20話 ゼロと呼ばれた少年
俺のことをゼロと呼ぶバート。なんだその呼び名。
「ゼロ? 俺のことか?」
「ああ、我がガルム帝国では君の事を『ゼロ』と呼ぶことにしたんだよ。全てを消し去るその存在という意味でね」
なんかかっこいいコードネームみたいだな……
俺は内心ちょっとそのかっこいい名前にわくわくしていた。でも嫌な意味で有名人だ。
「私はバート・ブランク。ゼロ、君の本当の名はなんだい?」
「神城零、お前達の言うゼロと一緒だよ」
零もゼロって読むからな……まあこの世界に漢字は無いからわからないか。
「君の力は少しだけど見せてもらったよ。魔法も物理的な攻撃も消すんだね、こんな力じゃレオ少佐もやられたわけだ」
するとバートはパチンと指を鳴らす。
その瞬間後ろからやってきたのは、ロケット砲のような筒を担いだ数人の兵士達。
「おいおい、少女と少年相手にやりすぎじゃないか?」
「やりすぎ? これでも足りないくらいだと思うがね?」
ロケット砲を構えた兵士達は俺達に照準を合わせるように構える。
それだけこの帝国にとって神の子の存在は大きいというわけか……
「今この城は今Sランクの警備体制だ。Sランクなんて大戦以来発令されていない……この意味がわかるかな?」
この警備ランクがどれだけのものかは知らないが、これだけはわかった。俺はかなり危険視されている。
俺の額に一筋の汗が流れる。大丈夫だ、俺はあの施設の兵器さえ消したからな。
「ロケット部隊、撃て!!」
バートの号令と同時に一気にその筒から大きな弾丸が発射される。
そしてあっという間に俺の元へ届くと轟音を鳴らしながら爆発する。その音は大地を揺らし、周りの草木を飛ばすほどの威力だ。
その爆発を見て周りの兵士達は息を呑む。
「……死にましたかね?」
「……いや……死んでいない、他の者は続けて魔法と銃撃による攻撃をしろ!」
その合図でモクモクと上がっていく煙に目掛けて銃撃が行われる。
さらにはその煙の中へ氷の刃や、火炎放射のような炎、上空からは雷のごとく雷撃も落とされる。
煙の中で見えないが、これはまさに袋のねずみの状態だろう。
「……これだけやれば!!」
兵士の一人が攻撃をしながらその様子を見ていた。
この様子を見れば誰が見ても生きていないと思う。それも原型をとどめないほどに。
きっと誰もがそう思うだろうな。
「これで終わりなんだー?」
「――!」
しかしその煙から飛び出してきたのは真っ赤な炎。その紅蓮の炎は周りの兵士を蹴散らすように、津波のごとく焼き払う。
煙が無くなった場所にいるのは無傷で立つ三人。その姿に驚愕の表情を隠せない兵士達。
だがバートは冷静な表情をしたまま俺達を見ていた。
「……やはりこれだけでは無理か」
「どうしますか……? 撤退しますか?」
「いや、神兵を使う」
俺は聞いた事のある単語を耳にする。神兵だと? 確かシルファスが言ってた神力を注入した兵士のことを言うやつか。レオって奴もそうなってたな。
するとバート達がいる奥から新たにやってくる増援の兵士達。
まずいなこれ以上増えるとまずい。周りを見渡してもざっと30人近くいるんじゃないか?
「君は規格外の力だね神城。ゼロと呼ばれるだけの価値があるよ、だが君は戦いを挑む相手を間違えたんだよ」
「その台詞、お前にそっくり返してやるよ」
「その強気がいつまで持つかな? やれ!」
バートの号令と同時に、増援としてやってきた兵士達はカプセルのような錠剤を飲み始める。
すると飲んだ兵士達はうめき声をあげながら身体に赤や黄色といったようなオーラを纏いだす。
「神兵か……それが人体に悪影響があるって知ってるのかお前は?」
「知ってるさ。だが彼等は適正のある者達だ、出来損ないの神兵とは違う……そして私も」
バートも同じような錠剤を取り出すとそれを飲む。そしてバートも赤いオーラを纏いだす。
「その選ばれた者の一人だ」
「……狂ってるな……神にでもなるつもりかお前等?」
「11歳の少女だけが、神の力を使うのは不公平だろう?」
するとリリナが俺の手を少しだけ強く握る。そして震えた様子で兵士達を見ていた。
「零……あの人達、神力に……体が侵食されてる」
「わかるのか?」
「私は癒しを司るから、生命力が見えるの。あの人達、あのままだと……神力に身体を破壊されちゃう」
シルファスも肉体が崩壊するとか言ってたが、こいうことだったわけか。強すぎる神力に身体を蝕まれるから崩壊する。
強すぎる力は自らを滅ぼすわけか。
「いけ! 神兵隊!」
オーラを纏った兵士達が俺達に襲い掛かる。
この時、俺は少し異変を感じる。神力を消滅には時間がかかる。だがこの間程度の神兵なら問題は無かった。
だが今回は違ったのだ。
「――っ!」
兵士が消え去る前に少しだけ剣の刃先が俺を掠った。ちょっと切れた程度だったが血が流れだす。
消滅にかかる時間が伸びてる……? いや、適正があるために神力のコントロールが出来てるからか?
「くっそ!」
俺は腰から刀を抜くと構える。
たったあれだけの出来事でもこの絶対防御を突破したことは間違いない。それはこいつらにも危険が及ぶことを意味する。
「シェリア、リリナを守ってくれるか?」
「ええ? なんで私がこいつを?」
「頼む、リリナは神の子でも力は『癒し』だ。戦闘向きじゃない」
シェリアはため息をつくと「わかった任せて」と言ってくれた。
「良い子だ、ありがとうな」
シェリアの頭を撫でてやる。シェリアはうれしそうな表情をしていた。リリナも羨ましそうな顔をしていた気がする……
「なるべく俺はお前達は守る。だが万が一のときはシェリル、お前の力が頼りだ」
「まっかせて! 炎で丸焼きにしてやるから!」
シェリアは炎を身体に纏いだす。そして業火を神兵に向けて放つ。
それはまるで炎の海だった。その真っ赤に燃え盛る海から出てくるは神兵の軍団。
あの炎を受けてあれだけの損傷で済むのかよ。神兵の身体には少し焦げたくらいで大したことはなかった。
「消えたい奴はかかって来い! 塵一つ残さず消してやるよ!!」
その言葉通り触れた者から徐々に塵に変わっていく神兵達。
しかしさっきのように攻撃が届きそうな者もいる。その攻撃を刀で防ぎながら、一人二人と数を減らしていく。
「神兵化でも敵わないのか!?」
「あいつの霧どうなってやがる!?」
驚きの声が外野から聞こえてくる。
おそらくこの帝国で現時点での、神力を使った兵器はこの神兵ぐらいが、使い物になっているぐらいだろうと予想する。
そうじゃなかったら、他の強力な兵器で俺は殺されてるはずだからな。
「――!!」
俺はその時横から殺気を感じた。とっさに刀でその飛んでくる物体を反らす。
その正体は先端が鋭く尖った槍。これはランスという感じの形状だろうか?
「結構いい反応するじゃないか」
「いつの間に移動したんだお前? さっきまでそこにいなかったよな?」
「それは魔法を使えば造作もないさ……!」
俺は刀でランスの先端を振り払う。バードはバックステップしながら後退すると、その体勢のまま左手を突き出すと、そこから風らしき三日月型の刃を飛ばす。
その刃は霧に触れた瞬間消え去る。だがしかし、この風の刃もさっきの神兵と同じで少しだけ消滅に時間がかかった。
「……なるほど、神力は苦手みたいだね」
「そうか? お前のお仲間はどんどん消えてるけどな?」
「構わないよ、どうせ彼等は捨て駒のような感じだから。神兵化した者の末路を知っているだろう、君なら」
「……肉体の崩壊か、とことん狂ってるな」
自分達の兵士達ですら捨て駒として扱うこの国はとことん腐ってると感じた。
「だが……稀にね、神力と自身の魔力が適合する人もいる。その者達はさらに強力な神力を扱うことが出来るんだよ……こんな感じにね!!」
バードのランスの先端から放たれたのは真っ赤な炎。
あれはまさか……!! シェリアと同じ物!? 神兵ってのはここまで出来るのかよ!
その炎は俺の霧に触れると同時に消えていく。だが徐々に徐々に霧の中に侵食しているのがわかる。
「限界を超えたもの……これを私達は『天人』と言っているよ。そしてこの天人に到達出来たのは軍の中で私を入れて6人のみだ」
だからシェリアの力が使えるのか? 予想以上にこいつは厄介な力だな!
俺は霧をを集中させて濃度を濃くすると消滅速度を速める。
「くっ!」
バートは攻撃を中断し、その場から離れる。霧はバートのいた場所を包み込み周辺の物体を消し去る。
「君は何故No5を助ける? 何が目的だい神城」
「目的はねえよ。ただこいつらが平和に暮らせればそれでいい」
「そんな夢物語はないよ。そいつらは化け物だ、人間なんかじゃない。化け物は化け物らしくあの部屋にいるのがいいんだよ!」
そう喋るバートに目掛けて俺は霧を伸ばして攻撃をする。
それに気づいたのかバートは素早く回避して避ける。
「そんなことさせると思うか?」
「君も面倒だね!!」
バートは風のように視界から消えると、そのランスで身体を掠めるように突き出す。
それを刀で防ぐ。そして手を伸ばしてバートを掴もうとする。引き寄せてしまえば後は消滅するだけだ。
だがバートもそう簡単に捕まりはしない。
「――チッ!!」
バートはさっきのようにバックステップで後退していく。
その時だ、バートの背中を赤い線が通り過ぎる。背中からは上空に飛ぶ、赤い液体が見える。
「――――ガァ!! この……化け物風情が……!」
バートを攻撃したのはリリナとシェリルだ。手には炎を纏った剣を二人で持っている。おそらく倒れた兵士から取ったのだろう。
おい、まさか他の兵士達って……俺は視線をずらして周りを見る。周りは焼け焦げたような後が残っており、兵士達は焼かれたような感じになっていた。
いつのまに全滅させたんだ、すごいな……流石神の子だ。
「零! 今のうちに!!」
その一瞬の隙のうちに俺は刀でバートの右腕を切り落とす。
焦げた草の上にカサッと音を立てながら落ちる右腕。バートは血で溢れる肩を押えながらフラフラと下がる。
「くっそ……!」
下がって俺達に魔法を使おうとした時だった。バートを赤い火柱が包み込む。
「――ガァァ!!」
「丸焦げになっちゃえ……!!」
中から聞こえる断末魔。この炎は……シェリアか。シェリアの目つきはうらんでいるような目だった。
こいつと何かあったのか……?
炎が消えると中から現れたのは、腕や足、が真っ黒になったバート。そしてそのまま倒れる。
「……死んだの?」
「いや、生きてる……でも……時間の問題だ」
神力で辛うじて生きている程度だろう。あと数分もすればこいつは死ぬだろう。
リリナとシェリルはその見るに耐えないバートの姿を直視できないようだった。皮膚は爛れ、腕は千切れ、焼け焦げ。そして顔は焼けどでぐちゃぐちゃだ。
「……いくぞ。リンが待ってる」
「……うん」
俺は二人の手を握ると目的地に向かって走り出した。
バートのあんな姿を見てしまって、後味が悪かった。こいつ等を守るためだからと、俺は走りながらずっとそう言い聞かせた。
第二部も結構大詰めかな?
書いてて、この子連れ少年チートすぎると感じる今日この頃。




