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30:セルヴォの王

「……あぁー!」

 セレーネの前に降り立った男。その男を見て、マハエは小さく叫んだ。

 茶色い肌、銀色の長髪、筋肉質な体。ぴっちりとした紫色の袖なしのシャツに、迷彩柄のズボンという服装。

 身なりは別として、その銀色の長髪をマハエは覚えていた。

 港町の展望台で、彼を罠にかけた男だ。


「下がってなさい、『グラソン』! 手出しは無用よ」

「いやいや、これはオレの意思ではない。あの方の命令だ。退け」

 そしてグラソンと呼ばれた男は、マハエと宗萱のほうを向くと、口元を吊り上げた。

「よく『Rey』を破壊したな。想像以上の結果だ」

「何者ですか?」

 宗萱は刀を構え、すぐに防御にも攻撃にも移れる体勢を崩さない。

 セレーネが口を開く。

「……命令ですって? それは本当に――」

「いいから、退け」

 グラソンがセレーネをにらむ。

 それは、宗萱と同じく、時には女にも容赦はしないという気構えの表れだ。

「……わかったわ。とりあえず退いてあげる」

 セレーネの表情に恐れはなく、怒りを込めたような無表情の顔のまま、後ろの扉から出て行った。


「――さて」

 冷めた眼を、宗萱とマハエに向ける。

「そう構えるな。今は戦う気はない」

「今は? ――それなら、後に戦う前に今から排除します」

 一気にグラソンに接近し、宗萱は刀を振り下ろした。

「焦るな」

 ガチィ!という音。

 グラソンは宗萱の刀を、右腕一本で受け止めていた。

「……!? あなたは……!」

 グラソンは左手で刀を掴むと、ねじりながら下げ、右の“掌底”で宗萱の胸を強打した。

「――っ!!」

 後ろへ仰け反り、倒れる宗萱。

 グラソンはギラリと眼を青く光らせ、無言のまま、百八十度後ろを向き、セレーネと同じドアから姿を消した。


 扉がゆっくり閉じられ、男の足音が完全に聞こえなくなってから、マハエは呆気にとられたままの宗萱を助け起こした。

「大丈夫ですか?」

「……ええ。しかしあの男……」

 宗萱はしばらく扉を見つめてから、マハエに訊いた。

「あの女性―― セレーネでしたっけ。あなたが、あのとき加勢したのは作戦ですか?」

 『衝撃弾』でセレーネを吹っ飛ばしたことだ。

「え……!? ええ、もちろん作戦です! 完全に戦意のないふりをし、オレを彼女の意識から消し去り! 確実な隙を狙っていた、というわけですよ!」

 最後に大きく頷き、両手を腰に当てるマハエ。

「……まあ、そういうことにしておきます。とにかく助かりました」

「と、ところでどうしますか? 後を追います?」

「扉は一つだけ。あのグラソンとかいう男も、後を追ってくると見越しているでしょうね」

 大きく息を吐き、宗萱は扉へ向かった。

「行きますよ」


 鉄扉から、二人は十メートルほどの真っ直ぐな廊下に出た。

 この廊下にも、赤いじゅうたんが敷かれている。

 松明の明かりも少なく薄暗い廊下で、突き当たりに二つある明かりが、やけに豪華な扉を照らしている。

「あの扉の向こうですか」

「グラソンってやつが言っていた、『あの方』って……、王のことかな?」

「……断言はできませんけどね……」

 その扉は、後ろの鉄扉よりもひと回り大きく、全体的に赤い装飾が施されている。その向こうの部屋が特別なものであることは、容易に想像がつく。

 扉の前で耳をすましても、防音されているのか、横の松明の音以外は何も聞こえない。

「入りますよ」

 取っ手に手をかけ、マハエを見てから、宗萱はゆっくりと扉を押し開けた。


 キィという、小さな音とともに扉が開く。

 その部屋の中には、二人の男の影があった。

 こざっぱりとした部屋。続いていたじゅうたんの先には、豪華な椅子が。

 来客二人が部屋に入り、扉が閉まると、椅子に座っていた黒マントを着た男が立ち上がり、拍手した。

「ようこそ、我が城へ」

「……あんたが、セルヴォの王か?」

 マントの男の近くにグラソンが立っているが、セレーネの姿はない。

「いかにも、そうだ」

「最初から、交渉する気はなかったということですね? 交渉をエサに、我々をここへおびき寄せた」

 宗萱が言った。

「目的はなんです? SAAPを手に入れること、というわけではないでしょう?」

 宗萱の質問に、マントの男は黙ると、少しして答えた。

「目的か……。そうだな、任務を全うすること、かな」

「任務だと?」

「キミらと同じさ。ふふふふふ……」

 マントの男が椅子の横にあるコンピューターを片手で操作する。

 最後のカチッという音で、何かの機械が作動した。

 奥の天井の一部が降下し、マントの男の後ろにガラス張りの巨大な箱が現れた。

 それを見たマハエが、「あっ!」と声をあげる。

 ガラス越しに、箱の中に誰かが閉じ込められているのが見える。

「ヨッくん!?」

 それはまさしく、ハルトキの姿だった。

「おー…… マハエ…… 助けに来てくれたのかー」

 ハルトキは閉じ込められているというのに、のん気に箱の中央であぐらをかいて座っている。その姿は、あまり心配できるものではない。

「……動物園の見せ物か」

「……怒るよ?」

 ハルトキがひきつった笑顔で言う。

「あなたのお仲間ですか?」

 宗萱がマハエに訊く。

「まあ、“あれ”もそうです」

 頭をぽりぽりとかく。

 マントの男が、椅子の後ろにあるスイッチを押した。

 この階へ来たエレベーターのときと同じように、ガラスの檻の横の壁がスライドし、ドアが姿を現した。

「さて、キミ達にはもう少し間をおいてほしい。こちらもいろいろと、準備が必要なのでな」

「準備?」

「グラソン、しばらくこいつらの相手を任せる」

 その言葉に、グラソンはニヤリと笑う。

「かしこまりました」

「あ、まて――」

 ドアへ逃げていくマントの男へ手を伸ばすマハエだが、足が動かなかった。

「――!?」

 マハエの足はピッタリと地面にくっついている。

「なんで……!?」

 宗萱も同じように、両足を固められ身動きがとれない。

「――そうだ」

 マハエは足に魔力を込め、衝撃波を放った。パリッとガラス片を踏むような音がし、足に自由がもどる。

 だがすでに、マントの男はドアの向こう。その前にグラソンが立ちはだかった。

「何を企んでいるのですか?」

 宗萱も自力で足の接着を解き、マハエの隣にならんだ。

 疑問に答えず、どこか嬉しそうに笑うグラソン。

「……答える気はない、ということですか」

「オレを斬ろうってか?」

「斬りますよ」

 白い刀が、淡い光をまとう。

「あなたには、本気で向かわなければ勝てないようです」

「やってみろ」

 挑発を受けても、冷静さを欠かない宗萱。標的に向かって一直線に移動する。

 音の速さで迫る宗萱を、グラソンは的確に目で追う。


 ――キィン!


 グラソンが腰から抜いた四本の棒。三十センチほどの長さの金属棒によって、刀の攻撃は横へ逸らされた。右手に二本、左手に二本。再度、急所への攻撃をかわしながら、その四本の棒は一本の長い棍棒へと組み立てられた。

 金属と金属が交わる音。

 ぎりぎりと刀の刃が金属棒に押し付けられる。

 グラソンは金属棒を器用に扱い、斜め下からの攻撃を仕掛ける。それを宗萱は身体を回転させながら回避。その回転の勢いで繰り出された刀を、また金属棒が防御する。

「どうしました? あなたの力はこの程度ではないはず……」

「……何のことだ?」

 刀が金属棒にはねられると同時に、宗萱とグラソンは後ろへ飛びのく。

「あのとき、わたしの刀をあなたは腕で防ぎました。刀を素手で、ですよ。そして先ほど、我々の動きを止めたあれは……」

 大振りなモーションとともに、宗萱の刀が振り下ろされる。回避はせず、グラソンは金属棒を横にして構えた。だがその一撃は確実に鉄をも切断するだろう。


 ――ガチィ


 次の瞬間のその音は、金属同士がぶつかる音ではなかった。

「ちっ」

 とグラソンが舌打ちをする。

 魔力をまとった宗萱の刀は、金属棒の周りに発生した氷に食い込んでいた。

「……やはり、“氷”を操る力……」



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