14話 神の子の居場所
第二部 5番目の神の子編 始まりです
まぶたをすり抜ける様に光が差し込み、俺は目を覚ました。
目を開ければ見慣れた天井。そうか……ここはアパートか。
「……夢じゃない……か」
ぼんやりする頭の中に、昨日の光景が巻き戻されるように再生される。
少しだけ……体が震えた。
「……ん?」
足の辺りに何かやわらかい感触がする。俺は布団の中をそっと覗く。
そこに見えたのは青い物体。なんとなく……分かった気がした。そして布団を退ける。
足元にくっついていた青い物体の正体はリリナだった。
「え……何でこいついるの?」
可愛らしく寝息を立てている。その姿はまるで小動物のような感じで可愛らしい。
おっと見てる場合じゃない。早く起こして退いてもらわないと。こんなところ見られたら、リンにまた誤解される。
その時ガラッと扉が開けられる音がする。
「――起きてる?」
どうやら遅かったようだ。
入って来た人物は勿論リン。そして目があう。
「…………」
「違うぞ……俺は違うからな」
沈黙の空間。まあ信じてもらえないだろうな……
俺はどう誤解を解こうと考えていると、リンが口を開ける。
「知ってるわよ、別にあなたをロリコンだとか言わないわよ」
「へ……?」
「だって、リリナちゃんと寝てるの知ってたし」
知っていた? どういうことだ、俺は寝るとき一人だったはずだぞ?
「あなた……昨日泣いてたのよ」
「泣いて……た?」
俺は言われて目の辺りを指で触れる。少しだけど泣いたような後が確かにある。
寝ているときに無意識に泣いていたのだろうか?
「それでね……この子が一緒に寝るって言って、あなたの部屋に行ったの」
「そうだったのか……」
リンはそう言うと窓側へ歩いて行き、外を眩しく照らす太陽を見る。
「だってあんなことがあった後だもん……しょうがないわよ」
「迷惑かけたな……悪い」
「あなたは悪くない。むしろあなたは正しいことをしたわ」
「でも俺は……」
再び俺の脳裏にあの時の光景が思い浮かぶ。頭ではわかっていても涙が浮かんだ。
「その先は言わなくてもいいのよ。辛いでしょ?」
「…………」
「それに……今は泣いてる場合じゃない……でしょ?」
俺はその言葉に従うように目に溜まる涙を拭く。
「ああ、その通りだ」
「そう、その顔よ。あなたはあんな辛気臭い顔、似合わないわね」
本当に、こいつらには助けられてばかりだな。弱い俺をいつも支えてくれる。
あの悲しみと俺は向き合うんだ。そして、一人でも多く助ける。
「それで、これからどうするの? 何か手がかりはあるの?」
「あいつが……ミーシャが最後に、5番目の子を助けてやってくれって言ってたんだ」
「5番目……神の子本人が言ってるんだから確かな情報ね……」
多分その5番目の子は、ガルム帝国が保有している神の子だろう。
だが居場所が分からない。それさえ分かれば何とかなるが……
「場所は聞いてるの?」
「いや……そこまでは」
「そう……」
しばらくの沈黙が漂う。お互い考えるがどこにいるか見当もつかない。
その時、リンがはっとしたように何かを思い出すような表情を作った。
「神の子は国にとって重要な存在……ならもっとも安全な場所に監禁するのが一番ね……」
確かに言われてみればそうだな。神力がほとんどない状態のミーシャでさえあれだけの力があった。
戦争の道具として見れば、国にとってどんな強力な兵器よりも強力だ。なら他国に奪われるわけにはいかない……
「あるわ……この帝国で最も安全な場所が」
「本当か?」
「ええ、ガルム帝国最大の警備能力を誇る場所。皇帝がいる『ガルム城』よ」
「お城ってわけか……そりゃ警備も厳重だな」
城となるとどうやって侵入する? やっぱり昨夜のように正面から行くか?
色々と考えを張り巡らせるが、どれも正面突破などの物騒なものばかりしか思いつかない。いや、まあこれでもいけないことはないけど。
「あなた今、正面から殴りこみしようと思ったわね?」
ジト目で俺を呆れたように見ているリン。
そして深くため息をつく。
「あなたの力なら大丈夫だろうけど……そんなことしたら国中大パニックよ? それこそ関係のない一般人まで巻き込みかねないわ」
「だよなぁ……」
じゃあどうすればいいんだろうか。城に入るなんてどうやっても無理なんだけど。
「……一つ方法があるわ」
「マジか!」
俺はその言葉に食いつくように喋る。
頼りになるぜ、流石俺たちのギルドマスターだな。
「これ……わかる?」
リンはポケットからなにやら紙を取り出し、俺に飛ばすように渡す。
紙……新聞紙かこれ? 文字は読めないからわからないが、この絵だけ見ると……昨夜の場所か?
「そういえば、あなた文字読めないって言ってたっけ。その記事の内容を説明すると――」
リンは俺の手にある紙を見ながらそのまま喋る。
「何者かによって国内の魔学研究所が破壊、消滅された。警備をしていた者達は行方不明、そして軍のレオ少佐も行方不明……てことを書かれてるわ」
「昨日の俺がやった騒動か……」
「それで、今国は総動員で行方不明者の捜索。犯人の特定を急いでるわ」
「そこまで大事になってるとはな」
「当たり前よ。国内で二番目に警備が硬いといわれてるところを破壊じゃなくて、綺麗さっぱりに消滅させちゃったのよあなた? そりゃ国も焦るわよ」
「それで、なんでそれがお前のいう方法に繋がるんだ?」
リンはフフッと笑うと、チラシのような紙を俺に突きつけるように見せる。
「どっかの誰かさんが派手にやってくれたおかげでね、城の警備が足りない状況なのよ。それで私達ギルドに白羽の矢が立ったの」
「ということは……警備員が足りないから、やってくれないかってことか?」
「そいうこと」
確かにそれなら城に潜入出来るな。しかし俺はあることが気になる。
ちょっと待てよ……俺たちって入れなくないか? あれだけのことしてるから。
「なぁ……俺たち入ったら捕まるよな?」
「あなた、昨夜完全に施設消滅させたわよね?」
「ああ……力を暴走させて……消しちまった」
「そのおかげで、機材とかに残ってるあなたの顔とかのデータごと消滅したのよ。あの研究所のデータって漏らすわけにはいかないから施設外にはそう簡単に出ないの。それで、情報が出る前にあなたが消したからまだ素性がわかってないってわけ」
なるほど、それでお前も俺にあんな紙を堂々と見せたわけか。
まだバレてないなら城に堂々と侵入可能ってわけだ。力暴走させたけど……結果オーライってやつだったな。
「それで、どうする? この作戦?」
「決まってるだろ? 是非やらしてくれ」
「決まりね」
するとリンは「じゃあちょっと待ってて!」と言って部屋から出て行った。
待つこと数分、リンはなにやら大きな箱をもって現れた。
そしてそれを勢いよく床に置く。中には服やらめがねなど色々入っている、まるで学校の文化祭の小道具みたいだ。
「一応、変装だけするわよ」
「俺だけか……?」
するとリンは俺を何言ってるの? というような顔をする。
まさか全員変装するのか?
「みんなするわよ? 勿論リリナちゃんもね」
するとリリナがやっと目を覚ましたのか、あくびをしながら起きる。
「お、リリナちゃんも起きたわねー」
「やっとか……」
リリナは寝ぼけた様子で部屋から出て行く。そして戻ってきたと思うと俺の膝の上にチョコンと座る。
「……おやすみなさい……」
俺の服に顔をうずめるようにして再び夢の中に戻っていった。というか何しに行ったの?
おい寝るな。そして口からよだれ垂れてるぞ。
「…………」
「…………」
「寝るな……起きろ」
ペシペシとリリナの頬を叩く。嫌がるような顔をしながら、渋々目を開けると、ようやく今の状況を理解する。
「あ……リンさん、零、おはよう」
「うん、おはようリリナちゃん」
「おはようさん」
リリナは俺の膝の上にいることを気づき、すこし恥ずかしそうにしながら退くと「か、顔洗ってくる」と言って行ってしまった。
俺はリンと目が合う。そしてお互い笑いがこぼれる。こんな風に楽しく、笑っていられる日常が来ると……いいな。俺はそう感じた。
「さて、リリナちゃんも起きたし本格的に作戦練ろうか!」
「そうだな!」
待ってろよ5番目の神の子。お前をこの帝国の鎖から、運命の鎖から絶対に救ってやるからな。
リン達と作戦を練ってから数時間が経過した。
まあ作戦の内容はというと。まずは潜入、そして神の子の居場所を特定する。特定したら隙を見て俺が助けるという、到ってシンプルな作戦。だがそれだけに難しい。リン達は俺のサポートに回るらしい。
さて俺はというと、今部屋で変装の衣装に着替えているわけだが……
「なんだこれ……」
頭に装着されたのは天然パーマのような銀髪のカツラ。服装はどこの魔法使いだといわんばかりの黒いマントと杖。極めつけはグルグルメガネ。すごく……弱そうだ。
へっぽこ魔法使いという称号でもつきそうだな。あとメガネもうすこしどうにかならなかったのか?
「メガネだけでもどうにかしてほしいよ……」
俺は手に持った特徴的なメガネを見てそう悲しく呟いた。
あいつ絶対狙って俺に渡しな、これ。
「とりあえず見せてみるか」
俺は部屋の扉を掴み何も考えず開けた。
そう、この行動がまずかった。
「準備出来……たか……?」
視界に入ったのは、大きな山と小さな丘だ。やっぱりリンでかいな。リリナは発展途上?
っと、そうじゃない……まだ着替え中だとは思わなかった。女の子の着替えって長いんですね。
硬直する三人。幸い下着をつけているみたいでセーフだ。リリナまだブラはしてないのか。まあ当たり前か。
「……」
「……」
「……」
そしてリンがとっさにテーブルに置いてあった黒ホルスターを掴むと銃を取り出す。
「し――死ねえぇ!! この変態ロリコン男!!」
「ちょっ!! これは違うんだ!!」
次々と飛んでくる赤い銃弾。ヤバイこれは何を言っても、信じてもらえそうにない。
するとリリナも口を開く。
「……変態な零は……嫌い」
ボソッと冷たい目でそう言った。
まだリンみたいに怒ったほうがマシだよ。あの目はかなり心に突き刺さる。
なんとかしてリンの怒りを静めて、二人に土下座した。でもリリナはずっとそっぽを向いていた、それとあの冷たい目で見てた。
こんなんじゃこれから潜入作戦が成功できるか不安だ……




