23話 白い翼
「力を、神力を解放すれば……強力な炎が出せるよ」
こいつは俺に言っていた、神の子の力は自分でも少ししか使えないと。おそらく出しすぎると、身体に支障が出るのだろう。
「でもお前……少しか使えないんだろ?」
「うん……でも、少しくらい我慢すれば大丈夫だから」
「……駄目――」
俺がその言葉を言おうとした瞬間、シェリアが俺の裾をぎゅっと掴む。
シェリアの目には決心している、強い目をしていた。
本当に……いいのか? それをして、あいつみたいに……消えちまうんじゃないよな?
俺の中にあの時の光景が甦った。ミーシャが俺の腕の中で、光になって消えたときのことを。
「大丈夫――私は消えないよ」
俺の考えていることを見透かしたかのような答えをシェリアは言った。
「本当に、優しいんだね零君。だから――私も、そんなあなたの役に立ちたいの。だって――」
シェリアは俺を見ると、ニコッと笑って一言呟いた。
「――好きになった人だからね!」
「お前な……」
その笑顔はとても眩しい笑顔だった。こいつの心は決まってた。
なら俺はどうする。あいつみたいに消えないよう、俺は……全力でフォローするしかないよな?
「いいんだな?」
「大丈夫! だって零君が守ってくれるもん!」
「よし……わかった!」
俺は速度を上げてリンの元へ行く、そして脇に抱えるリリナを降ろす。
「リン、こいつを頼むぜ」
「え? ちょっと!?」
クルッと180度回転すると、シェリアを背負い刀を取り出す。シェリアは俺にしっかりしがみついている。
ほんのり背中が暖かい。身体を見るとシェリアが炎を発生させて俺ごと纏っている。
白い霧と、真っ赤な炎が混ざり合い、まるで白い炎のような感じに見える。
「なんで、お前の炎は消えないんだ?」
「決まってるよ! 私と零君の愛の形だから!」
「お前よくそんな恥ずかしいこと言えるな……冗談もほどほどにしとけよ?」
背中から「冗談じゃないのに」とぶつぶつ聞こえる。
おっとコントしてる場合じゃない、前からは叫びながら、接近するバート。
「いけるか?」
「まかせて……!」
シェリアの呼吸が止まる。すると俺を包んでいた炎がまるでガソリンをかけたかのように燃え盛る。
不思議と熱くない。それになんだ、この炎。白い炎……?
俺の霧と混じったわけじゃない炎の色。それは聖なる、神秘的な炎を思わせる。
「……なんだろう、零君の霧の中だからかな? 体が痛くない、むしろ軽いよ」
「大丈夫なのか……?」
「わからないけど……今ならもっと力が引き出せる! いけるよ零君!!」
「そうか……ならさっさと決着つけるか!」
シェリアの背中から白い炎の翼が飛び出す。その翼で羽ばたくと、風のような勢いでバートへ接近した。
まるで風になったようだった。それほどの勢いでバートに低空飛行しながら一気に肉迫にすると、白い炎を纏った刀で一閃。
「――ガァァァア!? イタ……イ!! コロス……!!」
背中から生えた長い腕を背中から切り離すように切断した。
床に落ちるとゴンと鈍い音を立てる。切断面からは骨や肉が見える。
怒り狂うバート。俺を捕まえようと手を伸ばす。
「今の私達に触れると――やけどするよ?」
少しだけ、ほんの少しだけ指先が白い翼に触れた。たったそれだけなのに、バートの人差し指と中指は黒い墨へと変色する。
おいおい、マジかよ。この翼ってそこまで高温なのか。まるで太陽だなこれ。
「オレハ……カミ! カミダ!!」
理性を失い、知性を失っても自身が特別だと、神だと言うのかこいつは……
その姿はもはや哀れだった。人を捨て、神に近づこうとした者の末路なのか。
「オォォォォ!!」
バートの全身が火炎放射器になったかのように、業火が放射される。
その真っ赤な炎はバートと俺達を包み込む。
「大丈夫かシェリア」
「うん、だって私のほうが熱いし。この炎涼しいもん」
「ハハハ……涼しいか、流石炎の神だな……」
そのとんでもない発言に苦笑いしながら答える。
でも少し力を解放しただけでこれだけの火力。やはりとんでもない力だな。
まあ俺も人のこと言える立場じゃないけどな。
「あいつに見せてやるか、お前の本当の力を」
「そうね! 丸焦げにしちゃおっか!」
白い炎は輝きをさらに増し始め、さらに白くなっていく。
炎というよりはもはや光に近い。そして真っ白に見えるほどまで白くなる。
せっかくだしさ……こいうのって技名とかあるのがかっこいいんじゃないか?
俺はぼそっと、シェリアに聞こえるように呟く。シェリアもその問いにうなずく。
「光の炎で消えちゃえ!! セイントフレア!!」
バートの足元がピカッと一瞬光ったように見えると、一瞬で真っ白な火柱が出来上がる。
中からは断末魔のような、咆哮のような。そんなうめき声が聞こえる。
触れる物を黒い墨に変えるほどの高温。それは天井を貫き、大地をも突き破るほどの威力。
セイントフレア、聖なる炎か……本当にその名の通りだな。
「オ…………ガ……カ…………ミ」
炎が消えた場所に残ったのは黒い墨の物体。
それは地面に倒れると、粉々に砕け散った。
「こんどこそ……終わったんだ」
ゆっくりと降りるシェリア。着地すると背中の翼も消える。
そしてバートだった墨を見るシェリア。その顔はなんともいえない、複雑な表情だった。
「……そいつのこと、憎かったのか?」
「知ってたの……?」
「顔を見ればわかるさ」
「……私は、こいつにパパとママを、殺されたの」
それで、こいつに殺意を込めたような憎しみを持ってたのか。
「帝国に引き渡したときに……邪魔になるって言われて、私の前で二人とも……」
小さな肩が震える。
11歳なのに両親を目の前で殺された。精神的にもかなり辛かったはずだ。それでもこいつは笑顔で俺と話していた。
「パパとママは……神の子ってわかった私と話してくれなかったけど……でも、二人が好きだったの、いつかきっと前みたいに戻ってくれるって信じてた」
暗い床に涙が零れ落ちていく。
いくら捨てられても親は親。こいつが過した両親との11年間の思い出は……こいつにとって、かけがえのない物だったんだ。
「やっと……パパとママの仇がとれたよ……二人とも、これで認めて……くれるかな? 私が――二人の娘だって」
そして堪えきれなくなったシェリアは、泣き出してしまう。
俺は泣いているシェリアを抱きしめると、頭を撫でてやった。
泣きたかったよな。辛かったよな。
「シェリア、きっと二人は認めてくれるさ」
「ほんと……?」
「お前は立派な子だからな。俺が保障する」
両親が殺されるのはやっぱり悲しい。俺も幼いころに両親を殺されたからその気持ちがわかる。
「それにな、お前は一人じゃない。俺達が傍にいてやるから」
「……うん、ありがとう」
俺はシェリアの前に背中を向けて屈む。
「ほら、乗れよ。疲れたろ?」
背中に小さな体が乗る。リリナと一緒で軽いな、こいつも。
俺は心の中でそう感じる。
「待たせたな」
「……倒したの?」
「ああ、こいつがな」
俺は背中にいるシェリアを指す。
リンは「そう」と安心したように一息ついた。
「それじゃあ今度こそでましょうか」
「そうだな」
もうすぐの出口に向けて歩き出す。
するとリリナがシェリアと俺を見る。また何か言われるかと思ったが、今回は違った。
「今回は譲ってあげる」
リリナはリンの後を追うように走っていく。
あいつも少しは大人になったか? これで仲良くしてくれるといいが。
「……ねえ、世界はどんなところかな?」
「さあな、俺も初めてだ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だろ?」
「それもそっか。零君なら大丈夫だよね」
「なんだそりゃ、どんな理由だよ」
楽しそうに喋る二人。
喋っていると、前方から風が吹き抜けるのを感じる。いよいよ出口か。
そしてついに俺達は地下水路の終わりを示す、四角い出口を抜けた。
「これが外……」
俺の背中から降りると、シェリアは見たことも無い景色のように、目を輝かせて眺めている。
太陽が昇り始めてるからちょうど朝日が見えるな。
この間見た景色とはまた少し違った景色に俺も見とれてしまう。場所が違うだけで違うもんだな。
「すごいね……どこみても木とか山ばっかり……」
「そうだな、自然豊かだよな」
この前の場所はなかったがこっちには川も流れてるのか。
本当にこの世界は自然が豊かだと感じる。
「さて、隣町だっけ? 行くんだろ?」
「あなた休まなくてもいいの?」
「追ってが来たら面倒だろ? ほらさっさと行こうぜ」
「あなた元気ね……まあそれもそうね」
まだ歩いたことのない大地を踏みしめながら歩き出す。
これが俺の物語の始まりじゃないだろうか。今のは長いプロローグに過ぎない。これからが本当の戦いだからな。
「でも、子連れで旅するのっては……どうかしらね」
「子連れって、私達11歳よ!?」
「まだまだお子様だろ……それに子連れで世界の神の子を救うなんてのも、中々面白いと思うけどな」
納得しないリリナとシェリアが俺とリンに文句を言っている。
俺はその様子をフフッと笑いながら見ていた。
これから先、何度もこいつらを狙う奴等と戦うことになるだろう。でも俺は絶対にこいつ等を守り抜いてみせる。
そして必ずこの世界に捕らわれた、神の子を助けてやる。もう少女達を傷つく世界になんてさせない、俺が変えてみせる。この世界を。
これで帝国編はひとまず終わりです。
次回は商業国ストリア編……の前の隣町編に入ります。
新ヒロインも二章で登場? 予定です




