る瞬間、悲しい瞳で俺に一言告げた。

 「ごめんね」と。その一言で胸が締め付けられて、喉が苦しくなる。悔しさと悲しさ、怒りと憎しみ。負の感情が津波のように押し寄せた。

 拳を床に叩きつけて、夜空に向かって己の無力を叫んだ。その叫びは悲しく木霊していた。

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