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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
一章 ガルム帝国編 二部 神秘の炎を纏う、5番目の少女
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17話 警備が薄い場所は……

 あれから二日ほど経過した。シェリアの世話を任されたんだが、正直なところ何をしたらいいのかわからん。

 だって部屋からは出ることは出来ないし、かといって部屋に何かあるわけでもない。一体何をしろというんだ。

 そういうわけでこの二日間、俺はシェリアに……文字を教えてもらってました。


「違うよ、そこはこうだよ」


「おお、そうか」


 どこを見ても白い部屋で、ポツンとある灰色のテーブル。そこで向かい合いながら教えてもらってる。教本は兵士に頼んだら持ってきてくれた。

 意外とシェリルは教えるセンスがあるのかわかりやすい。

 感覚的には学校で英語の授業を受けているような感じだ。まあ教師が年下なのは……気にしたら負けだと思ってる。


「本当になんにも知らないんだねー」


「仕方ないだろ……読めないし書けないんだから……」


 顔を赤くして恥ずかしいように答える。その様子を見ていてクスクス笑っているシェリア。

 だって俺はこの世界の住人じゃない。ため息をつきながらそう思った。だから恥を承知で頼んだんだ。


「そろそろ休憩しよっか?」


「そうだな、ちょうど兵士が渡してくれた飲み物あるし」


 俺の横に置いてある袋を取ると、中から飲み物が入っている黒い水筒のような筒を取り出す。

 それを二つのコップに注ぐ。透明なことから水だなこれ。


「…………」


 俺は上を見上げながら色々考えていた。

 本当にないもない部屋だよなぁ。どこを見ても白一色。唯一このテーブルと二つの扉だけが色違い。なんだか目が痛くなるぞ。


「なあ……シェリアって炎を司ってるんだよな?」


「確か兵士の奴等がそんなこと言ってたような……」


「その炎でさ、扉とか壊したりしないのか?」


 ふと思った疑問だ。神の子の力は強大だ、ならその力を持つ少女達もかなり強いんじゃないか? それなら簡単に捕まえたり出来ないと思うが。


「無理なの。この部屋ってオリハルコンで覆われてるし」


「オリハルコン? なんだそのゲームに出てきそうな石は」


「知らないの? オリハルコンは魔力絶縁石だよ?」


 つまり魔力を一切通さない石なわけだ。電気とゴムみたいなもんだな。

 でも魔力は通さなくても神力は通りそうだけど……


「それでオリハルコンは、神の子の力を抑えることも出来るんだって……あいつ等がそう話してた」


「力を封じられて、さらにこの部屋中もそのオリなんとかで出来てるのか……そりゃ無理だな」


 そんな便利鉱石があるなら、確かに神の子を捕まえておくのも簡単だな。

 俺はなんの変哲もない白い床を触る。ただの冷たい床だな……


「あれ? でもお前炎出してたよな?」


「ちょっとぐらいなら力使えるから……」


 あれでちょっとか? 簡単に消し炭に出来そうなぐらいの火力があった気がしたが。

 力を抑えられてもあれだけの力に、改めて神の子の力の強大さがわかる。


「オリハルコンがなくても少ししか出せないんだけどね……体が痛くなるから」


 なにか体が自然と制限でもつけてるのか? 人間も100%の力は出せないっていうしな。


「……私を助けられるか不安になった?」


「いや、そこは問題ない……はずだ」


 多分オリなんとかも消せるはず……だと思う。……少し不安になってきたぞ。

 俺が不安になってどうするんだ。俺は両手で顔パシッと叩くと不安を消し去る。

 その一連の様子を首をかしげて、不思議そうに眺めるシェリア。


「そうだ、お前の警備が無くなるときってあるか?」


 すこし悩むようにして考えるシェリル。

 そして思いついたように、目を開ける。


「……ト……レなら」


 ボソボソっと言われて、うまく聞き取れない。

 うつむいた状態で恥ずかしそうにしているシェリア。


「ト……なに?」


「――トイレよ! トイレ!!」


 トマトみたいに真っ赤にして叫ぶ。

 悪かったなシェリア、聞きなおして。いや本当にごめん。


「トイレ時間なら……警備は薄くなる」


 さすがにここの兵士共は、少女のトイレタイムまで監視するほど変態ではないか。

 なるほどトイレかこれは盲点だった。俺の頭の中に色々と作戦が思い浮かぶ。


「なあそのトイレの時間っていつだ?」


 そう訊くと、シェリアが引いたような顔をして俺を見る。

 こいつ……まさかとは思うが、勘違いしてる?


「零君って……変態さん?」


「何故そうなる! 俺はそれを参考に脱出の作戦を考えるんだよ!」


 シェリアは「そっちね……」と言い、やれやれといった感じにため息をつく。こっちがやれやれだよ。


「えっと……時間は朝、昼、夜の3つかな。時間になるとあの部屋の鍵が開くの」


 シェリアが指す方向には周りの壁とは違う、くすんだ白色の扉。


「でも……トイレの時間聞いて参考になんかなるの……?」


「出来るだけ穏便に逃げたいからな。そのためだ」


 とりあえず重要なことはわかった。まあトイレというのが難点だがな。


「……時間……これに書いとくね」


 シェリアは教本の端を千切ると、それに時刻を記していく。

 ふむ……何書いてるかわからんな。習ったけどまだ読めない。


「はい、こんなのが役に立つか心配だけど」


「ありがとな。読めないし仲間に読んでもらうよ」


「ふぇ!?」


 読んでもらうのが恥ずかしかったのか、顔をまた赤くする。

 我慢してくれ、俺には読めないんだ。まだまだ勉強不足だから……


「そ、それなら駄目だよ!!」


「いや、これないと時間わからないだろ?」


「零君だから教えたの!!」


「安心しろ、読むのは女の子だから」


「安心出来ないよ!!」


 ギャアギャアと騒ぐ俺とシェリア。

 なんとか興奮状態のシェリアを落ちつかせる。身体には少しだけど炎纏ってる……

 そしてシェリアから一つだけ条件を言われる。


「もしここから出れたら……私のお願い聞いて……それならいいよ」


「お願い? 俺に出来ることならいいぞ」


「……なら、いいよ見せても」


 なんだかあっさり退いたな。たったそれだけでいいんなら安いもんだ。たかがトイレの時間だけど、恥ずかしいからなぁ……気持ちはわかる。

 この時シェリアが少しだけ子悪魔みたいに、悪巧みをしていた笑みをしていたのに、俺は気づいていない。



 そとには月のように薄く光る惑星が二つ浮かんでおり、その光で薄暗い外を照らす。

 俺はというと、宿舎でリン達と作戦を練っている最中だ。


「ここの警備は厳しいから、ちょっと回り道をしたほうがいいわ」


 リンはこの城の地図を広げて、俺たちに城周辺の様子を丁寧に教える。

 こんな地図どうやって手に入れてんだこいつ。いやこの手際のよさ、流石リンというべきか。


「ここが神の子が監禁されてる周辺ね」


 地図上に書かれた場所を指す。場所は地図で見ると左上に位置する。

 あの部屋って全然広くないけど……この地図見る限りだと……かなり大きなつくりだな。神の子を閉じ込めるために作ったとしか思えない。


「とりあえずこんなところね。あなたはどう?」


「ああ、俺もいい情報がある」


 俺はポケットから、あの時間が記された紙切れを渡す。


「……7時、12時、9時? 零、何これ?」


 リリナが記された文字を読んでくれた。時間の単位が俺の世界と読み方変わらないのか。

 俺は意外な接点に少しだが驚く。数字みたいなのが書かれていたから、もしやとは思ったが……


「それはトイレの時間だ」


「……あなた一体何を調べてきたの……」


「……最近零が変態にしか見えない」


 呆れたように俺を見るリンと、白い眼差しで俺を横目で見るリリナ。

 とっても二人の視線が痛い。俺も説明不足だった。トイレの時間だなんて言われたら誰だって思うよな。


「説明不足だったみたいだ。警備がもっとも薄い時間帯、それがこのトイレの時間だ」


「最初からそう言いなさいよ」


 二人も今ので納得したみたいで、うなずく。


「この時間に助け出すの?」


「そうねー警備が薄いって言うなら、この時間が妥当ね」


「問題はどうやって助けるかだな……」


 俺の疑問に、リンが俺を不思議そうな顔で見たと思うと、ため息をつく。

 あれ、また何かやらかした?


「あなたの霧があるでしょ? それで壁に風穴開ければ一発じゃない」


 リンにしてはかなり大胆な作戦を提案する。

 それでいいのか、我がギルドの智将。


「正直言って、この警備をこの短期間で攻略出来ないわ。そうなると方法は一つ……あなたの霧による正面突破よ」


 この二日間でこの城の警備力の高さはかなりのものだと感じた。

 そう思うとリンの言うことももっともだ。俺の霧ならほとんどの攻撃は無力化可能だしな。


「警備が薄い時間帯にこっそりと連れ出して、なるべく被害が出ないうちに撤収する。それでいい?」


「私は……とくにないかな……」


「あまり気乗りはしないが……今は仕方ないか」


「それじゃあ作戦は――明日の夜よ」


 早いな。もう少し準備するかと思ったが……何か焦ってるのか?


「そろそろ私達のことも気づかれ始める頃だしね……いくら証拠が消えたといっても限界があるもの」


「あの騒動のことか……」


「面倒にならないうちに片付けるわよ」


 やれやれ、本当にこいつには世話になってばかりだな。リンがいなかったら無理だったな。

 そんな時俺がふと思ったのは、リンが俺たちにここまでする理由だ。自らを危険にさらしてまでやる必要があるのか?


「なあリン。いまさらこんなこと言うのもなんだけど……なんで俺達にここまでしてくれるんだ?」


「……なりゆき……よ」


 リンはチラッとリリナを見るとそう言った。

 こいつは嘘が下手だな……そんな悲しそうな目を見て、なりゆきだなんて思えるわけがない。きっと何か特別な理由があるのだろう。

 話してくれるまで待つとしようかね……俺はそう思った。


「そうか……」


「……今日は寝ましょう? 明日は本番よ」


「そうだね、疲れちゃったし」


 リリナは布団に吸い込まれるように潜っていく。

 それ俺の布団なんだけど? また寝るのか?


「入らないの?」


 リリナが布団を開けて俺を誘導するようにする。

 こいつと寝るとさ……色々とヤバイだよな。寝相が悪すぎて……色々と見えそうになる。


「……しょうがないな……」


 まあ今日が最後だし……仕方ないか。我慢しよう。

 珍しく白い目で見てこないリン。なんだか考えているようすだ。


「私ちょっと風に当たってから寝るわね」


「おう、気をつけてな」


 そしてリンは部屋を出て行った。

 出て行く間際にリンは俺にしか聞き取れない音量で呟いた「いつか……話すから」と。

 バタンと木造の扉が閉まる。俺はその様子を静かに眺めていた。


「待ってるさ。話してくれるまでな……」


 そう呟くと、俺は作戦前の最後の眠りについた。


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