表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/53

15:友情の走馬灯

「まず、話しておくことがあります」

 暗い洞窟でカンテラに火をつけたエンドーに、案内人が話す。

「先ほどのドクロ面のことで――」

「今、重要? できれば敵の気配に集中したい」

「では、集中しながら聞いてください」

 また無茶な要望をする案内人に、エンドーは声をあげそうになるが、洞窟内でそれはマズイと思い、呑み込んだ。


「あのドクロ。マハエさんの話で、まさかとは思いましたが、やはりそうでした」

「だから何だよ? マハエがどうしたって?」

「あのドクロ面―― あれが『対SAAP』―― 改造プログラムです」

 カンテラを前に差し出しながら、エンドーは慎重に洞窟を進む。

「対SAAPって、こっちに送り込まれたプログラムが、セルヴォに侵食されたっていう?」

「はい。あの死神デザイン。間違いありません」

「――て、悪趣味だな、制作者は。特殊武装プログラムじゃなかったのか?」

「それは例えですよ。それに、すべてがああいうデザインというわけではないですよ。『SAAP−002』の隊長は、まともなデザインで――」

「そんなん、どうでもええ」

 真っ直ぐな洞窟ではないので、いっそう警戒しなくてはならない。

 何度か左右にカーブし、進んでいくが、幸いモンスターとは出くわさない。

「こちらに送り込まれたのが、『002部隊』一つだけでよかったです。とくに部隊の隊長は、他のプログラムとは格が違いますから」

「それらも、破壊しなきゃならないんだろ?」

「そういうことです」

「しかたねぇなぁ……」


 ――暗闇の中では、手に持ったカンテラの明かりだけが頼りだ。どこまで続いているのかわからない洞窟で、油切れを心配しながら、ただ足を動かす。

 やたら長いように感じるのは、エンドーの足取りが遅いせいか。


 ――ボワゥン……


 聞き覚えのある、高い音が聞こえた。

 すぐ前の角を曲がった先。

 ――黄色い何かが光った。


「シャァウ!」


「うわっ!」


 クモだ。黄色い眼を光らせた巨大グモが、エンドーに飛びかかった。

 顔面に張り付いたクモを引きはがし、地面に叩きつける。

 闇の中を、黄色い眼がすばやく移動する。

 地面から壁、天井、エンドーの頭上へ――


 バシッ!


 頭上から落下したクモを、エンドーは無刃刀でなぎ払った。

 逃げようとするクモの背中に、無刃刀を突き刺す。


 一声鳴き、クモは絶命した。


「暗闇でよかった。こんな気持ち悪いもん、お日様の下では見たくねぇ」


 無刃刀に付着している液体を、振って払う。


 ――何はともあれ、ゴールのようだ。

 エンドーの目の前で、見覚えのある装置が明かりに照らされた―― いや、白く光る装置のプレートが、闇を打ち消してくれている。


「このテレポート装置で、モンスターをここへ送り込んでいたわけか。これを使えばここから出られるかな?」


 これで試験は合格だろう。

 そう思い、一安心してプレートに足を乗せようとすると――


 安定していたプレートの光が、激しく光り始めた。何かが転送される。

「(モンスターか……!)」

 カンテラと武器を構えるエンドー。

 だが、そこに現れた黒く大きな影は、エンドーの想像を絶するものだった。

 ――モンスターなんかではない。

 あのドラゴンほど大きくはないが、二メートル近くある巨体。鉄の塊のようなボディ。そして、頭の真ん中に一つだけある眼が、妖しい赤い光を放っている。

 エンドーは思い出した。

 これは、町長の部屋にあった、人形だ。

「まさか、あれがロボットだったとは……」

 ギシィッ…… と音をたて、ロボットがエンドーに接近する。

 壁に追いつめられるエンドー。

「敵なのか……?」

 ロボットは目の前で立ち止まると、赤い眼を今度は青白く光らせ、映写機のような光を放った。

 すると地面に、立体映像の町長の姿が現れた。

「ごきげんヨ〜ウ! ミスターエンドー!」

「よお、町長。わざわざ出迎えですか? それとも、合格発表?」

「ノンノン。どちらも違いマース。一つ言い忘れましたケド、この試験―― 生きて帰った者ハ、誰一人としていまセーン。なぜだと思いマスカ?」

「そりゃ、あんなにもモンスターがうろついていたら――」

 立体映像の町長が、「んふふ」と笑う。


「答えハー、生きて帰ってはいけないからデース」


「…………」

 エンドーの頭に、この上なく嫌な予感が溜まっていく。

「まさか――」

「ミーの研究に付き合ってもらった者ニハ―― “死んでもらわなきゃいけない”」

 途端に町長の口調が変わった。ほんの一瞬前まで、呆れるくらい気さくな外人系だったにも関わらず、一瞬後にはその雰囲気を微塵も残さず、狂った科学者のような顔。

「てめぇ…… いったい……」

 町長の変貌ぶりに驚くしかない。

「そこまで知る必要はない。ここでしくじると、わたしの立場も危うくなるのだ。だから――」

 立体映像の町長が背中を向ける。


「いいかげん、死んでください」


 最後にそう言い、町長の映像はプツンと消えた。

 ロボットの眼が、再び赤くなった。

「町長め…… ぶっ飛ばしてやる!」

 そう固く決心した。

 だがその前に、このロボットを解体するのが先である。

 ロボットは町長の命令により、エンドーを葬りにかかる。

「ハカイスル ハカイスル」

「うるせー! この人形野郎がぁ!」

 邪魔なカンテラをロボットに投げつけるエンドー。

 中から油が飛び出し、火に引火。ロボットは火だるまになりながらもエンドーを襲う。当然、痛みなどは感じないようだ。

「んにゃろぉ……!」

 エンドーはロボットの横から背後へまわり、『魔力球』を放つ。

 魔力の爆発は、ロボットに命中したが、体にまとわりついた火と油だけが吹き飛び、ロボット本体はほぼ無傷だ。

 やたら頑丈なようだ。

 さらに三つまとめて、魔力球を飛ばす。


 ドドドォン!!!


 三連続で爆発はロボットに命中。

 だが、まるでダメージはない。


「…………」

 悔しさを言葉にする余裕も、エンドーにはない。

 倒せないのなら、逃げるしかない!

 後ろのテレポート装置へ走る。


 ――ガッ!


 それはまるで、小さなネズミをつまみあげるように―― ロボットは軽々と、エンドーを装置に近づけさせまいと、反対側へ投げ飛ばした。

 エンドーは反射的に頭をかばい、背中を壁に打ち付ける。

「ごはっ……! くっそっ……!」

 ズシン、ズシンと、ロボットが迫る。

 エンドーは両側の壁をタッチし、魔力を貼り付ける。そして距離をとり、ロボットを待ちかまえる。

 ――これまでの様子から、この技が効くという保証はない。だが、あのドラゴンに多大なダメージを与えたのだ。頑丈なロボットにでも少なからず効果はあるだろう。

 両側から爆風で挟み込めば――


 ドドォン!!


 洞窟内に大きな爆音が響く。

 だが、その大きな音とは裏腹に、ロボットはよろめきすらしない。


 まったく、効果がない。


「マジ…… かよ……?」


 こうなればもう、苦笑するしかない。

 自分の運命を――


 ――いや、まだ逃げ道はある。


 引き返して入り口までもどればいいのだ。今は逃げに徹するしかない。

 だが、それさえもロボットは許さない。

 眼の光が赤から黄色に―― そして、『眼からビーム』。


「出ると思ったよ…… ビーム」


 眼からビームは、天井を削り、落石を引き起こした。

 背後の道が塞がれていく音は、苦笑を続けるエンドーの耳にも、しっかりと聞こえていた。


 完全に、追いつめられた。


 ロボットは町長に、じわじわとエンドーを葬るようにと命令されていたのだろう。

 ビームで、エンドーを攻撃しようとはしなかった。

 ただその首をがっちりと掴み、締め上げる。


「ぐぁぁ……」


「エンドーさん! しっかり――」

 案内人の声は、エンドーには聞こえていなかった。


 ――死の直前、過去の記憶が走馬灯のようによみがえるという。


 七歳のとき。施設に入った当初―― マハエとハルトキに出会った。

 そして数日後には仲良くなり―― 打ち解けあい――

 それから二年後―― エンドーを引き取りたいと、申し出た人がいた。だがそれは、二人の悪魔のような策略により、“なかった話”となった。だからその後、マハエに同じ話がきたとき、やり返してやったのだ。


 ――ずっと三人一緒だと、笑いあった。


「――んなところで死んだら…… あいつら怒るよな……」


 自然と笑いがこぼれていた。


「死ぬわけにはいかないからさ…… 絶対に」


 エンドーの中の魔力が、激しく騒いだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ