30話 残酷な現実
「なんだよ……これ」
町についた俺達が見た光景は、一言で地獄だった。
荒らされた町、倒れている人達。窓ガラスが割られた民家。真っ赤に燃える家。中には血まみれの人までいる。
一体、何が起きてたんだよ……
「零君……何が起きたの?」
「わかんねえよ……」
電撃が走ったかのように、あることを思い出す。
そうだ! リリナ! あいつは大丈夫か!?
「零君!?」
俺は走り出す。目指す場所は宿屋の一室。
宿の扉を開けて、荒らされたロビーを過ぎ、リリナとシェリアの部屋を開ける。そこに広がっていたのは誰もいない、部屋。
もう一つリンの部屋も見てみるが、こちらも変わらない。
「嘘……だろ」
崩れ落ちるように膝をつく。
後ろから足音が聞こえる。シェリアが俺の頭の上から、何もない部屋を見る。
「二人とも……いない?」
「どこにいったんだよ……」
それに一体この町で何が起きたんだ? とりあえず今は情報を集める。
俺はシェリアの手を取ると、宿を出る。
今は無事な人を探して、何が起きたか訊くべきだ。
「酷い……ね」
「ああ、一体誰が……」
倒れている人はほとんど息をしていなかった。中にはシェリアぐらいの男の子もいた。
大半が切りつけられたり、魔法で攻撃されたような感じだった。
すると、見覚えのある姿を見かける。
「ぅ……」
あの特徴的な大剣に、義手は……!
俺は急いでオッサンの元へ駆け寄る。
「オッサン!! 大丈夫か!?」
「か、神城か……お前さん無事だったのか」
辛そうな声でそう呟く。身体を見ると傷だらけで、重症に見える。
くそ、こんなときに俺が魔法を使えたら!
その時、シェリアがファルガによると、ファルガを赤く優しい炎で包み込む。
「シェリア……?」
「神力は人の生命力に近いの。リリナみたいに治癒は出来ないけど、応急処置ぐらいなら出来る」
リリナもそういえば言っていた。神力は生命力に近いと。
神の子はこうやって回復させることも出来るのか。
「すまねえな……すこし楽になった」
息が整っていくファルガ。これなら死ぬことはなさそうだ。
ホッと安堵の息をつく。
「オッサン、一体何が起きたんだ?」
「俺にもよくわからねえ、ただ盗賊の奴等だと思う。あいつら、町のギルドメンバーが少ない時に襲ってきやがった」
悔しそうに喋るファルガ。
俺がこの町にいれば……こんなことにはならなかったのに……!
「そうだ! シュエはどうした!?」
「シュエは……あいつ等に連れてかれた……! 町の子供達や女もみんな連れてかれた! くっそ、俺は……シュエを、娘を守れなかった!」
連れてかれたという言葉に、死んでいないと思い少しだけ安心する。まだ死んではいない。助けられるはずだ。
「どうして……子供達を……」
「神の器だ……子供達を国に売るつもりなんだよ、あいつらは……!。女は大方奴隷にするつもりだろう……!」
「ってこては……リリナは……」
「ああ、おそらく青毛のお嬢ちゃんも、お前のとこの姉ちゃんも連れてかれたはずだ……」
その一言で俺は顔の血の気が引いた気がした。
激しく後悔をした。どうして、俺は外に行った? 町いて、リリナの傍にいてやれば、助けれたはずなのに。
「子供……そうだ! シンは!? あいつも妹がいるはずだ!」
「シンは……おそらく家だ。ここから……東に行けば赤い屋根が見える、そこがあいつの家だ」
シェリアにファルガを頼むと、俺は急いでその赤い屋根の家に目指して走った。
数分すると、見えてくる赤い屋根。間違っていようと関係ない。俺は急いで扉を開ける。
「シン!!」
叫びながら入ると、見えたのは飛び散った鮮血。そして血に濡れた絨毯。
震える瞳でゆっくりと視線を上げると、見えたのは壁にもたれる真っ赤な状態のシンだった。
「おい大丈夫か!?」
俺の叫びに、かすかに目が開く。
よかった! まだ意識はあるみたいだ!
「零……さん……ですか」
「喋るな、今治癒魔法が使える奴を呼んでくるから!」
「待って……ください」
行こうとする俺を止めるシン。
そして消えそうな声で喋りだす。
「妹を……レナを……助けてください」
「何言ってんだよ……! お前が助けなきゃ駄目だろ!?」
そういうと、シンは少し笑う。
おい、なんで笑ってんだよ? やめろよ……最後みたいな顔するの。
俺の中で、あの時の光景が……フラッシュバックするように、今の光景と重なるように甦る。
「僕は…………もう、助かりませんから」
「そんなこというな。今からでも間に合う!」
死なないでくれ! お前は妹を守るっていったじゃないか!
頼むから……死なないでくれ! 俺の前で誰かが死ぬのはもう見たくないんだよ!
「お願いです……」
「お前は妹を守るっていっただろ!! なら生きろ!」
「妹に……伝えてくれますか? ごめんねって……」
その言葉を言うと、ゆっくりと目を閉じていくシン。そして手の力も抜けていく。
「レナ……ごめんね」
そして糸が切れたようにシンは動かなくなる。
嘘だろ……? 嘘だよな? これは夢だよな? こんなのってないよな?
「なんで……なんだよ! なんでこいつらが殺されなきゃなんないんだよ!!」
シンの亡骸に一つ二つと涙が落ちていく。
あの時と一緒だ、ミーシャの時と一緒だ。俺はどうして……いつも遅いんだ!
俺がいればこの町は救えたのに!
「シンは……駄目だったか……」
声が聞こえて振り返れば、扉に立っていたのはファルガとシェリア。
シェリアが抱えながらやってきたみたいだった。
「オッサン……」
「お前が悔やむことじゃない。誰も盗賊が攻めてくるとは予想できないからな」
「でもよ……俺がいれば変わったんだぞ? 誰も死なずに済んだんだぞ? あんたの娘だって!」
「神城!!」
ファルガが泣いている俺を一言怒鳴る。
その一言で俺は泣くのを止め、ファルガの顔を見る。
「今お前がしなくちゃいけないのは何だ? 泣くことか?」
「……違う」
「そうだろ、お前は青毛の嬢ちゃんを助けるんだよな? こんなところでお前をいくら責めても、なにも変わりはしねえ」
そうだ、オッサンの言うとおりだ。俺がしなきゃならないのは、泣くことでも、悲しみに浸ることでもない。
あいつらを助けることだ。
「助ける……リリナを、シュエを。町の人を」
俺はフラッと立ち上がると。ファルガにあることを訊く。
「なあオッサン……盗賊の奴等の居場所ってわかるか?」
「お前……まさか、一人で行くつもりか?」
その問いに無言でファルガを見る。
だがファルガは教えてくれなかった。いや教えれないのだろう。一人では無謀だからだ。
「駄目だ。ギルドの連中が戻ってくるまで待て」
「でもよ……」
「いいから。今は待て。あいつらもすぐに売ろうとは出来ないはずだ」
オッサンの手が震えるのがわかった。オッサンは娘を捕らえられて……今すぐにでも助けに行きたいはずだ。
それなのに冷静に、状況を見ていた。確実に助け出すために。
「幸い、町の人も全員殺されちゃいない。隠れてる人もいたみたいだからな……それじゃあ、ギルドで俺達は待つぞ」
そしてファルガは剣を杖にするようにフラフラと歩いていく。
「行く前に……俺はシンを弔ってから行くよ」
「ああ、そうしてやってくれ……そのままじゃ可哀想だ……」
シンの亡骸を持ち上げる。シェリアも手伝ってくれた。
町の人の亡骸は、墓地に集められた。そして一人ずつ、埋葬していく。
泣き叫ぶ人達、その亡骸にすがる人。この場が悲しみに溢れていた。俺とシェリアもシンの亡骸を埋める。土を掛けているとき、二人とも涙が止まらなかった。
シェリアはグスッと泣きながら、シンの墓に手を添えるとポオと優しく光りを帯びだす。
「シェリア……?」
「……寒くないように……せめて……私の炎で……あっためてあげる」
泣きながら俺にそう言った。こいつは……他人を思いやれる優しい子だからこそ、そうやって出来るんだろう。
俺はその頭に手を乗せると、その様子を黙ってみていた。
ここはギルドの前に置いてあるベンチ。俺はそのベンチに一人で座っていた。
夜風が冷たい。腕が冷たい。すると俺は右腕に着けているリングの存在に気づいた。
「これって確か……リンがリリナに万が一のことがあった時のために着けた……」
帝国にいるときに居場所がわかるようにと、リンが手配してくれた物だ。確か使い方は……
俺はリンの言っていたことを思い出すように、リングを構う。するとリングから白く細い線が一定方向に伸びる。
「この光の差すほうに……リリナが」
この時、頭にファルガの言葉が甦る。「駄目だ、待て」という言葉が。
だが俺は……待てなかった。もはや感情で動いていた。
「悪い……オッサン。やっぱり無理だ……」
静かにベンチから立ち上がると、俺はその光りに向かって歩き出す。
俺が去った後のベンチに紙だけ置いておく。覚えたての文字で書いた言葉「行ってくる」とだけ書いたメモを残して。
「俺が……終わらせる。邪魔する奴は全て消す……!」
身体に霧を纏いだす。俺の周りは星の光りと合わさって不気味に白く霞んでいた。
あいつを助けるためなら迷わない。ここの人達を助けるためなら……消しても構わない。
大量殺人? 構わない、やってやるよ。悪党でもなんでもいい、俺はあいつらさえ救えればそれでいい。
俺の目は復讐、憎悪、憎しみ、怒り、様々な負の感情が混ざり合っていた。そしてゆっくりと町を出て行った。




