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06:モンスター

 テント広場で、木箱に座るハルトキ。そして、その向かいに大林が座っている。

 パチパチと燃える焚き火を挟んで、向かい合う二人。

 今回は不良に囲まれていない。完全にではないが、信用された証拠だろう。

 大林は、ハルトキの頭を、珍しそうに眺めている。

「黒髪って、珍しいんですか?」

 視線が気になり、ハルトキは尋ねた。

「ああ、無理矢理染めるやつは、たまに見かけるが、そこまできれいに染めるやつは初めて見た」

「これは染めてませんよ。生まれつきです」

 それを訊いた大林は、少し驚いた顔をした。

「生まれつき―― っていうのは聞いたことないが。どこ生まれだ?」

「日本です」

「……聞いたことないな……」

 この世界で黒い髪は稀なのだと、ハルトキは自分へ対する、人々の妙な視線の理由をようやく確信した。


「一つ、訊いていいですか?」

 ハルトキが大林に訊く。

「なんだ?」

「ちょっと小耳にはさんだんですが、最近、町で暴れまわる集団がいると……。そしてそれが『田島弘之』の連中の仕業だとか」

 それを訊いた大林は、少し迷ってから口を開いた。

「お前を、本物の男と見込んで話す」

 うなずくハルトキ。

 テントの中の不良や、近くの壁にもたれている不良も、聞き耳を立てている。

「その犯人グループは―― 『田島弘之』ではない。別の団体だ」

「別の…… と言うと?」

「『ニュートリア・ベネッヘ』の連中の仕業だろう」

「……ニュートリア―― ベネッヘ?」


 ――『ニュートリア・ベネッヘ』――

 頭領、KEN 窪井クボイ率いる不良集団。その極悪非道さは、“不良”の域を超えつつある。

 “お尋ね者”として、懸賞金がかけられている。一般的には、その実体のほとんどが不明。


「『ニュートリア・ベネッヘ』は、オレ達『田島弘之』のライバル―― いや、“敵”だ」


 大林が、目の前で燃える炎を、じっとにらむ。

 ハルトキは、浮かんだ疑問を口にする。

「でもなぜ、『田島弘之』が疑われているのか……」

「……どうやら、やつら…… 犯行時に『田島弘之』のグループ名を名乗っているそうだ」

 拳を固める大林。

「嫌がらせ…… でしょうか?」

「わからん」

 怒りを精神力で抑えこむ大林。

 ハルトキは、自分にできることはないだろうか? そう思い、腕を組んだ。

 だが、今のハルトキには、やるべき任務がある。今は大林達に関わっている場合ではないのだ。


「深刻ですね」


「深刻だよ」






 ――町に入ったエンドーは、とりあえず言われたとおりに、宿をキープしておくことにした。

 疲れ顔のエンドー。

 町に入るとき、何人かの警備員に足止めをくらったのだ。

 なんでも、数週間前から、町の外側をモンスターがうろつくようになったとか。

 擬人モンスターの可能性も否定できないため、町の出入りには厳重な警戒態勢がしかれている。


 防壁がつくられていたのも、モンスターの侵入を防ぐためだろう。

 エンドーが入ってきたのは、東出入り口。現在、モンスターがうろつくのは、西出入り口付近の平原。

 この町は、北と南を山に挟まれている。そのおかげで、現段階では東方面でモンスターは確認されていない。


「またモンスターだとさ。案内人」

「らしいですね。セルヴォは人型だけではないということです」

「はぁーーー……」

 溜め息とともに、体中の力が抜ける。

「……宿をキープしたら、すぐに武器を買わなきゃな」

 エンドーはすぐに立ち直り、とりあえず金稼ぎの前に、宿を探すことにした。



 メインストリートを歩くと、行商人達がさまざまな露店を構えていた。

 やはり、売り物は武器系が多い。

 見たことのない武器や防具が、たくさん露店に並べられている。

「すげー」

 エンドーはこういう商品を見ると、なぜかわくわくするのだ。


「はいはい! そこの兄さん!」


 行商人のおじさんが、エンドーを呼び止める。


「『御守り』はいかがかな? 運気を上げる御守りに、精神をとぎすます御守り。いろいろあるよ」


 いかにも怪しい商品ばかりだ。

 御守りの効力なんか信じないエンドーは、丁重に断った。

「一番安いのでいいからさ。これ、この『マンティコアの爪』は、なんと! たったの2ペオーラ――」

 とんがった小石を差し出す行商人を無視して、エンドーはメインストリートを進んだ。


 宿らしき建物は、周辺に見当たらない。

 その代わり、町の西端―― 高い『物見やぐら』らしき建造物の前に到着した。

 何人もの見張りが、外側の様子をうかがっている。そしてその向こうに、町の西出入口が。


「止まりなさい」


 鎧を着た警備員が、近づくエンドーを止めた。

「わかっているだろう。この先は危険だ」

「少しだけ、様子を見させてくれませんかね?」

「ダメだ、ダメだ! これは町長命令だ。ここを通りたい者は、許可証に町長のサインをもらってこい!」

 半分キレかけの警備員。

 エンドーは、とりあえず、あきらめて引き返した。


「……町長か。どっちにしろ、合うしかなさそうだよな」

「通行許可証をもらわないと、この町から先に進めそうにないですね」

「いろいろと、調べておく必要があるな。宿の前に、町長の居場所くらい把握しておくか」

 その場所から見回しても、町長が居そうな建物は見当たらない。

 この世界にも、町役場とかあるのだろうか?


 エンドーは、通りかかったおじさんに尋ねる。

「すいません。町長は、どこに居るのでしょうか?」

 すると、おじさんは途端に凍りついたような表情になり、静かに言った。


「キミはこの町の住人ではないな。町長とは関わらないほうがいい」


 首をかしげるエンドー。

「なぜ?」

「怪しすぎるんだよ。あの町長は」

「というと?」

「一ヶ月前に、元町長が引退して新しく町長になった男。そいつは、就任するやいなや、大至急、町を防壁で囲むように町民全員に指示を出した。数日で壁は完成したが、その直後だ。モンスターが現れ出したのは」

 たしかに妙な話だ。と、エンドーは腕を組んだ。

「町長には、十分に注意しな」

 そう言い残して、おじさんはエンドーから離れた。


 ――その後、何人かの人に話を聞くエンドー。

 だが、どれもが聞いたのと同じような内容だった。

 誰もが共通して、「町長に関わるな」だ。

 『町長が就任した途端に、モンスターが出現し始めた』『町長は、滅多に人前に姿を現さない』『町民からの町長への話は、ほとんどが伝言係に任される』などなど、どう考えても怪しすぎる話の内容。


「探ってみる必要は、あると思うか?」

 町長に関する情報を復習し、エンドーは案内人に訊いた。

「どうでしょうか……。しかし、モンスターと関わりがある可能性がありますね。モンスターというのは前回にも出てきましたが、それはデンテールが改造したプログラムでした。――しかし、今回のモンスターは、セルヴォ世界のモンスターです。『王』と関係があるのかもしれません」

「まずは、『町長様』を調べるか」



 その後エンドーは、何とか人から聞き出した町長の居所―― 町長の自宅を訪れた。

 滅多に人前に現れない町長。彼はずっと自宅にこもっているらしい。

 町長の自宅―― その外見は以外にも、とっても小さい。

「ちょっとエンドーさん。いきなり乗り込むんですか?」

「下調べにな。まさか、“人型”相手に武器も必要ないだろ」

「それはそうですが……、しかし、もう少し慎重に――」


 ――ガチャッ


 ドアを開けるエンドー。

 案内人は、彼の猪突猛進な性格を思い出し、それ以上の説得は無駄だと悟り、

「気をつけてください」

 それだけ言って、後は本人に任せることにした。

 何だかだ言っても、前回のピンチの連続を、ことごとく打破してきたのだ。そう簡単に窮地に負けはしない――


 ――五人ほどの警備員に取り囲まれるエンドー。


「…………」


 ――ホールドアップ。



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