表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/53

28:起死回生

 あれだけの攻撃を受けても、鎧のダメージはほとんど皆無のようだった。

 何事もなかったかのように立ち上がり、挑発するように両の拳をぶつけ合った。


「話は後ですね……。真栄さん、あなたを立派な戦力として見てもいいですね?」

「……ええ」

 できれば戦いを宗萱に任せておきたかったマハエだが、敵の力は想像以上。二人が協力しなければ倒せない。もっとも、それで倒せるという保証もないが。

 敵のほうを向く宗萱だが、その顔にはまだマハエの使った力に対し、驚きの表情が残る。

「……どうすればあの鎧を破壊できるのか……。まず、わたしの力を一点に集中した一撃で、ダメージはあの程度。それに、鉄の鎧と刀というのは、なんとも相性が悪いです。ですから、鎧の敵には打撃―― というよりも強い衝撃が効果的です。内側の本体にダメージを与えるのです」

「……オレが主要として攻撃に参加しろと?」

「先ほどのあなたの攻撃は、鎧はともかく、中身の本体には少なからずダメージはあったはずです」

「でも、オレの力では、あと五発放つのが限界です」

「それまでに勝負をつけなければなりませんね……」

 そうしているうちに、鎧はすぐにでも攻撃をしかけられる体勢に入っていた。

「とにかく、的確に急所を狙って、確実に攻撃を当てていかなければならない?」

「そういうことで、お願いします」

「……やってみます」


 ――自信はないがやるしかない。


 できれば遠距離攻撃に徹したいマハエだが、先ほどの『衝撃弾』は、やたらと魔力を削るわりに攻撃力は低い。本来マハエの技は、対接近戦用だ。自ずと、不向きな敵は増えてくる。この“鎧”もそれに入るのだ。

 だが、宗萱もじっとはしていない。刀の攻撃が通用しないとはいえ、マハエの攻撃のチャンスをつくり出すはずだ。


 二人は頷きあうと、二方へ分かれた。

 ――急所を狙わなければならない。

「(でも急所ってどこだ? 頭?)」

 マハエは鎧の頭に『衝撃』を放ったとき、それなりの手ごたえがあったことを思い出す。

 おそらく急所は関節部分だろう。そう確信し、機会をうかがった。

 鎧は、すでにマハエに狙いを定めている。背後の宗萱を気にしていない様子から、やはりマハエの攻撃は効いていたのだ。

 右手の鉄棒を地面に突き刺し、マハエはじりじりと距離を寄せてくる鎧に、じっと警戒する。

「少しは、こちらを見てはどうですか?」

 宗萱が鎧の頭上に跳び上がり、勢いをつけて刃先を突き立てた。


 ――ビシッ……


 刀が刺さった、肩の分厚い装甲と首の付け根の間―― その隙間の鉄板の薄い部分に、小さなヒビが入った。

 それに危険を感じたのか、鎧はすぐに肩に乗っかっている宗萱の腕を掴み、振り回し、背後へ投げ飛ばした。

 そのときがチャンス。

 マハエは一気に鎧との距離をつめ、まず足のふくらはぎの部分に衝撃を放ち、案の定、敵が膝をついたところへ、頭部への強烈な蹴り。ある程度の手ごたえを確認し、もう一度魔力を込めた蹴り。

 宗萱の刃の一撃で入ったヒビが、その衝撃で少しずつ広がっていく。

「(残りは二発!)」

 確かな勝機を見い出し、マハエは気合の一撃を放つ。


「――!!」


 だが、その一撃は寸前で防がれた。

 止めたのは鎧の掌。マハエの足をがっしりと掴み、引き寄せた。そしてもう片方の掌で、マハエの首を掴み上げる。

 そのまま鎧が立ち上がると、身長差でマハエの首は絞まっていく。

「うぐ…… ぐが……」 

 勝てると思った瞬間の、突然の裏切り。一瞬だけ、油断してしまったのだ。そのほんの一瞬の油断が、状況を大きく裏返してしまった。

 だが、今更悔いてもどうにもならない。

 必死に両手を使って絞め付ける手から逃れようとしても、身をよじっても、その大きな手は万力のようにしっかりと、がっちりとそしてじりじりと、マハエの意識を彼方へと葬っていく。


 ――くっそぉっ……!


 足の魔力を鎧にぶつけるが、まったくの苦し紛れでしかなかった。

「真栄さん! 意識をしっかり!」

 宗萱が助けようと刀を振るが、鎧には通じず、逆に拳の攻撃を受けてなぎ倒された。

 自分はもう助からないという絶望。マハエは死を悟った。


「ぐ…………」


 マハエの腕はだらりと力なく垂れ、抵抗すらしなくなった。その姿は刈り取られた雑草のように、風が吹けば飛んでいきそうなほどに力は見られない。

「真栄さん! 真栄さん!!」

 宗萱は痛む体を起こし、残り少ない魔力のすべてを、刀に込めた。

「(わたしの最後の力……。これを使っても真栄さんを助け出せるかどうか……)」

 宗萱は細い目を見開き、燃える緑の瞳で敵を見定めた。

 大量の魔力が注がれた刀は、淡い青の光をまとい、膨らんでいく。

「(腕一本くらい、切り落とす力を……!)」

 大勢の仲間を失った宗萱にとって、出会って間もない少年であっても、命をかけて守りたい。戦うためのプログラムとしてつくられる際、プログラミングなどされなかったその感情は、この世界に入って初めて生まれたものだった。


 ――助けてみせる!


 握りしめた刀に、技を繰り出す準備は完了した。

 ――まだ間に合う。手遅れになる前に――


 ――バシュ……


「……え……?」

 突然、刀に込められた宗萱の魔力が吹き飛んだ。

 それは宗萱の意図ではない。他の巨大な力によって、ろうそくの炎のように吹き消されたのだ。

「……なにが……?」

 魔力を失った刀身は、ただ白く輝いているだけ。何がこの巨大な力を放っているのか、宗萱ははっとマハエに視線を移した。


 ――まさに、鎧がマハエにトドメをさそうとしたとき、首をへし折る力を入れた手に衝撃が起こった。

 まるで爆弾でも握っていたかのように、手の中で爆発したものに弾かれ、マハエを取り落とした。

「…………!?」

 膨大な魔力に包まれたマハエの体は、着地すると同時に足元にクレーターをつくる。

「真栄さん?」

 力を使い切り、脱力した宗萱の目の前で、すでにすべての力を失ったはずのマハエが立ち上がる。さっきまでと同じように、腕をだらりと下げ、うつむいたまま。

 もう一度呼びかける宗萱の声は、マハエには聞こえず、代わりに狂ったような笑い声が広場にこだました。

「は…… はははははははははははははは……!!!」

「…………」

「ははははは……」

 笑い終わり、くわっ!と顔を上げたマハエの表情には、異常なまでの生気があふれていた。

「……おい、“粘土”野郎」

 喜びに満ちたマハエの声。

「死に損ないが……」

 “粘土”とバカにされたことに怒った鎧―― 鎧の中の人物は、「今度こそひねり潰してやる」と、今のマハエの様子を警戒することなく、手を伸ばす。


 ――バチィッ!!


 だが、マハエを包む力にその手は弾かれ、驚いた拍子に数歩後ずさる。

 マハエが一歩一歩、鎧へ歩み寄るたびに、その力が一点に集中する。

 さすがに鎧も恐怖を抱いたのか、恐れるように更に後ずさる。


 すべての魔力がマハエの右足に凝縮された。


 足を踏み止めた鎧は、攻撃に備えて防御の体勢をつくる。

 その姿にはまだ、自分を包み、完璧に守るその“金属”に自信が見られるが――


 ――――!!!


 音さえも打ち消す凄まじい衝撃の塊が、鎧の胸部にぶち当たった。

 空間が波打ち、地面を削る。

 マハエの言ったとおり、まるで粘土の人形のように、鎧は軽々と吹っ飛び、石の壁に突っ込んだ。


 ――攻撃を放つと同時に反対側へ吹っ飛んだマハエの体は、宗萱によって受け止められていた。

 ようやく城の壁に反響しながら、グァングァン…… という余韻が響き、空を大量の小鳥が飛び去っていく。

 嵐の後の、静けさ――

「……真栄さん」

 宗萱は自分の上でぐったりとなっているマハエの体を起こし、呼びかける。

 頬を軽く数回叩けば、マハエはうめきながら目を開けた。そして宗萱と目が合うと、力のない笑顔を見せた。

「大丈夫ですか?」

「……爽快な気分です」

 それを見て、宗萱は安心する。

「よかったです……」

 二人はしばらく、そのまま力の回復を待った。



 石の壁を深く破壊し、めり込んだまま鎧は完全に停止していた。

「何だったんだろ? こいつ」

 マハエも宗萱もある程度、傷は癒え、魔力も回復し、万全でなくとも十分に行動できる状態にもどった。

 特大攻撃を食らった鎧の胸部は、砕けはしていないものの、大きく陥没し、大きなヒビができていた。

「強敵でした……。攻撃が通用しない敵……、これ以上に厄介な相手はいませんね」

 宗萱は壊れかけの頭の部分の装甲を外した。

「重たいですね……。よくこんなものを――」

 覗き込むようにして、中に入っているスキンヘッドの男を見る。

「……モンスターではない……? ――人?」

 首を傾げる宗萱の横で、マハエは別のところに目をやっていた。

「宗萱さん、これ」

 マハエが示すところ―― 鎧の腕の部分に、それまでわからなかった文字が彫られてあった。


「『Rey‐Proto』?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ