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03:田島弘之

「田島弘之のアジトは、おそらく、この町の近くにあるでしょう」

 ハルトキは、交番で話を聞いていた。

 交番のおまわりさん―― 胸部に刻印が刻まれた、木製の鎧を装着し、腰には短刀が。これがこの世界の警察の正式な装備なのだろう。二人のおまわりさんは同じ格好をしている。


「この町の担当官は、我々二人だけで。ですので、なかなか手掛かりもつかめず……」

「なるほど……」

 腕組みをしておまわりさん達の話に耳を傾けていたハルトキは、ひととおりの話を聞くと、交番を後にした。


「どうしたんですか?」

 おじさんにもらったビラを、真剣な顔で見つめながら歩くハルトキに、案内人が話しかける。

「この『田島弘之』っていう不良集団のことが、ちょっと気になってね」

「気になった?」

 呆れたような声を出す案内人。

「勘だよ、勘」

「……勘に従うのもいいですが、自分の任務も忘れないでくださいね」

「不良集団だよ。うまく忍び込めば、それなりに大きな情報が入ると思うよ」

 この言葉には、案内人は反論できなかった。

「マハエさんとはえらい違いですね」

「あいつはボクよりも、シンが強いのかもしれない。ボクはそっちのほうが、うらやましいよ」

 案内人には理解できない、ハルトキの言葉だった。



「さて、田島弘之のアジトだけど……。案内人はどう思う?」

 町の隅っこの、人気のない建物の陰―― ここは寂れているというか、荒れている。雑草が生い茂り、その中に木箱やタルなど、ゴミまで捨てられている。そういう場所からできるだけ離れた場所に座り、木の枝を使って地面にだいたいの町のマップを描く。

 ハルトキの問いかけに、案内人はすぐに答えた。

「まず、町の中にはないでしょうね。大抵の建物は、さっきのおまわりさん達が調べたでしょう」

「うん、ボクも同感。集団だから大人数でしょ。だったら屋外―― 町の外れか……。でも、普通では行けない場所にあるんだろう」

 そして、マップの中に一本の線を引いた。

「知ってる? 人はね、陸や空のことはよく知っているんだ。いつも目にするからね。だけど地下のことについては、かなりうといんだ。どうしても無防備にもなりやすいしね」

「地下にアジトがあると?」

「その可能性もあるけど…… どうかな? それか、地下に道があるとか」

 そのとき、小さく人の足音が近づいてきた。

 普通に歩く音ではない。気配を殺した足音だ。

 考えるより早く、ハルトキは木の陰に隠れ、様子をうかがった。


 少しすると、建物の裏から男が現れた。

 整ったリーゼントに、尖ったサングラス。さっきハルトキとすれ違った不良だ。

 不良は、用心深そうに周りを見回し、草むらに入った。そして捨ててあった―― 置いてあった木箱をどけると、もう一度周りを見回した。かなり用心深い。

 そして、誰もいないことを確かめた後―― 消えた。

 地面に呑み込まれるように。


「さすが、吉野さん。ビンゴですね」

「うん、ここまで予想通りだとは思わなかったよ」

 少し間をおいてから、不良が消えた場所へ。

 木箱をどけてみると、その下には板が敷いてあり、それをめくると、地面に人一人が通れる程度の穴が開いていた。

「アジトへの道かな?」

 しゃがんで穴の中を覗き込むハルトキ。けっこう深く掘られているようだ。

「おそらく、そうでしょうね。いかにも“不良”でしたし……。それにあの不良は、マハエさんのところにいたのと同じ格好――」

「さて、ここで選択肢です。A:穴に入る。B:立ち去る。C:埋める」

「その問いかけは意味があるんですか?」

 ハルトキは笑顔で首を横に振り、ニヤリと笑った。

 

「当然、『A』でしょ」



 ――穴には木のハシゴが備え付けられていた。穴は意外と深い。ハルトキの身長以上ある。

 ハシゴを下りたハルトキは驚いた。

 ただ掘っただけの通路かと思いきや、壁はレンガや板でしっかりと補強してあった。広さは大人が屈んで通れるくらい。

 奥にけっこう続いている。

「酸欠が心配だな」

「たしかに、細いし長いですね。しかし、風の音が聞こえませんか?」

「……そうだな」

 ゴゥゴゥと、風が通る低い音が聞こえる。換気用に、風の通る孔も設けられているのだろう。

「それなら安心か。あとはこの闇をなんとかすれば――」

 ハルトキは目を閉じて、眼球に魔力を集中させる。

 そして目を開けると、それまで真っ暗だった空間が、びっしりと明かりが灯されたかのように明るくなっていた。

「こんなときにも便利な力だよ」

 何の苦もなく、ハルトキは地下通路を進む。

「あと、武器があれば安心だけどね」

 その不満は、案内人に黙殺された。


 ――長い一本通路をしばらく進むと、突然問題に直面した。

 分かれ道だ。それも三方向。

「まいったな……」

 どこへ進むべきか迷っていると、頭のてっぺんに水滴が落ちてきた。

 たしかにここは湿っぽい。ということは――

 ハルトキは足元を見た。

 踏み固められた土の地面も湿っている。そして、微妙にぬかるんだ地面に、よく見ないとわからないが、真新しい靴の跡が残っていた。

 これをたどれば、迷路は抜け出せる。



 ――その後、同じような分かれ道がいくつかあったが、難なくクリアー。

 ようやく、進行方向の先に、下りてきたのと同じようなハシゴが見えた。


 ――ガコン


 ハシゴを上り、鉄製のふたを持ち上げると、まぶしい光が射し込んだ。

「ふう……」

 ハルトキは眼の魔力を解除し、外へ出た。

 新鮮な空気を一杯に吸い込み、吐き出しながら、曲げていた腰を存分に伸ばす。


 狭い地下通路を出たそこも、人二人分ほどの狭い通路だった。

 ここは町からそうはなれてはいない。だが、なるほど、高い壁に囲まれて、外側からは確認できない場所だ。しかも、窓のない廃屋がびっしりとならんで、この場所を隠している。

 うまく隠したものだな。と、感心するハルトキ。

「ここが田島弘之のアジトかな?」

 ハルトキが、小声で案内人に訊く。

「おそらくそうでしょうね。気をつけてくださいよ。相手は野蛮な集団です」

「わかってるよ」

 だが、ハルトキが一歩踏み出した途端――


 カランカランカラン……


 木の鳴子が騒いだ。

 ドキッとして、ゆっくりと足元を見るハルトキ。そこには釣り糸のような細い糸が張ってあった。

 ハルトキは、その糸に足を引っ掛けてしまったのだ。

 マズイ…… と思ったときには、すでに『まな板の鯉』。

 駆けつけた不良が「動くな!」と、ハルトキに武器を向けた。

 棒の先に鉄の塊がついた鈍器―― 『メイス』という打撃武器だ。


 ノーウェポン、ハルトキは、大人しくホールドアップ。


「てめぇ! 何者だ!?」

 リーゼントサングラスの不良が、声を抑えて怒鳴る。

「はじめまして、吉野春時という者です。あ、ちなみにセールスマンの類ではないので――」

 ハルトキの頬を冷たい汗が流れる。

「名前じゃねぇ! ここが、『田島弘之』の本部だと知って――」


「――まあ、まて。後を付けられたのはお前だ」


 不良の後ろから、灰色のローブを羽織った男が歩み寄ってきた。

 不良が、ビクッと後ろを振り向き、言った。


「ボス……!」


 田島弘之のボスらしい男―― 灰色のローブ、鮮やかな朱色の髪のオールバック。その男はハルトキよりも背が高く、圧倒的な威圧感がある。歳は二十歳前後だろう。

 男は、ハルトキの落ち着いた顔を見てニヤリと笑った。


「せめて、ここまで来た根性を買ってやろうじゃないか」



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