28話 不安
夜風が吹き、自身の黒い髪が揺れる。空を見れば星がチカチカと輝いている。
後ろの扉越しから騒ぎ声が聞こえてくる。声は、リリナ達か。きっと5人で騒いでるんだろうな。ときおりリンの注意するような声が聞こえる。
「……この世界に……まだ救われてない子供達がいるのか」
暗い夜空を見上げながら呟く。
あいつらはいつになったら平和に暮らせるんだろうな。
すると草を踏むような足音が聞こえる。
「なに不安そうな顔してるんですか」
「シンか……」
やってきたのはシン。
俺の顔を見て心配そうに聞いていきた。
「なあシン。お前は……神の子についてどう思う?」
シンは突然俺からの質問に驚くような反応をした。
だが俺の表情を見て真剣な顔をすると、その問いに答えてくれた。
「……可哀想だと思います。決められた運命で、そして短い寿命ですから。なにより……人としてみてもらえない」
「お前は、神の子が怖くないのか?」
「怖くないですよ。だって一人の少女ですから。ちょっと特殊なだけです」
こいつみたいな考えをしていたら、世界は違っているんだろうと思った。
でも現実は甘くない。今この瞬間だって少女達の命が世界に弄ばれてる。
「どうして、僕にそんなことを?」
「いや、ちょっと気になってな」
「あの子達が――神の子だからですか?」
シンの言葉に俺の時間が止まる。
知っていたのか? いつから知っていた?
「警戒しないでください。僕はあの子達をどうこうするつもりはないですから」
「いつ、知ったんだ?」
「……雰囲気と、さっきの炎、あとは右手の包帯ですね」
確証はなかったけどなんとなく気づいてたわけか。
シンは俺の横に移動すると、一緒に空を眺めるように空を見る。
「零さんは、何故彼女達と?」
「俺はあいつに、リリナに助けられた。その時に決めたんだよ、何があっても守るって。それで気づいたら、リリナだけじゃない、神の子をみんな助けるって決めてたんだ」
シンは俺の話を真剣に聞いていた。
「11歳に満たない少女達を……帝国や他国が子供を引き取っているのはご存知ですよね?」
シンの言葉に俺はシルファスが言っていたことを思い出す。そして神の子になれなかった少女達の末路を。
その残酷な言葉を思
い出すと、唇を噛むように力が入る。
「僕の妹も……本当は施設に引き取られる予定だったんです」
「そうなのか?」
「親が、妹を国に売ったんです。お金が無いから、いらないからって。僕は許せませんでした、だから……妹を連れて家を出ました」
自身の過去を俺に話すシン。その目は悲しそうだった。
こいつも親に捨てられた一人なのか。
「僕はあの日から決めたんです、世界から妹を守ろうって。だからギルドにも入りました」
「なんで、俺に話してくれたんだ?」
「零さんは僕と一緒で守るべき物がありましたか。この話をしたのはファルガさんと零さんだけです」
シンは後ろを向き、騒ぎ声が聞こえる場所を見る。
そして俺を見るとこう言った。
「彼女達の命は……世界に遊ばれていいものじゃない、だから助けてあげてください。零さんなら出来ます」
「俺に……出来るか?」
「不思議と、零さんなら出来るって思えるんですよ」
その言葉だけで俺の不安は少し消えた。
俺なら出来るか……
「ありがとうな。元気でたよ」
「役に立てたみたいでよかったですよ。僕達が笑顔でいないと、向こうが不安になりますからね」
「そうだな」
俺とシンはお互い向き合ってニッと笑う。そして暖かい声が聞こえてくる部屋へと戻る。
扉を開けると、リリナとシェリアが俺を見て口を揃えて喋る。
「「どこいってたの?」」
「ちょっとこいつと話してただけだ」
後ろにいるシンを指す。
二人は「女の子じゃないなんて珍しい」と言う。失礼なやつらだな、俺をなんだと思ってる。
「そう言ってやんなよお嬢ちゃん達。男同士語りたい時もあるんだ、なあ?」
流石ファルガ。わかってるな。
そうだ、語りたいときがあるんだよ。
「オッサンの言うとおりだ、全くお前達は……」
「だって零って、出かけると女の子と会ってるし」
「まあそうよねー特に、小さい女の子と会ってるし」
「おい神城。まさか家のシュエと会ったのも……」
「おいお前ら! 俺を一体なんだと思ってんだ!!」
そんな様子を見て、シンやシュエが笑っている。
ああ、世界の少女たちが……こんな風に笑って過せる日が、来るといいな。いつか、必ず。
目が覚めるとそこは馬鹿騒ぎをした場所。
あのまま俺達寝てたのか。確か、オッサンが酔っ払ったとこから、収集がつかなくなったんだっけ。
身体を起こすと、身体にはタオルのような物がかけてあった。横を見ればもはやお決まりのパターン。
「こいつら……」
シェリアとリリナを見て呟く。まあ今回はいいか。
すると台所から白髪をなびかせて、シュエがやってくる。こいつは起きてたのか。
「おはようございます」
「おはよう、昨日は悪かったな」
「いえ、お父さんが迷惑をご迷惑をかけました」
ファルガの変わりに謝るシュエ。本当に良い子だなこの子。
そしてシュエは緑の瞳で、俺の横にいる二人を見ると、クスッと笑う。
「本当に零さんが大好きなんですね」
「それだけに、色々大変だけどな……兄貴みたいに、慕ってくれるのはうれしいけどな」
「……お二人も大変そうですね」
苦笑いしながら俺を見るシュエ。
なんかへんなこと言ったか? まあいいや。
ゆっくり身体を起こして、背伸びをする。
「そうだ、シン達は?」
「あの後帰りましたよ。今日は家で用事があるとかで」
てっきり泊まったのかと思ったけど違ったのか。
周りを再度見渡す。俺達以外熟睡らしく、起きる気配がない。リンも青いソファに寝転がってる。
落ち着いてみると良い家だな。白が基調で、結構広めだ。
「零さん、何か食べますか?」
「そこまでしなくてもいいぞ?」
「いえ、零さんはお客さんですから」
ああ、本当に良い子だ。この子絶対に将来、良いお嫁さんになるわ。
シュエの様子を見てしみじみ感じる。目を閉じて感動してる俺を見て、首を傾げるシュエ。
「そうだなーじゃあお言葉に甘えるとするか」
「わかりました。じゃあ準備しますね」
そう言って朝食を取りに向かった。
なんだろうか、シュエが大人っぽいてのもあるんだけど、エプロン姿が妙に似合う。
「……あーそういえば、今日から働かなきゃいけないんだったな……」
窓から見える木を見て呟く。
なんだか今日は雲が多いな。雨でも降りそうな感じだが……
雲行きの怪しい空をボーと見つめながらそんなことを考えていた。
「そういえばさ、お母さんはいないのか?」
その一言に、シュエは手を止める。
「お母さんは……10年前の大戦で亡くなりました。なので今はお父さんと二人です」
まずい地雷を踏んだな。
俺はしまったという感じに、顔が引きつる。
「悪い……」
「気にしないでください。私もお母さんのこと、あんまり知りませんし……」
シュエは振り返ると、皿に朝食を乗せてやってくる。そしてそれをテーブルに置くと、窓際に飾ってある写真を見る。
その写真に写っているはシュエと同じで雪のような白い髪の女性。横にはオッサンが映ってる。とっても幸せそうな顔をしている。
「お母さん綺麗だな……」
「ありがとうございます。きっとお母さんも喜んでます」
こいつも母親に似て綺麗な子に育ったのか。でもこんな綺麗な女の人が、どうしていかついオッサンと……
世界ってのは広いな。そう思った。
おっさんにとってシュエは亡き母親の生き形見なんだろう。
「さあ零さん、どうぞ」
「わざわざ悪いな」
俺はみんなが起きるまでシュエと話した。
お互いのこととか、この町のこと、俺の世界のこととか。
「うーん……どれにしよう」
掲示板に張られる依頼を見ながら悩む。
今俺たちがいるのはギルド内だ。時間は10時ぐらいだと思う。
「どれ受けるの?」
眉をひそめて悩む俺を見てリリナが訊く。
「出来るだけ報酬が大きいのがいいよな……」
せっかくなら報酬が高額な依頼がいい。だが、帝国とは違いこの町では、そんな依頼転がってはいない。
採取、討伐、採取、採取、手伝い、講師……色々あるんだなー大半採取だけど。
依頼の種類が意外と豊富なんだな。学校の講師とか畑手伝いとか……なんか色々あるな。
「あなた、まだ悩んでるの?」
後ろから声をかけられ振り返る。そこにいるのはリン。
こいつも少しギルドに用があるとかで一緒に来たんだ。
「なんでもいいじゃない。討伐とか採取とか」
まあ何でもいいっちゃいいんだけど、採取は種類とか見分けつかなさそうだしなぁ。
再び掲示板の依頼と睨めっこする。すると「あのー」と声をかけられる。
声がしたほうを向くと、そこにいたのは一人の幸薄そうな男性。手には依頼らしき紙を持ってる。
「依頼を選んでるんですか?」
「まあな」
「でしたら……私の依頼、受けてもらえませんか?」
そういって紙を渡してくる。俺は紙を受け取ると書かれた内容を見る。
「お……も……そ……読めない」
顔を赤くしながらそっぽを向きながら、その紙をリリナに渡す。
リリナは内容を読み上げてくれる。
「えーと、落し物の捜索だよ」
「あなたまだ読めないの?」
「うるさいな……勉強中だ」
クスクスと笑うリン。大丈夫だあと三日もすればマスターしてやる。多分。
しかし落し物の捜索か。そんな依頼もあるのか。
「実は湖の近くで落としてしまって……それを探してほしいんです」
「どんな物なんだ?」
「銀のリングです。報酬は前払いしますから、早急に見つけてほしいんです」
なるほどよっぽど大事な物なのか? 定時金額も結構高いし、これはチャンスだな。
この時この男が気になることを喋る。
「最悪見つからなくてもいいんです。ただ、あったらいいというだけで」
そんな基準でいいのか? 見つからなくてもいいだなんて……
まあ報酬金額も大きいし、せっかく頼って来てくれたし受けるか。
「んーまあいいや。じゃあ受けるよ、湖の場所はどこだ?」
「シュトラスの町の北西に20分ほどの場所です。道中は魔物も少ないので、安全かと」
そういうと、男は袋を俺に渡す。結構ズッシリとした重みから前払いのお金と思う。
なんだか前払いって申し訳ないな。少し複雑な気持ちになりながら受け取る。
そして男は俺たちに礼を言うと、逃げるように去っていった。
「……なんか……引っかかるわね、あの男」
「なんだか挙動不審ではあったな」
まあ面倒なことはいいだろ。とりあえず依頼を終わらせにその湖に向かうか。
「あ、そうだ。リリナちゃん借りるわね」
そう言うとリリナの顔が歪むのがわかる。どうやら俺の方に行きたかったようだ。シェリア、なんでお前ガッツポーズしてるんだ?
「あいつと一緒に行きたいのはわかるけど……お願い!」
「……わかった」
納得いかないようにため息をつくと、リリナはリンの頼みを聞くことにしたようだ。
そしてリリナは浮かれているシェリアを見ると一言、言っていく。
「シェリア、抜け駆けは許さないから」
「しないわよー大丈夫だから心配しないで」
「恐ろしく不安なんだけど」
ジト目でシェリアを見るリリナ。シェリアは目を反らしながら適当に返事をしている。
お前等こんなとこでいがみ合うな。というかなんで俺がこいつ一緒になると、お前は不機嫌なんだ。別にどっかに行くわけじゃないのに。
女の子って、何考えてるかわからないな……




