37話 運命のジャンケンタイム
部屋の窓をベットに座りながら眺めていた。
「あーなんでこうなってるんだろうな……」
前にいるのはリリナとシェリア、シュエの三人。三人はなにやら言い争いをしている。
オッサンとリンはどうしたって? まあそこは色々と事情があるんだよ。
遡ること、数時間前。俺達は宿屋に無事に着くことが出来た。
宿の内装は結構いい感じで、帝国にあったビジネスホテルみたいだ。ベットが二つぽつんと寂しく置いてある。他にも二部屋とってあり、シュエとオッサン。シェリア、リンのペアだ。最初にシェリアとシュエがこのペアの決定に抗議していたが、なんとか説得して納得してもらった。
リリナは、窓から見える街の景色を「わー」と声を出しながら興味津々で眺めている。
「眺めがいいのか?」
「うん、零も見るとわかるよ」
その声につられて、窓際に近づく。リリナの頭の上から見えるのはストリアの町並み。
小さな商店街が連なる場所や、大通りのようなビルが複数並ぶような場所。そして一番目立つのは、奥に見える大きな工場のような建物。そしてその横にある巨大な高層ビル。
「すごいな……なんの工場だ……?」
「大きいね、何作ってるんだろ?」
二人して首を傾げる。窓から見える工場の煙突からはモクモクと白い煙が上がっている。
そんな光景を見ていると、扉がノックされる音が聞こえる。ガチャっという音と共に入ってくるのはリンとファルガ。
「荷物は置いた?」
灰色の扉を開けながら、喋るリン。そしてベットの横に置かれている俺達の荷物に視線を向ける。
「置いたみたいね」
「ギルドに行くのか?」
「まあね、予定は早いうちに終わらせておきたいし」
ごもっともだな。さてそれじゃあさくっと終わらせようか。
そう思いながら俺もそのギルドに向かうために準備をしようとする。するとその時、オッサンがある提案をする。
「それなんだけどな。その予定は俺と嬢ちゃんが済ますから。お前さんは街でも観光してろ」
オッサンのまさかの提案に拍子抜けな顔をする。
あんたらに全て任せっきりってのも悪いし、何より一人だけ観光するってのもどうかと……
「いや、それじゃあ……」
「大丈夫だ、ブラブラしてろってわけじゃねえ。娘達の面倒を見てくれればいい」
娘達ってことは。リリナ達の面倒を見ながら観光しなさいってことか?
「リリナちゃん達、まだこの街知らないでしょ? 勿論あなただって知らないし。だからこの街のことを知るいい機会でもあるのよ」
「安心しろ、街に関してはシュエが多少は知ってるからな。迷うことはないさ」
なるほどガイドさん役はいるわけか。まあリリナ達も街に興味津々だったみたいだし、いい機会ではあるな。
その提案に納得し腕を組みうなずく。
「そうだ待てよ。オッサンあんた、資料係がどうとか言ってたよな?」
突然思い出したように、ファルガに聞く。
ファルガはあーと言いながら、苦笑いしている。
「それなんだけどなぁ……実はそいつ、夜しか起きてないんだ。だから今は無理ってわけだ」
夜型の生活スタイルってわけか。こりゃ予想よりも変人な可能性が高いな。
「そういうわけだから! あの子達の面倒、頼むわよ!」
「じゃあ、また夕方頃に宿でな」
そう言って二人は部屋を出て行った。バタンという扉が閉まる音と共にシーンと静まる部屋。
これから観光か……まあ、街を知らない俺にとっては、いい機会だからいいんだけどな。
すると、背中が叩かれるような感触がする。リリナが呼んでるみたいだ。
「楽しみだね、街を見るの!」
「お前、本当に楽しそうだな」
「だって零と一緒に出かけられるから!」
その嬉しそうな笑顔を見ると、俺の気持ちも嬉しくなった。そして一瞬だけ、その可愛くて、眩しい笑顔に息を呑むように心の鼓動が鳴る。
なんだか最近、こいつらに対する俺の反応が違ってきている気がする。落ち着け、こいつらはあれだ、小動物みたいなもんだから。
その妙な反応をしている俺をキョトンとした顔で見るリリナ。
「顔赤いけど……どうしたの?」
「な、なんでもない! それより行くぞ!」
照れ隠しをする感じに、顔を見せないように扉に向かって歩く。
やっぱり俺ってすぐに顔に出るよな。もっとポーカーフェイスが出来るようにならないとな。
そして俺達は街に観光という形で出歩くことになる。
とまぁ、これが事の経緯だな。俺自身、こいつらと出歩くことに抵抗はなかったんだが……
街に出ようとしたとき喧嘩が勃発したんだよ。またその内容が、誰が俺の横を歩くという訳のわからない内容だから困る。
「だから! 私が横にいるべきでしょ! なんたって私は将来の妻なんだから」
そう主張するのはシェリア。何度も言うようだが俺はお前の夫じゃないからな。あとそれ自称な。
「私が一番長く過ごしてるから私が横にいるべきでしょ?」
リリナは自慢げにそう答える。まあ確かに一番長い付き合いだよな。
「私は零さんとキスまでしてますし……」
控えめに喋るのはシュエ。あれはお前がほとんど、無理やりやったような気がするんだが。
あの時の光景が脳内で再生され、俺は自然と頬が赤くなる。
「うぐぐぐ……! でも、あれはあなたが無理やり……って、なに零君なに顔赤くしてるの!?」
そしてジト目で睨んでくるリリナ。
「赤くして、嬉しそうだね……」
「いやまて! 嬉しくないから!!」
「私とキスしたの、嫌でしたか……?」
ウルウルとした目で俺を見るシュエ、これはまずい。泣くぞ。なんとか弁解せねば。
そして導き出された答えを話す。
「いや本当は嬉しかった……じゃなくて! あーもう! このさいジャンケンでいいだろ!」
大人気なく逆ギレしてしまったようだ。いや嬉しかったのは事実です。だって好意を寄せられたことなかったから。
とりあえず三人にはジャンケンをしてもらい、決めてもらうことにした。それと驚いたんだが、この世界にジャンケンってあるんだな。
俺はこの世界と元の世界の共通点が多いことに驚く。
「よーし、勝つのは私だからね」
「ふん、吠え面が楽しみね」
「負けませんよ?」
運命のジャンケンタイムが始まる。そして三人の間に緊張が走る。
そして掛け声と同時に、三人の手が出される。
リリナがグー。シェリアがチョキ。シュエがグー。これシェリアの負けだな。
「そんな……未来の妻が負けるなんて……」
その場にガックリと膝をつき、木面が見える床に手をつく。
そこまで落ち込むのか。あと何度も言うようだがお前は妻じゃないからな。
「勝負……あったみたいですね」
「そのようね」
勝ち誇った顔で見るリリナとシュエ。やっとこれで外に出れるわけか。
「というか……俺の横っていっても、店とかに入れば関係ないだろ?」
外を歩くっていっても、そんなの大した時間じゃないしな。
その発言にやれやれといった感じに、首を振るリリナ。
「相変わらず女心がわかってないね」
「二人が今日まで苦労したのがわかりますね……」
「でしょ? 零君ってこれで普通なんだよ?」
「おい、何言ってるんだお前ら?」
女の子同士の訳のわからない会話には、男である俺は理解が出来ない。
とにかくわかったのは、果てしなく女心というやつは面倒だということ。そういえば、前にリンが言ってたな。あまり好意を無下に扱うなって。
俺はその意味を考えながら、三人の様子を見ていた。この女心というやつと関係あるのか?
「まあ今はいいか……」
深く考えてもわからないしな。俺はベットから腰を上げる。
とにかく今は街の観光でもしよう。この街を知ることで、また一つ何かこの世界についてわかるかもしれないしな。
「ようやく決まったし、それじゃあ行くか。ほら、シェリアも立てよ?」
シェリアの背中を軽く叩く。納得がいかない様子でムスっとした顔で立ち上がる。
そしてクルッと入口の方を向くと、駆け足で扉に向かう。
「こーなったら、零君にいっぱい買ってもらうもんね!」
おい、俺の金を使い尽くすつもりか。俺の財布はそこまで裕福じゃないぞ。
「あ、それじゃあ私も」
続くようにリリナもその提案に乗る。シュエはというと、困った顔で二人を見ている。
お前はいい子だな本当に……
「あ、あの二人とも?」
「いいよシュエ。楽しんでもらえれば俺も本望だからさ、それにお前も遠慮せず言えよ?」
「でも……迷惑が……」
「いいから。俺達は仲間なんだから」
その言葉に微笑んで「はい」と答えてくれた。
まあ俺の財布は寂しくなるが、それでこの子達の笑顔が見れるならいいもんだろ。お金はまた稼げばいいしな。
だって今日の思い出は、今しか作れないのだから。




