17話 警備が薄い場所は……
あれから二日ほど経過した。シェリアの世話を任されたんだが、正直なところ何をしたらいいのかわからん。
だって部屋からは出ることは出来ないし、かといって部屋に何かあるわけでもない。一体何をしろというんだ。
そういうわけでこの二日間、俺はシェリアに……文字を教えてもらってました。
「違うよ、そこはこうだよ」
「おお、そうか」
どこを見ても白い部屋で、ポツンとある灰色のテーブル。そこで向かい合いながら教えてもらってる。教本は兵士に頼んだら持ってきてくれた。
意外とシェリルは教えるセンスがあるのかわかりやすい。
感覚的には学校で英語の授業を受けているような感じだ。まあ教師が年下なのは……気にしたら負けだと思ってる。
「本当になんにも知らないんだねー」
「仕方ないだろ……読めないし書けないんだから……」
顔を赤くして恥ずかしいように答える。その様子を見ていてクスクス笑っているシェリア。
だって俺はこの世界の住人じゃない。ため息をつきながらそう思った。だから恥を承知で頼んだんだ。
「そろそろ休憩しよっか?」
「そうだな、ちょうど兵士が渡してくれた飲み物あるし」
俺の横に置いてある袋を取ると、中から飲み物が入っている黒い水筒のような筒を取り出す。
それを二つのコップに注ぐ。透明なことから水だなこれ。
「…………」
俺は上を見上げながら色々考えていた。
本当にないもない部屋だよなぁ。どこを見ても白一色。唯一このテーブルと二つの扉だけが色違い。なんだか目が痛くなるぞ。
「なあ……シェリアって炎を司ってるんだよな?」
「確か兵士の奴等がそんなこと言ってたような……」
「その炎でさ、扉とか壊したりしないのか?」
ふと思った疑問だ。神の子の力は強大だ、ならその力を持つ少女達もかなり強いんじゃないか? それなら簡単に捕まえたり出来ないと思うが。
「無理なの。この部屋ってオリハルコンで覆われてるし」
「オリハルコン? なんだそのゲームに出てきそうな石は」
「知らないの? オリハルコンは魔力絶縁石だよ?」
つまり魔力を一切通さない石なわけだ。電気とゴムみたいなもんだな。
でも魔力は通さなくても神力は通りそうだけど……
「それでオリハルコンは、神の子の力を抑えることも出来るんだって……あいつ等がそう話してた」
「力を封じられて、さらにこの部屋中もそのオリなんとかで出来てるのか……そりゃ無理だな」
そんな便利鉱石があるなら、確かに神の子を捕まえておくのも簡単だな。
俺はなんの変哲もない白い床を触る。ただの冷たい床だな……
「あれ? でもお前炎出してたよな?」
「ちょっとぐらいなら力使えるから……」
あれでちょっとか? 簡単に消し炭に出来そうなぐらいの火力があった気がしたが。
力を抑えられてもあれだけの力に、改めて神の子の力の強大さがわかる。
「オリハルコンがなくても少ししか出せないんだけどね……体が痛くなるから」
なにか体が自然と制限でもつけてるのか? 人間も100%の力は出せないっていうしな。
「……私を助けられるか不安になった?」
「いや、そこは問題ない……はずだ」
多分オリなんとかも消せるはず……だと思う。……少し不安になってきたぞ。
俺が不安になってどうするんだ。俺は両手で顔パシッと叩くと不安を消し去る。
その一連の様子を首をかしげて、不思議そうに眺めるシェリア。
「そうだ、お前の警備が無くなるときってあるか?」
すこし悩むようにして考えるシェリル。
そして思いついたように、目を開ける。
「……ト……レなら」
ボソボソっと言われて、うまく聞き取れない。
うつむいた状態で恥ずかしそうにしているシェリア。
「ト……なに?」
「――トイレよ! トイレ!!」
トマトみたいに真っ赤にして叫ぶ。
悪かったなシェリア、聞きなおして。いや本当にごめん。
「トイレ時間なら……警備は薄くなる」
さすがにここの兵士共は、少女のトイレタイムまで監視するほど変態ではないか。
なるほどトイレかこれは盲点だった。俺の頭の中に色々と作戦が思い浮かぶ。
「なあそのトイレの時間っていつだ?」
そう訊くと、シェリアが引いたような顔をして俺を見る。
こいつ……まさかとは思うが、勘違いしてる?
「零君って……変態さん?」
「何故そうなる! 俺はそれを参考に脱出の作戦を考えるんだよ!」
シェリアは「そっちね……」と言い、やれやれといった感じにため息をつく。こっちがやれやれだよ。
「えっと……時間は朝、昼、夜の3つかな。時間になるとあの部屋の鍵が開くの」
シェリアが指す方向には周りの壁とは違う、くすんだ白色の扉。
「でも……トイレの時間聞いて参考になんかなるの……?」
「出来るだけ穏便に逃げたいからな。そのためだ」
とりあえず重要なことはわかった。まあトイレというのが難点だがな。
「……時間……これに書いとくね」
シェリアは教本の端を千切ると、それに時刻を記していく。
ふむ……何書いてるかわからんな。習ったけどまだ読めない。
「はい、こんなのが役に立つか心配だけど」
「ありがとな。読めないし仲間に読んでもらうよ」
「ふぇ!?」
読んでもらうのが恥ずかしかったのか、顔をまた赤くする。
我慢してくれ、俺には読めないんだ。まだまだ勉強不足だから……
「そ、それなら駄目だよ!!」
「いや、これないと時間わからないだろ?」
「零君だから教えたの!!」
「安心しろ、読むのは女の子だから」
「安心出来ないよ!!」
ギャアギャアと騒ぐ俺とシェリア。
なんとか興奮状態のシェリアを落ちつかせる。身体には少しだけど炎纏ってる……
そしてシェリアから一つだけ条件を言われる。
「もしここから出れたら……私のお願い聞いて……それならいいよ」
「お願い? 俺に出来ることならいいぞ」
「……なら、いいよ見せても」
なんだかあっさり退いたな。たったそれだけでいいんなら安いもんだ。たかがトイレの時間だけど、恥ずかしいからなぁ……気持ちはわかる。
この時シェリアが少しだけ子悪魔みたいに、悪巧みをしていた笑みをしていたのに、俺は気づいていない。
そとには月のように薄く光る惑星が二つ浮かんでおり、その光で薄暗い外を照らす。
俺はというと、宿舎でリン達と作戦を練っている最中だ。
「ここの警備は厳しいから、ちょっと回り道をしたほうがいいわ」
リンはこの城の地図を広げて、俺たちに城周辺の様子を丁寧に教える。
こんな地図どうやって手に入れてんだこいつ。いやこの手際のよさ、流石リンというべきか。
「ここが神の子が監禁されてる周辺ね」
地図上に書かれた場所を指す。場所は地図で見ると左上に位置する。
あの部屋って全然広くないけど……この地図見る限りだと……かなり大きなつくりだな。神の子を閉じ込めるために作ったとしか思えない。
「とりあえずこんなところね。あなたはどう?」
「ああ、俺もいい情報がある」
俺はポケットから、あの時間が記された紙切れを渡す。
「……7時、12時、9時? 零、何これ?」
リリナが記された文字を読んでくれた。時間の単位が俺の世界と読み方変わらないのか。
俺は意外な接点に少しだが驚く。数字みたいなのが書かれていたから、もしやとは思ったが……
「それはトイレの時間だ」
「……あなた一体何を調べてきたの……」
「……最近零が変態にしか見えない」
呆れたように俺を見るリンと、白い眼差しで俺を横目で見るリリナ。
とっても二人の視線が痛い。俺も説明不足だった。トイレの時間だなんて言われたら誰だって思うよな。
「説明不足だったみたいだ。警備がもっとも薄い時間帯、それがこのトイレの時間だ」
「最初からそう言いなさいよ」
二人も今ので納得したみたいで、うなずく。
「この時間に助け出すの?」
「そうねー警備が薄いって言うなら、この時間が妥当ね」
「問題はどうやって助けるかだな……」
俺の疑問に、リンが俺を不思議そうな顔で見たと思うと、ため息をつく。
あれ、また何かやらかした?
「あなたの霧があるでしょ? それで壁に風穴開ければ一発じゃない」
リンにしてはかなり大胆な作戦を提案する。
それでいいのか、我がギルドの智将。
「正直言って、この警備をこの短期間で攻略出来ないわ。そうなると方法は一つ……あなたの霧による正面突破よ」
この二日間でこの城の警備力の高さはかなりのものだと感じた。
そう思うとリンの言うことももっともだ。俺の霧ならほとんどの攻撃は無力化可能だしな。
「警備が薄い時間帯にこっそりと連れ出して、なるべく被害が出ないうちに撤収する。それでいい?」
「私は……とくにないかな……」
「あまり気乗りはしないが……今は仕方ないか」
「それじゃあ作戦は――明日の夜よ」
早いな。もう少し準備するかと思ったが……何か焦ってるのか?
「そろそろ私達のことも気づかれ始める頃だしね……いくら証拠が消えたといっても限界があるもの」
「あの騒動のことか……」
「面倒にならないうちに片付けるわよ」
やれやれ、本当にこいつには世話になってばかりだな。リンがいなかったら無理だったな。
そんな時俺がふと思ったのは、リンが俺たちにここまでする理由だ。自らを危険にさらしてまでやる必要があるのか?
「なあリン。いまさらこんなこと言うのもなんだけど……なんで俺達にここまでしてくれるんだ?」
「……なりゆき……よ」
リンはチラッとリリナを見るとそう言った。
こいつは嘘が下手だな……そんな悲しそうな目を見て、なりゆきだなんて思えるわけがない。きっと何か特別な理由があるのだろう。
話してくれるまで待つとしようかね……俺はそう思った。
「そうか……」
「……今日は寝ましょう? 明日は本番よ」
「そうだね、疲れちゃったし」
リリナは布団に吸い込まれるように潜っていく。
それ俺の布団なんだけど? また寝るのか?
「入らないの?」
リリナが布団を開けて俺を誘導するようにする。
こいつと寝るとさ……色々とヤバイだよな。寝相が悪すぎて……色々と見えそうになる。
「……しょうがないな……」
まあ今日が最後だし……仕方ないか。我慢しよう。
珍しく白い目で見てこないリン。なんだか考えているようすだ。
「私ちょっと風に当たってから寝るわね」
「おう、気をつけてな」
そしてリンは部屋を出て行った。
出て行く間際にリンは俺にしか聞き取れない音量で呟いた「いつか……話すから」と。
バタンと木造の扉が閉まる。俺はその様子を静かに眺めていた。
「待ってるさ。話してくれるまでな……」
そう呟くと、俺は作戦前の最後の眠りについた。




