32話 一方的な殺戮
傍にいる全員の視線が俺に向けられる。
ここの部屋の奴らは外の叫び声とか聞こえなかったのか? 防音使用か? まあ今はどうでもいい。
「おい小僧、どうやって入ってきた」
奥にいるボスらしき青目の男がそう喋る。
蒼目のライナスか、なるほどな。そういう事か。
「……どうやら、小僧一人か」
魔力や気配を感じられなかったのか、俺一人だと判断する。まあ正解だ。
やはりボスというだけあって、そこそこの実力者か。
「なあ、お前ら。今シュエをどうしようとした?」
男二人に取り押さえられるシュエを見て呟く。
「シュエ? ああこのガキのことか。見てわからねえか? 教育だ、まあちょっと特殊だけどな」
「そうか……」
「それじゃあ今度は俺が質問させてもらおうか小僧、外には大量の見張りや部下がいたはずだが……どうした?」
「ああーそれなら始末した。外の声聞こえなかったのか?」
その一言に周りの盗賊達がざわつく。たった一人の少年にやられたのだから当たり前だ。
「あいにくこの部屋は、ちょっとお楽しみ用に細工がしてあってな……外の様子を知りづらいんだよ」
「話は終わりか? それじゃあお前ら――」
「おい小僧、何勘違いしてんだ?」
俺の声はそのボスの男に遮られる。
「ここにいる奴らは俺の精鋭だ、外の奴等とは違う。わかるか? 今のお前に勝ち目は無い」
部屋を視線をずらして見渡すと、ざっと数は20人はいる。
幹部みたいな奴等か。
「そこでだ、お前に選択肢をやろう」
選択肢だと? こいつ何言ってる?
そしてボスの男は俺に幾つかの条件を言ってきった。
「一つ、持っている物全て置いて逃げる。二つ、ここで殺される。三つ、俺達の仲間になる……どれがいい?」
その三つの条件から選べというわけか……どうせ1を選んでもこいつらは殺すつもりだろう。卑怯なやつらだ。
この選択肢の中には3しか助かる方法はない。だが俺はあいにくどれも選ぶつもりは無い。
「駄目です零さん! 逃げてください!」
「うるせえぞ! このガキ!」
俺の身を心配するように叫ぶシュエ。そして横にいる男に口を手で押さえられる。
自分の身より俺の心配か。優しいんだなシュエは。
下を向き地面を向きながらボソッと呟く。
「じゃあ……四つ目で頼むわ」
「ああ? 聞こえてなかったか小僧? 四つなんて言ってねえぞ?」
「あるだろ? 四つ目がさ……お前らが――消える選択肢が」
俺の身体を包むように周りが白く霞みだす。
「……そうか、なら死ね」
その言葉と同時に周りの男が俺に拳銃のような物を構える。
次の瞬間部屋に鳴り響いたのは銃声の嵐。その銃声の中、シュエが俺の名前を叫んでいた。
「おい小僧。なんでお前……生きてる?」
ボスの男の目に映るのは蜂の巣にされ、血まみれの姿の俺ではない。普通に立っている俺の姿。
「何でだろうな?」
何故効かなかったのか謎でしょうがない、全員そんな顔をしていた。
俺はシュエを見ると、一言呟く。
「いいかシュエ。そこから一歩も動くなよ? あと目を閉じてろ」
「……え?」
次の瞬間シュエにの目に映ったのは、落ちていく男の腕。
拘束が解けたのか、その場にペタリと座り込む。そして周りを見渡す。
「……消えてる……?」
シュエを拘束していた男達はすでにいない。その代わりに周りには白い霧が漂っている。
一体何が起きたのかわからない。どうして男達は消えたのか? どうして俺に攻撃が通用しなかったのか? それ以外にも不思議な点があるのだろう。
そして周りからは、他の男たちの断末魔が響き始める。
「なんだこの霧……!! 身体が消滅して――!」
シュエは俺が何故目を閉じろといった理由がわかった。だってその光景は、11歳の少女には辛すぎるから。
頭がなくなる男。上半身が消え去る者、腕や足だけ残る者。その光景は地獄。一方的な殺戮だったから。
「……なあ、今度は俺がお前達に選択肢をやるよ」
壁の隅に逃げる奴等を見て静かに呟く。
その目は恐ろしく冷静で、人を消していることに恐怖を感じていなかった。
「一つ、苦しみながら消える。二つ、一瞬で消える。どっちがいい?」
どちらも待っているのは死。その理不尽な選択肢に盗賊達は怯えた声で俺に反発する。
「ふ……ふざけんな!! どっちも死ぬんじゃねえか!!」
「そうだ! そんなの選択肢って呼べるかよ!」
「お前ら理解してないな? お前らだって私利私欲のために理不尽に人を殺しただろ?」
無関係な人を殺しておいて自分は助かろうとする。どこの世界の犯罪者もこうやって醜い奴がいる。
そんなことが許されると思うか? 少なくとも俺は許さない。
「どちらも嫌なら……まとめて消えろ」
男達の眼前に白く不気味な霧が近づく。
その俺の姿は男達にとってまるで、死神のように映っているのではないだろうか? 死の霧を纏い、人を殺す死神として。
数人の男達は叫ぶ間もなく消えていった。そして残る、ボスの男を睨む。
「なるほどなぁ……それがお前のスキルか……」
部下があれだけ死んでも冷静な顔をしている。
勝機があるとでも思っているのかこいつは?
「でもな小僧? スキルってのは何もお前だけの特許じゃない。俺だって使えるんだぜ? 真空っていうスキルがな!」
腰から両刃の剣を抜きながら、俺に続けて喋る。
「俺は蒼目のライナスとも呼ばれるが……同時に人斬りのライナスの異名も持っている。俺のスキルを見て……生きたやつはいねえ!」
横に一振りしただけで。俺のすぐ傍の壁が、綺麗に削れ貫通する。そこには斬撃が通ったような後が出来た。
「俺の真空はダイヤですら斬る。お前のその柔らかい霧じゃあ……防ぐことは出来ねえ」
ライナスは「死ね! 小僧!」と叫びながら俺に向けて先ほどの斬撃を飛ばす。
そうかこいつは知らないか。この霧ってさ……神の力ですら消すってことを。
目に見えない斬撃は、俺を真っ二つにするどころか。触れる前に効力を失う。
「……なに? 消えた?」
「おいおい、ダイヤですら斬るんだろ? 斬ってみろよ。ただの霧だぞ?」
「ガキが舐めた口聞くんじゃねえぞ?」
もう一度斬る。だが今回は構えが違う。
「外が駄目なら……お前の周りに真空を発生させて切り刻むだけだ!!」
何も無い空間で何度も何度も剣を振り回す。
だが俺には何も起きない。俺から見たらただ闇雲に剣を振っている男がいるだけだ。
「どうなってやがる……! 俺の真空が……効かない!?」
「ああー言い忘れてたわ。俺の霧ってさ、神力ですら消すんだ」
神力を消す、そのたった一言で男の表情が変わる。どうやら神力の強大さがわかってるみたいだな。
俺は腕を回しながら、ゆっくりと近づく。
「神力ですら消す……!? そんなスキルあるはずないだろ!!」
「それがあるんだよな。あと……そんな神の力ですらないお前のスキルごときで……この霧をどうにかできるほど甘くない」
突如男の持っている剣が腕ごと消え去る。消えた腕と流れ出す血を見て、驚愕の表情をする。
叫び声をあげなかったが、うめき声を上げながら後退していく。
「お前は黒幕だからな。痛みと恐怖で苦しみながら消してやるよ」
その身体に徐々に白い霧が近づいていく。
男はこのとき、あることに気づいたのか、表情を変える。
「そうか……この力。お前が……ガルム帝国で噂になってる『ゼロ』か」
俺をゼロと呼んだ瞬間、後ろにいたシュエの表情が変わる。どうやら知っていたみたいだ。
「ああ、そうだ俺が『ゼロ』だ」
そして男は諦めたのか、その場に座り込む。そして俺をその蒼目で見る。
「そうか……ならお前もいつかわかる時が来るはずだ。力を持つお前ならな」
男の足が霧に包まれ始め、その身体を塵に変えていく。
「力を持つものが弱者を支配する。この世界は力が全てだ。お前もきっと俺のように、弱者を支配する存在になるさ」
「……残念だけど。俺はそうならない。この力は世界のために……あいつらを助けるために使う」
「へっ……まあいい。だけどなゼロ、これだけは覚えとけ、いつかお前はその強大な力に飲まれる」
「そうか……それじゃあ消えろ」
そして最後にライナスの頭が霧に包まれると、その姿を消した。
静まり返る洋館内。徐々に俺の周りの霞が消えていき、俺はその場に崩れる。
「……こんなことしても……何も変わらないってわかってるはずなのに」
目に涙が溢れ出す。ポタポタと木製の床を黒く濡らし始める。
「あいつらを消したところで……シンや町の人が帰ってくるわけじゃねえのに……」
どうして無関係の人が死ななきゃならない? どうして神の子や、神の器と呼ばれる子供達がこんな酷い目にあわなきゃならない?
消してしまいと思う。前のようにこの世界を消してしまいたいと。
俺は暴走しかける自分の心を落ち着かせる。駄目だ、暴走させたら。それこそここにいる無関係な人を消してしまう。それはこいつらと何も変わらない。
「零……さん?」
声が聞こえて後ろを振り返ると、シュエが立っていた。
「悪いな……怖いところ見せちまって」
「いえ……それよりも助けてくれて、ありがとうございます」
「俺なんかにお礼言うのか? 人を殺した犯罪者だぞ?」
「そうかもしれないですけど……でも零さんは私達を救い出すためにやりました。零さんは私達にとっては英雄ですよ?」
英雄か……俺にはもったいない言葉だった。英雄よりも俺は、死神がお似合いだよ。
それにこの子にゼロだと知られた以上、もうあの町には長くいられない。リリナ達を連れて早めに出て行かないとな。
「ありがとう。そう言ってくれると少しは楽になるよ」
俺は立ち上がり、目に溜まる涙を拭き取る。
「それじゃあ、捕らえられた人を助けて帰ろうか。オッサンも心配してるしな」
「お父さん……無事だったんですか?」
「礼ならシェリアに言えよ? あいつがいなかったら助からなかったから」
シュエはその目から涙を流しながら「よかった」と呟いていた。
父親の無事がうれしかったのだろう。
さて、光は……この部屋の横。あの鉄の扉の向こう側か。俺は光が指す扉を見ると。静かに扉に近づく。
そして霧を使い扉を覆うと、その扉を消滅させる。
「零……?」
扉を潜った先には捕らえられた町の人達が集められていた。
その中の一人で、青毛が特徴の少女。リリナだ。どうやら無事だったみたいだ……
俺の姿を見てざわつき始める町の人。色々な声が飛び交うのが聞こえる。
「あれって旅の人?」「昨日町を歩いてたわ」「あいつらは?」
すると後ろからシュエが入ってくる。そして町の人に自分達が助かったと伝える。
そのシュエの言葉を聞くと、町の人達の表情は恐怖や絶望から変わっていった。響き渡る歓喜の声。よかった、助かった、ありがとうなど様々な声が聞こえた。
俺は静かにリリナの元へ歩いていくと、屈みその小さな身体を抱きしめた。
「よかった……! お前が無事で……! 本当によかった……!」
リリナはその突然の行動に驚いていたが、その顔は笑顔になっていく。
「絶対に……来てくれるって信じてたよ。ありがとう……零」
その様子を見ていた一人の少女が俺に近づくと、俺の肩に手を乗せた。
「あなたなら来るって思ったわ。それとごめんね、リリナちゃん守れなくて」
その声の主はリン。リンは申し訳なさそうな顔をしていた。
リリナを守れなかったのを気にしているのだろう。
「お前は全力で守ろうとしたんだろ? その身体の傷見ればわかるよ」
リンの身体はボロボロで、かすり傷ではあるが剣で斬ったような傷が多数見られる。
「それとお前のおかげなんだぞ? お前が帝国でこれを、渡してくれたから来れたんだ」
腕にあるリングを見せる。リングからは光が伸びていて、リリナが着けているリングへと伸びている。
リンは思い出したようにそれを見る。どうやら本人も忘れてたみたいだ。
「そうだったの……」
すると洋館内に別の声が聞こえだす。聞こえる声はどれも男の声ばかりだ。
俺はまだ残党が残っていたのかと思い、身構える。
消えた扉の隙間から現れたのは一人の男。
「……誰もいないなんて、どうなって……ってお前ら!!」
現れたのファルガ。町の人たちを見て叫ぶ。そしてその中にいる俺の姿を見て、目を丸くしたような顔をする。
「神城……まさか、お前が全てやったのか?」
恐る恐る俺に訊く。あれだけの数の盗賊を倒したとは、とても信じられないからだろう。
その問いに俺は静かにうなずいた。
「あれだけの数を一人でか? 冗談は止めてくれよ、俺達町のギルド総動員でも、勝てるかどうかわからんぐらいだぞ」
「……」
「……まさか、本当なのか?」
「詳しいことは……また話すよ」
事情を察してくれたのか、ファルガはそれ以上訊いてこなかった。
そしてファルガ達、ギルドの人は町の人の拘束を解くと、順番に部屋を出て行く。
しばらくして残ったのは俺達とファルガとシュエ。
「……オッサン」
「喋るな神城。それについては、町についてからでいい。今は帰るぞ……それと、娘を助けてくれて……ありがとうな」
オッサンとシュエは部屋を出て行く。シュエが部屋を出る前に振り返ると、お辞儀をして、ファルガを追いかけていった。
「それじゃあ私達も戻りましょ。シェリアちゃん心配してるわ」
「そうだな、戻ろう」




