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42:翔るケモノと

「エンドー……、お前、空を飛べる技とか、覚えた?」

 マハエが隣のエンドーに訊く。羽ばたき、鷹のように上空をぐるぐる回っている巨体から目を離さずに。

「いや、まだ覚えてない。お前こそ、そういう技使えないのか?」

 エンドーも同じく、敵から目を離さないまま訊き返す。

「ハハハ。まっとうな人間にそんなことできるはずないだろう」

「……お前はオレを何だと思って、今までを共に過ごしてきたんだ?」

「人間離れしているとは思っていたよ」

 エンドーは上を見たまま、マハエの後頭部を叩いた。

 ハルトキは二人の前で、冷静に敵を観察している。

 マハエが言う。

「ヨッくんなら使えるかもしれない」

「オレもそう思ってたところだ」

 当然そんなことはできるはずないが、顔を上に向け、ハルトキは今にも飛び上がりそうだ。


「……ダメだね。あいつ動き回るから魔力を当てることもできない。やっぱり陸は不利か」


 二人の期待の眼差しを無視して、ハルトキは言う。

「どうにかしてあいつを空から引きずり下ろさないと」

「……オレの魔力球も、動き回る相手に当てるのは難しい」

「オレも同じく」

[無理に空中にいるときに攻撃しなくてもいいのでは?]

 案内人が言った。

 敵が空を飛びまわっている状況では、攻撃はできない。だが、それは相手も同じなはずだ。

 マハエはもう一度空を見上げた。

「あのライオンがこっちに近づいて攻撃をしかけるまで待つしかないか」

 空を翔るキメラが、次にどのような攻撃を仕掛けてくるかはわからない。ただ、さっきまでとは戦い方が大きく違ってくるだろう。


 飛びまわっていたキメラが、ぎろりと屋上に目を向けた。

 そして、三つの獲物に狙いを定めると、翼を折り、猛スピードで急降下。それまでは、慣れない翼の調整をしていたのだろう。

 突然、弾丸のように突っ込んでくるキメラを、三人は身を屈めてやり過ごす。

 すれすれのところで、キメラは再び舞い上がった。

「くそっ! あんなに素早いんじゃ、攻撃のしようがない!」

 悪態をつくマハエの横で、エンドーが魔力球を放つ。

「ダメか……。やっぱり素早い」

誘導式ホーミングできないのかよ?」

「近距離なら可能かもしれないが、遠のくほど集中力を要するんだ」

 ギリッと奥歯を噛むエンドー。

 キメラは再び降下を始め、三人を襲う。

「くっ!」

 突風が頭上を吹き過ぎ、キメラはまた空へ。

「きりがないな……」

「マハエ、お前、タイミングを見てやつに飛びつけ」

 エンドーが提案する。

「お前はつくづく残酷なやつだな。人に任せるな、お前がやれ」

「この中で一番体重軽いのは、たぶんマハエだ」

「いや、エンドーのほうがオレよりも軽いね」

「何を言うか。お前のほうがオレよりも五百グラム軽い!」

「変わらねぇ! ……ていうか別に体重関係なくね!?」

 二人の言い争いに、ハルトキの声が混ざった。


「伏せ!」


 それに反応し、二人は突っ伏す。

 キメラの爪が二人のすれすれを切り裂いた。

「何やってんの、こんなときに!」

「作戦会議だ」

 マハエとエンドーが声をそろえる。

 いくらタイミングを計っても、高速道路を走るトラックに飛び込んだような悲惨な結果になるのは目に見えている。

「案内人! 考えろ!」

 マハエがポケットの無線機を叩く。

[このような姿のわたしに期待されても困ります]

 このままでは一方的に三人がやられるだけだ。

 キメラが急降下。空中でターンをし、直線に突っ込んでくる。

 攻撃をしかけるまでの間隔が短くなっているようだ。

 前よりも正確性を増してきている攻撃を辛うじて避ける三人だが、もはや時間の問題だ。

「敵の体力切れを待つ?」

「それまでに、まずはマハエがひき肉になるぞ」

「ヨッくん! どうにか止められないか!?」

 上空三十メートルまで急上昇したキメラが、降下しようと一回転する。

[確実に、一発で当てる方法……]

「……そうか」

 ハルトキが何かに気付いた。


「次は伏せても避けきれる可能性は低いぞ!」

 マハエが逃げ場を探す。

 だがハルトキは突っ立ってキメラをにらんだまま動かない。

「どうした!?」

「……一つ思いついた」

 小さく見えていたキメラが急激に大きくなる。


 ――キィン……!


 ハルトキの眼が光った。

「なるほど、それは盲点だったな!」

 マハエが微笑する。

 横へ飛びまわる相手には真っ直ぐに飛ぶ力は当たらない。だが、直線に迫ってくる敵にならそれも可能だ。

 正面から立ち向かう。動体視を使えるハルトキならではの作戦だ。

 案の定、高速で降下するキメラは急に技を避けることはできない。『金縛り』は見事に命中した。

「――しまった……」

 キメラの動きは止まった。が、突っ込む勢いは止まらない。

「くっ!」

 間一髪、横へ飛び込むようにして体を投げたハルトキの足のところで、キメラが石畳の床に激突した。

「グゴオォウ!!!」

「うわっ!」

 床を割るほどの勢いだったにも関わらず、キメラはすぐに復活し、再び飛び上がろうとする。その強引なパワーに、ハルトキの金縛りが崩れた。

「飛ばせねぇ!」

 エンドーがキメラの前に立ちはだかり、開いた大口に無刃刀を挟み込ませる。

「ヨッくん! 刃物をくれ!」

 そしてダガーを指差す。

 エンドーは投げられたダガーを受け取ると、それをキメラの翼の根元に突き刺した。

 床を踏み込むエンドーの足がズルズルと後ろへ押され、彼は頭突きで跳ね飛ばされた。

 一吠えすると、キメラは空へともどる。


 それが十メートルほど上空まで達したところで、転がったエンドーが起き上がり、勝ち誇った笑みを浮べた。


 ――ドォォン!


 空で小規模な爆発が起こった。

 キメラに刺さったダガーが爆発したのだ。もちろん、それに込められたエンドーの魔力で。

 ケモノの悲鳴がこだました。しばらくしてドズン!という、石畳を割る音が再び。

「おかえり」

 床に横たわる巨体を見下ろし、エンドーが言った。

 キメラは首を持ち上げて「グルル……」と弱ったようにうなり、力尽きた。

「やっと仕留めた……」

 マハエも溜め息をつく。

 一人浮かない顔をしているのはハルトキ。

「エンドーくん。あのダガーはねぇ、親切な友人達から頂いた、とても大切な物、だったのだよ」

「気にするなや」

「…………」

 静かに怒りをむき出しにするハルトキ。二人の間にマハエが割って入る。

「まあまあ、それよりもこれで先へ進めるんだ。デンテールぶっ倒して帰ろうぜ」

 そう笑いながらキメラの首にあるカギに手を伸ばしたとき――


「ゴワウゥゥ……!」


 キメラの目が開いた。

「げっ! なんつーやつだ!」

 尾を振り回しながら足を立てると、翼を羽ばたかせはじめる。

 凄まじい回復力と執念。

「もっと深く刺しとくべきだったか!」

 爆発の力と刺さったダガーの刃で切り裂き、翼を完全に使えなくするつもりだった。だが頑丈すぎるキメラの肉体に、その効果はさほど大きくはなかった。

「逃がすか!」

 翼を上下に動かし、飛翔しようとするキメラの尻尾にマハエが飛びついた。が、一人だけの体重でどうできるわけでもなかった。

 彼の体は浮き上がり――

「うわあああぁぁぁぁぁ……!」

 遊園地のどのマシンに乗っても出そうにない絶叫を上げながら、キメラとともに空へ。

「……マハエ、飛んだねぇ」

「……マーキンさんもびっくりだ」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ……!」

 絶叫が悲鳴に変わった。

 キメラは、尾にくっついた“異物”を振り落とそうと、スピードを上げて飛行したり、激しく尾を振ったりする。マハエは生えているトゲにしがみ付き、抵抗する。

「大人しく―― しろ――!!」

 足に魔力を溜め、トゲを踏みつけて大ジャンプ。長いたてがみを引っつかみ、どうにか背に乗ることに成功。

 キメラはぐるぐると体を回転させて、振り落としにかかるが、たてがみに覆われた首に腕を回したマハエはしぶとい。

「離すかぁ〜〜〜!!!」

 相当な高さ。手を離せば命はないだろう。

 恐ろしいほどのマハエのねばりに、キメラは体の向きをもどし、宙返りすると翼を折って降下を始めた。

 このままハルトキ達へ攻撃をしかけるのか、もしくはマハエを屋上に叩きつけるのか。どちらにしても、彼にとってはチャンスだ。

 手を伸ばし、キメラの首で光るカギを掴んで引っ張る。カギはひもで首にかけられていたが、そのひもごと強引に引きちぎった。

「カギはもらったぞ!」

 屋上の床が近づいたとき、魔力を込めて背中を蹴り、脱出した。

 下の二人から歓声が起こる。

 キメラの背から跳び上がり、あとは着地して三人で鉄扉へ向かう。――考えだった。


「――――!!?」


 キメラがこれまでのパターン―― すれすれを攻撃して空へもどるということをせず、床に足をつけ反対側へジャンプしたのは、大きな計算外だった。

 降下した軌道を逆もどりするように、空中のマハエへ急接近。そして――


 鋭い爪を彼のわき腹に突きたてた。



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