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10:ケンカとケジメ

 不良達は倒れ、静かになった河原。

 立っているのは、大林、窪井、ハルトキだけになっていた。


「そうか…… きさま……」


 窪井が何かうなる。

 そして次の瞬間には不気味な笑みをつくり、ハルトキの“力”に抵抗する。


(ガシャン!)


 鎖が引きちぎられる感がし、ハルトキは、はっと窪井を見た。

 ハルトキの『金縛り』は、完璧なはずだった。完全に敵を“縛った”はずだった。

 しかし窪井は、その『魔力の鎖』を、力ずくで引きちぎったのだ。


「何なんですか、こいつ」

 窪井の体が、赤く変色していく。

「こいつが、ニュートリア・ベネッヘの頭領、KEN 窪井だ」

 身構える大林。


「はあああああぁぁぁぁ……」


 窪井が低くうなると、まるでポンプで空気を注入するように、窪井の体中の筋肉が盛り上がった。

 着ている服を裂き、むき出しになった窪井の全身。

 幸い、服の下にレスリングコスチュームのようなものを着ており、全裸はまぬがれている。


「……何なんですか、こいつ」

 ハルトキが再び問う。

「……オレにもわからん」

 ――窪井のボディは、モンスターのように筋肉隆々。赤く染まった人間離れした筋肉が、ぴくぴくと動く。


「驚いたか! これが新しいオレのパワーだ! すばらしい……!」


 変身前の窪井を並べてみても、本人だとはわからないだろう。

「てめぇ…… いったい……」

 驚愕の表情で窪井を見る大林。

 ハルトキは前回のゲームのおかげで、こういうキャラクターに対しての免疫ができたらしく、さして驚かない。


「とうとう、人の道を踏み外したか、KEN 窪井!」

「何を言う、大林。これが新しい人の道だ。この力で、お前等をねじ伏せてやるわ!」


 ドゴゥン!!!


 窪井の強烈な一撃で、かたわらの岩が砕かれた。


「……悪いですが大林さん。やはり加勢させてもらいます!」


 ハルトキが窪井の背後へまわった。

 大林はもう、何も言わなかった。

 このカイブツを自分一人で倒すのは無理だと悟った。


「ふんぬっ!」


 窪井の一撃目はハルトキを狙っていた。

 だが、動体視を発動中のハルトキにとっては、まだかわすことのできるスピードだ。

 窪井の攻撃が地面にめり込むのを横目で確認し、ハルトキは力任せに窪井の横腹をメイスで強打した。

 ――ハルトキの力が弱すぎたのか、あるいは、窪井の肉体が強靭すぎるのか、かたいサンドバッグを殴ったのような音しかしなかった。

 しかし、効果がない、というわけではないようだった。

 窪井は一瞬顔をゆがめると、すぐさま第二打を放つ。

 だが、攻撃が放たれた瞬間、大林の蹴り上げで、窪井の腕が上方にそらされた。


「わかったハルトキ! 攻撃はオレに任せろ! お前はおとりに徹してくれ!」


 大林の言葉にうなずくハルトキだが、戦いを長引かせる気はなかった。

 魔力が尽きれば、動体視は使えなくなる。そうなってしまえば、ハルトキは戦力外となってしまう。

 イコール、この戦いに負けてしまうことになる。最悪―― 殺される。


 大林の攻撃力は、今の窪井には劣るものの、正確に急所を突き、確実に相手を弱めていく。

 その戦いぶりは、ハルトキにとって見たことのない、身軽な、そして凄まじい運動能力だった。


 ハルトキが窪井の気をそらせ、大林が飛び上がり、頭部を回し蹴り。

 会って間もない二人にしては、なかなかすばらしいコンビネーションだ。

 さすがに強気だった窪井の表情にも、焦りの色が出てくる。


 焦っているのは窪井だけではない。ハルトキの動体視のダメージは、魔力だけではなく、眼にもくる。長時間使い続けると、眼が疲れてくるのだ。

 早く終わらせなければならないという焦りが、ハルトキの判断力を鈍らす。

 窪井の攻撃が、ハルトキの頭すれすれの空気を殴り飛ばした。


 大林は、ハルトキの異変に気付いていた。

 大林自身も、この戦いを早く終わらせたかった。ハルトキの様子に加え、これだけの騒ぎを起こしていれば、すぐにでも町の連中に気付かれてしまう。


 ――窪井は、ザコであるハルトキから潰しにかかった。

 もっとも、今の窪井にとって、両者ともザコに違いはない。だが、ザコとザコが力を合わせ、脅威となっている今、ザコの中でも更にザコであるハルトキを真っ先に潰しておくのが、効率の良い戦い方だ。


 ハルトキの眼は、すでに疲労を感じ始めていた。

 窪井の攻撃が、ついさっきよりも、早く感じられる。

 『氷室』とのときと同じだ。だが今は、あのときよりも長持ちしている。

 それに、窪井の動きは氷室のものよりもだいぶ遅い。

 ハルトキの異変に、窪井も気がついた。


 ハルトキに拳を連打する窪井。ハルトキはそれを避け続けるが――


「はははあぁっ!」


 真正面から、窪井の―― 今度は“腕”が迫った。

 ハルトキは「しまった!」と思った。

 拳―― ハルトキから見て、“点”が迫ってくる場合は、少し体を動かせば避けることができる。しかし、腕―― 腕全体の攻撃の場合、“線”が迫ってくるのである。単純にそれだけなら、避けることもできなくはない。しかし、続けざまの“点”の攻撃から、突然“線”の攻撃へと移行し、ハルトキは混乱した。


 完全に不意打ちを食ってしまったと思った。

 だが、ハルトキの防御本能は、寸前のところで窪井の腕を両手で防いでいた。

 拳よりは威力が低かった。そのおかげで、五メートルほど振り飛ばされる程度ですんだ。


 ――大林はそのチャンスを見逃さなかった。

 すぐにハルトキを振り飛ばした腕を踏み台にし、窪井の頭上へジャンプ。背後へ着地するとき、窪井の首に腕を回し、落下の速度に合わせて頭部を地面に叩きつけた。


「ぐあっ!」


 窪井の巨体が地面に倒れ、周りの小石が散乱する。

 大林の長いローブが、ひらりと地面についた。


「――窪井、一つ訊こう。これは、ケンカか? それとも、殺し合いか?」

「…………」

 窪井は驚いた表情のまま沈黙する。

 もうほとんど、夕日のオレンジ色は消えかかっている。

 ――ニヤリと笑う窪井。

 そして、大林の足首を掴んだ。


「どちらでもない。これはケジメの戦いだ」


 窪井は起き上がると、そのまま、片手で大林を頭上へ放り投げた。

 宙を舞う大林。


「――それは困ったな……」


 窪井が拳を振り上げる。落ちるままに落ちる大林は、その拳を回避することができない。


 ――ハルトキの魔力も、限界に近かった。

 だが、最後の力を窪井へ向けて飛ばす。


 窪井の腕の動きが、一瞬止まった。


 大林は、振り上げられたままの窪井の拳に両手をつき、腕の力で再び舞い上がった。


「はあっ!」


 空中で回転し、頭上からの強烈なかかと落とし。

 脳天にそれを食らった窪井は、耐えられず撃沈した。


「――ケンカなら、相手を倒した時点で勝負は決まる。殺し合いなら、相手を殺すまで勝負は決まらない」


 ズシン……!


 窪井の敗北だった。


「……中途半端な戦いだ」



 夜が近づく。

 町のほうが少し騒がしくなった。

「死んだんですか?」

 窪井の、赤くなり、盛り上がった体は、風船がしぼむように小さくなり、元の窪井の姿にもどった。

「殺してはいない。こいつらは、田島弘之を名乗って、町で騒ぎを起こし、オレ達をおびき出そうとしていたんだろう。こいつは、ポリに引き渡す。田島弘之オレたちの無実もすぐに証明されるだろう」

 町のほうから、人の声が集まってくる。


「お前のおかげで助かった。何か恩返しができないか?」


 大林が、横たわった仲間を助け起こしながらハルトキに訊く。

 ハルトキは重要なことを思い出した。

「それじゃ、どこか一泊できる場所を紹介してほしいですね」

 すると、大林は微笑んで言った。


「それなら、いい“宿”を知っているぞ」



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