表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラジオラスは曲がらない  作者: Grow
温泉街の死闘
87/288

84/スキルと転移者

「全員散開! 一人一人、『なるべく時間をかけて』転移者を撃退しろ!」


 大雑把な指示を出し、アレックスは歩み寄るような速度で転移者たちに接近する。

 カルナの魔法によって浮足立った彼らに、連携は欠片も見えない。元々大人数での連携などあってないようなモノだったが、混乱した彼らは知人同士の連携すらも出来ていないのだ。

 当然と言えば当然だ。慣れていないのだ、彼らは。

 自分たちが痛手を受けるという、戦う者なら大なり小なり経験があるような事態が、彼らにとって月の無い夜の如く暗い闇なのだ。

 だからこそ、ここで一気に殲滅することも不可能ではないだろう。


(相手が弱卒であり、かつ混乱している状況――好都合だ。ここで読み解く)


 スキルという技術、その動作を。

 彼らの動作が画一的なのは、道中の襲撃で理解した。だが、まだ全てを解き明かしたワケではない。

 スキルの種類から、スキル個々の剣の振り方に体捌き、それらの知識や対処の経験が乏しいのだ。

 

「くそ、くそ、くそ! 剣じゃねえと武器スキルが使えねえから銃は造らないでやったのに、あっちが造るとか反則だろうが! そもそも魔法使い風情がなんで銃なんて使いやがるんだ、普通装備できねぇだろバグかよ! それなら俺の頭部にドリルくらい装備させろよ、あっちだけ優遇とかしてんじゃねえよ! なんで俺に気持よく生きさせてくれねぇんだよ、現地人ゴミどもめ!」

「ふむ。見たことのない武器だとは思ったが、そちらの世界には似たようなモノが存在するんだな」


 頭を抱えて独り言を呟く転移者の男の背中に、声をかける。

 隙だらけでこちらを振り向く男に、アレックスは内心でため息を吐いた。いくら身体能力が高くても、強い技能があっても、扱う本人がこれではナマクラもいいところだな――と。


「構えろ――尋常に勝負といこうじゃないか、転移者」


 周辺からの奇襲に警戒しつつ、けれど泰然とした態度で剣を向ける。

 しばし男は沈黙し――派手に笑い始めた。


「は――ははは! お前バカだろ!? 隙だらけのところ攻撃しないとか、顔がいいだけのお硬い無能だな! ようやくおれにも運が向いてきたな!」


 力を示すにはいい相手だ! と。

 先程まで震えていたのを忘れたように満面の笑みを浮かべると、男は剣を不格好に構えた。

 呆れた構えだ。中段に構えているというのに剣先はアレックスから僅かにズレている。両足も左右に大きく広げており、どうやって踏み込むのか考えていないのが分かる。

 しかし、ここで油断はしない。神経を研ぎ澄まし相手の一挙一動を、その中でも口の動きに注目する。

 油断した瞬間に死ぬのは相手ではなくアレックスだ。スキルによって振るわれる剣の冴えは、油断をした状態で防ぎきれるモノではない。


「さあ、死にやがれ雑魚が! 『ファスト・エッジ』ィ――!」


 男の姿勢が正される。

 剣の持ち方、両足の置き方、その他様々な姿勢が素人のそれから練達の剣士のそれに変質する。

 アレックスは動かない。ただただ、その動きをじっと観察する。

 

(なるほど――技術が拙い者は、発声からスキルの発動までにタイムラグがあるらしい)


 素人の体を練達の戦士が動かし武器を振るう――その特性上、両者の差が大きければ大きいほどスキル発動まで時間がかかるのだ。

 構えがデタラメであればあるほど、姿勢が悪ければ悪いほど、それらを修正するために時間が取られる。それが発動までのタイムラグとなっているのだろう。

 これが規格外チートという圧倒的な能力を持ちつつも、同じ転移者に下に見られている理由の一つなのだろう。転移者にもスキルの扱いが上手い者と、下手な者が存在するのだ。

 アレックスが納得している間に、男の剣が閃いた。

 力強く踏み込みと共に、袈裟懸けの斬撃が振るわれる。先程見た構えからは予測も出来ない鋭く、重い斬撃。しかし、アレックスは刀身で受け流し、華麗に回避する。

 

(確かに斬撃は速い。ゲイリー団長と同等――いや、それ以上に)


 まさに最強。

 その一言に尽きる。

 才能と努力と経験という三つの矢を、規格外チートという一矢で渡り合う姿は、『最も強い』と断言してもいいだろう。

 

「ぬるいな」


 だが。

 最強は最も強いだけであって、決して無敵では――敵対する者が居ないワケでは断じてないのだ。

 神速で振るわれる刃に跳び込むように突っ込んだアレックスは、相手の斬撃を剣の腹で受け流しながら、カウンターの要領で男の顔面に頭突きを叩きつけた。

 カエルめいた悲鳴を上げた男は、後方に跳ね飛ばされる。


「あが――痛ぇ痛え痛えぇえええ!」

「たかが鼻を強打したくらいだろう。感触からして、折れてもいないはずだ。戦士ならその程度で泣き言をほざくな、女々しいぞ」

 

 額に付着したどろりとした血液を拭いながら言う。

 確かに剣は疾く、鋭い。

 油断すれば、才能と努力を積み重ねて来た騎士であろうとも両断される程に。

 だが、発声のタイミング、姿勢を正すまでのタイムロス――それらが攻撃の初動を何より明確にアレックスに教えている。

 そんな中で、一番見慣れた転移者スキル『ファスト・エッジ』を用いた攻撃だ。むしろ、ミスして攻撃を喰らう方が難しい。

 ゆえに、次からが本番なのだ。

 こちらが見慣れていないスキルを引き出し、それを回避。一挙一動を確認し、スキルの動きを熟知するのだ。

 スキルの動作が画一的である以上、雑魚も強者も動作は同じ。ここで読み解くことが出来れば、後の戦いは一気に楽になる。


「痛え、痛えよ……鼻血が、鼻血が出てる……こんなに痛いなんて聞いてねぇよ」

「――逃げたければ逃げろ、弱者をいたぶる趣味はない」


 だから。

 アレックスは侮蔑するように、見下すように、相手を罵る。


「弱者……? お、俺が……弱者、だと……?」


 転移者たちが声高に主張する『最強』の二文字と相反する単語。

 それを叩きつけられた彼の心は、ぐつぐつと煮立ちはじめる。


「分かりきった事を何度も繰り返すな、鬱陶しい。とっとと自分の前から消え失せろ、無才め」

 

 煽る、煽る、煽る。

 怒りを、戦意を、殺意を。

 

「違う……ふざけるな、ふざけるなぁ! 俺は強くなったんだ! 最強なんだよ、見下してんじゃねえよ! 見下すのは俺で、見下されるのはお前なんだよ騎士がぁ! 跪けよぉおお!」

「ならば、跪かせてみろ。出来るモノならな」

 

 ひとまずは思惑通り――蔑むような笑みの中、口元だけが獲物がかかった釣り人の喜びで緩める。

 激情のままに、殺意をこちらに叩きつけさせることこそが、アレックスの目的なのだ。

 十全に対処できる間に、未だ晒されていない大技を空撃ちさせ、その動作を記憶する。それを仲間たちに周知させれば、皆の生存率を高めることができるだろう。

 

「死ねぇえ!『万魔の剣舞・レクイエスカット』ォ!」


 来る――全神経を集中させ、しかし体に無駄な力を入れず自然体で相手の動作を待つ。

 名前から察するに、魔法も絡めた剣術かもしれない。そのため、剣の他に魔法による遠距離攻撃を警戒する。

 右手が突き出され、掌がアレックスに向けられる。初手は魔法か、と注視しながら発動のタイミングを測り――


(――な)


 ――ぎちり、と体が硬直した。

 咄嗟に地を蹴り距離を取ろうとしても全身を石で包まれたような抵抗感があり、動くことは叶わない。

 背筋に走る冷たいモノを感じながら、唯一動く眼を動かし自身の体を観察する。

 目に映ったのは、夜の闇めいた漆黒の霧だ。それがアレックスの体を包み、拘束している。

 まずい――そう思考した時には、男は舞うような動きで剣に炎を纏わせ、剣を振るって来た。灼熱の剣閃が、迫る。


「創造神ディミルゴに請い願う。獣の爪牙から命を守る盾を、防壁の奇跡を!」


 ――荒々しくも女性らしい声音が響くと共に、アレックスの前に光り輝く盾が生成された。

 それは転移者の男のスキルを受け――びしり、と全体にヒビが走る。数秒どころではない、数瞬も持たずスキルの威力に食い破られるだろう。

 

「アレックス!」


 アレックスの予想通りに盾が砕け散るよりも僅かに速く、横から飛び込んできた人物が彼の体を抱きとめた。

 白銀の鎧を纏った女騎士、キャロルは赤いポニーテイルを靡かせながら跳躍し、スキルの間合いから一気に離脱する。

 

「近接戦闘する者は二人一組になれ! 体を拘束するスキルが存在する!」


 救ってくれた二人に礼を言うよりも速く、アレックスは声を張り上げた。

 体感したから分かる。あれは相手を拘束し、魔法の力を纏わせた剣で連続で斬りつけるスキルだ。

 恐らく、こちらに掌を向けたのが拘束するための動作なのだろう。そこまで理解し、アレックスは転移者が中々この技を使わない理由に思い至った。


(拘束する動作は無防備な時間が多い。そして――威力は凄まじいようだが、スキルの効果時間が長すぎる)


 先程の男に視線を向けた。

 火、水、風、土、雷、光、闇――目まぐるしく変化する魔力の込められた強力な斬撃は、まるで稽古でもするように先程までアレックスが居た場所――虚空に向けて放たれている。

 

「糞――逃げんじゃねえよ! 女に助けて貰うとか卑怯だろテメェ!」


 スキルは発動すれば、発動し終わるまで動きを止めることは出来ない。

 それを見て、アレックスは人形劇の人形のようだと思った。四肢に糸を繋がれ、傀儡師の糸で華麗に踊るマリオネットだ。

 そう思うとスキルを自身の実力だと宣言する転移者たちは酷く滑稽であり――それと同時に、スキルなどという力を与えた存在も意地が悪いな、と思う。

 

(いや、意地が悪いというより、興味がない――のか?)


 ならば転移者という存在は、鋳造によって造られた数打ちの剣めいている。

 同じ型、同じ金属――そこから出来上がった同じ形の大量の転移者ツルギだ。そう考えると、あそこまで画一的なことにも納得出来る。


 だが、疑問もある。


 転移者を呼び込んだ者――創造神ディミルゴであると言われている――は、何故わざわざ転移者という存在を大量生産したのだろう。

 今の世界に危機が迫っているのなら、もう少し人選を考えるはずだろう。

 今の世界が疎ましく破壊したいのなら、好き勝手に暴れさせずにかつて存在した魔王のような者を呼び出せばいいではないか。

 なぜ、今後の展望もなく自身の欲求を満たそうとする者を多く招き入れているのだろう。


「……すまん、マリアン、キャロル。助かった」


 そこまで考え、アレックスは思考を打ち切った。

 考えても答えが出る事柄ではないし、何より自分たちは数打ちの剣にすら苦戦している有様だ。目の前の危機を切り抜けずに先のことを考え続けるのは間抜けのすることだろう。


「仲間を守るのが神官の務め、ってね。礼は要らないけど、どうしても礼したいってんなら言葉じゃなくて後で酒奢りな!」


 遠くから聞こえてくる快活な笑い声に笑みをこぼすと、アレックスの体に纏わり付いていた黒い霧が霧散し始めた。スキルが発動し終わったのだろう。

 ゆっくりとキャロルの腕から抜け出し、再び剣を構える。


「行くぞ、キャロル。助けて貰ってすぐで悪いが、援護を頼む」

「もう少し――え? え、ええ。この辺りでちゃんと活躍しないと、ノーラさんや冒険者に顔向けできないしね」


 僅かに淡桃に染まった頬で何事か呟いていたキャロルだが、しかしすぐさま表情を引き締めアレックスと並び立った。

 

「お? なんだなんだぁ? 胸はねぇけど、美人じゃねえかそっちの女。なあ、そこの赤髪ポニーテイルの女、そんな顔だけの男捨てて俺のところに来いよ。良い思いさせてやっからよ」

「え、何言ってるのあなた? 確かに、うん確かに、こいつ顔と剣だけで色々残念な男だけど」 

「キャロル、お前な――ともかく、女を口説くならもっと言葉を尽くせばどうだ? そんな言葉で靡く女など、そう居ないだろう」


 アレックスに女を口説いた経験は無いが、しかしそんな台詞で女が靡くはずもないということくらい常識で分かる。

 しかし、男は心底呆れ果てた、と言うようにため息を吐いた。

 

「何言ってやがる、口説いてるんじゃなくて命令してんだよ。現地の女風情が俺に歯向かえるワケねえだろ? 紳士ぶって的はずれなこと言ってんじゃねえ、俺のスキルで死にかかった間抜けが」


 言って男はにい、と口元を歪めた。


「くっは! なんだよ、大技使えば楽勝で勝てるんじゃねえか! いいぜいいぜ、やっぱ楽勝だ! 俺最強! お前殺して、その女頂いて、幹部に取り行ってレゾン・デイトルで成り上がってやるぜぇ! 」


 醜悪な笑みと共に叫ぶ男の顔に、戦意喪失しかかっていた時の弱々しい感情は皆無だ。

 恐らく、先ほどのスキル『万魔の剣舞・レクイエスカット』でアレックスが拘束され、仲間の援護さえ無ければ切り刻めていたことから自信を復活させたのだろう。

 ああ、勝てる。

 あのスキルは効いた。

 なら、もう一回使えば勝てると。

 

「可能だと思うなら、いくらでも試すがいい。だが、一応言っておく――二度目はない」

「ほざけ! 俺の美技で惨たらしく死に腐れぇ! 『万魔の剣舞・レクイエスカット』!」


 発声し始めた瞬間、アレックスは疾走した。

 

「リディアの剣――」


 発声が終わる。腕が持ち上がり、掌がアレックスに向けられる。

 勝利を確信し、男が笑みを浮かべた。さあ、先程のように磔にして斬り殺してやろう、と。

 その刹那。アレックスの足と剣が、燐光を放ち――


「――雷華」


 ――アレックスの体が掻き消え、男の目の前に出現した。

 ワープでもしたかのような速度に、へ? と呆けた声を漏らす男。しかし、すぐさま気を取り直した。

 どんなことをしたのか分からないが、目の前に居るなら好都合だ。スキルの力で拘束してやろう、と。


「なるほどな」


 俺の勝ちだ、と表情を喜悦に染める男と比べ、アレックスは淡々としていた。


「やはりあの拘束は、掌から放つモノで間違いないようだ」


 びたん、と。

 何かが地面に叩きつけられる音がした。

 いや、そんなことは男にとってどうでもいい。

 今重要なのは――スキルを発動したのに、間合いに居るのに、なぜか相手を拘束出来ていないという事実だけだ。

 

「キャロル、見ていてくれて助かった。右手が喪失しても続行されていたら、自分は死んでいただろうからな」

「さっきみたいに男の体を運ぶ必要がなくて、こっちも助かったわ。まあ、必要ならいくらでもやってあげたけどね。必要だったら」

 

 なぜだ、なぜ動いている。なぜ拘束が発動しない。


「さて、キャロル。他の連中の援護に向かうぞ」

「そうね。さっきみたいなヘマはしないでよ」


 そしてなぜ、あの騎士の男女は、既に勝ったつもりで会話をしているのか。


「『万魔の剣舞・レクイエスカット』! 『万魔の剣舞・レクイエスカット』! 『万魔の剣舞・レクイエスカット』! なんで発動しねえんだよ、バグったんじゃねえのか!?」


 何度発声しても、スキルは発動してくれない。敵は目の前にいるのに、発動さえすれば殺せるのに。

 おかしい、なぜだ。理不尽だ。どうして――と、男はようやく疑問に思い自分の体を見下ろした。

 

「あ、え……あ」


 右手が、喪失している。

 どくどく、どくどく、と切断面から赤い命をこぼし続けている。

 なんだろう、これは。理解が追いつかず、呆然としたまま地面に視線を向けた。

 赤い水たまりの中に、固形物が一つ。

 それは、手だ。手首辺りから切断された右手だ。

 誰のモノだ、これは。

 誰のモノなんだ、これは。

 

「あ、あ、ああああ、ああああああ!」


 現実逃避がもたらした痛覚の鈍化は、しかしそう長くは続いてはくれなかった。焼けるような激痛と共に思考が回復、アレックスに右手を切り落とされたのだと理解する。


「痛い、痛い痛い痛いぃいい! 血がぁ、血が……きゅ、救急車……誰か救急車呼んでくれよぉ!」


 男は止血の方法なんて知らない――地球に居た頃にはそんな知識学んでいなかったし、この世界に来て学ぶこともなかったからだ。

 

「痛いっつってんだろぉおお! なんで誰も俺を助けねぇんだよぉ! このクズが! 無能が! なんで誰も俺の役に立たねえんだ!」


 血の水たまりの上でのたうち回る男に手を差し伸べる者はいない。

 当然だ。

 住人たちは我が物顔で暴れた転移者集団に優しくする理由はないし、騎士たちも悪党の命をわざわざ助ける真似はしない。

 ここに集った弱卒転移者たちも、手柄を立てるためにここに来たのだ。競争相手が勝手に脱落してくれるなら、そっちの方がいいに決まっている。


「ちくしょう……世界が変わっても、人生なんて、クソゲーじゃ、ねえ、か」

 

 戦闘の音が、徐々に聞こえなくなって来た。

 大勢が決したのか、それとも男の意識が遠のいているからなのか。

 どちらにしろ、男にはもうどうでも良かった。異世界といえ、人生は人生。梱包を変えてもクソゲーなことには変わりないと分かってしまったから。

 だから、とっとと死んで終わりたいと願った。

 薄れてはいるとはいえ、痛みはまだあるのだ。早くこのクソゲーと痛みから開放されたい、と男は切に願った。

 

 ――そんな男の体を、暖かな光が撫でた。


 薄れていく意識はそのままに、しかし体の痛みだけは引いていく。

 

「ノーラさん、そんな奴放っておいた方がいいよ」

「そうなんでしょうね、きっと。わたしも、少しだけそう思います」


 遠くで、声が聞こえる。

 

「わたしも助けようとまでは思いません。でも、せめて死ぬ時くらいは安らかな気持ちであって欲しいじゃないですか」

「……気持ちは分からなくもないけど、相手にもよるかな。少なくとも僕は、さっきの罵声を聞いて助ける価値はないと思ったけどね」

 

 瞳を開く。霞んだ視界の中に、人影がふたつ。

 

「それでも、どんな人であっても、苦しみながら誰にも看取られずに死ぬなんて――悲しいじゃないですか」


 優しい言葉が、ゆっくりと心に染み入る。

 それと同時に、なんでこんなクソみたいな世界にこんな女が居るんだと思う。

 そんな彼女の周りに二つの人影が駆け寄ってくる。


「ノーラ、カルナ! こっちは無事!?」

「レンさん。うん、こっちは大丈夫。ニールは――手ひどくやられたようだね」

「ああ、心配かけちまったな。だが、次は負けねえ。ぜってえ勝つから見てろよカルナ」

「良かった、二人とも……ニールさん、少し待っててくださいね。この人を看取ったら治癒しますから」


 互いの無事を喜び、笑い合う四人の姿を見て、男は察した。


 ――ああ、結局のところ、類が友を呼んだのだ。


 自分がクソみたいな生き方をしていたから、それに近い生き方の者が集まったのだろう。

 人生がクソゲーなのも当然だ。主人公というキャラがクソならゲームの全てが汚染されるように、自分が糞のような生き方をしていたから人生もまた黒ずんで見えたのだ。

 

 ――もっと早く、知りたかったな。


 その思考を最期に、男の意識は闇に溶け、消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ