表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/53

48:クラッシュ

『言ったでしょう、“無駄だ”と』

 その言葉の意味を、デンテールは理解できないでいた。

「貴様、この計画の重要性が――」

「その重要性というものはあなたにとって、でしょう? デンテール様」

 そう言いながらも、グラソンは決してデンテールのほうを見ない。怒りを込めるデンテールとは逆に、妙に落ち着いた口調。

「裏切るのか? このオレを」

「裏切る? ……そうかもしれませんね。一時的にでも心からあなたの手下でいたのですから」

「一時的……?」

 デンテールがゆっくりと、部屋にいる四人と同じ目線まで降りてくる。

「まさか、思い出したのか……? ――いや、そんなはずはない。記憶は完全に消去した」

「そんなはずはないだと?」

 そこでグラソンの口調も変わる。

 デンテールのほうへ振り返り、こちらも怒りを込めた声を返す。

「オレをさんざん利用したあげく殺し! 蘇らせてまた利用! すべて覚えているぞ、デンテール!!」

「…………」

 歯を食いしばり黙り込むデンテール。「大きな失態はここにあった」そういう表情をする。

「グラソン、あんたは……」

 マハエが眉をしかめる。

「そうだ。オレは前にお前達と戦い、こいつに殺されたプログラム」

「あのときのボス―― 『氷室』か……!?」

 驚いた声を出すエンドー。マハエとハルトキも驚き、改めてグラソンを見る。

 そこでマハエは、それまでのグラソンの奇妙な行動を思い返した。

 マハエに展望台でこの人工島を確認させた後に拉致し、城の牢に監禁した。デンテールに怪しまれることなく、彼を城へ導いたのだ。牢の中でも脱出させる算段は整っていた。SAAPの隊長である宗萱と同じ牢に監禁したこと。わざわざ武器を持たせて。

「この三人とお前を戦わせるため、オレは密かに行動していた」

 接点はエンドーにもあった。マーキンの研究所前で、無線機のイヤホーンをエンドーに持たせたのも彼だ。

「すべてはこいつらを使ってお前に復讐するためだ」

「…………」

 デンテールは食いしばっていた歯を解き、口元を笑いの形に変えた。


「く、ふふふふふふ……。ははははははは……!!!」


 身を後ろへそらして笑うデンテール。

 背中の赤い翼も笑っているように震えている。

「はははははははは!!!」

 デンテールは大きく息を吸って、そらした体をガバッと前にもどした。


「くだらん!!!」


 本当の怒りで、美しかった顔は鬼のようにゆがんでいる。

「記憶がもどった? ふん、ならばそのままオレに従っていればよかったのだ。わざわざオレを殺すためにこの三人を使った!? それがどうだ? こいつらでもオレに手も足も出せなかった。けっきょくは失敗に終わったのだ!! 馬鹿馬鹿しい!! オレに従っていればここで命を落とすこともない。お前はただ、自らの命を捨てただけにすぎん!!!」

 翼が大きく広がり、その下にまた半分ほどの大きさの翼が生えた。

 四つの翼のひと打ちで、デンテールの体は十メートルほど浮き上がる。太い尾が三本生え、籠手のようにエネルギーが腕にまとわり付き、長い剣を形成した。

「いよいよ悪魔の道を選んだようだな」

 前よりも完全に悪魔と化したその姿に、マハエが大きく肩をすくめる。

「……グラソンよ……、苦しまずに死ねると思うな。よく仕えてくれた情けだ、などと甘ったるいことは言わないぞ」

「だろうな」

 頭の上で金属棒を振り回すグラソン。

 デンテールの右腕の剣が、三人を貫いたときと同じように素早く伸び、グラソンを狙う。グラソンはそれを横跳びでかわし、片手に持った棒を大きなモーションで横に振った。

 棒を握る手から棒全体がたちどころに凍り、その勢いは棒の先で止まらず、氷が空中をはしる。

「――!?」

 デンテールは自分に向かって伸びてくる氷を、剣を触手のように変形させ、絡めとった。だがその勢いはまだ止まらず、とっさに頭を傾けた彼の頬に一筋の傷ができた。

「…………」

 氷を握りつぶし、粉々にしてから、デンテールは不思議そうな顔でグラソンを見る。

「何だその力は?」

 頬の傷が消えた。


 ――ヒュヒュンッ!


 両腕二本の触手がムチのようにしなり、交互にグラソンを襲う。グラソンは、もとは四本で一本に連結させた金属棒を、真ん中の節から二本に分け、両手に持って触手を弾く。

 恐ろしいスピードで繰り出される連続攻撃を、二本の棒を使い、次々と器用に弾いていく。触手と金属棒がぶつかるとき、一瞬氷が生じ、砕け散る。氷で防御をしなければ、金属製の棒は威力で折れ曲がるか切断されてしまう。

「お前まで何だというのだ? 一体その力は何なんだ?」

 二本の触手が同時に床を打ち、えぐった。跳び上がったグラソンが、壁を蹴り―― 壁につくった氷の足場を踏み、連続で三歩駆け上がる。最後に強く壁を蹴り、デンテールへ向かった。

 両手に持った金属棒が氷の長剣に変わる。デンテールも触手を剣にもどし、それに対抗した。


 ――バチバチッ!!


 二本の氷の剣を、二本の赤い剣が受け止める。

「その力は何だ? あの三人と同じものか? ――いや、少し違う感じがするな……」

「何だっていい。お前を倒せればそれでな!」

 氷の剣が圧す。

 デンテールは笑っていた。

「勘違いするな。オレを倒す? この程度でオレを倒せると一瞬でも思ったのか? 愚かな!」

 氷の剣が細かな塵と化した。

 グラソンはその身が切り裂かれる直前に、金属棒で相手の剣を突き、その力でデンテールから離れた。そして壁に棒を凍らせて固定し、それを掴んで高所にとどまる。同時にもう一本を指先で回し―― 回る棒に空気中の水分が集まって凍り、氷の『円盤』が出現した。

 デンテールに投げつけられた氷の円盤は、回転しながら弧をえがいて飛ぶ。更に一つ二つ三つ、円盤が左右から標的を狙う。

「くだらん」

 円盤はすべて標的を切り裂く前に粉々に破壊された。

 キラキラと舞う氷のダスト。


「――氷結ひょうけつ!」


 散らばったダストが集結し、一瞬にしてデンテールを凍らせた。彼の本体、触手、翼が氷にまとわれ、動きを止める。

「……やったか?」

 それまでの闘いを黙視していたエンドーが、まだ浮いたままのデンテールを見上げる。マハエとハルトキも固唾を呑む。

 グラソンは壁の氷にぶら下がったまま様子を見ている。デンテールは不死身だ。いや、本当に不死身なのか、ただ生命力が恐ろしく強いだけなのか。彼を倒すにはまだ足りない気がしていた。


 ――パリッ……


 氷にヒビが入った。

「――!!」

 やはり足りなかった。いや、まったく足りていなかった。それはグラソン自身予想はしていたことだった。そしてその場合はすぐに対応できるように構えていた。

 が、それでもデンテールと“遊ぶ”には力不足だった。

「夏には便利な能力だ。クーラーいらずとはな」

 氷が溶け、水となって滴り落ちる。

「…………」

 グラソンは動けなかった。すでにデンテールの触手に捕縛されていた。

 ギリッと腰のところで締め付けられる痛みに顔をゆがめながら、グラソンはそれでもデンテールをにらみ続けた。

「後悔しているのか? グラソン。ふふふ、強がるな、どんなに強い意思を持とうと、人は死ぬ間際には後悔するものだ」

「――っ……! してねぇよ、そんなもん……っ! オレは一度殺された……! 今のオレは復讐のためだけに存在する……! お前へのな……!!」

「……残念だグラソン。お前には期待していた。遊び相手としてではない、オレにとって信用できる者としてだ。だから本当はこんなことはしたくないのだが……、どうしようもないだろう? お前が選んだ道だ」

 言っている言葉と表情がまったく逆だ。デンテールは慈悲のない表情で言い放った。


「苦しんで死に逝け。愚かな生き物よ」


 強烈な電撃のようなエネルギーが、グラソンの体に流れ込む。

「ぐあああああああっ……!!!」

「苦しいか? ならば乞うてみろ。少しは楽に逝かせてやる」

「……っ!! 貴様に使われるためだけにっ…… 存在した命などっ……!! おしいものかっ……!!!」

「苦しい! 苦しい!! 苦しい!!! ――そんな表情でよく言えたものだな!! さあ叫び、感じろ!! 限りある己の汚れた命が、目の前で燃え尽きていくのを――」


 ――ドドォン!!


 グラソンを縛る触手が破裂し、切れ離れた。

「あー、見てらんねぇ! オレらそっちのけで復讐だの、殺すだの、命はいらないだの」

 『魔力球』を放った腕をそのまま構えながら、エンドー―― そしてマハエとハルトキが、背中から床に落ちたグラソンの前に、彼をかばうように立つ。

「なんだ、恐くて震えていたのではなかったのか」

 デンテールのちぎれた触手が再び伸び、剣の形にもどった。

「グラソンがお前を倒してくれればありがたい、と思って黙って観戦してた。けどこれじゃ、状況は悪くなる一方だからな」

 マハエが歩み出る。

「お前を倒すために、これ以上犠牲は出したくない」

 ハルトキ、エンドーもうなずく。

「これ以上の犠牲を出したくないからお前らが戦う? それはまったく矛盾しているぞ」

「たしかに矛盾してる。けど何でかな? 勝てる気がするんだ」

「それも矛盾しているな」

 デンテールはくすくす笑った。

 マハエはその様子を眺めながら、ポケットから青い石を取り出した。

「む? その石は――」

 石が蒼く輝きだす。

「『陰の石』か。なるほど、城から持ってきたのか。だがそんなものが何の役に立って――」

 マハエは、エンドーから預かったままだった無刃刀を左手に握って床を突き、右手に石を持って左手の上にそえた。ハルトキとエンドーも両側から両手をその上に重ねる。

 石の輝きが、よりいっそう強くなった。

「さっきオレ達が生きていられたのは、この石のおかげでもあるんだ。この石の力がオレ達を目覚めさせた」

 蒼い光が銀色に変わる。

「バカな……、それは力を吸収する石ではないのか……?」

 銀色の光が三人を覆い隠すほどに膨張すると、石が割れ、そこから銀色に輝く三羽の鳥が飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ