20:次の町へ
「おい! さっきの隕石で、町長が死んだらしいぜ!」
町の食堂は、その話でもちきりだ。
ただ一人、エンドーだけは話しに参加せず、もくもくと食事をしていた。
「おい兄ちゃん。あんた近くにいたんだって?」
ヒゲヅラのおじさんが、エンドーに話をふる。
エンドーを追っていた警備員達は、隕石事件でエンドーのことなどすっかり忘れている。
だからこうして、堂々と食堂で食事ができるのだ。
「別に、オレは関係ないですよ。ただ、町長の野郎をぶっ飛ばし――」
エンドーは自分の口を押さえた。
一応、町長だった男が死んだのだ。町民達だって、ショックに違いない。
――はずだ。
「あっはっはっは! いやぁ〜 次の町長選挙、オレっち出ちゃおっかな〜?」
食堂大爆笑。
「(……町長……、あわれなり)」
エンドーにはもう、町長への怒りはなくなっていた。
思い返せばはらわたが煮えくり返るが、死んでしまった者にどう怒ってもしかたがない。今は先へ進むこと。それだけだ。
町長が行っていた研究のことも気になるが、エンドーにそれについて思考するほどの脳みそはない。
「これで足りますかね?」
エンドーは、金貨の入った革袋をカウンターに置いた。
「ああ、十分足りるが―― あ、ちょっと!」
「寄付します」
エンドーは金を置いて店を出た。
「案内人! 案内人!」
「こんにちは。エンドーさん」
いつの間にか居た案内人。
「おう、いたのか。次はどうすればいいんだっけ?」
「この町の西門から出てください。先の町に『ガレット・マーキン』という人がいます」
「マーキン? どんな人?」
「飛行技術の研究をしています」
この情報をどこから得たのか、エンドーは訊かなかった。マハエやハルトキが情報を手に入れたのだろうと思ったからだ。
「ここから城へ向かうには、それが一番効率的です」
「……わかった。マーキンという人に会えばいいんだな?」
先ほどエンドーが開けた防壁の孔は、完全にふさがれていた。
あきらめて門へ向かうと、警備員が恐れるように「ヒッ……」と目を丸くし、すぐに門を開けた。
「ありがとさん」
やはりエンドーは、モンスターよりも恐れられる存在のようだ。
警備員の「もう来るなー!」という遠吠えのような叫びを背中で聞きながら、エンドーは次の町へ向かった。
モンスターは相変わらずうろついている。
見つからないように隠れながら移動するが、それではどれだけかかっても町には着きそうにない。
「くっそ…… モンスターが邪魔だ。どこから湧いて出てるんだ? どう思う案内人?」
「…………」
案内人の声はない。
「さっき来たばっかりだろ。もう居ないのか」
自分ひとりで行動するのは心細い。声だけの案内人でも、居ないよりは幾分かマシなのだ。
「(居ないとなれば、あまり長い時間、危険な場所をうろつくのもよくないな)」
平原の緑色の中に、茶色い道のようなものが続いている。エンドーが向かう町へ続いているのだろう。その道を頼りに進めば、迷ったりはしなさそうだ。
だがモンスターがいる以上、その道のりは百倍きびしい。
「くっそぉ…… 早くしないと日が暮れるなぁ」
太陽はまだ真上にある。現実世界と同じなら、まだ真昼の時間帯だ。
「こそこそと隠れて行動するのは、オレの性に合わんな」
エンドーは、自分の気の短い性格を呪った。
「りゃあぁ!!!」
まさに白昼堂々、エンドーはモンスターの巣窟の中を駆け抜けた。
「――うわああぁぁぁ!!!」
当然、モンスターに集団で追いかけられる。
モンスターの種類は数多い。巨大なトカゲ、クモをはじめ、肉食鳥や、これまた巨大なカエル―― 毒々しい色の、グロテスクなカエルだ。おそらくまだまだ種類はあるだろう。
不思議なのが、これほどの種類がいて、モンスター同士の争いが見受けられないことだ。
すべてが、『モンスター』という一つの“種族”を成しているようだ。
「ちっ……! 別の種を拒絶するところなんか、人と同じか……!」
エンドーは、木の横を通過するとき、左手で魔力を貼り付けておいた。
ドォン!
そしてすぐに爆破。
一部分をえぐられた木は、ギシギシギシ…… と音をたてて、ズズン!と倒れた。
エンドーを追うモンスターの何体かが、それに巻き込まれる。
だが、その他のモンスターは倒れた木を跳び越え、ちゅうちょなく追走を続ける。同類が倒れてもお構いなしだ。
「人とは違うか……」
仲間を助け起こすくらいの行動をとれば、エンドーだって哀れみを抱くだろう。
――やはり、単に獲物を追い回す獣のようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
二百メートルも走れば、エンドーはヘトヘトだ。
「ちょ―― もうギブ! ギブ!」
当然、モンスターに人語は通用しない。
「くっそー!」
エンドーは逃走をあきらめ、前に転倒。数回地面を転び、停止した。
「グヒャオ!」
これはチャンス!と、更に勢いづくモンスター達。よほど食料不足なのだろう。
――追いつめられたはずのエンドーが、ニヤニヤと笑っていることにも気付かず……。
ドゴォン!!!
“その場所”を通過したモンスターの足元が、爆発した。
「ギャウ!?」
何が起こったのか理解できないモンスター達。空中へ舞い上がり、ドシャッ!と地面に落下した。
エンドーは、前へ転がったときに、魔力を三つ、地面に貼り付けていたのだ。
これで残ったモンスターはわずか。
あとは『魔力球』で一掃した。
「ああ…… もう嫌だ」
ぶつぶつ言いながらも、エンドーは先を目指した。
モンスターはまだまだ出現する。
「あー…… ヨッくんとマハエは無事だろうか」
ようやく、モンスターも見当たらない場所まで逃れた。
全力疾走と魔力の連発で、エンドーの体力は限界だ。
だが、前よりも魔力が増大しているらしく、これまでよりも長持ちした。
「はぁ…… もっと力つけないとな……」
行動できる最低限の力がもどったところで、エンドーは再び歩き出した。
すぐ先に、山と山の間の細い道があり、門がつくられていた。
「やっと着いた……」
エンドーはふらふらとした足取りで、門へ近づいた。
「止まれ!」
突然の声に、エンドーは驚きもせず足を止めた。
「またですか……」
警備員が、門の上からエンドーを見下ろしている。
「あんな危険な道を一人で通ってくるとは…… 何者だ?」
「何者と言われましても……」
「まさか、モンスターか?」
エンドーは飽き飽きした声で警備員に言う。
「あんなのと一緒にされちゃ、おしまいでしょ」
警備員はまじまじとエンドーを観察する。
――しばらくし、門が開いた。
「通れ」
「どーもー」
念のためのボディーチェックをすまし、別の警備員に連れられて細道を歩く。
「キミ、賞金稼ぎかい?」
警備員がエンドーに訊く。
「……ええ、まあ、そんなとこです」
「ははは。そうは見えないな」
「…………」
もう一つ門を通過し、町の中へ。
「じゃあね」
手を振って、自分の持ち場にもどる警備員。
エンドーはマーキンのことを思い出し、警備員に聞こうとしたが遅かった。
「……まあ、いいか。その辺の人にでも」
その町は、前の町よりも平和なようだった。
だが、エンドーはもう、どの町でも“町長”とだけは関わりたくなかった。