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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
二章 シュトラスの町編 暖かい町、そして無情な現実
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30話 残酷な現実

「なんだよ……これ」


 町についた俺達が見た光景は、一言で地獄だった。

 荒らされた町、倒れている人達。窓ガラスが割られた民家。真っ赤に燃える家。中には血まみれの人までいる。

 一体、何が起きてたんだよ…… 


「零君……何が起きたの?」


「わかんねえよ……」


 電撃が走ったかのように、あることを思い出す。

 そうだ! リリナ! あいつは大丈夫か!?


「零君!?」


 俺は走り出す。目指す場所は宿屋の一室。

 宿の扉を開けて、荒らされたロビーを過ぎ、リリナとシェリアの部屋を開ける。そこに広がっていたのは誰もいない、部屋。

 もう一つリンの部屋も見てみるが、こちらも変わらない。


「嘘……だろ」


 崩れ落ちるように膝をつく。

 後ろから足音が聞こえる。シェリアが俺の頭の上から、何もない部屋を見る。


「二人とも……いない?」


「どこにいったんだよ……」


 それに一体この町で何が起きたんだ? とりあえず今は情報を集める。

 俺はシェリアの手を取ると、宿を出る。

 今は無事な人を探して、何が起きたか訊くべきだ。


「酷い……ね」


「ああ、一体誰が……」


 倒れている人はほとんど息をしていなかった。中にはシェリアぐらいの男の子もいた。

 大半が切りつけられたり、魔法で攻撃されたような感じだった。

 すると、見覚えのある姿を見かける。


「ぅ……」


 あの特徴的な大剣に、義手は……!

 俺は急いでオッサンの元へ駆け寄る。


「オッサン!! 大丈夫か!?」


「か、神城か……お前さん無事だったのか」


 辛そうな声でそう呟く。身体を見ると傷だらけで、重症に見える。

 くそ、こんなときに俺が魔法を使えたら!

 その時、シェリアがファルガによると、ファルガを赤く優しい炎で包み込む。


「シェリア……?」


「神力は人の生命力に近いの。リリナみたいに治癒は出来ないけど、応急処置ぐらいなら出来る」


 リリナもそういえば言っていた。神力は生命力に近いと。

 神の子はこうやって回復させることも出来るのか。


「すまねえな……すこし楽になった」


 息が整っていくファルガ。これなら死ぬことはなさそうだ。

 ホッと安堵の息をつく。


「オッサン、一体何が起きたんだ?」


「俺にもよくわからねえ、ただ盗賊の奴等だと思う。あいつら、町のギルドメンバーが少ない時に襲ってきやがった」


 悔しそうに喋るファルガ。

 俺がこの町にいれば……こんなことにはならなかったのに……!


「そうだ! シュエはどうした!?」


「シュエは……あいつ等に連れてかれた……! 町の子供達や女もみんな連れてかれた! くっそ、俺は……シュエを、娘を守れなかった!」


 連れてかれたという言葉に、死んでいないと思い少しだけ安心する。まだ死んではいない。助けられるはずだ。


「どうして……子供達を……」


「神の器だ……子供達を国に売るつもりなんだよ、あいつらは……!。女は大方奴隷にするつもりだろう……!」


「ってこては……リリナは……」


「ああ、おそらく青毛のお嬢ちゃんも、お前のとこの姉ちゃんも連れてかれたはずだ……」


 その一言で俺は顔の血の気が引いた気がした。

 激しく後悔をした。どうして、俺は外に行った? 町いて、リリナの傍にいてやれば、助けれたはずなのに。


「子供……そうだ! シンは!? あいつも妹がいるはずだ!」


「シンは……おそらく家だ。ここから……東に行けば赤い屋根が見える、そこがあいつの家だ」


 シェリアにファルガを頼むと、俺は急いでその赤い屋根の家に目指して走った。

 数分すると、見えてくる赤い屋根。間違っていようと関係ない。俺は急いで扉を開ける。


「シン!!」


 叫びながら入ると、見えたのは飛び散った鮮血。そして血に濡れた絨毯。

 震える瞳でゆっくりと視線を上げると、見えたのは壁にもたれる真っ赤な状態のシンだった。


「おい大丈夫か!?」


 俺の叫びに、かすかに目が開く。

 よかった! まだ意識はあるみたいだ!


「零……さん……ですか」


「喋るな、今治癒魔法が使える奴を呼んでくるから!」


「待って……ください」


 行こうとする俺を止めるシン。

 そして消えそうな声で喋りだす。


「妹を……レナを……助けてください」


「何言ってんだよ……! お前が助けなきゃ駄目だろ!?」


 そういうと、シンは少し笑う。

 おい、なんで笑ってんだよ? やめろよ……最後みたいな顔するの。

 俺の中で、あの時の光景が……フラッシュバックするように、今の光景と重なるように甦る。


「僕は…………もう、助かりませんから」


「そんなこというな。今からでも間に合う!」


 死なないでくれ! お前は妹を守るっていったじゃないか!

 頼むから……死なないでくれ! 俺の前で誰かが死ぬのはもう見たくないんだよ!


「お願いです……」


「お前は妹を守るっていっただろ!! なら生きろ!」


「妹に……伝えてくれますか? ごめんねって……」


 その言葉を言うと、ゆっくりと目を閉じていくシン。そして手の力も抜けていく。


「レナ……ごめんね」


 そして糸が切れたようにシンは動かなくなる。

 嘘だろ……? 嘘だよな? これは夢だよな? こんなのってないよな?


「なんで……なんだよ! なんでこいつらが殺されなきゃなんないんだよ!!」


 シンの亡骸に一つ二つと涙が落ちていく。

 あの時と一緒だ、ミーシャの時と一緒だ。俺はどうして……いつも遅いんだ!

 俺がいればこの町は救えたのに!


「シンは……駄目だったか……」


 声が聞こえて振り返れば、扉に立っていたのはファルガとシェリア。

 シェリアが抱えながらやってきたみたいだった。


「オッサン……」


「お前が悔やむことじゃない。誰も盗賊が攻めてくるとは予想できないからな」


「でもよ……俺がいれば変わったんだぞ? 誰も死なずに済んだんだぞ? あんたの娘だって!」


「神城!!」


 ファルガが泣いている俺を一言怒鳴る。

 その一言で俺は泣くのを止め、ファルガの顔を見る。


「今お前がしなくちゃいけないのは何だ? 泣くことか?」


「……違う」


「そうだろ、お前は青毛の嬢ちゃんを助けるんだよな? こんなところでお前をいくら責めても、なにも変わりはしねえ」


 そうだ、オッサンの言うとおりだ。俺がしなきゃならないのは、泣くことでも、悲しみに浸ることでもない。

 あいつらを助けることだ。


「助ける……リリナを、シュエを。町の人を」


 俺はフラッと立ち上がると。ファルガにあることを訊く。


「なあオッサン……盗賊の奴等の居場所ってわかるか?」


「お前……まさか、一人で行くつもりか?」


 その問いに無言でファルガを見る。

 だがファルガは教えてくれなかった。いや教えれないのだろう。一人では無謀だからだ。


「駄目だ。ギルドの連中が戻ってくるまで待て」


「でもよ……」


「いいから。今は待て。あいつらもすぐに売ろうとは出来ないはずだ」


 オッサンの手が震えるのがわかった。オッサンは娘を捕らえられて……今すぐにでも助けに行きたいはずだ。

 それなのに冷静に、状況を見ていた。確実に助け出すために。


「幸い、町の人も全員殺されちゃいない。隠れてる人もいたみたいだからな……それじゃあ、ギルドで俺達は待つぞ」


 そしてファルガは剣を杖にするようにフラフラと歩いていく。


「行く前に……俺はシンを弔ってから行くよ」


「ああ、そうしてやってくれ……そのままじゃ可哀想だ……」


 シンの亡骸を持ち上げる。シェリアも手伝ってくれた。

 町の人の亡骸は、墓地に集められた。そして一人ずつ、埋葬していく。

 泣き叫ぶ人達、その亡骸にすがる人。この場が悲しみに溢れていた。俺とシェリアもシンの亡骸を埋める。土を掛けているとき、二人とも涙が止まらなかった。

 シェリアはグスッと泣きながら、シンの墓に手を添えるとポオと優しく光りを帯びだす。


「シェリア……?」


「……寒くないように……せめて……私の炎で……あっためてあげる」


 泣きながら俺にそう言った。こいつは……他人を思いやれる優しい子だからこそ、そうやって出来るんだろう。

 俺はその頭に手を乗せると、その様子を黙ってみていた。



 ここはギルドの前に置いてあるベンチ。俺はそのベンチに一人で座っていた。

 夜風が冷たい。腕が冷たい。すると俺は右腕に着けているリングの存在に気づいた。


「これって確か……リンがリリナに万が一のことがあった時のために着けた……」


 帝国にいるときに居場所がわかるようにと、リンが手配してくれた物だ。確か使い方は……

 俺はリンの言っていたことを思い出すように、リングを構う。するとリングから白く細い線が一定方向に伸びる。


「この光の差すほうに……リリナが」


 この時、頭にファルガの言葉が甦る。「駄目だ、待て」という言葉が。

 だが俺は……待てなかった。もはや感情で動いていた。


「悪い……オッサン。やっぱり無理だ……」


 静かにベンチから立ち上がると、俺はその光りに向かって歩き出す。

 俺が去った後のベンチに紙だけ置いておく。覚えたての文字で書いた言葉「行ってくる」とだけ書いたメモを残して。


「俺が……終わらせる。邪魔する奴は全て消す……!」


 身体に霧を纏いだす。俺の周りは星の光りと合わさって不気味に白く霞んでいた。

 あいつを助けるためなら迷わない。ここの人達を助けるためなら……消しても構わない。

 大量殺人? 構わない、やってやるよ。悪党でもなんでもいい、俺はあいつらさえ救えればそれでいい。

 俺の目は復讐、憎悪、憎しみ、怒り、様々な負の感情が混ざり合っていた。そしてゆっくりと町を出て行った。


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