34話 ストリアへ向けて。そして新たな仲間
あっという間に二日が過ぎた。そして今日はこの町とも別れの日。
俺の世界にもありそうな感じの駅のホーム。田舎にあるような感じで、小さな屋根の下にベンチが数個置いてある。
時折雲から顔を出した日光がその駅を照らす。俺達はそのホームの屋根の下で列車が来るのを待っている。
「早いものですな、二日というのも」
俺達を見ながらそう喋るのは、この町の町長であるおじさん。
茶色いスーツのような物を着ており、老眼鏡のようなメガネをしている。顔には少しばかりシワがあり、お年寄りという風格を思わせる。
町長の周りには助けられた町の子供達も集まっている、この子達は親を殺され、身寄りのない子供達だそうだ。その中には勿論レナも混じっている。
「そうだな……」
見送りに来てくれた子供達を見ながらそう呟いた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん達。本当に行っちゃうの?」
その中にいる一人の少女が、俺を見上げながら言う。まだ行ってほしくない、まだいてほしいという顔をしていた。
俺もできればここにいて、この子達を守ってやりたい。でも俺にはやるべきことがある。だから行かなくてはいけない。
その子の元に近づき、しゃがむとその子と目線を合わせる。
「ごめんな、行かなきゃならないんだ」
「でもまた会えるよね?」
「会えるさ。この世界にいる限り絶対に」
少女の頭を撫でながら立ち上がる。そして町長を見る。
「ありがとうございました。たった二日間でしたが、色々とお世話になりました」
この二日間、俺達はこの町の人達にお世話になった。
生活面だけでなく、旅の道具などを色々と手配してくれた。謝礼としてお金まで渡されそうになったが、それは断った。町の人を助けたのは、お金が欲しかったわけじゃないからな。
「あと少しだけでも……この町のいられないんですか? まだまだ私達は、あなた達に恩を返せていません」
無理だとわかっていて、町長が俺達を引き止める。いやこの町の人達には逆に感謝してる。
だってこの町の人達は、俺がゼロだと分かっても、リリナ達が神の子だと分かっても、歓迎してくれたから。本当にいい町だと思った。
「すいません。ご好意は嬉しいんですけど……私達もやるべきことがありますから」
「……そうですか。なら仕方ありませんね」
町長は俺の横にいるリリナとシェリアを見る。そのメガネに二人の顔が写っている。
「零さん、あなたは私達の英雄です。あなた達ならいつでも歓迎します。ですからいつか、また来てください」
手を差し伸べられる。俺はその手を握り、握手を交わした。そうだな、いつか必ずこの世界を救うことが出来たら。この町にこよう。
「いつか必ずくるよ」
ピーと言う音が聞こえる。この音にリンが線路の方を見る。どうやら時間みたいだ。
「時間みたいだな」
「どうやら、そのようですな……」
俺も線路の方を見る。そして別れの言葉を考えていた時だった。後ろから声が聞こえる。
町長や子供達とは違う、低い男の声と、少女の声。後ろを振り返れば、目に映った姿は、白い布に巻かれた大剣を担ぐ男と、同じく白い布に包まれたライフルを背負う少女。
あれはファルガにシュエだ。
「間に合ったみたいだな……!」
ファルガとシュエは息を切らしながら俺の元へ走ってきた。シュエは両手を膝に置いて息を整えている。
そういえば見送りに来るとか言ってたけど、こんなギリギリに来なくても……
「準備してたら遅くなっちまってな、悪い」
「準備って……あなた達必要ないでしょ?」
その不思議な言葉にリンは首を傾げなら二人の様子を見る。よく見れば武器だけでなく、少しばかり荷物も持っている。
「それが必要なんだよ。なあシュエ?」
「はい」
「……なんか依頼でも受けたのか?」
「違う違う」
ファルガはそう言うと、シュエの背中を押して俺の前へ押し出す。
慌てた様子で少し言いにくそうな顔をしている。チラチラとファルガを見る。
「えっと……お父さん……」
「決めたんだろ?」
そう言われて、シュエは何かを決意したように俺を見る。そして目を閉じて間を開けると、衝撃的な事を口に出す。
「零さん。私もその旅に連れて行ってください」
「……え?」
空いた口が塞がらないとはこういう事をいうんだろう。その衝撃的な発言に驚きを隠せない。
俺だけじゃない、リンやリリナ、シェリアも驚いている。
おっと驚いてる場合じゃない、ここは断るべきだ。俺達の旅はただの旅じゃない。世界を敵にする、危険な旅。そんな旅にこの子を連れて行くなんて出来ない。
「シュエ……残念だけどそれは――」
「お願いします!!」
サイドテールを揺らしながら、その頭を下げる。ただ着いていきたいとは違う。決意をしているような声だった。
「おい……オッサン」
困った顔でファルガに助けを求める。こんなに必死に頼まれると断ろうにも……
「俺も最初は反対したんだけどな、こいつがこんな顔してる時は何があっても曲げない。こういうとこは母親に似てんだよな……」
俺と同じように困った表情でシュエを見るファルガ。そして再び俺を見ると、ファルガまで頭を下げる。
「俺からも頼む。神城、俺達をお前の旅に同行させてもらえないか?」
いやそんなこと言われても。ん? 今オッサン俺達って言ったか? 俺達?
「まさか……あんたも?」
「当たり前だ! 娘を守るためだからな!」
オッサンの同行の理由は聞くまでもなかった。
しかしファルガの同行する理由はそれだけじゃなかった。
「それとな、お前が心配なんだよ神城。お前は一人でなんでも解決しようとする、悪い癖があるからな。誰かがストッパーにならなきゃ、いつかお前は本当に死ぬと思ってな」
そのファルガの言葉に、リンやリリナ達も納得したような顔をしている。
俺ってそんなに一人で解決しようとしてたか?
「シェリアさんや、零さんに助けられて……思ったんです。あなた達の役に立ちたいって。私もギルドの一人です、必ずお役に立ってみせますから……だからお願いします!」
ハァ……二人にここまで頭下げられちゃうとなぁ。俺は「あー」と言いながら目を閉じて上を向く。
そして俺も決めたように、目を開けると二人を見る。
「わかったよ……」
その言葉にシュエの顔が明るくなっていき、嬉しそうな表情へと変化する。
でもそれには条件がある。その条件を二人に伝える。
「でも約束してくれ。命が危険だと思ったら、迷わず逃げてくれ。これが条件だ」
もう親しい人が死ぬのを見るのは嫌なんだ。だから逃げてほしい。
たとえそれで俺が死ぬことになってもだ。
「約束する。そうなったらシュエを連れて逃げるさ」
決意の込められた黒い瞳で見るファルガ。おっさんがいるなら大丈夫だな。
するとリンがハァとため息をついて、頭を抱えるようにしている。
「どんどん人が増えるわね……この調子だと、旅が終わる頃には神の子全員いたりしてね」
その神の子と俺達が町中を歩いている姿を想像する。何この修学旅行?
ある意味愉快で、ある意味怖い光景に顔を引きつらせて笑う。
「なるほど……零が手当たり次第に、違う女の子に手を出すわけなんだ」
「おい、俺はそんなクズ野郎じゃねえよ」
「あなただと、無意識にやりそうだから怖いのよねー」
お前の中で俺の印象はどうなってるか教えてくれないか?
そんな賑やかな様子に、オッサンとシュエ、後ろにいる町長や子供達まで笑ってる。あーこの人達にあらぬ誤解が……
「はぁ……とにかく。それじゃあ、これからよろしく頼むぞ」
手を伸ばして、握手を求める。その手を見て、まずはシュエから握る。そして次はファルガ。
握手をし終えると、後ろから列車がやってくる音が聞こえる。どうも本当に時間みたいだな。
やってきた列車を見ると、その車両は日本にはないような形だった。SLみたいな感じかと予想していたが、実物は新幹線みたいな先頭。全体は黒色で二本の青いラインが入っている、何より驚いたのは車輪らしき物がない。これが魔学ってやつか。
「うわーすごーい」
その光景に感嘆の声をあげるシェリア。どうやら初めて見るみたいだな。リリナもまじまじと見ていることから、初めてなんだろう。
リンやファルガは見慣れた様子で車両を見ている。
「そうか嬢ちゃん達は初めてか、これがストリアに続く魔学列車だぞ。どうだすげえだろ?」
「これ……車輪がないのか?」
「車輪なんていらねえよ、こいつはな……確か……」
思い出そうとするファルガ、するとシュエが変わりに答えるように、俺の問いに答えてくれた。
「これにはスカイダイト鉱石っていう特殊な石が使われてるの。その鉱石に魔力を込めると、物体が浮くの」
なるほど、そのスカイなんとか石を大量に使って車両を浮かせて、進んでるわけか。
超低空飛行する飛行機みたいなもんかな?
「その鉱石はこれだけじゃない、飛空艇なんかにも使われるんだ。今このレイスブルーにはなくてはならない存在だ」
そこまで重要な存在だったとはな。まだまだ色々と発見があるな、この世界は。
すると、リンは木の柱に掛けられた時計を見ると、慌てたように俺達に向かって叫ぶ。
「ゆっくりお喋りしてる暇ないわよ!」
「おっと! また詳しいことは次回だな!」
そう言ってリンとファルガ達は車両に乗り込む。リンを追いかけるようにリリナ達も乗っていく。
俺も行こうとしたときだ「神城さん!」と、ある少女に呼び止められる。
叫んだ子はレナ。俺の近くに走ってくる。
「神城さん、私ね……神城さんみたいに、お兄ちゃんみたいに。みんなを助けられるような強い人になる!」
9歳の少女なのにその目は凛々しかった。本当に強い子だ、こんなに強い子ならきっとシンも安心だろう。
「だから……見てて! 絶対に強くなるから!」
「ああ、見てる。お前なら……シンみたいに強い奴になれるさ」
その頭に手を乗せて呟いた。きっとこの子なら誰にも負けない強い子になるさ、そうだよなシン。
すると後ろから、リリナ達が俺を呼ぶ声が聞こえる。これ以上はもう時間がないな。
俺は振り返ると、急いで車両に乗り込む。乗ると同時に黒い扉がスライドするように閉じる。
そして数秒もしないうちに、ゆっくりと景色が動き出す。どんどん遠ざかっていくレナ達。レナが最後に俺に口を動かして何かを喋っていた。扉越しで何を言っているか聞こえなかったが、何故だかその言葉はわかった。それは――ありがとう。そして――また来てね
「また来るよ。全てが終わった時に、必ず」
小さくなっていく駅のホームを見てそう呟く。
すると裾がクイクイと引っ張られる。リリナかと思って振り返ると、引っ張ていたのはシュエ。
「これから大変な旅になるかと思いますが、よろしくお願いしますね」
俺を見て改めて挨拶をするシュエ。本当に礼儀正しい子だよなこの子。
そう思って感動していると、シュエが背伸びをし、俺の肩を引っ張る。
この時、シュエがとった行動でこの場の全員が凍りつくように時が止まる。
「……は? シュエ?」
「零さんって競争率高そうですから」
テヘッと小悪魔みたいな顔をする。頬を赤く染めながら色っぽく俺を見ている。
今シュエは、俺の唇に……あれだ唇をくっつけた。いわゆるキスってやつだな。俺さ……初めてだったんだぜ? そして相手は11歳の少女だぞ? まあ嫌じゃなかったけども。
「わ、私だって零君としてないのにー!!」
「この子に先を越されたなんて……」
ガクッと肩を落として、その場に膝をつき落ち込むリリナとシェリア。そこまで落ち込む理由がわからないんだが……
リンはというと、もはや慣れたように俺を面倒な眼差しで見ている。オッサンは……なんだろうか、オッサンの背景が赤い。それと顔が怖い。まるで嫉妬してるような、そんな顔だ。
「神城ぉ……てめえ」
「お、オッサン? いやファルガさん? 落ち着いてください……今の俺じゃなくてシュエだからな?」
まずい殺される。俺の物語ここで終わっちゃうよ。
だがファルガの反応は俺の予想の斜め上を超える。
「……お前なら……娘を任せられる」
「いいのかよ!! というか反対しろよ!?」
「よかったじゃない、親公認よー」
棒読みで答えるリン。よくないよ、この子まだ11歳だし何より俺はロリコンじゃないし。
はぁ……また色々な意味で大変な旅になりそうだな……主にツッコミ的な意味で。
海の底のような深い溜息をついて、俺は扉の窓から見える空を見る。空……綺麗だな。
さあこれでシュトラスの街編終わりです。
ロリがついに三人か……いやマジで、これから人数がとんでもないことになりそう……まあそこは、なんとかうまくまとめますので、見ててください。
次回は三章となる、ストリアの街編。二章二部にしようかと思ったけど、同じ舞台じゃないので……




