29話 北西の湖へ
その目的の湖を目指して歩く。リンの話によると、町を出て街道を進んで北西に向かったほうが、わかりやすいらしい。
今はその整備された土の街道を歩く。しかし、本当にこの世界って自然豊かだよな。
何度見ても思ってしまう。その景色にそう感じる。
「フン、フフンー」
横にいるのは鼻歌を歌いながら歩くシェリア。機嫌いいなー、一体何があったんだ?
シェリアに町を出るときに、手を繋いでほしいと頼まれたので、右手で繋いでいる。
「小さい……手だな……」
その小さな手を見て、自然と声が漏れる。
「え? どうしたの?」
「いや、なんでもない。ただ可愛いらしい手だと思ってな」
「もーそれなら、いつでも握ってもいいんだよ?」
「いや、それは遠慮しておこう」
横で「えー」といいながら文句を言うシェリア。
毎回毎回手を繋いでたら、動きにくくてかなわんからな。
「昨日あれだけ魔物いたから、外にはまだうじゃうじゃいるかと思ったが、そうでもないんだな」
辺りを見渡しても魔物らしき気配は感じられない。むしろ鳥の鳴き声なんかが聞こえてくるほど。
丘や、林なんかを見てもいなさそうだ。
「少し私が神力帯びてるから、それで余計に近寄らないんだけどね」
「威嚇みたいなもんか?」
「そもそも魔物って神力が好きじゃないの。だからかな?」
なるほど、例えるなら虫除けスプレーみたいな感じか。
シェリアを見ても、全然そんな感じには見えない。本当に少しだけなんだな。仮に出力を上げたら、この辺が焼け野原になるしな。
「あれが、例の湖か?」
「そうみたいだね。場所的にもここだし」
街道から北側に見える湖。遠くからであまりよくわからないが、大きさ的にそこそこある感じだ。
俺達はその湖に向かうために街道から出ると、草木が生い茂る道を歩いていく。
数分ほど歩くと、見えてきたのはまるで底が見えるほど透き通った綺麗な湖。その水面には景色が鏡のように映っている。
「綺麗な湖だねー」
「こんなとこで昼寝したくなるな」
風が通ると、周りの木々や草が、楽器のように自然の音を奏でる。
心が落ち着くな。ボーとその綺麗な景色と、自然の音に身を任せるようにしていた。シェリアも一緒みたいで、目を閉じて全身で自然を感じている。
「さてと、依頼を終わらせて。ここでのんびりするか」
「そうだね、私ちょうどお昼ごはん持ってきたし!」
「準備いいなお前。いつの間に」
「出来る嫁は夫のために愛妻弁当を作るの!」
「お前の夫じゃないけどな。まあでも、作ってきたのはうれしいぞ」
頭を撫でてやると嬉しそうにする。
しかしいつの間に作ったんだこいつは。おそらく予想だが、おっさんの家で作ったとしか考えられん。
「むー絶対にいつか振り向かせてみせるから……」
ぶつぶつと呟くシェリア。何を言っているのか聞き取れない。
まあいいや、ひとまず依頼をこなそう。確か銀色のリングだったな。
「じゃあ探すか」
「はーい」
シェリアと俺は、湖の周りをくまなく捜索しながら、その目的の品を探す。
数時間が経過したが、見つかる気配は無い。それよりも探してる途中で、シェリアが虫を見て驚いたりして、焼き払ったりとそっちのほうが大変だった。
「……あったか?」
「全然見つからないよ」
「やっぱりか」
俺とシェリアは木下の木陰に移動する。ちょっと休憩だ。
本当にそのリングがあるのか心配になってきたぞ。時間もそろそろ昼過ぎだし、腹も減ったな。
「零君、そろそろお弁当食べる?」
「そうだな。食べるか」
シェリアは木陰の傍に置いておいた包みを持ってくると、包みをあける。
中から現れたのは、サンドイッチだ。
「えへへ、私が作ったんだよー」
「へーお前意外と料理できるんだな」
「それどういう意味? まあ……シュエに手伝ってもらってけど」
俺はその中の一つを摘むと、口に入れる。
中身は卵かな? 素材の味が出てて美味いな。
「おいしい?」
シェリアがその様子を見て、恐る恐る俺に訊いてくる。
俺は親指を立てると、美味さをアピールする。
「おいしいぞ」
「そっか……えへへ、よかった」
本当にうれしそうに答えるシェリア。その眩しい笑顔に、一瞬だけ心がドキッとしたのは内緒だ。
落ち着け、相手は11歳だぞ。子供だぞ。
「あれ? 顔赤いよ?」
「きき気にするな! ほら、お前も食べろよ?」
俺が照れてどうすんだ。風景を見て、心を落ち着かせるように言い聞かせる。
その時シェリアが、俺にあることを訊いてきた。
「零君は、この旅が終わったら……どうするの?」
「終わったら?」
考えたこともなかったな。旅が終わったら、神の子を助けたら。俺はどうする?
元の世界に帰る? それとも残る? まあまず帰り方わからないけど。
「なあシェリア。俺がもしも、この世界にはない世界から来てたら信じるか?」
「たまに話す日本って国のこと? 私は……信じるかな。零君嘘ついてるようにみえないし」
「信じてくれるか」
「元の世界に……帰っちゃうの?」
その一言聞いて、俺は喉がグッと押えられるような感じになる。
「……帰りたくない」
ボソッと喋る。嫌われてる世界に帰りたくなんかない。シェリアは聞こえていなかったのか、首を傾げる。
でも俺は……この世界にいてもいいのだろうか。
「え?」
「いや、なんでもない。わからないだけだ」
「そっか……じゃあまだチャンスはあるんだね」
チャンス? 一体何のことだろうか。たまにリリナといい、こいつといい。わけのわからないことを言うな。
「お前はどうするんだ?」
「私は、学校に通いたいし。友達も作りたい。でも一番は……」
シェリアはチラッと見ると、続けて話す。
「将来、結婚したいかなーそれで! いっぱい子供欲しい!」
大家族って感じか。いっぺんは夢見るよな。
「ほーそりゃ、幸せそうな将来だな」
「でしょ? それでそれで、零君って――子供って何人欲しい?」
なんでそれを今、俺に訊くんだこいつは?
そいうのって将来結婚して、夫とする会話だろ。
「なんで俺に聞くんだ?」
その言葉にガクッと肩を落とすシェリア。なんか変なこと言ったか?
ジト目で俺を見ている。
「うん、いやまあ……わかってたけど。零君、それ演技じゃないよね?」
「いやなに言ってるのか、さっぱりわからんが」
そして深くため息をつくシェリア。そしてボソッと一言「鈍感すぎるよ」と言われた。
鈍感って俺がか? 俺はかなり鋭いほうだと思うがな。
俺は木陰から出ると、身体を伸ばすように背伸びをする。
「さて、再開するか。夕方までには見つけるぞ」
「ハァ……うん、そうだね」
でも、いつか決断のときが来るんだろうな。俺がこの世界に来たならきっと、帰る方法だってある。
全てが終わった時、どうするかは……自分次第か。
俺は捜索しながら、この旅が終わった時のことを考えていた。
空はオレンジ色に変わり始め、日が傾き始める。
まあ成果はというと、見つかってない。本当にあるのかと疑いたくなるぐらいに。
俺達は疲れ切った顔をしている。まさに慢心創意と言った感じだ。
「日が落ちてきたし……帰るか」
「そうだね、夜になったら見えないし」
あー依頼主になんて言おう。あの人は見つからなくてもいいとは言ってたけど、言いにくいなぁ。
肩を落として、落ち込むような感じになる。まあ明日も来ようかな……明日はリリナも一緒に。
そして来た道を戻るように歩いていく。
「明日も来るか」
「零君諦めないねー」
「あのまま、ありませんでした! なんて言えないしな」
前払いでお金をもらってる手前、余計に。後払いなら断るとか出来るけどな……
草の生い茂る道から街道に戻る。
この時、俺は町がいつもと違うことを少しだけ感じる。
「零君……町から煙みたいのが出てる」
「煙……?」
よく見ると、シュトラスの町から黒っぽい煙が少しだが出ている。
何かの祭りとかか? いやそんなこと聞いてないし、それなら町を出る前に準備とかしてるのを見かけるはずだ。
「シェリア、炎とか感じるか?」
「……」
シェリアは意識を集中させるように、目を閉じる。
そして数秒後、目を見開く。
「これって……もしかして、火事? 何かが燃えてる?」
「マジかよ!」
俺はシェリアの手を掴むと走り出す。
火事だと? まさかリリナ達が巻き込まれてないよな!?
色々な不安がつのる。リンが近くにいるから、大丈夫だと思いたいが……!
俺の中で嫌な予感がした。俺の予感は嫌なときは当たる……頼む、当たらないでくれ。
「急ごう!」
「ああ!」
何事もないことを祈る。
息がを荒げながら走る。シェリアは疲れたのか、途中で炎の翼を使って飛び出す。
頼む、無事でいてくれ!
だがこの後俺達が見たのは、予想以上に衝撃的な光景なのをまだ知らなかった。




