41/剣の道
人の流れに乗って、ニールたちは闘技場から退場する。
軽く腰やら腕やらを回して体をほぐし、満足気に頷いた。
(ま――久々に見るのも悪くはなかったな)
正直に言うと、ちゃんと楽しめるのか不安だったのだが――中々に悪くない。
勇者リディアの物語など、創作では手垢がつき過ぎて過剰なアレンジが流行っているご時世だ。そんな中で見たストレートな勇者物語は中々新鮮だった。奇をてらったモノも見ていて面白いが、使い古された王道も久々に見れば非常に面白い。
そして何より、初見の知り合いと一緒に見ていると、楽しさが倍増するのだ。
ニールたちにとっては予定調和といってもいいストーリー展開だったが、一緒に見ていた連翹は色々新鮮だったらしく、純粋に楽しんでいた。心から楽しんでいる者が近くに居ると、その楽しさが伝播していくのだろう。
「まあ悪く無かったわね――ところで、なんで『リディアの剣』は『リディアの剣』って名前で広まってるのよ。あれ、剣士リックが生み出した剣術じゃなかった?」
視聴中、「主役ってもっと強くあるべきでしょ!」と文句を言っていた連翹だが、派手な戦闘シーンに関わらない場面を覚えるくらいには熱心に視聴していたらしい。
それも然りだ。連翹の文句も、別に本気で貶めたりつまらないと言う類ではなく、面白かったからこそ自分に合わない部分が目立ってしまったというだけなのだろう。
そして確かに連翹の言うとおり、現在『リディアの剣』と称され騎士団が用いている剣術の大元は剣士リック・シュロが生み出したモノだ。リディアは、それを自分で理解できるように理論化し、ついでに他の剣士にそれを広めたに過ぎない。
「これはニールの方が詳しいかなぁ。僕は剣術とか興味ないし」
「カルナてめえ、一度リック主役の演劇を階子させまくってやる必要があるみてえだな……! それはともかく、リックは強くて格好良いんだが、それ以上に天才過ぎて教えるのに向かなかったらしい」
リディアが残した日記に、
「『こっちがゴウ! と振ったら、相手がビクッとする。その相手のビクっとした加減を見極め、ビュンと突いたりゴウと斬ったりするんだ』ですって――分っかんないわよ説明するんなら擬音省いてよ!」
みたいな記述があった。
その部分の筆跡の荒々しさから、リディアが頭を抱えている姿を鮮明に想像出来る。
ちなみに、この意味不明な説明で生み出された技が、試験の時にアレックスが用いてニールの心臓を貫いた剣技『風花』だったりする。
なぜこんな事態になっているのかと言えば、リックは無意識に体を動かしていたため、他人に説明できるほど自分の技術を理解していなかったからだ。
相手の動きと自分の動きを比較し、その度に技を即座に編み出して魔族を斬り殺し――次の相手と戦う頃には前の技を綺麗さっぱり忘却して新たな技を生み出しそれで倒す、というデタラメな戦い方をしていたのだという。
なので、リディアはリックの動きを観察し、擬音や『アレ』だとか『ソレ』だとかいう単語が頻発する説明を彼女なりに理解し、かつリディアが再現可能な形に劣化させて生み出したのが『リディアの剣』なのだ。
「仮にリックが説明上手でも、他人が扱える技じゃあなかったらしいしな……リディアが劣化させて、ようやっと普通の剣士が再現可能な剣技になったって話だ」
「凡人が再現不可能な魔剣ってわけね――うわ、なにそれかっこいい、滾ってきた……!」
「おっ!? 分かるか!? やっぱすげえよなぁリック! 俺、リック主役の演劇見て剣に憧れたんだよなぁ!」
「ニールさんはリックに憧れたのに、学んだ剣術はリディアの剣じゃないんですね」
どうしてですか? と首を傾げるノーラ。
なんだそんなことかよ、と笑うとニールは簡潔に答えた。
「リックが使ってた技と、リディアの剣は似て非なるモンだろ? それに、リディアの剣は守る剣で、俺の好みじゃねえんだ」
リディアの剣とは、リックが使っていた技の中でリディアが再現可能であり、かつリディアが使いやすい技を纏めたものだ。
そのため、当時の勇者パーティーの戦い方が直接リディアの剣の性質となる。
まずリックが敵に突貫し敵を斬り殺し、イライアスが遠距離から迫る軍勢の対処をするかリックのサポートを行う。そしてセルマがリックが傷を負った時に治癒の奇跡を使うのだ。
明確な得意分野がある三人。それに比べ、魔王大戦後期のリディアは半端だった。剣も魔法も神官の奇跡も使用できたものの、どれも中途半端で決め手に欠けたのだ。
そのため彼女はリックを魔法で援護し可能ならば剣で斬りつける、という様に攻撃に関しては消極的に動き――しかしリックが取りこぼした魔族を受け止め、セルマやイライアスに向かわないように己の持つ技能の全てを用い全力で立ちまわっていた。
自分が派手に立ちまわるのではなく、特化した三人に全力を出させるために動いたのだ。
そのような戦い方をしていたためか、彼女の剣は前に出て敵を斬る攻撃的な剣ではなく、敵を後衛に向かわせないようにするための剣――守るための剣になった。
もちろん、騎士アレックスのように動き回れる『リディアの剣』の使い手も存在する。しかし、それは基礎が出来た上での応用だ。ニールの渾身の餓狼喰らいを咄嗟の判断で威力を殺したその技術と判断力。そこから察するに、騎士アレックスは防御に回っても強いはずだ。
「やっぱ根っこが仲間を守るための剣だから、敵に突っ込んでぶった斬るって方向性の技が少なくてな。一応、奥義として『リックの剣』ってのがあるらしいが……『リディアの剣』を教えてる奴ですら知らないっていう眉唾モンだしよ」
その点、人心獣化流はニールの気質に合う。
己の体を猛獣のように動かし、それを人間の心で制御するという理念で編み出された技の数々は、どれも野生の荒々しさに満ちあふれているのだ。
もっとも、冒険者になる前に、師匠に盛大なため息と共に諭されたのだが。
『ニール、この流派の名前を百回音読してみろ。お前の戦い方は、どう考えても最初の二文字が欠けている』
自覚はある。
が、自覚があることと改善できることはまた別問題だ。
そんなニールだから、師匠に『お前は他の弟子より強く、そして技を覚えるのも早いが、後継者には絶対しない』と言われたのだろう。
もっとも、ニールはそれで構わないと思っている。要は自分が強くなり、剣を振るえればいいのだ。流派を伝えるための才能など、どうでもいい。
「ふーん。まあ、あたしは転移者のスキルがあるから剣術とかはどうでもよくて、なんかこう格好良い名前の技とか知れればそれでいいんだけどね。……ところでカルナ、勇者縁の地があるって言ってたじゃない。どっか案内してよ」
「構わないよ……というか、すぐ目の前のあそこがリディアで有名な場所なんだけどね」
すっとカルナが指を差す方向に視線を向けると、そこには噴水が存在していた。
女王都リディアの中心に存在する噴水広場――そこに存在する噴水では多くの人たちが集まっている。女王都に住む若者が噴水の縁に腰を降ろし、観光客が広場を興味深そうに見つめている。人が集まるため、露天なども多く存在し、雑多とした活気に満ち満ちていた。
「ここは魔王討伐からしばらく後、リディアはこの広場で旅の剣士に勝負を挑まれて――」
「華麗に勝利して魔王を倒した勇者としての名声を確固たるモノにした場所ってわけね! さすがに弱い弱い言われてても、魔王倒したんだから……」
「いいや、一太刀も当てることなくボロ負けした場所だよ」
「ねえ! なんでそんなの歴史に残ってるの!? あたしがリディアだったら魔王を倒して得た権力フルに使って記録を抹消すると思うんだけど!?」
というか魔王倒した勇者があっさり負けてんじゃないわよお! と連翹は頭を抱えた。
それを見て、ニールはやはり転移者とこちらの住民の文化は違うんだな、と思う。勇者があまり強くないのは常識で、むしろ先程から強い逸話を想像する連翹に違和感を抱くくらいだ。
なぜなら、ニールを含む現地の人間にとって勇者とは、勇敢に立ち向かった者に送る称号であって、強い人間という意味ではないからだ。
無論、勇敢に立ち向かうことを選択する人間は、大体強者である。しかし、勇者リディアという一番有名な勇者の存在が、勇者と強者をイコールにさせないのだ。
「まあ、その剣士も勝つつもりで勝負を挑んだんだけど、あまりにあっさり勝ちすぎて二の句を告げられなかったって話だしねぇ」
「それでよく今でも勇者って呼んでもらえてるわね……」
当時の人間ならば、分かる。なぜなら、彼女が生きている姿を見て、実際に助けられた人々だからだ。多少負けようが無様を晒そうが、その感謝は薄れはしても無くなりはしない。
だが、歴史を紐解いてその人物を知る現代の人間は別だ。過去の人間の人柄など、記録された言葉や戦果などでしか知り得ない今の人間は、当時の人間よりもドライに判断する。
ああ、こいつは言うほどの奴じゃないな、など。
しょせんこの小娘は上手く強い男に取り行っただけだな、など。
そんなことを言われそうなモノなんだけど――と連翹は不思議そうに呟く。
「ああ、それはね」
こほん、と。
小さくを咳払いをしたカルナは、書物に書かれていたリディアの言葉を、当時の少女の姿を思い浮かべ演ずるように言葉を紡ぐ。
「見ての通り、わたしは弱い。きっとわたしより強い戦士はいくらでもいるわ。けど、そんなわたしがその優れた戦士に勝っている点があるの。諦めない心と、出来ると確信したら恐れず踏みこむ勇気。わたしはその二つを持って前に進んで、運良く成功できただけの小娘よ」
逆に言えば、その二つを他人が実践できたら、自分よりもずっとずっと上手くやれていたはず。
だから、その時は立ち上がって欲しい。強い剣士の貴方も、この言葉を聞いている見知らぬ誰かも。
才能がなくても、人の縁に恵まれれば勇者になれる。
才能があれば、きっと素晴らしい英雄になれる。
だから恐れないで、小さくてもいいから一歩を踏み出して。皆がそうあろうとすれば、人間はきっと負けないんだから――と。
「――こんな風に演説にしてしまったんだよね」
共に戦う仲間や、後ろから見守る民。
彼らを鼓舞し、士気を上げ、仲間を増やし、力が無くても最前線で戦い抜いて最後には魔王すら打ち倒した乙女。
彼女自身の剣や魔法で強敵を倒した逸話は少ないが、彼女の言葉や生き様を見て奮起した英雄も多く存在する。その一人一人の積み重ねが、魔族の軍勢に打ち勝つキッカケとなった。
だからこそ後世の者たちも、そう呼ぶのだ。
人を滅びから打ち払った者、困難に立ち向かい打ち勝った者、勇気ある者と。
「もっとも、天然でやっていたのか、計算でやっていたのかは諸説あるけど……ともかく、そんな人だったからこそ、勇者リディアの敗北に関する逸話はけっこう多く残って――なにさレンさん」
瞳を半眼にし、唇を半開きにしている連翹。セリフを当てるとしたら「うわあ」とかその当たりだろうか。
「女の子っぽく声音を作るとキモいわねカルナ! 顔立ち女っぽい癖に地声が低いのよ、なんか凄いカマっぽいわ! そんなんじゃあ男の娘になって男にモテることなんてできないわよ!」
「――レンさんってぶん殴られたい願望でもあるのかなぁ!? それに僕は異性愛者だからね! 男にモテたくなんてないからね!」
「おいおいあんまエキサイトすんなよカマルナ、連翹がこんな奴なのはここ数日で分かってんだろ」
「それはそうだけど――待って! カマルナって! カマルナって何さぁ!」
フォローに回るフリをして追撃をかます作戦、成功! ニールは内心でグッとガッツポーズを取る。
「ああ? カマとカルナを合体させた全く新しいあだ名に決まってんだろ、何言ってんだお前」
「君が何言ってんだって話だよ、ぶっ殺すよ!」
「まあまあ、ニールさんもカマルナさんも落ち着いてください。こんな人がたくさん往来する場所で騒いでいたら迷惑になりますよ」
「う……それもそう――ノーラさぁああん!? 君だけは、君だけは信じてたのにぃぃ!」
「あはは、三人とも楽しそうだったから、混ざりたいなー……と思って、つい」
くすくすと笑うノーラに対し、噛み付く勢いで朱に交わり赤くなる危険性を熱弁するカルナ。
それを傍から見つつ、連翹の前に立ち闘技場を指さす。
「ちなみに、闘技場は剣奴だったリックが居た場所だ。あそこで毎日のように他の剣奴と戦い続けていたって話だぜ」
「へえ……でも、リックの居た時代って剣とかが軽視されてたとか言ってなかったかしら?」
「だからこそらしいぜ。奴隷に剣を持たせ、必死に戦う姿を鑑賞するのが当時の流行だったらしいしな」
時代錯誤な剣で命を削り合う劣等種を眺めて優越感に浸る、という楽しみ方が一つ。
他にも血なまぐさい戦いを見たいという者や、魔法に耐性のあるモンスターと戦うため必要な奴隷を探すために来る者も居たという。
そんな中で一番有名であり、一番人気だったのがリックだ。
無双の剣は観客を賑わせ、ハンディキャップが組まれても敵を残らず斬殺。魔法の効かないモンスターが出没したと聞けば、予定さえ空いていれば必ず出向き討伐した。
戦いに熱狂する者はその戦いぶりに打ち震え、魔法に耐性のあるモンスターに頭を抱える魔法使いは使いやすい駒である彼を重宝し、劣等種を見て優越感に浸りたい者は、あれ程人気のある男よりも魔法使いである自分が偉いと黒い愉悦を感じ笑った。
山ほど金を稼ぎ、自分自身を買い取って奴隷の身分から抜け出すことも出来たが、彼はそれをしなかった。
そのことに疑問を抱いた者がなぜと問うと、彼は笑ってこう言ったのだ。
『黙っていても戦う相手が山ほど来るこの場所より素晴らしい居場所など、あろうものか』
そう言って笑い、待ち切れぬとでも言うように闘技場へ駆けて行ったのだという。
「根っからの戦闘狂ってわけね。……ああ、だから魔王が出没しても、最初は魔王を倒そうとしなかったのね」
なにせ、黙っていても魔族の軍が攻めて来るのだ。
彼にとって、大好物の食べ放題と変わりないその状況を、自分の手で終わらせる理由もない。
そんな彼を魔王討伐に駆り立てたのは、勇者の一言。
『貴方は雑魚を散らしてるだけで満足なの?』
という言葉だ。
魔王はきっと強いし、それを倒せたら貴方は最強の剣士の称号を手に入れられる。
魔族を倒しきったとしても、その称号を奪うために、多くの腕に覚えるある人間が貴方に戦いを挑むはずだ。
そんな未来と、雑魚と戦い続けるだけの今。どちらが欲しいの? と。
「ちなみに、魔王討伐後も闘技場に居座ってたんだぜ。そんで対戦相手を募集して、毎日のように戦い続けて――白髪が混じり始めたある日、戦いの時間になっても来ないから自宅を尋ねたら、ベッドの上で眠るように死んでいたって話だ」
色々体に無茶を強いてきたのだろう、長生きとはいえなかった。
けれど、苦しまず、ボケることもなく、最期まで自分のやりたいこと死ぬまで続けた。その生き様と死に様に、憧れるのだ。
曲がらず、折れず、ただ自分のやりたいことを貫ききった剣の英雄。演劇とはいえそれを見たから、ニールは気になったのだ。
あんな凄い人が愛し続けた剣とは一体どんなものなのか、と。
自分もあの人のように生きられるのだろうか、と。
それがニールの原点であり、剣の道を志した理由。
彼のように強く、格好良い存在になりたかったから剣を手に取ったのだ。
「なんというか、けっこうミーハーな理由よねぇ。もっと、剣を見た瞬間から惚れ込んだ、とかのがそれっぽいのに」
「うっせうっせ。つーかだ、何をやるにしろ、よっぽど切羽詰まっていてそれをやる必要があった、みてぇなことでもなけりゃ、他人に憧れてやり始めるモノなんじゃねえの?」
剣にしろ魔法にしろ料理にしろ創作にしろ――最初の憧れが忘れられないから、生きるために必要でもないことを必死でやるのではないかとニールは思う。
あの輝きを追いかけたい、夢見た誰かと並び立ちたい、その人物を追い越したい。その想いこそが、限りある人生を削ってでも夢を追いかけたいという気持ちに繋がるのではないだろうか。
「だからまあ、良いじゃねえか、ミーハーだろうがありきたりな始まりだろうが。俺は自分の人生の中でそれが一番輝いてると思ったし、だからこそ追いかけたいと思ったってだけだ」
他人から見れば文句の一つや二つは出てくる結論かもしれない。
けれどニールはそれで納得しているし、その想いこそ尊いと思っている。
ゆえに問題などない。人の生き方の良い悪いなど、どうせ主観でしか測れないのだから。
「でも、そんな軽い理屈じゃあ他人に笑われるかもしれないわよ。下手なくせになに頑張ってるんだー、とか、馬鹿の理想論だー、みたいな感じにさ」
笑われて辞めたくなっちゃうんじゃない? と連翹は茶化すように笑う。
その言葉に、少し――いいや、かなりカチンと来た。
(ああくそ――これだから転移者は)
うるせえ、黙ってろ。
そう怒鳴りつけてやろうと思い連翹の瞳を見つめ――言葉を飲み込む。
あざ笑うような笑みではあるし、それに苛立つのは事実だ。
しかし、なぜだろう。
その顔が少しだけ寂しげで、それと同時に羨むような色を含んでいるように見えたのだ。
だから、怒鳴りつけることはせず、自分の中にある感情を言葉に変換し真っ直ぐ連翹に向ける。
「……んなもん笑わせときゃあいいだろ。そもそも、なんで俺がやりたくてやってることを、他人が笑った程度で曲げなくちゃなんねえんだよ」
笑われて止めてしまえば、その程度の熱意しかなかったと自分で認めてしまうことになる。
そんなのは御免だ、とニールは強く強く思うのだ。自分が追いかけた輝きは本物だし、胸の熱は轟々と燃え盛っている。
他人の言葉を聞きはしよう、場合によっては受け入れもするだろう。
だが、それでも――
「歩みを止めるかどうかも、歩み続けるかどうかも、決めるのは俺だ。俺が願って、俺が歩き始めた道なんだ。それを他人に委ねるなんざ、するべきじゃねえし……何よりしたくねえんだよ」
理論的な言葉ではなく、どちらかと言えば感情的な言葉の羅列だ。他人を笑うような誰かなら、馬鹿が理屈にもなってない理屈を捏ねていると笑うだろう。
だが、それがどうしたと言うのだ。
笑いたくば笑え、指を差したければいくらでも差せばいい。自分は諦めたくないし、歩み続けていたいのだ。
「――……そ、なんか、馬鹿みたいね」
ニールの言葉に瞳を見開いていた連翹だが、すぐに取り繕ったように笑った。
「うっせうっせ、馬鹿でなきゃ夢なんぞ追ってられるかよ」
それを追求しようとし――やはり、止めた。
今は遊びに来ているのだ。だというのに、わざわざ重い話を続ける理由もあるまい。
もしも何か悩みがあって、それが辛いというのであれば、ノーラ辺りに相談するだろう。その時、場合によっては助言の一つや二つをしてやればいい。
「……ところで、おい、カルナ! いつまで喋ってんだ、そろそろセルマの場所辺りに案内しろよ」
「あっ、そうですよそうですよ! わたし、この女王都に来たら一度見に行きたかったんです!」
「待って、それよりもノーラさんがニールとかの悪影響を受けてるのをどうにかすべきだと思うんだけど!」
「いえ、お友達相手なら大体こんな感じですよ、わたし」
友達と話す時は歯に衣着せない方が楽しいじゃないですか、と笑うノーラに、カルナは納得すべきか否か頭を抱えて考えこんでいた。




