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俺達は神【世界】を否定する  作者: 十文字もやし
一章 ガルム帝国編 一部 神と呼ばれる少女
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13話 運命からの解放

「見事だ少年、まさか神兵(フール)化した少佐を倒すとは予想外だ」


「次はお前の番だぞ? シルファス」


 ギロリと睨むように俺はシルファスを見る。

 シルファスは怯える様子もなく、ただ俺を冷静に見ていた。


「私は少年に興味が湧いたよ」


「…………」


「君のその力……存在全てに興味がね」


 そしてシルファスは淡々と語り始める。


「少年のその神を超越する力、何故少年は魔力が無いのか、少年は何故そんな力を持っているのか……いやぁ聞きたいこと知りたいことだらけだ」


「俺はお前に興味はない、今すぐにでも消してやりたいよ」


 背後にまわせていた霧をシルファスを包むようすると消滅させた。

 しかしその直後、消滅させたはずのシルファスの声が後ろから聞こえる。


「――物騒だな少年」


「てめえ……なんで!」


 俺はそこで気づく。あの空間を操る神の子の存在に。

 そうかあの子が……移動させたのか……

 シルファスの横には白衣を掴むように少女が俺を見ている。


「少年、楽しかったよ。君という存在に会えたのだからね……」


 すると少女が「ゲート」と呟く。その瞬間シルファスの背後に黒い楕円形の塊が現れる。中は紫色でグニャグニャと歪曲している。


「私はここで失礼するとしよう。また会えるときを楽しみにしているよ、少年」


「待て!!」


 霧を伸ばす。だがシルファスはそれよりも早く黒いゲートのような物に包まれその姿を少女と共に消した。

 逃げられた……俺の力ではあいつを追うことは無理だろう……


「そうだ! ミーシャ!!」


 俺はミーシャが倒れているケースへと走った。

 霧を出現させてケースを破壊する。ミーシャの髪を揺らしなが、俺は身体を抱き起こした。


「おい! 大丈夫か!」


 声に気づいたようにゆっくりとそのまぶたを開けるミーシャ。

 そして俺の顔を見て、安心したような顔をする。


「……お兄さん……どうして、来たんですか?」


「そんなの……お前を助けるために決まってるだろ」


「私は……お兄さんと少ししか会ってませんよ?」


「そんなの関係ないだろ……助けるのに理由はいらねえよ」


 そう言うとミーシャはうれしそうに微笑んだ。


「お兄さんは不思議な人です……人とは違う、化け物のような私を命を賭けて助けに来るなんて……」


「化け物じゃねえよ……お前はただの可愛い女の子だ……自分を化け物だなんて、そんなこと言うな」


 するとミーシャの目から一筋の涙が流れ俺の腕へ伝った。

 そしてその小さな口から一言俺に言った。


「ありがとう……お兄さん。私は……最後に、あなたに出会えて……本当によかった」


「最後……? おい……最後って何だよ……」


 ミーシャは消えそうな声でそう言った。

 嘘だろ? お前はこれからたくさんの世界を見て、笑って、泣いて、生きていくんだぞ? こんな国に利用されて……死ぬのなんて嫌だよな? 生きたいよな?


「私にはもう神力が――――ないんです……」


 その言葉に俺は絶望した。リリナの言葉が頭をよぎる『神力が尽きた神の子は――死ぬの』というあの言葉が。


「駄目だ! 死ぬな!!」


「お兄さん……? 何で……泣いてるんですか?」


 ミーシャの顔に俺の涙が次々と落ちていく。そして震える手でミーシャは俺の目元に溜まる涙をふき取る。


「私のために……泣いてるんですか?」


「なんで……なんでお前がこんな目にあわなきゃなんないんだよ……お前が何したってんだよ……」


 こらえることの出来ない思いが涙に変わるように俺は泣いていた。

 悲しさ、悔しさ、憎しみ、様々な感情が俺の胸を締め付けるような感じがした。


「神の子として選ばれただけなのに……どうして……どうしてお前が……! 神の子達や他の少女がこんな目に合うんだ!」


 するとミーシャの両手が俺の首に回される。

 そして耳元でミーシャは「ありがとう……お兄さん」と呟く。


「もっと早く……お兄さんと出会いたかったです……私は生まれて初めて……人を……お兄さんを好きになりました」


 そしてミーシャはどんどん声が小さくなっていく。身体もどんどん光に包まれ始める。


「ありがとう……最高の思い出を……ありがとうございました」


「駄目だ! 消えるな! 消えないでくれ!!」


 無意識にその小さく消えてしまいそうな、その身体を抱きしめた。


「あなたは……私の王子様です……お兄さん……」


 足が徐々に光のように消えていく。その様子は光のシャボン玉のような感じだった。


「――お兄さんの力で……5番目の子を助けてあげてください」


 そして最後にミーシャは消えかけのろうそくのような感じで一言呟いた。




「――ありがとう……さようなら」




 あの時と変わらない別れの言葉。ただ違ったのは……本当にうれしそうで、笑顔でそう言っていた。

 そしてミーシャは光に変わり俺の腕の中から消えてしまった。


「嘘……だろ……」


 俺の腕には白いワンピースだけが残っていた。体全体が震える。目からは涙が洪水のように流れ出す。

 言ったよな、もう一度あの店に行くってさ……約束したじゃないか!


「あいつが何したんだよ……なんでこうなるんだよ……! こんな力があっても……俺は、何一つ守れないのか!!」


 部屋中が白く霞みだす。そして徐々に部屋の機材が消滅し始める。

 力があっても何も変えられなかった……ミーシャを救ってやることが出来なかった。

 あいつ等が何をしたんだ? この世界に何かしたか? こんなくだらない世界なんて消してしまいたい。

 そうだ……俺が――――






――――消してしまえばいいんだ。






 その瞬間部屋の霞がいっそう増し始め、機材や壁を一瞬にして塵に変え始める。

 気づけば一瞬で研究施設は消滅しており、その規模は徐々に拡大していった。


「そうだ……消えればいい……こんなくだらない世界なんて……消えればいいんだ」


 もうこの世界を消してしまう。あいつ等が悲しむような世界なんて俺はいらない。それなら消してしまう。俺の名のように零に変える。

 俺は泣きながら、悲しみに埋もれながらそう考えていた。このときの俺はリリナのこととか、ミーシャ最後の言葉は頭に入っていなかった。ただただ消えたい、この世界を拒絶していた。


「零!!」


 聞き覚えのある声が聞こえたと思った。誰が? この消滅の霧の空間の中……どうやって?

 そっと後ろから小さな手が回され俺を抱きしめるようにする。


「落ち着いて……零。消えちゃ……駄目」


 俺は涙で濡れたその顔で後ろをそっと振り向く。

 リリ……ナ? なんで、どうしてここにいるんだ?


「なんで……?」


「言ったでしょ? 零が危なくなったら助けに行くって」


「でも……ここは俺の霧の中だぞ……? 消えるぞ?」


 どうして……こいつは消えない? なんで? なんで……この小さな手は……あいつのように消えない。


「大丈夫だよ、私は零を信じてるから。それに私はこの霧は……零に受け入れられてる感じがするから好き」


 受け入れる? 俺はこいつを……受け入れているのか。だから……消えないのか? こいつを俺が心からこいつを受け入れているから。


「零……消えたいなんて……言わないで」


 俺の頬に俺の涙とは違う、別の涙が伝ったのを感じた。

 リリナを見れば泣いていた。


「お願いだから……そんなこと、言わないで」


「リリ……ナ?」


「零は私を守ってくれるって言った。世界を敵に回しても私の味方でいるって……だから私も……零が辛いとき、悲しいときは絶対に傍にいるから……」


 周りの霞んだ白い景色が徐々に戻って行き夜空が見え始める。

 俺は一体何をしてるんだろうか。力を暴走させて、何も考えずに消そうとして……俺はバカだ……


「俺は助けられなかった……」


「ううん、零は助けたよ」


「……あいつは消えたんだぞ……?」


「ミーシャ……最後に笑ってたでしょ? それにありがとうって言ってたでしょ? 零はあの子の心を救ったんだよ。運命の鎖に繋がれたあの子の心を」


 あいつは最後に笑っていた。幸せそうに、俺の腕の中で。そしてありがとうって言った。

 心を解放してやれたのか……俺は? それでも……俺は……

 考えれば考えるほど胸が締め付けられるように痛かった。そして自分は無力だと感じた。


「なぁ……リリナ……俺は弱い」


「……うん」


「…………俺の心が折れそうになったら……傍にいてくれるか……?」


「うん……ずっといる」


「……ありがとう」


 俺は弱い。これから先何度も心が折れそうになるだろう。でも俺は一人じゃない、リリナがずっと俺の心を支えてくれる。だから俺は戦える。

 もう、あんな思いはさせない。この世界の少女達を……運命の鎖で繋がれた少女達を救ってみせる。それが、俺が消えていったあいつのために出来る事だ。

 絶対にこの世界の悲しみの螺旋を解放してみせる。


これにて第一部終わりです。

次は第二部、5番目の子に関する話になります。

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