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36:巨大飛行船

 飛行船の内部は、風がまったくないおかげで温かく感じられる。

 それまで死ぬほど寒い思いをしていたエンドーには、暖房設備がなくてもそこは天国だった。もっとも、それは別の意味でだ。ここはすでに敵陣。どこに敵が潜んでいるかわからない。


[床も壁も木造ですね。やろうと思えば簡単に破壊できそうですが、それはやめてくださいよ?]

「……ばっ……、そんな危険なことやるわけ―― て、あれ? お前見えてるの?」

[そのイヤホーンには小型のカメラも付いているんです]

「ははっ、なるほど。これでお前も完全な“機械”だな」

[……デンテールには近づきすぎないでくださいね]

「それじゃ殴れないじゃん」

[殴らなくてもいいんです]


 ――床も壁もほとんどが木造。それは本体をできる限り軽くすることが目的なのだろうが、案内人が言うように、やろうと思えばエンドーの『魔力球』で簡単に穴が開いてしまいそうだ。もしも敵と戦闘になった場合、慎重に闘わねば意図せずとも穴だらけになってしまう。

 おまけに隠れる場所も少ないようだ。

 その場を動かないほうが得策だが――

「操舵室はあっちか」

 エンドーは飛行船が進んでいた方向を思い出し、飛行船の前部を目指した。


[――城もそうでしたが、ここも人の気配はないですね]

「マハエとヨッくんは城にいるんだよな?」

[はい。先ほど敵と戦闘になりましたが、どうにか勝ったようです]

「そうか」

 デンテールを殴れなくとも、この飛行船がどこへ向かっているのか調べるのは自分の役目だとわかっている。早く二人と再会するために、それは必要な情報なのだと。

「(ここからつまみ出されるのだけはごめんだな)」


 中央通路らしき廊下を歩いていたエンドーは、鉄の扉の前で足を止めた。

 操舵室へ行くための扉に違いない。しかし、その扉はロックされていた。

「爆破するわけにもいかないしなぁ……」

 頭をぼりぼりとかきながら扉に手をつく。扉には鍵穴がない。それ以外の解除装置も見当たらない。

「ん?」

 その代わり、扉の真ん中に数字が彫ってある。


「『250』?」


 これがロックを解除するヒントなのか。

 指で数字をなぞり、その意味を考える。

[ダイヤル式の錠があるわけでもないですよね? 別の場所で使うのではないですか?]

「かもしれないな」

 この場所にいても数字以外のヒントは見つかりそうにない。エンドーは踵を返した。

「反対側へ行ってみようか」

 前部の謎を解く鍵は後部にある。いたって単純な思考だった。



 通路をもどり、入ってきたドアのところを通り過ぎ、後部へ移動する。

 それまでにも、よく見ると数字が書かれたドアがいくつかあった。

 敵が居ないのは良いが、逆に不気味でたまらない。そのおかげですぐにたどり着くことができたのだが、エンドーは納得いかなかった。

 前回の“ゲーム”では、デンテール(ボス)までたどり着くまでに多くのモンスターと遭遇した。十や二十、いや、何百というモンスターを手なずけることは、デンテールにならたやすいことのはずだ。自分に都合のいいようにセルヴォを“改造”すれば良いのだから。

 考え事をしている間に、エンドーの手は無意識に突き当たりのドアを開けていた。

「あ。」

 そのすぐ向こうにいた“マント”がゆっくりと振り返る。

 顔の部分にドクロの仮面―― 対SAAPだ。

「あ、すみません」でドアを閉めようとしたエンドーだが、対SAAPはそれを許すはずもない。

 侵入者は排除するように命令されているのだろう。瞬時に侵入者だと判断し、『かまいたち』を放つ。

 エンドーはドアを盾にしてそれを防いだ。

「ちっ」

 こうなれば逃げないほうがいい。こいつを倒さなければ、エンドーの侵入がばれ、増援を送られるかもしれない。

 ドアの陰から飛び出すと、すかさず放たれた『かまいたち』を無刃刀で打ち消す。

 だが、完全には打ち消すことができず、両方の頬に切り傷ができた。それにもかまわず、ひるむことなく跳び上がり、無刃刀を仮面に振り下ろした。

 着地するともう一度、回転を加え同じところに振り下ろした。


 ――パリィン……


 仮面が砕け散り、対SAAPはスライムのようになり、溶けて消えた。

「対SAAPねぇ……。あまり手ごたえはなかったが……」

[どれほどのレベルがこの世界で通用するのか、それはSAAPをつくる際には未知なものでした。それがこの結果です。それに、まさか相手がデンテールだったとは思いもしませんでした]

「まあ、そのおかげで一匹は倒すことができたが……。これが大勢現われたらじつに厄介だ」

[…………]

 案内人は沈黙した。

 大勢の“これ”と戦った者がいるからだ。マハエが訊いていたらまた気を落とすだろう。

 当然、エンドーはそんなことは露も知らない。敵の居なくなったその部屋の中を調べ始めていた。

「案内人、どう思う?」

[何がです?]

「デンテールだよ、デンテール。あのデンテールが乗っている飛行船に、なぜこれほどに手下が少ないのか」

[それはたしかに気になりますね、前回の様子から考えると……。城には二人の手下がいましたが……]

「やれやれ、お友達が少ないのかね」

 エンドーが壁にあるスイッチを押した。

 壁の一部が両側へ開き、通路が現われた。

「そういうやつはな、ひねくれてるんだ。ほら、この隠し通路だってそういう性格の表れだ」

[あなた、自分がひねくれてないとでも思ってます?]

「……案内人、今なら訊かなかったことにしてやる」

[心が広くなりましたね]

 エンドーはイヤホーンの音量を最小まで下げた。


 ゲームなどでは、隠し扉や通路が見つかれば、その道は正しい道だ。

 この通路もしかりだった。

 通路を進むと、少し広い部屋があり、そこには妙な装置があった。

 大きな装置で、ハンドルと、三桁の数字を表すダイヤル。上からは一本のパイプが天井へ伸びている。

 ダイヤルは、『000』になっている。

「これはもしかして……」

 装置を観察するエンドー。

[先ほどの『250』という数字が何か関係してそうですね]

 エンドーが思っていたことを案内人が言う。(しかたなく、イヤホーンの音量を戻しておいたのだ)

「これがロックの解除方法かな?」

 エンドーがハンドルを回す。

 すると、『000』だったダイヤルが回り、数字が十ずつ増えていく。

 『010』『050』『100』『150』……

 『250』のところでハンドルを止めた。

 パイプが微妙に振動している。

[なるほど。この装置からパイプを通じて、あのドアに『250』の圧力を与えるんですね。空気圧か、ガス圧か……。それがロックの解除方法ですよ。一定の圧力によって開くしくみでしょう]

 案内人が推理する。

「これで解除されたかな?」

 戻ろうとしたエンドーは、もう一つ気になる道を見つけた。

 階段だ。暗くて奥は見えないが、そこから聞こえてくるのは――

「なんだろ? 何かのうなり声が……」

[戻りましょうよ。もしかしたらこの圧力の操作によって相手に気付かれた可能性もありますよ]

「そうなんだが……」

 しばらく階段と戻りの道を見比べ、エンドーは階段を下りはじめた。

「中途半端は嫌いなんだ」

[ですが……]

 三人をサポートし、任務を遂行させるのが本来の案内人の役目でもあるが、同時に助言をし、守るのも役目なのだ。しかし、三人の性格をよく知った案内人は、彼を止めることは自分にはできないこともよくわかっている。

 制作者がどういう理由でこの三人を選んだのか、案内人は聞かされていないが、人選は間違いではなかったのかもしれない。階段を下りたエンドーがその空間に電気を灯した瞬間、改めてそう思った。


 ガシャンガシャンと鉄格子を叩く音。うなり声。

 そこでは、五つの巨大な檻に閉じ込められたモンスター達が、激しく騒いでいた。

 一つの檻に五〜七体。エンドーが遭遇したトカゲや鳥。その他いろいろと、種類別に檻に入れられている。

 ここは貨物室だろうか。

「何でモンスターなんか乗せてんだ?」

[おそらく、実験に使うつもりでしょう。吉野さんが、二体のモンスターが融合した奇妙な生物に遭遇しました]

 それを聞いたエンドーは苦笑する。

「モンスターの融合か……。できればお目にかかりたくないな」

[しかしそう考えると、あのときの町の周りでモンスターが出現していたのは、デンテールの仕業でしょね]

「……殴る理由が二つ増えたな」

 一つは、モンスターの出現によってあの悪町長と関わってしまったこと。二つ目は同じくそれによって面倒くさい依頼を受けてしまったこと。

「(おっと、あの町長を殴りそこねた分で三つか)」

 エンドーはこちら側へ来るときよりも、さっと、体を回転させ引き返した。

 拳に熱い怒りを燃えたぎらせ、飛行船の前部へ。

 それを、やはり案内人は止めようとはしなかった。



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