24話 シュトラスの町
チチチという小鳥の声が耳に入り、俺の視界はゆっくりと開く。
寝たまま視線をずらして右に見える窓を見ると、そらが青くなり始めている。
ここは木で出来た部屋。木目が綺麗で、木の良い匂いがするほどだ。
俺はあくびをしながら体を起こす。
「あ?」
起き上がると同時に布団がめくれ上がる。そこに見えるのは、右には青い髪、左には金色の髪。
こいつら……一体いつの間。
青と黄のチェックが目立つ寝巻き姿の二人を見て、なんともいえない気持ちになる。
「……ハァ、いつになったら一人で寝れるんだよ」
その様子を見てため息をつく。
まだまだ子供だと感じる。まあ別に俺は嫌ではないが、そろそろ一人で寝れるようになってほしいものだ。
「早く起きてよかったな……」
これをリンに見られた日には間違いなく言い逃れできない。
俺はそっとベットから降りると、忍者にでもなったつもりで忍び足で扉へ向かう。
そして音を立てないように扉を開けると、部屋を出る。
「ふぅ……」
部屋を出るとほっと一息つく。
部屋の向かいにはもう一つ扉がある。本当はここにあいつらが寝てたはずなんだが……
まあいいやと思い、俺はすぐ左に見える階段を降りていく。
「電車が直るまでの間の滞在ね……」
階段を降りながらそう呟く。
俺達はあれから隣町である、シュトラスという町に無事に着いた。
本当はここから電車みたいな乗り物で商業国ストリアとやらに向かう予定だったのだが、なんでもトラブルがあったとかで、しばらくその電車が動かないらしい。
そのため俺達はこの町で足止めをくらったわけだ。ここは帝国領ではないらしく、今はまだ俺達が狙われるなどということはない。
「人がいないな」
手すりを持ちながら一階に下りた俺は、学校の教室ほどの広いロビーを見渡す。
朝なのか人の気配はない。受付にも今は人はいないようだ。静まりかえる室内、時計の音がコチコチと聞こえるほど静かだ。
「暇だし、外歩くか」
木製で出来た玄関の扉を開ける。今思ったけどこの宿、木をアピールしてるのか? 俺はこんな雰囲気の宿好きだからいいけど。
扉を開けると外はちょうど良い感じに涼しかった。太陽が山と山の間から顔を出し始めているのが見える。
半袖でちょうど良い感じだな。俺は今Tシャツみたいな半袖に、藍色のズボンを履いてる。
「ほんと、こうしてみると異世界とは思えないよなぁ」
周りを見渡しながら一人街中を歩く。
町並みは、ガルム帝国のような都市ではなく、ビルなどは無い田舎町のような感じだ。建物は日本のような住宅じゃなく、外国のちょっとおしゃれな感じの、住宅が多いイメージだ。
いやーこうして町並みを見てると、のどかでいい町だな。
「異世界に来て……半月以上経ったのか」
俺は町を歩きながらそう感じていた。
しばらく歩いていると、少し高い丘のような場所が見える。
あそこからこの町を眺めて見ると、なかなかいい景色が見れそうだな。
「よし! ジョギングでもしながら行ってみるか」
駆け足に変えると、その丘目指して駆け出した。
丘の頂上まではそこまで時間はかからなかった。ちょっとした林を抜けると少しずつ頂上が見えてくる。
俺は頂上が見え始めると同時に駆け足を止めてゆっくりと歩きに戻していく。
「……ん? 先客か?」
頂上が全て見えると同時に、そこには一人の女の子が座っていた。
風で雪のような白い髪の毛が、さらさらと音を立てるかのように揺れる。
「……」
女の子は落ち着いた雰囲気で丘から見える町を眺めているようだった。
その姿に俺はつい、視線を奪われるようにみとれてしまう。
「……?」
女の子は俺の気配に気づいたのか、立ち上がると後ろを振り返った。
この子の服装は襟が白く、黒が目立つワンピース。胸元には赤いリボンがある。そして髪はサイドテールというやつだろうか?
「……あまり見ない方ですね、観光の方ですか?」
「まあ観光というよりは、旅という感じだな」
「旅の方ですか。どうですか、この町は?」
「のどかでいい町だな。こんな町でのんびり暮らしたいぐらいだ」
率直に思ったこと言った。女の子はその言葉に優しく微笑む。
なんだかこの子、天使みたいだな。そんな雰囲気がする。
「自然豊かでいいところですよね。私もこの町が好きです」
「お前はこの町の子か?」
「はい」
そして女の子はニコッと笑う。
「この町の良いところまだまだありますから、見つけてくださいね? じゃあ私は失礼します」
ペコリと丁寧にお辞儀をすると、俺が来た道戻るように歩いていく。
お淑やかで礼儀正しい子だな、シェリアも見習ってほしいな。
二人と変わらないぐらいの年代だと思うのに、たいしたもんだな。俺はしみじみ感じた。
「しかし……あの子が言うだけあって、自然豊かでいい町だ」
丘から見渡せる町を見て、口から感想が漏れる。
俺はこの景色を十分堪能したあと、ゆっくりと宿へ戻っていった。
宿のドアを開け中へ入る。ロビーは少しだが人がおり、受付にも係員がいた。
部屋に戻るため階段を上がると、扉の取っ手を掴もうとする。すると……
『あれ? 零君がいない』
『本当だ、零いない』
中から少女達の声が扉越しに聞こえてくる。
俺はため息をつくと、扉を開ける。俺の姿が見えると二人して文句を言い出す。
「あー零君どこいってたの?」
「散歩だ散歩」
「なんで起こしてくれなかったの?」
「お前ら起こしても、文句しか言わないしな。それと、何故俺の部屋で寝ている?」
本題はそこだ。何故俺の部屋で寝ていたかだ。
「だって私零君のお嫁さんだし?」
「おい、何勝手にランク上げてんだよ。昨日までは恋人とか言ってたよな」
「零は金髪が好きなの……?」
「お前は何張り合ってんだ……というか、俺は恋人でもないし、お前の夫でもないからな」
その一言でシェリアはショックを受けたような表情をしている。ガーンとか似合いそうだなあの顔。
「あの時の約束は嘘だったのね……」
「誤解を招く言い方はやめなさい」
「あの時? あの時って何?」
「お前も真に受けないでくれ」
朝から頭が痛い。シェリアが増えてからなんだかツッコミが大変だ。
まあ楽しいからいいけど、朝は勘弁してくれ。
すると後ろの扉が開く音がする。
「おはよー、起きてる?」
「おう」
「あ、リンさん」
「リンおはよー」
扉から顔を出すように俺達を見るリン。
「朝からコントしてないで、ご飯食べに行くわよ?」
あ、もうコント扱いなんだなこれ。
不名誉なあだ名で呼ばれなければ、それでいいけどな。
リンはそれだけ伝えると「先に行くわねー」と言って扉を閉める。
「さて……それじゃあ――ってシェリア! 何ここで着替えようとしてんだ!!」
「だって、私達夫婦だし?」
「違うわ!! 付き合ってすらいないからな!? あーとにかく自分達の部屋で着替えなさい!!」
二人を猫のようにぶら下げると、あいつらの部屋へ置いてくる。捨てられた子猫みたいな顔してたけど、見なかったことにした。
またレベルアップした。あいつ……俺をからかってるのか? よくて兄貴だろ。
俺は扉の前で深くため息をつくと、疲れた様子で下へ降りていく。
「朝から疲れた……」
俺は一階の、食堂部屋の机に伏せるようにしていた。
ここはロビーの玄関からみて左側にある部屋だ。朝食、昼食、夕食と、頼めば作ってくれる。
「なあリン、なんであいつら毎度毎度、俺の部屋に侵入するんだ? いい加減一人で寝れるよな?」
その問いに心底面倒くさそうな表情をするリン。
なにその顔。こっちは真剣に聞いてるんだぞ?
「……自分で考えなさい。あと、あまり無下に扱っちゃ駄目よ? あの子達本気なんだから」
「……何が?」
「もういいわ。とにかく、好意を無下にはしないこと。じゃないといつか泣かれるわよ」
「……一応覚えとく」
呆れた表情で俺を見るリン。そして「まさか演技じゃないわよね?」と訊いてくる。
何を演じればいいんだよ俺は。とにかく、リンのいう無下には扱わないということだけ覚えておこう。
そんなことをしているうちに、二人も着替え終わったのか降りてきた。
「やっと来たか」
「ちょっと二人で話してたら遅くなった」
「なんだ、仲良くなったのか?」
何かといがみ合ってたから心配していたんだが、話すまで仲が良くなったならいいもんだ。
喧嘩するほど仲がいいとはいうだろ? だが俺の予想は全く違うことを、まだ気づかなかった。
「いや、ちょっとね」
「うん、ちょっとねー」
まあなんにせよ、仲が良くなり始めてるのはいいことだ。
会話をしていると、朝食が出来たようで運ばれてきた。トーストに、卵料理、サラダ。普通の朝食だ。
「……なぁリン、徒歩だとストリアってとこには行けないのか?」
「徒歩だと3日はかかるわよ? それに道中で森とかもあるし危険よ」
「そうか、それならやっぱり直るのを待つしかないか」
「幸い、この町では私達のこと知られてないから、大丈夫よ」
リンが言っていたように、情報を外部に漏らさないようにしてるからだろうか?
とにかく俺達の正体がバレていないのはよかった。
「それと、滞在する間はギルドで依頼をこなすわよ。じゃないと生活費がなくなるし」
「そりゃ大変だな。頑張らないと」
「うん。だから頑張ってね」
「お前このギルドのマスターだよな?」
「私だって休みたいのよ」
反論出来ない。これまでリンのおかげで幾度なくピンチを乗り切ったと言っても過言ではない。
そのため何も言い返すことが出来ないのだ。
「……わかった、俺が頑張る」
「そうそう、それでいいのよ。まあ私も情報とか集めるから、ただゴロゴロするわけじゃないけどね」
「なんだかんだいって、お前って頼りになるよな」
「褒めても何も出ないわよー」
さてこうなると、俺が稼ぐわけか。
俺が出来そうな依頼というと、採取とか退治とかかな? 討伐関係なら能力上苦戦はしないだろう。
「そうだ、とりあえず今日は夕方ぐらいにギルドに行きたいからここに集合ね。まあ今日は一日ぐらいのんびりしましょ。依頼は明日からでも大丈夫よ」
「自由行動ってわけか」
「そうなるわね。せっかくだしこの町見回ったら? ここっておいしい果物があることで有名よ?」
「そうさせてもらうよ」
今日一日は自由ってわけか。今まで戦いばかりでろくに休憩とかしてなかったしな。
俺は心がうきうきするのがわかる。まるで修学旅行してるみたいだな。
「二人とも着いてくるか?」
「「うん!」」
俺が聞くと、二人は笑みを浮かべてそう答えた。
やっぱり子供は笑顔が一番だな。そう思った。
さてと……この町のどこを見回ろうかな?




