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グラジオラスは曲がらない  作者: Grow
ドワーフの国
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67/装飾通りと銀のアクセサリー

 装飾通り――正式名称ではないが、アクセサリーなどを販売する店舗が並んだその道を皆がそう呼んでいる。

 値段の高さ、安さなどを区別せず、生き急いだドワーフたちがやたらめったらと店を建てたような道だ。子供用の安いアクセサリーの店の隣に最高級の宝石を売る店あるのは、正直アンバランスと言えるだろう。

 だが、だからこそ普段手の届かない店も覗けるのだ。間違ったフリをして、自分の手では届かないような値段の店を見学することも容易だ。そして、そういった店でギリギリ手が届く値段のアクセサリーを見つけ買っていく者もそこそこ居るため、店側もそれを咎めようとはしない。

 女性にとっては、様々なアクセサリーを見物しつつ身の丈にあった物を購入できる、夢のような場所――らしい。

 

(正直俺にゃよく分からねえがな)


 アースリュームは薄暗い街だから、逆にこの手のキラキラしたモノが輝くのかね――などと思いながら、ニールは小さくため息を吐いた。

 男性用の装飾品もあるが、ニールはその手のモノに興味がない。

 そのため、本来なら彼が来るような場所ではないのだ。来ても退屈しか得られないと理解しているのだから。

 だが、


「ねえねえこれ見てよこれ! ドクロのレプリカの眼の部分を黒くてキラキラした宝石で装飾してるわ! 瞳が闇色に輝く怪しいドクロ! なんか凄く格好良くない!?」

 

 連れて来た相手がこうも楽しんでくれているのなら、自分が楽しめる場所でなくても問題はないか、と思う。

 もちろん、「お前、一応女の端くれに引っかかりそうな存在なんだから、せめて女らしいモノでテンション上げろよ」とは言いたいが、さすがにそれを言うのは無粋だと思い口には出さなかった。

 だって、嗜好品などは楽しむことが第一なのだ。正直女としてどうなんだお前、と思いつつも楽しんでいるなら水を差す理由もない。


「あんま店員に迷惑かけるんじゃねえぞ。観光に来た人間は礼儀知らずだ、なんてドワーフに思われたら今後俺が来る時に困っからな」

「だ、大丈夫よ! 他のお客さんの邪魔にならないように通路塞がないようにしてるし、高そうなの触ったりはしてないから!」

 

 瞳をキラキラと輝かせながら言う連翹れんぎょうを、店員の女ドワーフがくすくすと笑っている。

 人間のニールから見れば店員の方が小さい子供に見えるのだが、ドワーフの視点から見れば年若い女が自分が作った装飾で我を忘れた大騒ぎをしているように見えているのだろう。


「ねえねえ、せっかくだから貴方もどう? ほら、こんな感じで腕にシルバーな鎖を巻けばガイアが囁いてる感じでいいと思うの……!」

「勧めるならせめて動きを阻害しないのにしろよ。剣士の腕に無駄にウェイト載せてどうすんだって話だ。……ってか俺のなんて見繕って楽しいのかよお前」

「だって、プレゼントするわけでもないし、買うのはニールよ? だから値段気にせず横から好き勝手言えるんじゃない」

「よーし、お前アクセサリーと一緒に喧嘩も買いたいみてえだな――!」

「最強転移者様的に考えて喧嘩は買うのはやぶさかじゃないけど、セクハラはノーサンキュー!」


 スカートへと突貫してやろうと思ったが、ニールの狙いに気づいた連翹は人波に紛れるようにして別の店へと逃げていく。

 その背中をため息を吐きながら見送った後、ちらりと陳列されたアクセサリーに視線を向ける。

 宿から出る前にノーラに言われ、連翹に何かしら見繕ってプレゼントするつもりなのだが――


(そもそも何を買えばいいんだ?)


 正直、ニールにはどれもこれも大して差が無いように思えるのだ。

 カルナ辺りが刀剣の細かな差異に気づけないように、自分が分からないだけで細かな差はあるのだろうとは思う。が、分からないモノは分からないのだ。

 

(とりあえず、頑丈さは必須か)


 アクセサリーは身に付けるモノであり、丁重にしまっておくモノではない。今後戦いがある以上、激しい動きや衝撃で破損するようなモノを渡すワケにはいかないだろう。

 そのため、ガラス細工や細工が細か過ぎるようなモノは駄目だ。前者は簡単に砕けるし、後者は頑丈な材質でも細工の一部が破損する可能性がある。

 頑丈であり、シンプルなデザインであり、かつ女が喜びそうなモノ。

 一瞬、さっき連翹が見ていた目が闇色に光るドクロに視線を向けるが、脳内会議で即座に却下する。贈与するモノで自分が身に付けるワケじゃないと理解はしているが、あんなモノに金を払いたくはない。

 

(……第一、こういうのに俺は向いてねぇんだよ。俺よか女の機微が分かるカルナ辺りに――やっぱ無しだ)


 カルナにアクセサリーを送られて喜ぶ連翹の姿を想像してしまい、なぜだか無性に腹が立った。

 理由は分からないが、カルナがダメなら自分で探すしかない。内心で強く頷き、熱心にアクセサリーを眺め――


「……おっ」

 

 それを見つけたのだ。

 銀色に輝くそれはニールの好みにも合い、かつ連翹も気に入るかもしれないモノだった。

 迷うこと無くそれを購入したニールは店から出て、連翹の姿を探す。幸い、彼女は騒がしい女だ。少しばかり目を離したからって問題はない。


「宝石だらけの指輪とか正直成金趣味だと思ってたけど、実物見ると凄いわね……。ふあぁああ、宝石のパワーがオーラとして見えそうになってるわよコレ」

「そんな絶対買えねえもん見て楽しいのか、連翹」


 テンションが上がりに上がっている連翹にそう言うと、キッと睨まれた。


「うっさいわね、貴方だって超腕の良い鍛冶師が鍛えた最強の剣とか飾られてたら見物するでしょ、絶対自分が握れるワケじゃないって思いつつも!」

「……なるほど、やっべえな一理どころか百理くらいあんぞ――それと連翹、ほれ」

「あ、わっ! とっ、とっ、とっ……」


 乱雑に投げたそれを、連翹はお手玉をするように何度か跳ねさせた後、なんとしっかりと握りしめる。

 そして、握りしめたモノを確認すべく、訝しげな表情で掌の中にあるそれを見て――


「盾――の形をした、銀のネックレス?」


 ちゃらり、という軽い金属音を鳴らすそれは、装飾された大型盾を象ったアクセサリーだ。

 冒険者や兵士が持つモノではなく、物語の騎士が持つ白銀の盾。それが、連翹の掌でランタンの明かりを照り返し輝いていた。

 

「道中で転移者に襲われた時、お前が居たからカルナやノーラたちを助けに行けたからな。そいつはその礼だ、ありがたく受け取りやがれ」

「いや、なんで送る側がそんなに偉そうなのよ。ていうか、なんで盾なのよ。ニールの趣味……には近いかもしれないけど、剣の方が好きでしょ貴方」

「憧れてんだろ、盾の騎士」


 狂人の戯れ言から生まれた偶像にして、たくさんの人間の手を経て本物の騎士になったキャラクター。

 皆を守る、盾の騎士。黄金の鉄の塊、などという矛盾した異名を持った男。

 少し前に連翹が語っていたのを覚えていたから、ニールはそれを選んだのだ。

 

「デザイン的にも、剣とか槍とかに比べりゃ頑丈で壊れにくいはず――なんだよ、気に入らなかったか?」


 受け取った姿勢のまま動かない連翹に、恐る恐る問いかける。

 確かに、ニールは盾の騎士の話を連翹から聞いただけで、どんなデザインの装備だったのかを知らない。もしかしたら、似ても似つかないモノを渡して呆れられているのだろうか。

 

「いや、そうじゃなくて――覚えててくれてるんだ、あたしなんかが話したこと」

「あ? そりゃ覚えてるに決まってんだろ。どうでも良さそうな話なら忘れっけど、お前けっこう熱心に話してたじゃねえか」

「えっと、それはそうなんだけど、でも――」


 何を言いたいのか、もしかしたら連翹自身も自分が何を言いたいのか理解していないのかもしれない。

 ただ、口を閉じては開けていて、視線はニールとネックレスの間を彷徨うように行ったり来たりとしている。

 その様子をしばし眺めていたニールだが、深い溜息を吐いて連翹に近づくと、力任せにネックレスを奪い取った。


「あっ……」


 困惑するように、名残惜しむように漏れでた連翹の吐息は気にしない。

 ニールは手に取ったネックレスの止め金具を外すと、前方から抱きかかえるように手を伸ばし、連翹の首にそっと装着した。ちゃり、と連翹の薄い胸元で銀色に輝く盾が揺れる。


「……せっかく買ったんだ、とっととつけろよ。それ、俺はそこそこ似合ってると思うが、気に入らねえなら売っぱらうなり誰かに渡しちまえよ」

 

 呆然、とこちら見上げてくる連翹から視線を外し、背を向ける。


「いや、ううん、ありがと……うん、ありがとう。悪かったわね、最初にまず、そう言わなくちゃいけなかったのに」

「気にすんな、さっき言った通り感謝を形にしただけだ」

「それでも、ありがと。貴方、衣服着てるのが不思議なくらいの戦闘民族のくせに、中々いいセンスしてるじゃない」

「テメ――」


 馬鹿にしてんのか上等だ剣抜けぇ! と。

 言おうとして振り返り、その言葉を飲み込んだ。

 己の胸元で揺れるそれを見つめるその姿。転移者などでなく、ただの年頃の少女のように微笑む彼女を見て二の句が告げなかったのだ。

 なぜだか、鼓動が早い。激しい鍛錬をした後のよう。

 微かに、頰が熱い。カルナと共に酒を飲み、酩酊し始めた瞬間のよう。

 

「そんな奴が選んだモノで喜んでるお前も、実は同レベルなんじゃねえか? おら、とっとと服脱いで駆け回れよ戦闘民族」

「はーん? 貴方が脱いだら考えてやってもいいけどー?」

「――――言ったな、言質取ったぞ」

「え? ――まっ、ちょ、ストップ! やめて! 捕まる! 捕まっちゃうから待ってぇ! なんでそんな真剣な目ぇしてるのよぉ!」

 

 幸いに。

 ズボンに手をかけ、今にも色々さらけ出す気満々のニールだったが、連翹が転移者の腕力に任せて抑え込んだためドワーフの兵士に捕まることはなかった。


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