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23:コイの気持ち

 エンドーの魔力の最大値にも、余裕ができていた。

 まだまだ疲れる様子がない。

 遠距離からの攻撃後、場所を移動し、また攻撃。


 ――四回の爆発後、ドラゴンはだいぶ弱ったようによろけ、地面に膝をついた。

 もう一発、魔力球を爆発させると、それがトドメとなった。


 無傷で倒したドラゴンを前にして、エンドーの気分は高揚。

 あとドラゴンが一体いても、軽く倒してしまうかもしれない。


「さて、テレポート装置か」


 ドラゴンが守っていた掘っ立て小屋の中では、やはりテレポート装置が動いていた。

 これがどこにつながっているのか。

 エンドーは唾を飲んだ。


 ――人為的にモンスターを送り込んでいたのは明らかだ。


 ――でも誰が?


 この装置を使って、そのどこかに移動できるだろうか。


 ――帰られなくなったらどうするか?


 ――転送された先に、希望はあるだろうか?


 うじうじと考えるのは、自分の性に合っていない。


「(オレはただ突き進む!)」


「うぉっす!」と気合を入れ、先の見えぬ地獄へと踏み出そうとした――


「――グブルルルル……!」


 装置に集中していて、エンドーはよみがえった気配に気がつかなかった。

 高まった気分が―― 潮が引いていき、頭が冷めていく。

 倒れたはずのドラゴンが、復活してエンドーを完全に捕捉していた。

「……ぬかった……」

 失神寸前の、ドラゴンの荒い息が、エンドーの脳天に降りかかる。

 背後から首を鷲掴みにされたエンドーは、振り向いて攻撃することもできない。


 もう片方の腕の、鋭い爪で切り裂かれるか。

 もしくは鋭い牙でかぶりつかれるか。

 このまま首をへし折られるか。


 まな板の上に寝かされたコイの気持ちを、痛いほど感じていた。


 煮るなり焼くなり―― 自分の哀れな姿を想像し、エンドーは唾を吐いた。


 ――敵は弱っている。まだあきらめるところではない!


「おおおおあああ!!!」


 その叫びで、弱ったドラゴンはうろたえる。エンドーを恐れている。

 それもそのはずだ。さっきまで完全に力で圧倒されていた敵を、ようやく自分の好きなように調理できるというところまで追いつめた。だが、その敵が、まだあきらめていなかったのだから。


 まな板の上で、突然コイが跳ね上がり、それに驚いて包丁を落としてしまった板前のように、ドラゴンは力を緩めた。


 そのすきに振り向いたエンドーの手の平には、すでに魔力が凝縮されて、球体を形成していた。


 彼は、それを飛ばすのではなく、そのままドラゴンの腹にぶち込んだ。


 ――ドグンッ!!!


 腹に魔力球を押し付けられ、直に爆破されたドラゴン。

「ググ……」

 白目をむき、苦しそうな声を出して後ろに倒れた。

 あのとき立ち上がらなければ、生きながらえたであろう。結果的に、執念深さでエンドーに負けてしまったのだ。


 手の平で爆発が起こったにも関わらず、エンドーは無傷だった。

 自分の魔力のダメージを、同質の魔力が防いだのだろう。

「やっぱ、死ねねぇわ。オレ」

 高笑いしたい気持ちを、微笑むだけで抑えた。


 次は装置だ。と覚悟を決めなおす。

 だが、その覚悟も、あっけなく不要となる。


 ビリビリ…… キュィィ……


 装置全体に電気が走り、煙を出して停止した。

 さらに小さな爆発が起こり、装置はバラバラに分解した。

「……番人が倒されれば、装置も使えなくなるしくみか。用心深いことだ」

 エンドーは内心、ホッとしていた。

 先の見えない近道を通るよりも、やはり慎重に遠回りしたほうが安全だ。

 ――これでマーキンの件もどうにかなるだろう。

 あとは城へ向かう。

「(マハエもヨッくんも、城にいるのだろうか)」

 とにかく早く合流したい。

 とたんに、こんな物騒な場所に一人でいるのが心細くなった。






 ――物騒な場所にいるのは、エンドーだけではなかった。

 モンスターがうろつく森の中を、城へまっすぐに行く人物。

「吉野さん」

 ハルトキは、突然の声に少し驚き、それが案内人だとわかると、はぁ〜と息を吐いた。

「案内人。だいぶボクを放っておいたじゃない」

「そうですか」

「冷たい言葉ですねぇ……」


 ――トロッコに乗って城を目指していたハルトキだが、城が大きく見えてきたところで、レールが途切れており、やむをえなく徒歩で移動していた。


「適当に城へ向かってるんだけど、この道であってるかな?」

「はい。もう少しで城の敷地に入ると思います」

 ――いよいよなんだな。

 ハルトキも、独りでいる心細さを覚えていた。



 何体かのモンスターを、『金縛り』でやり過ごし、ハルトキは森をぬけた。

 脇には人工的につくられた深い水路があり、城へ向かって勢いよく水が流れている。

 ここに飛び込めば、城へ着くだろうか。ハルトキはその可能性を笑い飛ばした。

「やっぱり、あの融合モンスターは、王と関係があるのかな? ――ん?」

 ハルトキはそこでピタリと立ち止まった。


 ――魔力が何かを感じ取る。


 ――何かの気配。


 ハルトキはとっさに、『動体視』を発動した。


 オオオオオオオォォォォォ……


 洞窟の中を風が通り抜けるような、低いうなり声。

 何かに狙われている感覚。


 “誰か”ではなく、“何か”に。


 空間がゆがんだ。


 ――シュパン!


 ゆがんだ空間―― 空気が、高速でハルトキに迫る。

 身体を回転させながらそれを回避した彼の後ろの木に、切れ込みが入った。

 また空間がゆがみ、今度は黒い色をつけて、目に見える形になった。


「ドクロの面……?」


 ハルトキはすぐ傍らにも同じ気配を感じ、反対側へ逃れた。

 だが、そこで、片足が地面を踏んでいないことに気付き――


「うわぁ!!!」


 ドクロ面―― 対SAAPの放った『かまいたち』が、水路で足を踏み外し、体勢を崩したハルトキの額にかすり傷をつけた。


「あああぁああぁぁぁああぁぁ……!!!」


 深い水路の、流れの速い水の中へ、ハルトキは落下した。


 ――まっすぐに、水が彼を城へと運んでいった。



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