27話 魔物の群れ
ファルガ達を追いかけていくと、見えてきたのは町の入口。
外には数人のギルドか町の門番らしき人がいるのが見える。中にファルガ達も混ざっている。
リンは走りながらその様子を見ると、魔物の正体がわかったのか俺に教えるように話す。
「ウェアウルフ、それにリザードね」
「あの狼とトカゲみたいなやつか」
遠くから見ると四足歩行の狼と、二足歩行をしているまるで恐竜のような感じのトカゲ。
あれが魔物か、予想していたのとはすこし違ったな。予想だとゲームに出てきそうなスライムとかゴブリンとかメジャーなのだと思ってた。
意外と予想に反して、俺の世界の生き物に似ている物もいるのだと思った。特にウルフとかな。
「霧はあまり使っちゃ駄目だからね?」
「バレるからか……」
正体を知られないためにも、霧はあまり使えない。
俺はグッ歯を噛みしめる。消滅の霧を全力で使えれば、ほとんど被害を出さずに済むはずなんだが……仕方ない。
「使っても目立たない程度で頼むわよ。あなたが噂の『ゼロ』だなんてわかったら、この町にいられなくなるわ」
「わかった。見られないように極力気をつける」
だんだん入口の近づき大きくなってくる。
帝国みたいに巨大な壁で覆われてればいいんだが、この町はせいぜい家の塀ぐらいの壁。
俺は腰から白い鞘から刀を抜く。右手に構えた状態で入口を抜ける。
「おっさん、加勢するぞ!」
「神城か! 人手が足りなかったからな、助かるぞ!」
ファルガはその身丈ほどの大剣で、向かってくる一匹のウルフを切り裂く。
軽々と振り回すその姿に、驚きを隠せない。すると俺の元へも一匹向かってくる。
「――!」
咆哮のような声を上げながら俺に襲いかかるように飛びかかる。その鋭い牙で食い千切ろうと。
横にステップするようにウルフの攻撃を避けると、刀を構えて力一杯にその、黒い毛皮で覆われた体を斬りつける。
「一回じゃ無理か!」
ウルフは痛いのか血を散らしながら叫ぶ。だが死んではいない。せいぜい脇腹を少し切った程度だ。
獣にふさわしい赤い瞳でうなり睨むと、もう一度飛びかかる。今度は牙だけじゃない、手に生える皮膚を切り裂くような、鋭利な爪も使って。
「――くっ!」
刀でその襲いかかる腕を斬り落としながら、ウルフとすれ違うように移動する。
まだまだ戦いに関しては素人。ウルフ一匹にかなり苦戦する。
その時、ファルガの背後に近づく数匹のウルフが見える。
ファルガは気付いてないのか見向きもしていない。
「おいおっさん! 後――」
次の瞬間、奇襲をかけようとするウルフの一匹が、突然倒れる。
そしてまた一匹、銃声のような音が聞こえたと思うと、何かがウルフの頭を貫く。
銃声? リンがやったのか、でもあいつは今戦闘中だ。
その銃声が聞こえた方向を向くと、そこにいるのは黒く長い筒を構える少女。
町の塀の上から、獲物をロックオンするように、スコープをのぞいている。
「まさかあいつが狙撃してるのか?」
ライフルのような銃口が光ったと思うと、また一匹仕留める。
「シュエはな、遠くからのサポート専門だ。この町であいつの右に出るスナイパーはいねえぞ」
確かに、的確に敵の弱点や急所を撃ち抜いていく。動いているのにもかかわらず。
少女ですら簡単に倒すのに、俺ときたら……剣術の腕磨くか。
「まだ結構いる、さっさと片付けるぞ神城」
ファルガはまだ残っている魔物の群れを見ると、剣を構える。
数は2……5……10匹ほど。まだリザートとかいうのも5匹ほど残ってる。
魔物達は全員一斉に俺達にめがけて走ってくる。捨て身、いや数で攻めるつもりか。
「神城、お前さんは俺が弱らせた敵を頼む」
あ、俺がど素人ってわかってましたか。
反論出来ないので、ファルガの提案に乗ることにする。
「それじゃあ行くぞ!」
俺はファルガの後ろ姿を見るように走る。視線を横にずらせば、シンとリンも協力しながら戦っている。
「神城、行ったぞ!」
「任せろ!」
その鋭い刃でファルガの斬撃で弱ったウルフの頭を飛ばすように切断する。
しかし、骨に当たったのか刃の勢いが途中で止まる。
引き抜いて、もう一度攻撃しようとした時。半分ほど首が切れているウルフの腕が俺に飛んでくる。
マジかよ、こいつ首半分飛んでるんだぞ! 死ぬ間際に俺に手傷を負わせようと思ったのか、その爪の勢いは止まらない。
「――くっ!」
無意識に体の周囲が白く霞みだす。その瞬間ウルフの腕は消え去っていく。
刀を引き抜くと、その刀身に霧を纏わせるようにしてウルフの胴体を切り裂く。それは切り裂くというよりは胴体を真っ二つに崩壊させたような感じだった。
「刀身に纏わせる程度ならバレてない……?」
ファルガは俺の霧にはまだ気づいてないようだ。
今の実力を補うにはやはりこの力は必要か。刀身にだけ纏わせると、態勢をを立て直す。
今の状態って、斬れない物はない刀ってやつか。まあ斬るというよりは消すだけど。
「状況はこっちが有利だ! このままなら行けるぞ!」
次々と魔物を倒していく俺達。周りは獣の鮮血が地面にしみ込んでおり、赤黒くなっている。周りの草にも血がべっとりついている。
周りに肉片とかが転がってるのって怖い光景だな……一応魔物だからまだマシだけど。
「ん……?」
減りつつある魔物をみるとあることに気づく。
リザードが一匹いない。誰かに倒されたのかと思い、すこし周りを見渡すがいない。死体もない。
俺はファルガに近づき、その事を伝える。
「一匹いない?」
ファルガも周りを見渡す。しかし魔物の姿は見えない。
するとハッとしたようにその視線を町の塀に上っているシュエに向ける。
俺もファルガにつられるように視線を向けると、そこに見えるのは塀に上る一匹のリザード。
「おいシュエ!! 後ろを見ろ!!」
「……え?」
ファルガは大地に響くような大声で叫ぶ。
父親の声に反応し、後ろを振り向く。きっとそこに見えたのは鋭い鉤爪と牙をもったリザードの姿。
堅そうな鱗に覆われて、ギョロっとシュエを見ると。その爪で小さな体を斬り裂こうとする。
「マジかよ!!」
霧を伸ばせば間に合うか!? 駄目だ! 距離がありすぎる!
リンの銃を使えばなんとかなりそうだが、リン自体、今ウルフに狙われてそれどころじゃない。
あの爪をまともに受ければ、少女の小さな体ではとても耐えれないだろう。
「――!」
シュエはとっさに目を閉じる。
駄目だ、今の状況じゃ間に合わない。どうすればあの子を助けられる?
俺が力を使って、殲滅してれば!
「逃げろ! シュエー!!」
逃げようにもとっさの出来ごとに動けないのか、ただ目を閉じるしかできないシュエ。
その時だ、リザードの後ろが赤く光りだす。
「――焦げちゃえ!!」
その声と同時に紅蓮の炎が、リザードを包み込む。叫び声を上げる間もなく、あっという間に黒い墨になり果てる。
塀の向こう側から現れたのは、炎の翼で空を飛んでいるシェリア、そしてその両手でリリナをぶら下げている。
「シェリア!?」
あいつ留守番してろって言ったのに……でも、よくやったぞ。
「あの子……お前のとこの譲ちゃんか? あの炎……魔法なのか?」
見たこともないその炎に困惑するファルガ。そりゃ驚くよな、あんな姿見たら。
するとシェリアは大声で俺達に向かって叫ぶ。
「そこドッカーンってするから避けてねー!」
その一言に戦っている全員が「は?」といった顔をする。
俺とリンは何をしようとしたのか理解する。そしてファルガの腕を掴むと町に向かって走り出す。
「お、おい! 神城!?」
「逃げるぞ! 巻き添えくらうぞ!」
「はぁ? どういうこと――」
俺達が魔物達の残党から離れたのを確認するとシェリアはクスッと笑う。
そして一言「よーし、じゃあ焼いちゃおっか!」と言う。
魔物達の周辺が赤い粉塵のような粉が漂ったと思ったら、次の瞬間、本当にドッカーンというように爆発した。
暗い夜空が明るくなるほどの爆発。まるでタンクローリーが爆発したようなほどだった。
「……どうなってんだこりゃ」
呆然とその光景を眺めるファルガ。
そして爆発が収まり、炎が徐々に消えていくと。その場に残っているのは黒い塊があるだけ。
本当に規格外な力だな、神の炎。あーこれどうやって説明しよう。
「おい神城。あれ魔法じゃないよな? 魔法であそこまで出来ないぞ」
「あーそれは後で説明する」
苦笑いしながら答える。チラッとリンのほうを見ると、どうやらリンもシンに似たようなこと聞かれているのか笑って誤魔化してる。
「零君どうだった! 私の活躍!!」
すると俺の腹に頭突きする勢いで、翼を羽ばたかせながら飛んでくるシェリア。
俺は両手でその飛んでくるツインテール少女を止める。かなり勢いがあったのか結構腕に響く。
そして一発、シェリアの頭に拳骨とまではいかないが、結構な強さでチョップする。
「痛い!! なんでチョップするの? 私活躍したのに!」
「お前留守番してろって言ったよな? というかなんでリリナも来てるんだ」
「だって零が浮気するかと思って」
トコトコと歩きながらやってくるリリナ。
浮気ってなんだ。俺はお前らの保護者的な立場だぞ。浮気もなにもないだろ。
「ま、まあそれぐらいにしといてやれ。この譲ちゃんのおかげでシュエが助かったんだからよ」
ファルガが俺を落ち着かせるような顔でそう言う。
まあ確かにシェリアが無断で来なければ、あの子は……今頃。
俺はため息をつくと、目を細めてシェリアを見る。
「今回は許す。でも次は守れよ?」
シェリアは「はーい」といいながら適当に返事をしていた。こいつわかってるのか?
「なあ神城、この子って……」
ファルガがシェリアをジッと見ながら俺に訊き始める。
まずい、シェリアが神の子だってバレたか? シェリアの今の姿はさっきと同じで炎の翼を出し、体にほんのり炎を纏っている状態。
「まさか……スキル所持者か?」
そうきてくれたか。
こんなとこに神の子がいるとは思ってないから、自然とその答えに至ったのか?
「そ、そうだ!! こいつ実はスキル所持者でさ! 今みたいに炎が使えるんだよ!」
「そうそう! 私のスキルなの!」
シェリアも俺に続いて喋る。どうやらバレることがまずいってことは、わかってるんだなお前。
その答えにファルガも納得したように。「なるほど」と呟く。
「でもそれなら何で、来なかったんだ? 来たらもっと楽だっただろ」
そうだよな。そこにつっこむよな。
こんな強力なスキル持ってるなら連れてこないほうがおかしい。
次はどんな言い訳をしようか考えていると、別の声が聞こえる。
「まだその子、うまく力を制御出来ないのよ。さっきの爆発見たでしょ」
「確かにあれだけ強力だと制御が難しいですね」
やってきたのはリンとシン。服に砂や獣の返り血が少しついてる。
リンナイスだ。シンもファルガも納得したようだ。
でもあれでも、力のほんの一部にすぎない。全力使ったらここら一体吹き飛ぶな。
「おお、シュエ大丈夫だったか?」
シュエが背中に銃を背負った状態で歩いてくる。
見たところ外傷は見当たらない。無事で本当によかった。
シュエはシェリアの前に移動するとお辞儀する。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
シェリアは一瞬ポカーンとその様子を見ていた。
お礼を言われたことがうれしかったのか、すぐにニコッとした表情に変わる。
「ううん、当然のことをしただけよ!」
頬が赤い、照れてるのかあいつ。
顔を上げたシュエは俺達を見ると喋り出す。
「助けてもらったお礼がしたいんですけど……家で夕食、食べませんか?」
「そうだな、この子には俺も父親としてお礼がしたいな。是非来てくれないか?」
シェリアは困ったように俺を見る。
俺はその顔を見て、黙ったままうなずいた。シェリアはその意図がわかったのか小さくうなずいた。
行くか行かないかはお前が決めることだからな。
「じゃあー行こうかな?」
その返事を聞いてシュエは笑顔になる。
「決まりだな! それじゃあ今から全員で行くか!」
「え? 僕もですか?」
「当たり前だ! せっかくだからレナちゃんも連れてこい!」
シンは自分が誘われたことに驚く。そして苦笑いしながら「わかりました」と言う。
なんだか地域のふれあいって感じがして悪くない感じだ。
魔物の群れを殲滅した俺達は、ファルガの家に向かうこととなった。




