22話 限界を超えた者の末路
目を大きく見開いて、俺はその化け物と化した、バートの姿を見ていた。
「不思議かな……? 私が生きていることが?」
どうやって生き返った? あの状態からどうやって……
困惑の表情をしているであろう俺達を見るバート、そしてフッと笑うと続けて話し出す。
「いっただろう、私は選ばれた者だと? 神力はすごいね……あの状態から傷を治し、さらに強力な力も与えてくれる」
「まさか、さらに神力を自身に送り込んだか……」
「そうだ、そのかわり……こんなに醜い姿になってしまったがね!!」
バートは一気に距離を詰めると俺を肉迫にする。
霧を展開しようと考えるが、俺はあることに気づいた。
この狭い空間じゃ霧を自由に使えない。仕方なく霧を自身の周りに固めるようにする。
「――っ!!」
「その程度かい!!」
その赤い拳が刀の側面とぶつかりあう。だが拳はまだ二つ残っている。
「――カハッ!」
残った拳が俺の腹にめり込む。内臓が潰されるのではないかと思うほどの衝撃。
さらに黒い左腕が、俺の横腹に突き刺さる。メキっと嫌な音が鳴るのがわかる。そして俺はレンガの壁に叩きつけられた。
「零!!」
その一連の様子を見てリリナが叫ぶ。
俺の元へ行こうとするリリナをリンは駄目だと言いながら止めている。
「ゲホッ!」
俺は痛むわき腹を押さえながら立ち上がる。
ヤバイな、今のでどっかの骨が折れた……クソ痛い。目には涙が浮かぶほど痛かった。
今まで腕が切断したり、腹を切られたりしたがやはり慣れない。
「……どうしたのかな神城? 自慢の霧を使ったらどうだい!」
フラフラの俺に止めを刺そうと、さっきのように接近するバート。
だが次の瞬間バートを真っ赤な炎が包みこんだ。
「塵一つ残さず消し炭にしてあげるわよ!」
リン達の方に視線を向けると、シェリアが炎を纏った状態でバートを睨んでいた。
「うっとおしいね……」
バートの声が聞こえたと思った瞬間、炎の中から飛び出してきたのはレンガの破片。
まるで弾丸のような速度でシェリアに迫り来るレンガ。霧を出そうにも間に合わない、すると弾き返すようにレンガが跳ね返っていく。
「この子達には手を出させないわよ!」
銃を構えるリン、さっきのレンガを撃って弾き返したのだろう。
その射撃の腕は流石というべきか。
「この!!」
俺は痛む身体に鞭を打ちながら、身体を動かすとバートに接近する。
周りを消滅させない程度に霧を漂わせながら、刀を振るう。
「動きはまるで素人だね……神城」
黒い方の腕で刀を握られてしまい、攻撃は失敗に終わる。だがこれだけでじゃない。
俺は身体を近寄らせるとその異型の身体を真っ白に包むように霧で覆い尽くす。
「チッ!! こいつ、捨て身か!?」
霧に包まれると少しずつではあったが、バートの体中の皮膚が剥がれるように徐々に崩壊していく。。
だがバートはまずいと思ったのか、手を離すと霧の中から出ていく。
すると離れたと同時にガンという銃声が鳴り響く。
「――ぐぁ!」
足、手、顔といった場所にリンがバートに目掛けて銃弾を放つ。
フラフラと顔を抑えながらリンを睨みつける。
「この! ただのギルドの分際で!」
バートは赤い二本の手を突き出す。その手の平が明るくなったと思ったら、あの時のように真っ赤な炎が放射される。
神の子の力が使えるのは健在ってわけか。霧で壁を作るように展開すると、その炎の流れを止める。
「それもいつまでもつかなぁ?」
「くっ!」
さっきとは比べ物にならない火力。これではいずれ突破される。
額に一筋の汗が流れる。顔を歪めながら、通しまいと消滅の速度をあげていく。
徐々に侵食してくる炎、すると俺達の方からも別の炎が飛び出す。
「そんなしょぼい炎――かき消してやるわ!」
シェリアが押し返す勢いで、自身の炎をぶつける。そのおかげかバートの炎の勢いは止まり、逆に今度はこちらが押し始める。
炎と炎の競合い。やはり神の子本人が使う炎は別格らしく、その炎の煌きもまったく違う。
「くっ――厄介な餓鬼だな、No5!」
その言葉の瞬間、炎はシェリアに完全に押し返されてしまい、バートがいた通路を炎が埋め尽くす。
周りの壁を焦がし、辺りに焦げ臭い匂いが立ち込める。
しかしバートの姿はいない。
「あいつ……どこに?」
探そうとした時だった、俺の身体は天井へと押しつぶされる。
一瞬の出来事だった。足元の水面から現れた拳によって俺はそのままプレスされる勢いで天井とバートの腕に挟まれる。
「水路という手を考えないのかい、君は?」
そのまま重力に任せるように落下する俺の体。そして地面へ跳ねるように叩きつけられる。
「これが我が帝国で噂になる男『ゼロ』か、拍子抜けだね……霧さえまともに使えなければただの雑魚じゃないか」
返す言葉もない。こいつの言うとおり俺は、霧の力を使えなければ一般人と変わらない。
体中が痛む中、バートを見上げるように睨む。
「ねえリリナちゃん……あいつの体どれだけで治せる?」
「……20秒あれば……治せると思う」
「わかったわ、ならそれまで時間を稼ぐから、あいつを治療して!!」
リンはバートに向けて銃撃を行う。だがそれはたいしたダメージにはなっていないようだった。
鼻で笑うバート。そして次はリンを倒そうと接近する。
「リン……駄目だ! 敵う相手じゃない!」
声を上げるだけでも身体に痛みが走った。それでもリンに叫んだ。
しかしリンは引き下がらない。腰から短剣を取り出すと銃と短剣を使って器用に戦う。
「私は……あいつみたいに、魔法が使えないわけじゃないわよ!」
リンの手の平に一瞬丸い光りが集まったと思ったら、その光りは弾ける様に膨らみまるでカメラのフラッシュのように輝く。
「目くらましか、面倒だね!」
チカチカする視界の中、バートが三本の腕で光りを遮る様に顔を隠していた。
そしてその一瞬の隙をリンは逃さない。短剣を背中に突き刺すと、背中に銃口を当てて連続で打ち続けた。
バートの赤い背中から飛び散る鮮血。リンも返り血を浴びたように服に血がついている。
「この小娘!」
腕を後ろに振るってリンを攻撃しようとするが、リンは頭を下げてそれを回避する。
そして短剣で足を切り裂く。的確に足の腱を切ったのか、バートは左足のバランスを崩す。
「シェリアちゃん! やっちゃって!!」
そのリンの合図と同時にシェリアが「オーケー!」といい、炎の渦を作り出し、バートを消し炭にするような勢いで燃やす。
無駄の無いリンの戦いを呆然と見ていた俺の元へ、いつの間にかリリナが来ていた。
「零……大丈夫?」
「大丈夫……じゃない」
リリナの体が青く光りだすと、その光りはリリナの手を伝わり俺を包み込む。
その光りに包まれだすと、不思議と体の痛みが引いていく。
これが癒しと司る神力。驚異的な治癒能力に驚く。
「人を超えた私に……逆らうとは!」
炎の渦が消えるとバートは壁に手をつき肩で息をしているようだった。
「もっとだ……もっと……力だ」
バートはポケットから小瓶のような物を取り出す。
中には赤いカプセルと黄色いカプセルが入っている。そして蓋を開けるとそれを全て飲み込む。
あれは……神兵化したときに使っていたやつか? あいつ、これ以上神力を蓄えてさらに強化するのか!?
ゴクリと音を鳴らすように飲み終えるバート。すると身体に異変が起きる。
「おい……どうなってるんだ?」
まるでバートの体がボコボコとマグマのように沸騰したと思うと、背中が裂ける。
背中からは2本の長く巨大な腕。足の太さもさらに太くなっていき、リンとシェリアがつけた傷も治り始めている。
「なによ……これ……?」
もはや人間ではない。人の姿を捨てたバートを見て後ずさるリン。
「……神力が暴走……してる」
リリナはその魔物となったバートを見てそう呟く。
「もうあの人は人じゃない……もうあれは魔物でも人でもない存在」
うめき声をあげているバートそして、赤く光ったその瞳で俺達を睨む。
「オオオオォォォ!!」
もう人の言葉も話せないのか。背中から生えた長い腕で俺を握り潰そうと迫る。
俺はリリナを抱えるとその場から離れる、何もいない空間をその手が空振る。
「駄目! 全く攻撃が効いてない!」
銃で攻撃するが、バートにはまるで効いていない様子だ。
こうなると俺の力で消すしか方法がないか? でも神力で覆われてるから消滅まで時間がかかる。
どうすればこいつを、倒せる? もっと火力が大きくて塵に出来るほどの攻撃はないか?
「オオォォ!! コロ……ス!! ハカイ……スル!」
ただ俺達に闇雲に攻撃を続けるバート。もはや知性の欠片もない様子だ。
霧を伸ばして、腕などを消滅させようとするが、やはり時間がかかる。
この時俺は少しだけ思い出した、どうして……あの時。レオを消し去ったときは一瞬で出来た?
「あー! 考えてもわかんねえ!」
リリナを抱えたまま避ける。バートは暴れまわり、辺りの壁も破壊し始めている。
駄目だ、神力に理性まで侵されてる。
「このままじゃ危険よ……崩れるわ!」
周りからは暴れた衝撃で、崩壊が始まっている。天井からはカラカラと石や砂が降ってくるほどだ。
「とりあえずあいつは後回しだ! 今は逃げるぞ!」
俺はリリナを抱えたまま地下水路を駆け出す。
後ろからは獣のような咆哮と共に、バートが長い手を使って這うように追ってくる。
「リン! 出口までどれくらいだ!?」
「このまま走って、数分よ!」
「数分――」
俺は後ろを振り返りバートとの距離を見る。
――駄目だ、このままじゃ追いつかれる。やはり倒すしかないか? でもあの巨体をどうやって。
この状況を打破出来る方法を考える。すると横から声がする。
「私の力を使えば塵に変えれる……かも」
そう喋ったのはシェリア。金髪のツインテールを揺らしながら俺に言った。




