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16:狂った科学者

 魔力が無限に膨れ上がる。

 それにしたがい、締め上げられたエンドーの意識もだんだんとはっきりしてきた。


 ――死ぬわけにはいかないから!


「キケン キケン」


 ロボットがエンドーの力の増大を感知し、危険物と化したエンドーを後ろへ投げ飛ばす。

 エンドーは負ける気がしなかった。

 今度は頭をかばうことなく壁に激突―― エンドーが触れる直前、壁が砕けた。

 膨大な力が、エンドーを包み込んでいる。

 案内人のセンサーにも、異常な変化が表示される。

「エンドーさ――」

「ははははは! すごい……! もう負けねぇ!!」


 エンドーは、狂ったように高まった気を抑えきれない。

 力が腕に集中する。

 ロボットは警告音を発しながら後ずさる。


「キケン キケン キケン」


「ははははははははは!!!」


 すべての力が、エンドーの手の平で凝縮。

 球となって、ロボットへ放たれた。


「キケン キケ――」


 ――それはまるで、小さく再現された核爆発。

 凝縮された膨大な力がロボットに命中し、大爆発した。

 洞窟内のすべてが振動する。


「キ…… ケ……」


 爆発音が収まっても、振動だけはしばらく続いた。

 ロボットは胸部を大きく陥没させ、ギシギシと音をたてながら膝をついた。

 だが、完全には破壊できていない。


「はっ…… はっ……」


 今にも倒れそうなエンドー。力のすべてを使い切り、立っていることすらままならない。

「ン…… キ……」

「これ…… を食らっても…… まだ、動ける…… か……」

 壁にもたれて座り込み、エンドーは動けない。今なら、停止寸前のロボットでも、エンドーをひねり潰すくらいわけはない。


 そのとき――


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 爆発の振動は消えたが、別の振動が壁や天井を揺らす。

 パラパラと、天井の一部が降ってくる。

 まるで今にも――


「エンドーさん! 動いて! 洞窟が崩れますよ!」

「ああ……」

 あの大爆発は、洞窟全体にも大きなダメージを与えたのだろう。振動音が大きくなり、数秒後には崩落する。

「エンドーさん!」

「……わかってる…… って……」

 地面を這いながら、テレポート装置へ移動するエンドー。

 ロボットは今だ命令を成し遂げようと、ぎこちなく立ち上がる。

 その頭に岩が落下するが、岩のほうが硬度負けして砕けた。


 いよいよ崩落。というところで装置にたどり着いたエンドーは、パネルの上に立ち、横のスイッチに手をかけた。

「ギシィ…… ハカイ ハカ…… ィ……」

 ロボットが放ったビームが、エンドーの一メートル前方の地面に穴をあけた。照準が合わないのだ。


「……あわれなロボットだ」


 エンドーは体重をかけて、重たいスイッチを下に下げた。


 ――ドゴォン!!! ドドドドドド……


 崩落していく洞窟の中で、ロボットは手を伸ばしていた。

 命令の遂行? それとも助けてくれと?


 ――もうわからない。

 崩落していく洞窟も、あわれなロボットも、もう視界にはなく、エンドーは白い光の空間を飛んでいった。



 ――ボワゥン……

 静かな倉庫の中に、テレポートの音がこだまする。

 パネルの上に降り立ったエンドーは、足に力が入らず転倒した。

「…………」

 どうにか、崩落には巻き込まれなかった。生きて脱出した。

 小さな倉庫の入り口はやたら広く、そこからまた、平原が望める。ちらほらと、モンスターの姿もうかがえる。

「ここにも…… モンスターか……」

 ここの装置のスイッチは入りっぱなしになっており、絶えずパネルに触れたモンスターを転送し続けていたのだ。しかし、片方の装置が崩壊し、もはや役目を果たさない。


 エンドーは立ち上がり、モンスターが入ってこないよう、倉庫のシャッターを降ろした。

 そして床に大の字になって倒れる。

「エンドーさん?」

 心配して、案内人が声をかけると、

「お前は、マハエやヨッくんのところへ行ってくれ……。オレは、しばらく動けない」

「……わかりました」

 案内人の声が聞こえなくなり、しばらくエンドーは、光の差し込む天井を見つめていた。

 激闘の直後だというのに、なぜか心は平然としていた。

 ハリケーンが去った後のように、心の中には感情も、何もなかった。


「生きてた……」


 脱出して初めて、それを実感した。






「ありがとうございました大林さん」

 前日、『田島弘之』と『ニュートリア・ベネッヘ』がぶつかり合った河原。

 ハルトキは、大林とその他大勢の田島組に見送られる。

「気をつけて行ってこい。オレ達の力が必要になったら、いつでも頼ってくれ」

「ええ、ありがとうございます」


「“アニキ”! お元気で!」


 不良の一人が言うと、他の不良も口々に「アニキ!」と繰り返す。

 前日の一件で、大林がハルトキを『弟分』と認めた。『部下』ではなく、『弟分』という立場は、他の不良達よりも上なのだ。

 その日に突然現れた子供を、その日に弟分と位置付けられたわけだが、田島組の不良達は全員が賛成した。

 それは、大林ボスが認めたから仕方なく、というわけではなく、やはりハルトキのおかげで全員―― とくに大林が無事にこうして生きているという事実が、不良達の心を大きく揺さぶった。


「アニキー!」

 一人の不良が、ハルトキに何かを投げてよこす。

 落としそうになりながら、それを両手でキャッチ。

「これは?」

 受け取ったのは、鞘に納まった『ダガー』―― 刃渡り十五センチほどの短剣。

「持っていけ。武器もないんだろ?」

「……ありがとうございます」

 このせんべつは、ハルトキにはとてもありがたかった。

「では、失礼します」

 『田島弘之』に背を向け、ハルトキは歩き出した。ハルトキの任務は、いよいよここからが本番なのだ。

 不良達が「アニキー!」と繰り返し叫び見送る中、大林が呟く。


「また会おう。“兄弟”」



 ――田島弘之の大勢の不良の声も聞こえなくなり、静かな小道。

 まだ昼前の時間帯で、少しずつ涼しさが温かさになってきた。しかし蝉の声もまだ聞こえない季節だ。耳に入るのは、風が草を揺らす音と、自分の足音。

「どうしちゃったんですか? いつからあんなにも親しく?」

 それと案内人の声。

「キミが寝てる間にね。いろいろとあったんだよ」

 ハルトキは、もらったダガーを眺めた。ずっと憂鬱ゆううつだった。

「ねぇ、案内人。セルヴォって、どうしても破壊しなきゃいけないのかな?」

「そりゃそうですよ。セルヴォがコンピュータに異常を与えている以上、放っておくわけにはいきません」

「…………」

「それがどうかしましたか?」

「キミにはわからないよ」

 セルヴォがコンピュータに異常をきたす原因。それを排除するのは、ウィルスを排除することと同じなのだ。少なくとも、案内人と制作者にとっては。

 ――セルヴォはウィルスとは違う。意思があり、生きている。他に解決策はないのか。

 すでにセルヴォと深く関わってしまったハルトキは、任務を遂行する自信をなくしていた。


 田島弘之と接し、わかったことは一つ。これは大きなことで、明らかなこと。


 セルヴォは、“人”なのだ。


「――吉野さん」

「ん?」

「必ずしも、良いセルヴォだけではない。ということを覚えておいてください」

「わかってるよ。人間と同じさ」

 言葉を選ぶように黙る案内人。

「あなた達を、ねらっているセルヴォもいます」

「ボクらを狙う?」

「はい。改造されたプログラム。対SAAPが、マハエさんとエンドーさんのところに現れました」

 そのとき、ハルトキの頭に真っ先に浮かんだのは、自分の心配ではなく、他の二人の心配だった。

 しかし案内人の話し方から、二人は無事だということを確認し、今度は自分の心配。

「対SAAPは、自分達の意思で動いているのかが、疑問なんです」

「指示しているやつがいると?」

「ええ。まだはっきりとはわかりませんが。おそらく、直接指示を出しているは、隊長プログラムでしょう。部隊のすべてがセルヴォに侵食された今、操る者がいないにしても、敵は多いですよ」


 元々この世界にいたセルヴォをもとに、前回のゲームはつくられた。そして今回は、そのセルヴォがコンピュータに異常をきたす原因となった。


 何か―― ハルトキの頭の中で、何かが引っかかった。



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