13話 運命からの解放
「見事だ少年、まさか神兵化した少佐を倒すとは予想外だ」
「次はお前の番だぞ? シルファス」
ギロリと睨むように俺はシルファスを見る。
シルファスは怯える様子もなく、ただ俺を冷静に見ていた。
「私は少年に興味が湧いたよ」
「…………」
「君のその力……存在全てに興味がね」
そしてシルファスは淡々と語り始める。
「少年のその神を超越する力、何故少年は魔力が無いのか、少年は何故そんな力を持っているのか……いやぁ聞きたいこと知りたいことだらけだ」
「俺はお前に興味はない、今すぐにでも消してやりたいよ」
背後にまわせていた霧をシルファスを包むようすると消滅させた。
しかしその直後、消滅させたはずのシルファスの声が後ろから聞こえる。
「――物騒だな少年」
「てめえ……なんで!」
俺はそこで気づく。あの空間を操る神の子の存在に。
そうかあの子が……移動させたのか……
シルファスの横には白衣を掴むように少女が俺を見ている。
「少年、楽しかったよ。君という存在に会えたのだからね……」
すると少女が「ゲート」と呟く。その瞬間シルファスの背後に黒い楕円形の塊が現れる。中は紫色でグニャグニャと歪曲している。
「私はここで失礼するとしよう。また会えるときを楽しみにしているよ、少年」
「待て!!」
霧を伸ばす。だがシルファスはそれよりも早く黒いゲートのような物に包まれその姿を少女と共に消した。
逃げられた……俺の力ではあいつを追うことは無理だろう……
「そうだ! ミーシャ!!」
俺はミーシャが倒れているケースへと走った。
霧を出現させてケースを破壊する。ミーシャの髪を揺らしなが、俺は身体を抱き起こした。
「おい! 大丈夫か!」
声に気づいたようにゆっくりとそのまぶたを開けるミーシャ。
そして俺の顔を見て、安心したような顔をする。
「……お兄さん……どうして、来たんですか?」
「そんなの……お前を助けるために決まってるだろ」
「私は……お兄さんと少ししか会ってませんよ?」
「そんなの関係ないだろ……助けるのに理由はいらねえよ」
そう言うとミーシャはうれしそうに微笑んだ。
「お兄さんは不思議な人です……人とは違う、化け物のような私を命を賭けて助けに来るなんて……」
「化け物じゃねえよ……お前はただの可愛い女の子だ……自分を化け物だなんて、そんなこと言うな」
するとミーシャの目から一筋の涙が流れ俺の腕へ伝った。
そしてその小さな口から一言俺に言った。
「ありがとう……お兄さん。私は……最後に、あなたに出会えて……本当によかった」
「最後……? おい……最後って何だよ……」
ミーシャは消えそうな声でそう言った。
嘘だろ? お前はこれからたくさんの世界を見て、笑って、泣いて、生きていくんだぞ? こんな国に利用されて……死ぬのなんて嫌だよな? 生きたいよな?
「私にはもう神力が――――ないんです……」
その言葉に俺は絶望した。リリナの言葉が頭をよぎる『神力が尽きた神の子は――死ぬの』というあの言葉が。
「駄目だ! 死ぬな!!」
「お兄さん……? 何で……泣いてるんですか?」
ミーシャの顔に俺の涙が次々と落ちていく。そして震える手でミーシャは俺の目元に溜まる涙をふき取る。
「私のために……泣いてるんですか?」
「なんで……なんでお前がこんな目にあわなきゃなんないんだよ……お前が何したってんだよ……」
こらえることの出来ない思いが涙に変わるように俺は泣いていた。
悲しさ、悔しさ、憎しみ、様々な感情が俺の胸を締め付けるような感じがした。
「神の子として選ばれただけなのに……どうして……どうしてお前が……! 神の子達や他の少女がこんな目に合うんだ!」
するとミーシャの両手が俺の首に回される。
そして耳元でミーシャは「ありがとう……お兄さん」と呟く。
「もっと早く……お兄さんと出会いたかったです……私は生まれて初めて……人を……お兄さんを好きになりました」
そしてミーシャはどんどん声が小さくなっていく。身体もどんどん光に包まれ始める。
「ありがとう……最高の思い出を……ありがとうございました」
「駄目だ! 消えるな! 消えないでくれ!!」
無意識にその小さく消えてしまいそうな、その身体を抱きしめた。
「あなたは……私の王子様です……お兄さん……」
足が徐々に光のように消えていく。その様子は光のシャボン玉のような感じだった。
「――お兄さんの力で……5番目の子を助けてあげてください」
そして最後にミーシャは消えかけのろうそくのような感じで一言呟いた。
「――ありがとう……さようなら」
あの時と変わらない別れの言葉。ただ違ったのは……本当にうれしそうで、笑顔でそう言っていた。
そしてミーシャは光に変わり俺の腕の中から消えてしまった。
「嘘……だろ……」
俺の腕には白いワンピースだけが残っていた。体全体が震える。目からは涙が洪水のように流れ出す。
言ったよな、もう一度あの店に行くってさ……約束したじゃないか!
「あいつが何したんだよ……なんでこうなるんだよ……! こんな力があっても……俺は、何一つ守れないのか!!」
部屋中が白く霞みだす。そして徐々に部屋の機材が消滅し始める。
力があっても何も変えられなかった……ミーシャを救ってやることが出来なかった。
あいつ等が何をしたんだ? この世界に何かしたか? こんなくだらない世界なんて消してしまいたい。
そうだ……俺が――――
――――消してしまえばいいんだ。
その瞬間部屋の霞がいっそう増し始め、機材や壁を一瞬にして塵に変え始める。
気づけば一瞬で研究施設は消滅しており、その規模は徐々に拡大していった。
「そうだ……消えればいい……こんなくだらない世界なんて……消えればいいんだ」
もうこの世界を消してしまう。あいつ等が悲しむような世界なんて俺はいらない。それなら消してしまう。俺の名のように零に変える。
俺は泣きながら、悲しみに埋もれながらそう考えていた。このときの俺はリリナのこととか、ミーシャ最後の言葉は頭に入っていなかった。ただただ消えたい、この世界を拒絶していた。
「零!!」
聞き覚えのある声が聞こえたと思った。誰が? この消滅の霧の空間の中……どうやって?
そっと後ろから小さな手が回され俺を抱きしめるようにする。
「落ち着いて……零。消えちゃ……駄目」
俺は涙で濡れたその顔で後ろをそっと振り向く。
リリ……ナ? なんで、どうしてここにいるんだ?
「なんで……?」
「言ったでしょ? 零が危なくなったら助けに行くって」
「でも……ここは俺の霧の中だぞ……? 消えるぞ?」
どうして……こいつは消えない? なんで? なんで……この小さな手は……あいつのように消えない。
「大丈夫だよ、私は零を信じてるから。それに私はこの霧は……零に受け入れられてる感じがするから好き」
受け入れる? 俺はこいつを……受け入れているのか。だから……消えないのか? こいつを俺が心からこいつを受け入れているから。
「零……消えたいなんて……言わないで」
俺の頬に俺の涙とは違う、別の涙が伝ったのを感じた。
リリナを見れば泣いていた。
「お願いだから……そんなこと、言わないで」
「リリ……ナ?」
「零は私を守ってくれるって言った。世界を敵に回しても私の味方でいるって……だから私も……零が辛いとき、悲しいときは絶対に傍にいるから……」
周りの霞んだ白い景色が徐々に戻って行き夜空が見え始める。
俺は一体何をしてるんだろうか。力を暴走させて、何も考えずに消そうとして……俺はバカだ……
「俺は助けられなかった……」
「ううん、零は助けたよ」
「……あいつは消えたんだぞ……?」
「ミーシャ……最後に笑ってたでしょ? それにありがとうって言ってたでしょ? 零はあの子の心を救ったんだよ。運命の鎖に繋がれたあの子の心を」
あいつは最後に笑っていた。幸せそうに、俺の腕の中で。そしてありがとうって言った。
心を解放してやれたのか……俺は? それでも……俺は……
考えれば考えるほど胸が締め付けられるように痛かった。そして自分は無力だと感じた。
「なぁ……リリナ……俺は弱い」
「……うん」
「…………俺の心が折れそうになったら……傍にいてくれるか……?」
「うん……ずっといる」
「……ありがとう」
俺は弱い。これから先何度も心が折れそうになるだろう。でも俺は一人じゃない、リリナがずっと俺の心を支えてくれる。だから俺は戦える。
もう、あんな思いはさせない。この世界の少女達を……運命の鎖で繋がれた少女達を救ってみせる。それが、俺が消えていったあいつのために出来る事だ。
絶対にこの世界の悲しみの螺旋を解放してみせる。
これにて第一部終わりです。
次は第二部、5番目の子に関する話になります。




