35話 列車の中
俺の世界の電車のように、ガタンガタンとは揺れない車内。どちらかというと、飛行機内で外の音がうるさくない、そんな感じだ。
外見は黒かったが、車内も似たような色合いだ。黒ではないが黒茶色のような感じで、高級感がある。俺達は町の人のおかげで、団体用のいい席を確保できている。まあファーストクラスみたいなもんだと思う。
前の席では流れる景色を興味深そうに見ながら、声を漏らすリリナとシェリア。席の並びは、俺から見て前の左からシュエ、リリナ、シェリア。俺達はファルガ、俺、リン。という並びだ。
「……なあ、ストリアについたらどうするんだ?」
今後の予定をリンに聞いておく。どういう行動をするか把握しておくべきだ。
「そうね、ひとまず宿を確保するのと、ストリアのギルドに行くわね」
それがまず最初にすることか。帝国でここの話を聞いたときは、情報が集まりやすい、中立国であるということぐらい。
するとファルガが口を挟むように、会話に入ってくる。
「お前ら、情報を集めるために行くんだよな? ならちょっと俺にも手伝わせてくれ、詳しい奴と知り合いなんだ」
「ギルドの人か?」
「ああ、ギルドの資料係をしてる奴でな。俺の友人だ」
資料係か、ということは情報を聞くならもってこいな人物ってわけだ。
するとファルガは少し顔を歪めると、悩むような表情をする。
「ただな……ちょっと変わった奴でな。嬢ちゃんたちを見て、変なことしなきゃいいんだが……」
大丈夫だ、リリナ達に変なことしようなら俺が容赦しないから。
「そうだ、ストリアって国について俺に教えてくれないか?」
この質問に、ファルガとシュエが何故知らないのかと言いたげが顔で見る。
あーなるほど、この世界じゃ常識なわけか。だがあいにく俺はこの世界の人間じゃないからな……
「……ストリアを知らないんですか?」
「ちょっと訳ありで外のことは知らなくてな」
まだこいつらに異世界から来たということは伏せておこう。言ったら混乱するだろうし、なにより信じてもらえないだろう。
ファルガは何も聞かずに俺の問いに答えてくれた。オッサン、あんたの空気を読めるところいいぜ。
「ストリアってのは、レイスブルーで一番商業が盛んな国だ。それで商業国なんて言われてる。食料、鉱石、特産品、武器、魔道具、奴隷、様々な物を取引してるんだ」
「まあ流通の拠点みたいなところかしらね。それで他国もこの国だけは狙わないの、この国が無くなると自分達の国が困るからね」
ファルガの説明に補足をいれるようにリンが説明してくれる。だから襲われる危険性が少ないってわけか、他国がうかつに手出しできない国だからこそ。
「まあそれだけに……黒い噂も絶えないんだけどな」
闇の取引みたいなもんか。どこの世界もそんなもんだろうな。俺の世界だって裏で何をやってるかわかったもんじゃない。
「それとストリアは三つの大企業によって、国が成り立ってる。一つが武器、兵器の流通を中心しているカイダール社。二つ目が俺達ギルドを仕切ってるヴィクトワール社。最後が食料や雑貨を扱ってるパドローネ社だ」
国王や総理大臣とかがいない珍しい国なんだな。流石商業国と呼ばれるだけのことはある。
それに俺達はそのヴィクトワールってとこの会社にまとめられているわけだ。
「まあ他にもあるが……大まかにはこんなとこだな」
「丁寧にありがとう」
ファルガとリンに礼を言う。特に目立ったことをしなければ、その国では面倒なことは起きなさそうだ。
俺は少しだが心に余裕ができる。だがいつもこうやって油断している時に、何かと巻き込まれてるのは気づいていない。
「それで、ストリアにはどれくらいだ? 夕方ぐらいか?」
外の流れる緑の景色に視線を向けてそう聞く。その問にはシュエが答えてくれる。
「いえ、ストリアには明日の朝ぐらいですよ」
明日の朝ってことはほぼ丸一日ってわけか。ということは今日はここで寝泊りするわけだ。
よく見れば、天井に四角い溝があり、天井に行けそうな構造だ。上と下で寝ろというわけか。
「そういうこった、だから今日はたっぷり寝とけよ? じゃねえと明日倒れるぞ?」
「そんなに過酷なのか……商業国」
「まあ、人は帝国の何十倍もいるしねー」
あの何十倍!? 帝国でも結構人いたんだけど、あれより多いなんて。
スリとかに気を付けないとな。別の意味で心配する。
さてあれから数時間が経過した。リンは寝息を立てて、壁にもたれながら寝ている。
シュエも同じく可愛らしい顔で寝ている。リリナとシェリアは流石に外の景色に飽きたのか、室内に掛けてあった、雑誌のような書物を読んでいる。
俺はというと、これからの事を考えたり。時折シュエの寝顔を観察したり、二人の様子を見ていた。
「なあ……神城」
すると、突然小さな声でファルガが俺に尋ねるように呟いてくる。その目はなんだか真剣だ。
この雰囲気の中、俺だけに聞こえるように言うってことは。何か大切なことなんだろうと感じる。緊張からゴクリと息を呑む。
「お前は……」
「なんだよ……?」
「一体誰が好みなんだ?」
「……は?」
拍子抜けな声をつい上げてしまった。いやだってあの表情から、まさかこんな質問がくるとは予想してないし。
俺はジト目でファルガを見る。こいつ何言ってるんだろう、というような感じで。
「いやいや、真面目な話だ」
「その話に真面目さが微塵も感じられないんだが……」
「まあそう言うな。男同士だからこそ語り合える話題だろうが」
「確かにそうだが……」
「それで、誰が好みなんだ?」
何だか酔っぱらいのオッサンみたいな絡みだな。いやオッサンだけど。
するとファルガは前の座席に座る三人の少女達を左から眺めるように見る。
「この子達はみんな将来絶対に美人になるからな。お前よりどりみどりだぞ?」
「あんたなぁ……」
呆れてついため息をついてしまう。
「まずシェリアの嬢ちゃんだが……」
おいこのオッサン勝手に語りだしたよ。誰かこのオッサンの口を封じてくれないか?
ファルガのギャップに驚く。頼れる親父みたいな風格だったのに……意外と俺の将来の憧れみたいな感じでもあったのに。俺の夢を返してくれないか?
「この子は将来……大物になるな。それに間違いなく美人だな」
ファルガの言うことはなんとなくわかる。シェリアはかなり可愛いし、雑誌に載っていても不思議じゃない。それになんというか、いつも元気を分けてくれるし、一緒にいて明るくなれる。まあこれは直感だが……可哀想だが、胸はあまり成長しない気がする。
オッサンに続き俺もつられて分析し始める。全くもって失礼極まりない。
「さて次はリリナの嬢ちゃんは……」
ファルガの視線は横にスライドしていき、となりのリリナへと向けられる。完全に目がセクハラ親父のそれと一緒だよこいつ。
「この子は絶対に一途な子だな。一緒になったらお前をきっと幸せにしてくれるぞ。あとこの子は……モデルみたいになれそうだな。だが、浮気なんかしたときは……刺されるな」
刺される。その一言にゾクッと悪寒を感じる。縁起でもないことを言わないでくれ。リリナがそんなことするわけないだろ。
でもリリナを見てると一途ってのがわかるんだよな。いつも俺にくっついてるし、兄貴のように慕ってくれてる。時折その愛情表現が怖いけど。あとこいつと一緒にいると、安心する。なんていうのかな、かけがえのない存在みたいなものかな? まだよくわからない。
この特殊な感情がなんなのかはわからない。俺は生まれて友情や恋、愛なんて物を感じたことがない。だからわからないんだろう。
「さて……最後は俺の娘のシュエだ」
おいあんた娘まで評価するつもりか。
「シュエは親の俺がいうのもなんだが……宇宙一可愛い。シュエは元に今までに学校で告白された回数は二桁を超える、さらにギルドの青年からプロポーズされたこともあるんだ。まあ俺がボコボコにしたがな」
その青年可哀想だな。というかそこまで人気だったのか。まあこの子の性格とこの容姿からして当然だろうな。
ファルガの娘自慢はまだまだ続く。
「それとな可愛いだけじゃない。炊事洗濯、家事関係は完璧。並の大人じゃあ勝てないほどの戦闘能力、そしてあの礼儀正しさ。どうだ完璧だろう、俺の娘は」
「ああ、お前が親バカってのはよくわかった」
なんとなくわかってたけどさ。オッサンってやっぱりかなりの親バカだった。
「それとな、シュエは同年代の子達に比べたら発育は良い方だぞ」
まあ確かに……リリナ達と比べると大人っぽい。主に胸のあたりが。
というか完全にセクハラ発言だぞこのオッサン。
「というか……そんなに大事な娘なのに、なんで俺には許可したんだよ?」
そこが謎だ。俺はゼロと呼ばれる帝国の犯罪者だぞ?
「お前だからだ。シュエが言ってたんだよ、純潔を守り、自身を助けてくれたお前と一緒になりたいってな」
俺の膝にファルガの鉄の義手がポンと叩くように乗せられる。
「お前は俺の娘を惚れさせたんだぞ。誇りに思え」
惚れさせたね……俺なんかに好意をよせてくれるなんてな。嬉しいよ。
「でもさ、まだわからないだろ? リリナ達みたいに兄貴みたいな感じかもしれないしな」
するとファルガはため息をついて俺を見る。
「嬢ちゃん達が苦労してる理由がわかったよ。それ演技じゃねえよな?」
「それリンにも言われたんだよな。演技って何を演じればいいのやらって、感じだよな?」
「……シュエよ……こいつは強敵だな」
ボソッと呟くファルガ。すると何かを思い出したかのようにリンを見る。
「ところで話を戻すが」
「戻さないでくれるか?」
「あの姉ちゃんはどうなんだ?」
このオッサン暴走してるよ。何言っても無駄だなこりゃ。
「どうって、仕事仲間で大切な友人?」
「まあお前さんから見たらそうだろうな。だがお前、あの山見て何も感じないのか?」
山ってなぁ……まあ確かに人よりはでかいとは思うけど。たとえるならメロン?
「まあすごいと思うけど」
「だろう? 俺も初めてあんなの見たぞ」
この時だ、俺は周りから殺気を感じた。ゆっくりと振り向くと寝ていたはずのリンが鬼のような形相で睨んでいる。勿論前の座席の三人もすごい剣幕で睨んでいる。
「そこの変態二人……なに勝手に人を評価してんのよ……!」
リンの背後から黒いオーラが見える。かつてないほどお怒りのようだ。
俺のせいか? ほとんどオッサンが話してたよな?
「零最低」
「零君見損なった」
「お父さん……嫌い」
次々と突き刺さる言葉の刃。これは精神的にきつい。それも冷たい目つきで言われるのだから尚更ダメージがでかい。
「さて……覚悟はいいかしら?」
ゴキッと指の骨を鳴らしながらこちらを見るリン。
「ちょっと待ってくれ……俺じゃなくてオッサンだから!」
「おい神城! お前も評価してただろ! シュエの体は発育がいいとか!」
「言ってねえよ!! あることないこと言ってんじゃねえ!! あとそれはお前だこのセクハラ親父!!」
オッサンの言葉にシュエは顔を赤くして下をうつむく。恥ずかしそうだが何故勝ち誇った顔をしてる?
「おいシュエも真に受けてんじゃねえよ!?」
「うるさいわよ!! この変態二人組み!!」
鉄のような拳骨が俺とファルガの頭部へと落ちた。そしてそこへ続くように、シェリアが正拳突き。リリナが頬をビンタする。そして止めにシュエがライフルの先で俺達の腹を突くように攻撃した。
そして俺達は「反省しなさい!」と言われ部屋の外へ放り出される。
「……神城……生きてるか?」
「生きてる。けど心が痛い」
「一つだけ、いい忘れたことがあるんだ……」
「なんだよ」
「……女は怒らせると怖い」
「それ、先に言えよ」
旅の始まりから何やってんだろうな俺は。
冷たい廊下に寝そべりながら、そんなくだらないことを考えていた。




