表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

25:クロスワード

「うおおおぉぉ!!! お前らをここから出すわけにはいかん!」

 マハエと、SAAP隊長を前にし、番人は低い声で叫ぶ。

 その迫力に尻込みするマハエとは逆に、隊長は表情一つ変えない。

 番人が更に低い声でうなりはじめた。

「ぐうううううぅぅぅぅぬ……!」

 番人の太い腕から、何本もの触手が伸びた。

「なんだ……? こいつ、人じゃないのか?」


「ぐははは! ひねり潰すっ!」


 ――ビシュッ!


 触手がマハエの隣の隊長を襲う。


 ――キィン!


 隊長は刀を目の前に構え、それを弾いた。

 マハエは彼の後ろに逃れ、武器になりそうなものを探した。


 ――キィン! ガキン!


 触手の連続攻撃を、隊長はことごとく防ぎ、弾いている。

 マハエは、床に転がっている、切断された牢の鉄棒を拾い上げた。棒の先はやや斜めに切断され、槍のようになっている。

 ――少々重くて扱いづらいが、構わない。

 マハエはそれを前に突き出し、戦いに加わった。


 触手攻撃が素早すぎて、隊長もなかなか攻撃にうつれない様子。


 触手は両腕から出ている。数は六本。それぞれが意思を持っているように動く。


「(ようするに、敵は七体か)」

 マハエはせめて片腕だけでも封じようと、鉄棒で敵の左腕を突いた。

 だが、棒は三本の触手に絡めとられた。そして触手は、恐ろしいほどの怪力で、それをマハエごと持ち上げ、床に叩きつけた。

「ぐはっ!」

 身動きがとれないマハエに触手が、絡めとった鉄棒で攻撃をしかける。


 ――シュン!


 寸前で、触手が三本とも切断された。

「大丈夫ですか?」

 マハエを助けた隊長が、手を差し伸べる。

 ひるむことなく襲いくる残りの触手が、続けて振られた刀に、糸を切るように切断された。

「なんだと……!?」

 すべての武器を失った番人がたじろぐ。

「準備運動は、このくらいでよしとしましょう」

 隊長が刀を縦にまっすぐ構え、魔力をそそぎ込む。白い刀身が淡い光をまとった。

 が、番人は余裕の表情で、

「まだまだぁ! これで終わりではない!」

 すると、体中から新たな触手が伸び、そのすべてが無抵抗の隊長を襲う。

 マハエはすぐに足に魔力を溜め、床を踏みしめようとした。が――


 ――シュパァン……


 それまで居た場所から、隊長の姿が消え、同時に番人の動きが止まった。


「斬灯―― 『灯柱ひばしら』」


 番人の大きな体の中央で消えていく、縦に伸びた白い光の柱。

 一言も発することなく倒れる番人の後ろで、隊長が魔力の光を帯びた刀を、鞘にもどした。

 それはアニメさながらの光景。とても人のものとは思えない素早い技、動き。まさに電光石火の如く、敵を切り裂いた。


 足に溜めっぱなしだった魔力を解放し、マハエは一つ質問した。

「苦戦…… してたんじゃ……?」

「いえ、敵の動きを見極めていたんですよ。それに、まだこの体にあまり慣れていませんから」

「…………」

「それよりも、大丈夫ですか? あんなに激しく叩きつけられて」

「……ええ、まあ……」

 マハエはうつむいたまま、「行きましょう」という隊長に従った。

 念のために鉄棒を持つマハエだが、この隊長の後についていけば敵はいないのかもしれない。


 ――それよりも、隊長が使った魔力の技のことが気になっていた。



「隊長さん。名前とかあるんですか?」

 人気のない廊下を警戒しながら歩く二人。

 マハエは先を歩く隊長に尋ねた。

「名前は―― そうですね……。002部隊は、切り込み部隊ということで、『槍』と『剣』という意味で、『ソウケン』と呼ばれていました。攻撃専用としてつくられたのです」

「なるほど。その他の部隊が存在したのか、という疑問は置いときましょう」

「ソウケン―― わたしのことは『宗萱ソウケン』とでも呼んでください」

「宗萱…… ね」

 少し嬉しそうに、隊長―― 宗萱がうなずいた。


「この世界に送られたプログラムが、『002』一部隊だけでよかったです。少数とはいえ、部隊を敵に奪われてしまった今、それを倒せるのはわたしと―― あなた方しかいません」

 ――人間の戦闘力はたかが知れている。

 無力な幼い子供を見るような宗萱の冷たい目に、マハエは気付かない。

「そうですね。これ以上敵が増えないことを祈ります」

「……気を引き締めて行きましょう。また捕まれば元も子もないですからね。敵と遭遇したときは、わたしに任せてください」

「了解」


 マハエはマハエで、心強い味方が加わり、一安心していた。


「あれ?」

 ジャケットのポケットをまさぐっていたマハエが、そこから“黒い箱”を取り出した。

「『無線機』ですね」

「こんなの、拾った覚えはないんだけど……」

 マハエはしばらく無線機をいじるが、使えないらしい。

 だが、何か重要そうな感じがしたので、またポケットにもどした。


 廊下の窓から広場が見える。

 広場の奥に、大きな建物があるらしい。

「宗萱さん。ここって――」

 宗萱も、その建物を見て、マハエの言葉に続く。

「“城”ですね。我々は目指していた城の、牢に閉じ込められていたのです」

「城って、王の城―― ですか?」

「ええ、和解を求めた王の城。わたしの部隊は、この広場で拉致されたんです」

「……いよいよ、怪しいな……」

 王とは何か。セルヴォとは何か。また、敵とは何なのか。

 マハエは、クロスワードの答えが見えてきた気がした。






「やつらが逃げ出したか」

「はい」

「こうもやすやすと逃げられるとはな……」


 ――赤いじゅうたんが敷かれた、こざっぱりした部屋。

 豪華な椅子に座った黒マントの男と、銀髪の男。

 マントの男は、不都合を楽しむように笑った。

「ふふふ…… けっこうなことだ。いや、いい機会ではないか。モルモットが箱庭に逃げ出したくらいで、実験に支障は出ない。予定を少し早め、“試作品”の相手をさせろ」

「承知しました」

 銀髪男は、確認するようにマントの男に尋ねる。

「すべて任せてもらえますね?」

 それに対し、マントの男はうなずくと、コンピューターの画面を見つめた。

 画面は、複数の監視カメラの映像を映している。

 その中の一つのカメラに、大きな“鎧”が映された。


「――使うの?『Reyレイ‐プロト』を?」


 どこから現れたのか、部屋の隅に年の頃、二十歳ほどの女が立っていた。長いすみれ色の髪を後ろで団子状に結び、丈の長い青色の服をまとっている。

「居たのか、“セレーネ”」

 無表情の女の顔。それが整った顔立ちをより強調させる。

「まだ実験段階でしょ?」

「ふん。実際に使ってみなくては、完成はしない」

「それで、失敗に終わる。なんてことは予想してる?」

「……お前も、“グラソン”と同じ事を言う」

 その言葉に、女―― セレーネはそれまで無表情だった顔を初めて歪めた。

「一緒にしないで」

 怒ったように言うと、つかつかと部屋から出て行った。

 マントの男は、その様子に気兼ねすることなく、再びコンピューターの画面に目を戻した。


「ショーの始まりだ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ