26話 親子のギルド
あれから兄妹に町を案内してもらった。おいしい果物も教えてもらったし、色々と情報も手に入った。
空は少しずつ赤くなり始めており、夕方を教える。町の人達も徐々に家に帰り始めている。
「今日はありがとう。助かったよ」
「いえいえ。僕達こそ楽しい話を聞かせてもらえました」
「また日本のこと教えてねー」
レナはあれから日本のことに興味しんしんで、様々なことを訊いてくる。とくにアニメの話に興味が湧いたそうだ。
「じゃあまたね。レナちゃん」
リリナがレナに手を振る。こいつらは歳が近いのか結構仲良くしていた。
俺もリリナにつれられて手を振る。
「では、ここで失礼しますね」
シンはお辞儀をするとレナの手を握ると、帰っていく。
本当に仲良しな兄妹だな。俺達もあんなかんじに見えるのかな?
その後ろ姿を見ながらそんなことを考えていた。
「さて、俺達も戻るか。遅くなるとリンが怒るし」
リンはギルドに用があると言っていたが何があるんだろうか?
「遅い!」
宿の扉を開けて一声。リンが腕を組んで俺を睨んでいた。
「全く、どこほっつき歩いてたのよ……集合って言ってたじゃない」
「ごめん、ちょっと寄り道してた」
リンは「まあいいわ」と言うと、ロビーに置いてある椅子に座る。
俺達もその周りにある椅子を引くと腰をかける。
「なあ、ギルドになんか用事あるって言ってたけど。何するんだ?」
「色々と手続きがあるのよ。それしないと依頼受けれないし」
その説明で俺は納得する。それしないと明日から稼げないわけか。
リンはするとなにやら新聞紙のような物をとりだすと俺たちに見せる。
「……なにこれ?」
まだ文字があまり読めない俺にとっては、絵から読み取れる情報しかない。
この写真は……帝国か?
すると俺の変わりに文字を読むようにリリナが口を出す。
「ガルム帝国で……テロ。テロの首謀者は――『ゼロ』と呼ばれる男」
『ゼロ』って確か帝国内で言われてる俺の通称みたいなもんだよな?
俺はその写真をジッと見ながら。リリナの言葉を聞く。
「これって……まさか。零君のこと?」
「ええ、幸い名前がバレてないみたいだけどね」
「お前達は大丈夫なのか?」
「私は依頼受けるときに偽名登録しておいたから、大丈夫よ。それに変装してたし。この子達は右手さえ見られなければわからないわ。帝国がわざわざ神の子の情報を漏らすとは思えないし」
流石リンさん、後々のことまで考えた行動でしたか。
待てよ、帝国の兵士とか来たら一発でアウトじゃないか?
「もしも帝国の兵士とか来たら……」
「そこも大丈夫、今帝国はそれどころじゃないし。私達に構っているような暇はないはずよ」
しかしリンは「ただ……」と不安そうに呟く。
「この子達を諦めるつもりはないと思う」
二人を見ながらそう言った。
いつか神の子である二人を取り返すために襲撃してくる可能性があるわけか。
「大丈夫だ、そのときは俺がなんとかしてやる」
「……まあ、そのときはあなたが頼りだから、頼むわよ」
漂う沈黙。リンは黙って立ち上がると、玄関へ向かう。
「さて行きましょ、夜になっちゃうわ」
そう言うとリンは扉を開けて宿を出て行く。
俺も腰を上げると、二人に行くぞと言い、追うように玄関を出て行った。
白いペンキが塗られた二階建ての建物。看板があり、どうやらここがこの町のギルドらしい。
その扉をキィと音を鳴らしながら開ける。そこは帝国のような近代的ではなく、交番みたいな感じで大きくない。
「やっぱ帝国は規模が大きかったんだな……」
規模の違いに驚く。やはり都市は別格だったな。
室内には受付にお姉さんが一人、あとは二人ぐらいいる程度だ。受付の人も暇そうにしてる。
「じゃあちょっと手続きしてくるわね。その辺で待ってて」
リンは暇そうにしている受付のお姉さんの元へ行くと、なにやら話し始める。
さて、終わるまでなにしていようかな。俺は依頼内容が書かれている掲示板を眺めながらそう考える。
「……やっぱり全然読めないか」
「えーあれだけ教えたのに?」
「まだ基本しか習ってないだろ」
「でも零はちょっと覚えが悪いかも……」
シェリアが小馬鹿にしたようにクスクス笑いながら喋る。
実は時間があるときにこいつらにちょっとずつ、この世界の言葉を教えてもらっている。
結果は……聞かないでくれ。俺は英語の成績は悪かったから、こいうのは苦手なんだ。
「容赦ねえな……お前ら」
頭をカクンと落しながら落ちこむ。
すると扉が開く音が聞こえる。他のギルドの人だろうか?
俺は頭を下げた状態でチラッと玄関を見る。
「あ……」
そこに現れたのは、黒髪スポーツ刈りの、ナイスガイなおっさん。それと黒い服を着た少女。
その少女と俺は目が合う。
「あなたは朝の……旅の方ですよね?」
「お前、ギルドの人間だったの?」
まさかの出会い。だって思いもしないだろ、リリナと似たような年頃の子がギルドの一員だなんて。
少女の背中を見れば白い布に包まれた筒状の武器を背負っている。とても長く少女の身長を超えている。
「零、また女の子と知り合ったの?」
ジト目で見るリリナ。
またってなんだ、またって。たまたまだよ。
「なんだシュエ。知り合いか?」
「朝に丘で会ったんです。お父さん」
お父さんと呼ばれるナイスガイなオッサン。この人の娘なのか。
この黒いジャケットに、薄い青緑のズボンにブーツを履いているオッサン。おまけに右腕は……義手かあれ? 鉄の腕が見える。背中には包丁を巨大にしたような大剣。
このいかついオッサンの娘だと……? 信じられん、どうしたらこのオッサンの遺伝子から、こんな天使みたいな子が生まれるんだ。
「お前今、失礼なこと考えただろ」
「え? いや考えてないぜ?」
どうやら顔に出てたみたいだ。まずいまずい。
急いで表情を作り直す。
「どうせ俺の子じゃないとか思ってたんだろ……まあ言いなれてるからいいけどな」
言われなれてるのかよ。というか自覚あるのか。
するとオッサンは俺の横にいるリリナ達を見る。
「ほー珍しいな、子連れとは。俺も人のこと言えないけどな」
「やっぱり珍しいか?」
「ああ、この町でも俺達親子ぐらいだからな」
オッサンは少女の頭を、ぽんぽんと叩きながらそう喋る。
やっぱり珍しいのか。あの時ギルドで絡まれる理由がよくわかるよ。
するとオッサンが手を伸ばす。
「同じ子連れと合うなんて珍しいからな、仲良くやろうぜ。俺はファルガ・グレイス。こいつは娘のシュエ・グレイスだ」
「シュエです」
あの時のように丁寧にお辞儀をするシュエ。
揺れる白い髪がさらさらしてそうで、とても綺麗だ。
「神城零だ。よろしくファルガにシュエ」
俺は伸ばされたファルガの手を握ると握手をする。冷たいな、やっぱりこれ鉄か?
「私はシェリア・フリネイト!」
「リリナ・フローリアです」
俺に続いて挨拶する二人。
「しかし、その若さで旅か……どこを目指してるんだ?」
「ストリアだよ。ちょっと今トラブルで行けないから、少しの間滞在してる」
「商業国か……なんだ、商人にでもなるのか?」
「いや、少し用があるだけだ」
帝国に追われてますとは言えないから、曖昧に答えておく。
その時、後ろからリンの声が聞こえる。
「お待たせーって、何? 知り合い?」
「いやちょっと、子連れ同士意気投合してた」
「ああーなるほど」
それで納得できるのかお前。
「姉ちゃんはこいつらのリーダーか?」
「まあそんなとこね。それにしても、珍しいわね親子でギルドなんて」
「よく言われるさ」
すると再び扉が開く。そこから現れたのは見慣れた少年。
あれはシン? なんだか今日はやたらと知り合いと遭遇するな……
「あれ? 零さんじゃないですか」
シンは俺に気づいたのか、俺達の元へ歩いてくる。
するとファルガはシンを知っているのか、見慣れた様子で見ていた。
「おう、シン。お前知り合いか?」
「ええ、今日町を案内したんですよ。ファルガさんこそ知り合いですか?」
「いや、俺じゃなくて娘がな」
この二人知り合いだったのか。
俺は会話の様子を聞いてそう思う。しかし一日だけでギルドの人と、ここまで知り合いなるとは……一体今日はどうなってるんだ。
「ねえ、あなたよく人と知り合うわね」
「……なんでだろうな」
「零って女の子ともよく知り合うしね……」
「言われてみればそうね」
「おい、人を女たらしみたいに言わないでくれるか」
そう言うとリンが、違うの? と言いたげな顔で俺を見る。
違うわ。俺は好きな奴には一途な純情少年だぞ。まあ人を好きになったことなんてないけどさ。
すると、室内に警報のような音が鳴り響く。
「え!? なに!?」
突然の警報に慌てるシェリア。俺も冷静を保つが内心かなり慌ててる。
するとシンとファルガの目つきが変わる。リンも同様だ。
「……チッ! 魔物か!」
「ちょうど大半のギルドの人が、討伐依頼にいってる時に限って来るなんて……」
「とりあえず行くぞ! 町には入れるなよ! シュエ、お前はいつもの位置で頼む!」
ファルガとシンは飛び出すように部屋を出ていく。
シュエもわかりましたと言うと、追いかけるように出て行った。
「一体何が起きてんだよ? それに魔物って……」
「ここは帝国と違って、大きな壁がないでしょ? それでたまにこうやって、魔物の群れが町を襲うことがあるの」
「それでギルドの人たちが町を守るわけか」
「そういうこと。さっきの話だと人手が足りないみたいだし、私達もいくわよ!」
「そうだな! お前達はここにいろ、俺たちが行ってくる」
するとシェリアはふてくされたような顔をする。
おそらく自分も戦えるのに行けないのが不満なのだろう。リリナは当然だと思っているのか、納得している顔だ。
「私も戦えるのに。魔物なんて炎で焼き払うよ?」
「お前の正体がバレたらどうすんだよ」
「大丈夫だよ、スキルってことにするから」
「それでも駄目だ。いいからここでお留守番してなさい」
顔を膨らませて、俺をジッと見る。そんな目をしても許しません。
俺は部屋を出る前に、リリナにシェリアを見張るように頼むと、リンと一緒に出て行った。
残された二人。シェリアは零が出て行ったのを確認すると玄関へ向かって歩き出す。
しかしその腕をリリナに捕まれる。
「行っちゃ駄目だよ」
「なんで? 私だって零君の役に立ちたい!」
「零は私達のためにいってるの」
シェリアはブスーとした顔で、ジーとその赤い瞳でリリナの顔を見ている。
そして何か閃いた顔をする。
「零君がもしかしたら……あのシュエって女の子といい関係になっちゃうかもよ?」
その言葉を聞くとリリナの目が見開く。
まるで盲点だったというような顔をしている。
「で、でも……零はそんなこと……しないと、思う」
「リンと二人きりだし……浮気するかも」
するとリリナはシェリアの手を引っ張って玄関へ向かう。
「行こうか」
「あれ、いいの?」
「いいから行こうか」
シェリアはヨシ! といった感じにガッツポーズをとるとリリナについていく。
来るなと言われたのにも関わらず、零達を追って行く二人。
外に出るとシェリアはリリナを掴むと背中に赤い翼を放出させる。そして空を飛ぶと零達を追いかけた。




