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40:遊戯の道

 ようやく三人がそろった。

 そして三人は今、最終決戦の地にいる。

 ――最終決戦にしたい。ここで終わりにしたい。そう願う。

 船着き場を離れてしばらくすると、船が桟橋かどこかに突進する音がした。窪井が上陸したのだろう。


 三人は黙って進んだ。


 歯を食いしばり、口を開かないように。それを解けば弱気な言葉が滑り出しそうで恐かった。

 船着き場から遠ざかり、振り返っても船が見えない位置まで行くと、エンドーが喋り始めた。

「オレ達が一本の鎖でつながれているってこと、忘れるな。一人の危険は全員の危険につながる。目の前のことに集中しなければいけないんだ」

 エンドーがそれまで黙っていたのは、単に喋り出し辛かったからだ。彼は宗萱のことも大林のことも知らない。だから二人の苦しみもそれほど理解できない。

 ただ、二人とも前日に別れるときよりも、強く成長しているということはわかった。

「わかってるよ、エンドーちゃん。オレ達は一本の鎖。オレが先頭で落ちたら、無理矢理にでも道づれにしてやるからな。覚悟しとけ」

「いや、そのときは迷うことなくチェーンカッター」

「……エンドー、矛盾してるよ」

 表向きはいつもの二人にもどった。


「一人でも二人でも、オレが引っぱり上げてやる」


 二人の後ろで、エンドーは聞こえないようにぼそりと言った。



 ――そのとき、三人の上空には白い飛行物体が浮遊していた。

 小さなバルーンに、プロペラが推進力となっている物だ。

 そして、底部に取り付けられた小型カメラが、島のあらゆるところを“見ている”。


 要塞の一室―― 城のものと変わり映えしない、赤いじゅうたんが敷かれた部屋で、デンテールは『空中巡回型監視カメラ』がモニターに映し出す映像に見入っていた。

 モニターの映像では、マハエ達三人が要塞入り口付近の水路の上にある、狭い足場を渡っているところだった。

 ロックされた鉄扉を無視し、その先にあるハシゴを使用して水路の上に上がったところだ。

「……まさか、生きていたとは……。グラソンめ、しくじったか」

 困ったしぐさをしながらも、嬉しそうな顔をするデンテール。

「仕方ない。オレが直接手を下そう」

 そして、効率よく決戦の場へ導くため、コンピューターで扉のロックを操作しながら道を考える。

 ロックのスイッチを切り替えていくデンテールは、ふと手を止め、カメラの映像を見た。

「そうだ。最後の難関として、“番犬”の相手をさせてみよう」

 ――ルートは決まった。自分がより楽しめ、よりわくわくできる道順に。

 要塞には数えきるのにくたびれるほど大量のカメラが設置してある。その映像は、彼の操作ですべてこのモニターに表示されるようになる。

 必要な扉をすべて操作し、このまま三人が進むであろう道順がマップ上に表示される。

「さあ、最後のあがきをしてみせよ」

 デンテールは笑い、“健闘を祈った”。



 上空から監視するデンテールの“目”に、三人は気付かないまま水路を伝って三つ目の滝まで来た。

 そこからはまた、ハシゴや階段で段を登っていく。

 これが正しい道だとは三人は思っていない。

 当然、デンテールがこんな面倒くさいルートを行くわけがない。前にあったロックされた鉄扉から行ったのだろう。今のルートは良くて遠回り。最悪、全く別の場所に行き着くかもしれない。

 しかし三人は進む。複雑に折れ曲がった、細い、道と呼ぶのも危うい足場を。

 踏み外せば水路に落ちてびしょ濡れになる。

「あー、オレさっき海泳いで塩まみれなんだよ。ここで体洗って行きたいなー」

 エンドーが言うが、二人が却下する。

「デンテールが見栄えのためだけにこんな水路をつくったと思うか?」

「……やっぱやめとこう」

 マハエの言葉に、エンドーは思いなおす。

 見た目は透き通った水だが、汚物や、未知の細菌が混ざっている可能性もあるからだ。


 水路は途中で二股に分かれているが、足場は片方の水路側にしかない。

 三人は足場をたどって行き、溜め池が見えたところで立ち止まった。

 まだ屋外だが、だいぶ要塞の入り口に近づいたようだ。

「狭い道はここまでか。やっと楽な道だな」

 そう言って先へ進むエンドーを先頭に、溜め池の架け橋を渡り始める。

「何の水なんだろうな――?」

 低い手すりから上半身を乗り出し、池の中を覗き込んだマハエは、しばらく沈黙し、呆然と口を開いた。

「どうした? マハエ?」

 二人は立ち止まり、ハルトキが同じように覗き込もうとする。

「……走れ、エンドー!」

 マハエが叫ぶ。

「わっ!?」

 水の中から何かが跳ね上がる音がし、直後、黒い影がハルトキを襲った。

 ハルトキが身を後ろへそらしてそれをかわすと、影は三人の頭上、橋を越え、反対側へ落下した。

「なんだ!?」

「うじゃうじゃいるぞ……」

 水中には、同じような影がいくつも泳いでいる。

 姿は巨大な灰色のウナギ。灰色のうろこをまとった長い魚だ。長さは一メートルをゆうに越える。だが、不気味なことに、目は大きくて赤く、口も大きい。それが鋭い牙をむき出して飛びかかってくるのだ。

 一匹が跳ねると、それを合図にしたように何匹もの“怪魚”がいっせいに飛びかかる。

「走れ!」

 エンドーの掌底が怪魚を打つ。と、同時に手の平が爆発し、怪魚が吹っ飛んだ。

 体をねじり、反対側から飛びかかる怪魚にも魔力球を込めた掌底を放つ。身を屈め、頭上を通り過ぎる怪魚には、腰から抜いた無刃刀を叩き込んだ。

「……エンドー、すごく強くなってない?」

 ハルトキが低い体勢を維持しながら言う。

「……あいつにケンカ売るのはひかえよう」

 マハエは動体視を使うハルトキの後ろに隠れながら移動する。

「ぎゃっ! エサ与えてないのか!?」

 マハエは自分の腕に噛み付いた怪魚を、服の袖ごと引き剥がす。

 エンドーも噛み付かれたが、腕から引き剥がし、水の中へ投げ込む。更に飛びかかる二匹も手の平で叩き返す。


 ――ドボボボーン!!!


 三本の水柱が上がる。

 エンドーがリリースした―― 魔力を貼り付けた三匹が爆発したのだ。

 水柱に何匹か巻き込まれ、舞い上がる。


 エンドーのおかげもあり、三人はエサになる前に橋を抜け出した。

「帰りのルートは変更しよう……」

 マハエの案に二人もうなずいた。


 溜め池近くのロックされていないドアから、壁一枚向こうへ行く。

 三人はその奥にある建物を眺めた。

「やっと要塞内部か?」

 独り言のようにマハエが言う。

 水路の水はその建物の中から流れ出ていた。

 アトラクションも中盤。いよいよステージは屋内だ。

 そして、例の如くドアの前でもめ始める。

「エンドー、先に入れ」

 マハエがエンドーの背中を押す。

「は!? なぜオレが!?」

「エンドー隊長、先に入ってください」

「よしわかった! オレについて来い!」

 『隊長』という言葉にエンドーは歯を光らせた。武器を持っていないマハエは一番後ろだ。

「最終決戦の前に武器を装備してないなんて、命知らずな勇者だね」

「仕方ないだろ、あの隠れマッチョに折られたんだから」

 マハエは溜め息をついた。

 エンドーが、建物のドアを開けて鼻をつまんだ。

「臭ぇ……」

 大きなコンクリートの水槽が並んだ部屋。

 奥の水路から紫色の水が流れ、水槽に入り、浄化されていく。それが三人がたどってきた水路に移り、流れていくのだ。

 鼻をつく悪臭は、紫の水から臭うようだ。

「……マハエ、ありがとう」

 エンドーがマハエに頭を下げる。

「さっき、体洗おうとしたオレを止めてくれてありがとう」

「この恩、忘れるなよ」

 できるだけ呼吸を止めて、三人は浄水場を抜けた。

「あの紫の液体は何なんだ?」

 無臭の空気で深呼吸をしながらエンドーが浄水場のドアを振り返る。

「くだらん実験でもしてるんじゃないか?」

「デンテールのやることは、十中八九ボク達に迷惑がかかることさ」

 マハエが両手を肩の高さまで持ち上げる。

「勘弁してほしいな」

 もうデンテールの妙な研究もモンスターも、三人はこりごりだった。


 三人がエレベーターに乗るところを、監視カメラはしっかりと捉えていた。

 着実に、デンテールがつくりだした道順を進んでいく。

 デンテールはほくそ笑んでいた。



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