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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
序章 プロローグ 世界に否定されて生きてきた少年
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2話 力の発動

 突如、男の一人が異変に気づいたように俺のほうを振向いた。


「なんだこいつ……」


 その声を聞いた他の男達も振り返る。そしてその目は驚いたように丸くしていた。


「切り殺しはずだぞ! なのに――」


 そりゃ驚くよな? だって俺立ってるから。


「――なんでこいつは立っている!?」


 右にいる男に捕まえられた少女も俺の姿を見て驚きを隠せないようだった。

 よく見れば目は腫れて泣いていたことがわかる。見ず知らずの俺のために泣いてくれたのか?


「それにこいつの周りの白い霧はなんだ……?」

「まさかスキル所持者じゃ……」

「アホか、スキル持ちは一〇〇万人に一人の割合だぞ? こんな魔法も使えない奴が持っているわけないだろ!」


 不思議となんで俺も立てたのかわからない。でもなんだろうな、切られた箇所は痛くない。だが血は絶え間なく出ている、でも不思議と動けた。


「構わん! 殺せ!」


 左にいた男が斬りかかる。今度は首を胴体から切り離すように。しかしその刃は――俺に届く事はなかった。


「ギャアァァァ!! 俺の――俺の腕が! 足が!!」


 その男の右手に持っていたサーベルは霧に触れた瞬間――消えた。まるで無かったかのように。


 そして霧に触れた腕も脚も同じように消えていた。切断されたのとは違う。千切れたわけでもない。ただ白い霧に触れただけなのに。

 俺も何が起きているわからなかった。何故こいつらは霧に触れただけで塵のように消えた? 俺はなんともないのに。


「やはりスキル所持者か! 魔法で殺せ!」


 その合図で残りの二人は手を構える。

 手の平に緑色の光が集まったと思うと、ペットボトルのキャップのような大きさの球体が大量に俺に向けて弾丸のごとく発射される。

 これが魔法なのだろうか? と思っているとその緑の光弾は霧に触れた瞬間、さっきのように消え去る。


「魔法も効かないだと……!?」

「ここは応援を呼ん――」


 次の言葉を言おうとした時、倒れていた男の顔が消える。そして血しぶきを上げながらその場に横たわる。その残った体も徐々に霧に包まれていきその姿を塵に変えていく。


「ヒッ!」

「てっ! 撤退だ!」


 仲間の一人が塵になり、危険だと判断したのか路地から脱出しようと逃げる。

 だが逃がさないぜ? その子をまだ助けてないからな。

 白い霧が男達の退路を塞ぐ様に前に現れる。逃げ道は他にないか探すが上も前も後ろも横も。全て白い霧に包囲されていた。


「た……助けてくれ……」


 死にたくないのかリーダーのような男が俺に命乞いをする。


「ほら……! お前を病院に連れて行って治療してやる! だから、な!」


 俺は無言で男に近寄る。身体は真っ赤で歩くたびに足に血の水溜りが出来るほどだ。

 男は最終的には土下座をして命乞いをする。もう一人の男も同様だ。少女はその後ろで尻餅をつくように、その様子を怯えたように見ていた。


「駄目か……? なら金か!? 金ならやるぞ、ほら!」


 焦った手つきで懐から財布らしき物を出す。

 生憎だが俺は金なんて欲しくない。俺はその子を助けるだけだ。お前らがいたらその子はまた危険な目に遭うだろ? それに俺も斬られたしな。


「頼む……! 見逃し――」


 その言葉を最後に中央にいた男は身体がすべて塵となって消えた。血すら残さずに。

 怯える様子で俺を見る最後の一人。大人なのにみっともなく目に涙を浮かべている。さっき俺を斬ったときの威勢はどうしたんだよ?


「お願――!」


 最後の男も全身塵となって消えた。そして俺は少女を見る。

 少女はビクッとして俺を震えた目で見ていた。怖いよな、目の前で人が消えてさ。悪いなこんな怖い思いさせて。

 俺はそう思いながらその場に倒れこんだ。意識が朦朧とする。少女が怯えながら俺に近寄って来ている。危ないぞ、お前も消えるぞ?

 でも少女は消えなかった。霧に触れているのに。あの男達を塵に変えた霧に全身が触れているのにだ。


「なんで……私のために……?」


 顔に暖かい物が落ちた。雨か? いや涙か。

 なんで泣いてるんだよお前は? 見ず知らずの奴が死んで何で泣けるんだ?


「女の子……一人守れないなんてさ……かっこ悪いだろ?」


 最後の力を振り絞ってその少女に答えた。少女は頭をブンブンと勢いよく横に振る。否定してるのか?

 今の俺って最高にかっこいいよな……死にそうになりながらも女の子を守るなんてさ。こんな死に方なら悔いはない。


「誰か来る前に……早く……逃げろ……」


 その言葉を最後に俺は視界が暗くなっていくのがわかった。

 そうかいよいよ死ぬわけか俺は。まあ最悪な人生だったけど。こんな終わりかたなら悪くないな……

 俺は闇に沈む意識の中、何か暖かいものに包まれていく感じがした。






 『この世界を……私達を――助けて』



 あれは一体どういうことだったのだろうか? 俺に誰かを救って欲しいのだろうか? 力もなく、才能もない俺に?

 それよりなんだか暖かい。心があったまるような感じだ。このまま俺は天国にでも行くのか? いや――地獄か、人を殺したしな。

 さて地獄ってのはどんなところだろうな?

 そして、俺は目を開けた。



 視界に入ったのは起きたときと変わらないビルに囲まれた路地の中。

 ただそのときと違うのは服だ。真っ赤で汚れている。これはあの時切られた時の血だろう。ということは俺は生きている?

 俺は起き上がると辺りを見回す。あの男達もいない、そして俺の横にはあの青髪の少女がいた。


「……生きてる?」


 少女に訊くように尋ねる。


「私が治療したの」


 治療したってあの傷を? 病院行っても助かるかどうか分からないくらいの致命傷だったのに?

 困惑した表情で俺は少女を見る。いくら魔法がある世界だといっても、あの傷を治すなんて信じられないからだ。


「神力を使えば治療できる。神力は人の生命力に近いから」


「なんだかよくわからんが……助けてくれたってこと?」


「あなたは私を命を懸けてまで逃がそうとしてくれたでしょ。そんな優しい人に死んでほしくなかったの」


「まあ意地みたいのもあったけどね……」


 俺は首を上げてビルの隙間から見える空を見る。もう空は暗く星が見える。


「なあ、俺にこの世界のことを分かる範囲でいい、教えてくれないか?」


 そう訊くと少女はこの世界のことについて丁寧に教えてくれた。

 聞いててわかったことは、この世界はやはり異世界。科学はなく魔学というものがあり 、そして魔法が存在している。

 各国は神の子という、この子のような特殊な子を探していて、それは世界に二十人存在するということ。そして確認されているのは十六人、少女は十六人目の神の子らしい。

 あとは俺の力だが、あれはまれに個人が発動する「スキル」と呼ばれるものだということ。そしてスキルは魔法とは別の力だということ……などなどだ。


「まあ……なんとなく分かった」


 ということはこの子はこの先どこに行っても誰かに襲われるってことか……


「じゃあ……私は行くね」


「お、おい! どこに行くんだよ!」


「だって私がいるとあなたに迷惑かかるから」


 自分と一緒にいると俺まで被害を受ける。確かにさっきみたいに、死にかけることもあるだろうな。

 でも、この子を一人にして……いいのか?


「待てよ! 一人でどうにか出来るのか!?」


 俺の問いに少女は黙ったままだった。どうにも出来ないのだろう。

 おそらく俺の推測だが神力とやらも、少女のは攻撃タイプではなく、回復タイプなのだろう。でなければあんなにあっさり捕まったりしない。


「だったら――一緒に来てくれる?」


 その目はとても寂しそうだった。

 俺は「わかった」とはすぐに言えなかった。この一言には相当の覚悟が必要だと感じたから。


「あなたが助けてくれて嬉しかったの。町の人は私が神の子だって分かれば軍に突き出すから……でも、あなたは私を助けてくれた」


「なら……」


「だから――もう巻き込めないの」


 少女はそう言ってその場を立ち去ろうとする。

 俺はどうすればいい? この子と一緒に逃げることは茨よりも厳しい、戦場のど真ん中を走るようなものだ。世界を敵に回して、それでも助けるのか? たった一人の少女を。

 グッと拳に力を込める。決意なんて、そんなの決まっていた……


「守ってやるよ!」


 叫んだ。路地の中が響くようなほど大声で。少女は振り返ると俺の目を見た。

 立ち上がると、フラフラと少女の元へ行き、その小さな頭に手を乗せる。


「軍だろうと、国だろうと――世界だろうと相手にしてやるさ」


 この子を守ってやるさ。それがきっと俺がこの世界に来た理由だと思う。

 こんな力が無くても、才能が無くても。少女一人守れるってことを見せてやるよ。


「どうして――どうしてあなたは私を助けようとしてくれるの?」


 目が潤み、泣きながら俺に問いかける。

 そりゃ不思議だよな。世界を敵に回すってのに一人の少女を助けようとするなんて、そりゃどこのバカだろうな。まあそのバカは俺か。


「俺はお前に命を救われた――だからこの命、お前の物だ」


 手で少女の涙を拭いながら続けて喋る。


「たとえ世界が敵に回ろうと俺はお前の味方でいてやる。だから心配するな……」


 すると少女は俺の胸に顔を埋めながら、泣きながら「ありがとう……」と言った。


「どういたしまして……」


 俺は世界に嫌われている。ならとことん世界に逆らってやるよ。

 こいつを命を懸けて守ってやる。俺の命はこいつの物だからな。


「そうだ、まだ名前聞いてなかったな」


 俺の胸から顔を上げると、その可愛いらしい顔を俺に向けて教えてくれた。


「リリナ……リリナ・フローリア」


「リリナか可愛い名前だな。俺は神城零かみしろれいだ零でいいぞ」


「うん、よろしくね零」


「ああ、これからよろしくなリリナ」


 俺達の物語はこうして始まった。

 これから先、俺はこの世界の闇を、残酷な運命を見るなんて微塵も思っていなかった。


プロローグ終了〜

ストーリー的に読書の皆さんには気になってもらえるか不安です。

楽しく読んでいただけたら幸いです。

わかりにくい表現、描写等ありましたら、遠慮なく言って下さいませ。

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